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トヨタなど国内24社参画の「Q-STAR(量子技術による新産業創出協議会)」正式発足 デジタル庁も講演

2021年9月1日 発表

量子技術による新産業創出協議会(Quantum STrategic industry Alliance for Revolution、略称Q-STAR)の発足

 量子技術による新産業創出協議会(Quantum STrategic industry Alliance for Revolution、略称Q-STAR)は、9月1日に記者会見を行ない、5月31日に設立発起人会を設立準備して以来作業が続けられてきた同協議会が正式に発足したことを明らかにした。

 Q-STARは、量子コンピュータなどの量子技術を利用した次世代ITの実現を目指す協議会。東芝、NEC(日本電気)、日立製作所、富士通などのIT企業、トヨタ自動車などの量子技術を実業に役立てるユーザー企業などから構成されている任意団体となる。IT企業で開発が進む量子技術を、実際のビジネスにどのように役立てていくのかを研究し、2030年~2050年とみられている量子技術の実用化を加速するための組織だ。

 その会見にはQ-STARに参加する企業だけでなく、本日設立されたばかりのデジタル庁 デジタル審議官 赤石浩一氏、さらには東京大学 前総長で、東京大学 大学院理学系研究科教授の五神真氏などが基調講演を行ない、Q-STARへの期待感を表明した。

注目される量子技術、産学で研究開発は進んでおり、今後実際のビジネスへの応用が始まる、それを促進するのがQ-STAR

量子技術による新産業創出協議会 実行委員会 委員長 島田太郎氏(東芝)

 量子技術とは、量子力学の現象を利用してコンピュータの演算や通信などを行なうための技術で、現在の一般的なコンピュータやネットワークなどと比較して、桁違いの計算能力や通信速度などを実現する技術として大きな注目を集めている。

 その代表的なものとしては量子力学を利用して演算を行なう「量子コンピュータ」があり、科学技術演算などに利用している「スーパーコンピュータ」と比べて桁違いに高速に演算することが可能になる分野がある。

 例えばワクチンの開発や特効薬の開発などの「創薬」や、交通渋滞の解決のために最適なルートをより高速に計算する「パスファインディング」、自動運転の分野などへの応用で注目を集めている機械学習によるAIのさらなる高度化、保険会社がリスクや支払うべき保険金などから適切な保険料を計算するなど、さまざまな社会課題を解決する手段として大きな注目を集めている。

 量子技術そのものは古くから研究が進められていたが、ここ5年で「Google」「IBM」「Microsoft」「Intel」といった巨大IT企業が、量子コンピュータを実現するさまざまな方法を提案し、研究成果を明らかにしたことで世界的に注目を集めている。

 日本でもNECや富士通、NTTといったIT企業が研究を進めていて、当初はもっと先になると思われていた実用化が、早ければ2020年代にも実現するのでは?という機運が高まっている。

 量子技術による新産業創出協議会 実行委員会 委員長 島田太郎氏(東芝)は「量子技術を利用した産業を想いをこめてこのQ-STARという名称を採用した。今われわれはDX(デジタルトランスフォーメーション)の時代からQX(Quantum transformation)へ向かう時代の入り口にいる。そうしたQXの時代に向けて新しい産業創出を目指していきたい」と述べ、同協議会の主旨が量子関連の産業やビジネスを創出していくことだとした。

島田氏のスライド

 そのため同協議会では、「量子コンピュータなどの技術を開発する場というよりは、その技術を実際の産業に落とし込んでいくことを重視して取り組んでいきたい」と島田氏は説明し、続けて「新しいリファレンスとなるアーキテクチャを提案し、そこからどのようにユースケースを作っていくかが重要になる。そのために部会を設立し、そこにユーザー企業にも参加してもらっている」と説明した。

島田氏のスライド

 その上で「2025年、2030年、2035年と長期的なロードマップを提案していく。今後どの領域に量子を使っていくか、どこがホットになっていくかを提案する。また、会員も広く募集していく。中小のベンチャーにも参加してほしいと思っており、そうした所には参加する費用は抑えていく」と述べ、現在参加しているような大企業だけでなく、中小企業やベンチャーなどにも積極的に参加してほしいと呼びかけた。

デジタル庁 デジタル審議官 赤石浩一氏「Society 5.0を実現するには量子技術が必要」

デジタル庁 デジタル審議官 赤石浩一氏

 デジタル庁 デジタル審議官 赤石浩一氏、東京大学 前総長で、東京大学 大学院理学系研究科教授 五神真氏という2人による講演も行なわれた。

 会見当日に正式発足したデジタル庁の赤石氏は、9月1日の午前中に辞令をもらったばかりという中での講演になったが、政府が推進するSociety 5.0の構想実現に、量子技術は必要だと強調した。「日本政府としては現実にできていることを、デジタルのサイバー空間でもできるようにするというのが基本的な方針。それを実現するためには、コンピュータやネットワークの性能はまったく足りていない。Society 5.0を実現するには量子技術が必要だ。しかし、産学の中にも“量子技術が実用になるのは2050年だ”なんて悠長に構えている人も少なくなく、COVID-19のワクチン開発でもその考え方で遅れをとった。欧・米・中よりも先に実現する気概をもって取り組んで行ってほしい」と述べ、Q-STARにより量子技術の研究開発が加速し、実用化に弾みがつくことをデジタル庁としても期待していると期待感を表明した。

赤石氏のスライド

東京大学 大学院理学系研究科教授 五神真氏がIBMなどと共同で行なっている量子イノベーションイニシアティブ(QII)を紹介

東京大学 大学院理学系研究科教授 五神真氏

 東大大学院の五神真氏は、現在のインターネットの課題などを指摘し、より進化したネットワークの必要性や、東大がIBMなどと共同で行なっている「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)」の取り組みなどを説明した。

五神氏のスライド

「スピード感をもって研究と社会実装を進めていくことを皆さまと進めていきたい」とトヨタ自動車の古賀伸彦氏も期待感を表明

トヨタ自動車 古賀伸彦氏

 その後、実際に参加する企業が紹介され、生命保険会社などのユーザー企業、そしてその中には、日本を代表する産業の1つである自動車産業を代表してトヨタ自動車も紹介された。トヨタ自動車の古賀伸彦氏は「相当スピード感をもって研究と社会実装を皆さまと進めていきたい。非常に幅広い技術の応用範囲だけでなく、人材の底力を利用したさまざまな製品への実装に取り組んでいきたい。トヨタとしても量子技術を実際の製品への利用も含め、さまざまな検討をしていきたい」と期待感を述べた。