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未来の超快適な車内空間を作り出すために必要な技術とは? デンソーの技術セミナー「DENSO Tech Links Tokyo」レポート

“TechxMobility@Tokyo”をコンセプトに、デンソーのビジョンや取り組みを現場の最先端にいる技術者が紹介することで、人のつながり(Links)を作りだすミートアップイベント「DENSO Tech Links Tokyo」。2019年2月から不定期だが「モビリティ社会の未来」「MaaS(Mobility as a Service)」「量子コンピュータ」「電動化」「ソフトウェアの内製化」といったテーマを題材に開催されてきた。

 コロナ禍により初めてオンラインで開催された第7回は「人とAI/人間特性から考える自動運転」をテーマに、新しいモビリティ社会の実現に向け、人の特性を考慮した自動運転技術の開発やAI研究についての説明が行なわれたが、第8回目は「未来の快適車内空間」について語られた。

 登壇したのは、東京支社 商品企画オフィス マーケティング課 課長の八木大地氏、サーマルシステム先行開発部 将来キャビン開発室 開発1課 担当係長の松岡孝氏、コックピットシステム開発部 第1開発室 開発企画1課 担当係長の太田祐司氏の3名。果たして未来の車内はどんな空間になっていて、どんな技術が必要とされているのだろうか。

左から、株式会社デンソー 東京支社 商品企画オフィス マーケティング課 課長 八木大地氏、同社 サーマルシステム先行開発部 将来キャビン開発室 開発1課 担当係長 松岡孝氏、同社 コックピットシステム開発部 第1開発室 開発企画1課 担当係長の太田祐司氏

デンソーが描く未来の快適車内空間とは?

将来コクピットキャビン

 まず最初に八木氏は冒頭で「昨今はデンソーのようなサプライヤーにおいても、エンドユーザーのニーズをしっかりとらえて、それに合わせた商品提案が重要になってきています。そこで外部から調査部隊、マーケティング、商品企画ができるプロを集めて、2018年にこの商品企画オフィスが立ち上がりました」と部署設立の経緯を紹介。

 その商品企画オフィスが提案しているのが、移動目的だけではなく、クルマならではの「第4の空間」を創造し、利用したくなる世界を創ること。ちなみに、第1の空間は「自宅」、第2の空間は「仕事場」、第3の空間は「喫茶店や公共スペース」と定義されている。

クルマならではなのが「第4の空間」と定義

 そして第4の空間の特徴は「移動する」「閉空間でプライバシーを守れる(コロナ禍でも安全)」「人が定位置にいる」という3つが挙げられるという。

 そこで商品企画オフィスでは、この第4の空間で人々はどのように過ごすのかを分かりやすく伝えるため、独自に「inJOY」と題した特設サイトを開設。将来コクピットキャビンのコンセプトムービーを掲載し、考えを公開しているので、ご覧いただきたい。

デンソー快適キャビンコンセプト DENSO Future Cabin Concept(3分5秒)
デンソー快適キャビンコンセプト Ver.2(3分21秒)

 今回は「Ver.2」の動画を題材に、100年に1度の自動車業界の大変革を推し進めるキーワードとなる「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」に沿って解説が行なわれた。

 まず、コネクテッドカーの割合。意外とはっきりとした数値を知っている人は少ないとのことで、実は2019年度の新車販売台数のうち約30%、さらに10~15年後にはほとんどがコネクテッドカーになると言われているという。続いて「Autonomous(自動運転)」に関しては、レベル4の車両については2020年中盤には出てくるだろうと予測されていて、レベル5も2030年ごろには登場するだろうと予測されていると解説。

 そして、ライドシェアの市場規模は、2018年ですでに613億ドル(約6.5兆円)を超え、2025年には2180億ドル(約23兆円)規模にまで拡大すると調査会社が予測を発表しているのだが、これは新型コロナウイルスの影響によって変わってくる可能性があるという。最後が「Electric(電動化)」については、2020年ですでに全体の約15%となる約1500万台以上がEV(電気自動車)として出荷されていて、2040年には5000~6000万台にまで膨らみ、全体の約50%(EV、FCV、PHEV、HVを含む)に達すると予測されているという。

100年に1度の自動車業界の大変革を推し進めるキーワードが「CASE」

 コネクテッド(Connected)の要素が増えていくと、クルマ同士がつながるV2X通信などを利用することで運転支援やより詳細な情報を得られたり、クルマにエージェントを配置して自動運転の状態を管理したりでき、その間ドライバーにはハワイの景色や音を聞かせてリラックスさせるといったユースケースも想像されると紹介。

 さらにコネクトされる要素として考えられているのは、人の脈拍や疲労度合いなど、生体情報をしっかり検知して、車内外の行動をエージェントがリコメンドするといったケースも想定しているとのこと。

CASE:Connectedによる車室内の変化
CASE:Autonomousによる車室内の変化

 自動運転(Autonomous)が確立すると「車内ではどういった過ごし方になるのか?」という議題がよく挙がるそうで、デンソーでは仮説を立てたうえで調査した結果、やはり「リラックスしたい」というニーズが高いことが分かり、他に「短時間で仮眠したい」「集中して仕事をしたい」などがあったとのこと。また運転席と助手席で異なったニーズが同時に発生することも想定して、“個別の最適化”を図る内容を研究しているという。

CASE:Sharedによる車室内の変化については「MaaS」のキーワードも含めてより掘り下げて解説された

 シェアード(Shared)に関してデンソーでは「ヒトを運ぶ」「モノを運ぶ」「コトを運ぶ」の3つ柱を立て、ヒトを運ぶライドシェアは、アメリカのUber(ここでいうウUberは食べ物を運ぶサービスではない)などすでにサービスが始まっているが、今後はコロナの影響もあり、温度、音、空気の安全など、個別空間の重要性が高まってくると予想しているという。

 また、ライドシェアでは乗り替えるシチュエーションも想定されるので、迷わずに乗り替えられること、さらに顔認証などで個人を特定し、アレルギー体質があれば、その対処を事前に車両に施しておき、安心して乗り込めるといったユースケースも想定。さらに、人を運ぶ際は、先読みするエージェントの存在がとても重要で、離れたクルマとの空間をつないで会話をつなげたり、いつ・どこに行けば何を体験できるかなど、周辺情報を集約してお薦めしたりしてくれる。さらには予約もしてくれて、自然と次のサービスへ移行できるといった使い方が考えられるとのこと。

ヒトを運ぶ 個別に快適に過ごせる空間
ヒトを運ぶ スムーズで安全な乗り替え
ヒトを運ぶ 車車間/エージェントとの会話

 一方、モノを運ぶのは、食品のデリバリ―がその1つだが、この先は個別に温度管理ができるBOXで運ぶことも可能になり、生鮮食品からアイス、フルーツまで、いろんなものをいろんな場所へ運べるようになる。それがライドシェアと融合して行なわれると予想しているという。

モノを運ぶ

 コトを運ぶは体験。アイスやフルーツといった運ばれてきたものを食べるのも体験だが、他にも急に目的地が変更となった場合、それに応じたファッションをレンタルし、車両に届けてもらって着替えたり、自分の好きな映像を流したてホテルのようにリラックスして過ごせる空間を創出したりすることも体験につながる。

 また、モビリティとサービスのつながりも想定していて、例えば“クジラカフェ”に向かう途中、高速道路を単純に移動するのではなく、事前に海底の映像を流すなどして移動している途中も体験の一部となるようなサービスも考えられ、その結果、サービスは人を呼び込めるようになり、モビリティは体験価値を高められるという相乗効果も期待できるという。

コトを運ぶ

 電動化ではユースケースというより、インフラなどを支える基盤となる技術で、自動運転車が普及すると同時に急速充電や非接触充電も普及することで、その価値が高まってくるもの。掃除ロボットのように、自動で走っていき、自動で戻ってきて充電する。乗る前に空調で室内空間を最適化しておく、ウイルスを除去して安全な空間を作るなどといったことも電動化の流れの中に入ってくると考えているという。

CASE:Electricによる車室内の変化

「ここまでの内容を、どのようにしたら実現させられるか? どういった技術を作りあげていけばいいのか? 技術者は日々研究開発を行なっているのです」と八木氏は締めくくった。

体験価値を高める車内空間の過ごし方とその実現技術

 続いて、サーマルシステム先行開発部 将来キャビン開発室 開発1課 担当係長の松岡孝氏が、八木氏の紹介した快適な車室内に関わる技術をブレイクダウンして紹介してくれた。

未来のクルマに求められる車内空間の過ごし方

 このサーマルシステム先行開発部は、カーエアコンをはじめとした熱マネージメントの開発を担当する部署で、これまではごくごく普通にカーエアコンを進化させる開発をしてきたというが、自動運転やライドシェアカーが増えていく未来を見据えると、運転というタスクが減少していき、車室内の過ごし方はより多様化していくと想定。

 その結果、「快適」の感じ方は人それぞれ変わってくるだろうという考えにたどり着き、未来のクルマにおいては「シーンに応じてヒトに合わせた5感作用で、こころもカラダも満たされる」という開発テーマを掲げたという。

 そうした考えから、まずは4つのドライバーが喜ぶポイントを選定。1つ目は、運転や作業への集中力を維持するための「Focus(フォーカス)」。眠くなっているドライバーを起こすような機能もこれに該当する。また完全な自動運転になった場合、車室内で仕事をする人が集中できる場を提供することも同様だという。

 2つ目は、だるさを軽減して活力を上げる「Enagy(エナジー)」。クルマに乗るだけで疲れが取れる機能や、肉体だけでなく心も癒される機能も含めて想定しているという。3つ目は、好みや体調に合わせた心地よい環境でくつろげる「Relax(リラックス)」。

 4つ目は、移動時間で効率よく睡眠をとれる「Sleep(スリープ)」。完全な自動運転が実現したら、仕事をしたい人もいれば、寝たいという人がいるのことも当然考えられる。自社アンケートでも「寝たい」という回答が多かったという。

シーンに応じてヒトに合わせた5感作用で、こころもカラダも満たされるために必要となる技術

 これらのドライバーが喜ぶポイントを実現するためには「認知」「判断」「作用」の技術が必要になると考えていて、認知は乗員の情報を取得するもので、ドライバーの顔から疲れ具合や集中力を把握するためのカメラや、心拍数など生態を認識できるセンサーなどを開発しているという。

 判断のための技術とは、乗員の状態を推測する技術で、例えばAIエージェントのような存在を作りだし、ドライバーの状態を判断してより快適になるためのモードを提案できることなどを想定している。そのためには乗員の状態推定アルゴリズムの開発が必要で、例えば赤外線センサーでとった情報をもとに、乗員が暑いと思っているのか、寒いと思っているのか、などを推定するアルゴリズムや、ドライバーのまぶたの開度から眠気を推定するアルゴリズム、顔向きや目線から集中力を推定するアルゴリズムなどを開発しているという。

 作用の技術は乗員を理想状態に誘導する技術で、乗員の状態を把握するだけでなく、そこからどうするかが重要となり、エアコンの空調をはじめ、匂い、光、音楽など、さまざまな五感につながるデバイスをフル活用して乗員を理想の状態にさせる。そのためにデバイスを制御するアルゴリズムの開発を行なっている。

 続いて、これらの開発した技術をいかにクルマに搭載するかも課題となる。カメラやエアコンといったデバイスなら搭載イメージも湧きやすいが、アルゴリズムなど目に見えない技術はECU(コンピュータ)に積まれる。また、いずれはECUではなくサーバーに格納しておき、コネクテッド技術により莫大なアルゴリズムを接続できるようになる所まで想定しているという。

 デンソーでは、人間研究やAI技術の開発も行なっているので、これらの乗員の車室内空間に関する技術について、一貫して自社内で開発できるのが強みとなるという。

デンソーのコクピット技術とこれからの未来について

 この日の最後はシステム開発部の太田氏から、コクピット技術とこれからの未来について説明が行なわれた。

 システム開発部では、コクピットは人とクルマをつなぐ役割を担う「HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)」と定義。移動しているとき、速度やガソリン残量などクルマは今どういう状況にあるかをドライバーに伝える必要があり、逆に人は運転操作やモード切替など、クルマを操るための指示をクルマに伝える必要がある。さらに今後はクルマ生活をより便利で豊かにすることが求められている。そこを考えるのがシステム開発部だという。

 現状は「見やすい、きれいといった先進性」「賢く人に寄り添う」ということをテーマに開発を実施。先進性というのは、ドライバーの姿勢や視線など運転しているときの人間の特性と、緊急度や重要度を考慮した機能の配置。運転に必要なものは近くに、オーディオなどエンターテインメントなど直ぐに必要でないものはセンターコンソールに配置するなどしている。

コクピットの人とクルマの関係における要素技術
先進感・見やすい・きれい 機能配置の考え方
先進感・見やすい・きれい 車載ディスプレイに求められる要件

 車載ディスプレイに求められる要件としては、インパネにマッチングする搭載性、どの角度でも見やすい視認性、外光や反射、映り込み、温度など、外部からの影響を考慮する必要があるという。次世代車載ディスプレイとしては、曲面にもマッチングし、有機EL(OLED)を採用し、より見やすく一体感があり、近未来感のあるものを開発しているという。

 さらに見やすさを考慮したHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)の進化させる開発を行なっていて、次世代のHUDは、AR技術を盛り込んだレーンガイドやナビガイダンスなど、より直感的に認識でる表示を目指して開発しているという。

次世代車載ディスプレイ
車両用HUD
次世代のHUD

 また、賢く、人に寄り添うコクピットシステムの開発では、現状においてはナビや後方バックカメラとメーター類、さらに操作が限定的な接続となっているが、これをHMIを利用して統合制御させることを目指しているという。

 ただし、課題となっているのが、スマートフォンと車両の警告など重要度の異なる情報をどのように表示させるかという点で、これをIT技術を活用して、ナビやスマホ連携といったエンターテインメント向けのOSと、絶対に伝えなければいけない車両情報向けのOS、この2つのOSを1つのデバイスの上に、あたかも2つあるかのように仮想化技術で載せるこを開発しているという。

コクピットシステムの統合制御
コクピット統合制御化に対する課題
IT技術(仮想化)を自動車に適用

 さらに、ドライバーの状態を知るためのカメラも開発していて、目を閉じていたり、よそ見をしていたりした場合などに、ドライバーへ注意喚起する仕組みを目指している。

 スイッチなどの操作によるドライバーからの指示や、カメラなどによるセンシング技術によるドライバーの状況といった入力デバイス情報からドライバーを理解する技術を開発し、さらにHMI技術により、車内の状況、乗員の会話など言語情報などを理解することで、クルマが学習しながらドライバーの好みに合わせてクルマ側から働きかけるといった、今より半歩先の人とクルマのコミュニケーションレベルを実現させ、デンソーの部署をまたいだ連携を行なうことにより、次世代コクピットの完成を目指しているという。

DSM:Driver Status Monitor
ドライバを理解する~Sensing
人に寄り添う~Actuation
デンソー社内連携(空調機能とHMIの連携)