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パナソニック、オートモーティブシステムズとエナジーの事業戦略・中期経営計画の進捗を説明
2023年6月2日 19:20
- 2023年6月1日 開催
パナソニックグループは6月1日、「Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023」を開催。パナソニック オートモーティブシステムズおよび、パナソニック エナジーにおける事業戦略と中期経営計画の進捗状況などについて説明した。
パナソニック オートモーティブシステムズの永易正吏CEOは、「EV化によって、ユーザーが求める付加価値が、走行性能から、サービスや体験価値(UX:User eXperience)に変化している」と指摘。それに向けて注力する方向性をより明確化するという。
コクピット統合ソリューションでは、車載アーキテクチャの技術進化が加速し、クルマを進化させる要素がハードウェアからソフトウェアに変化。SDV(Software Defined Vehicle)への転換が予測されていることに触れ、「車載アーキテクチャは、ソフトウェアを進化させやすいようにECUが統合化し、HPC(High Performance Computer)の進化が始まることになるだろう。パナソニック オートモーティブシステムズは、コクピットを核としたHPC最適ソリューションを提供し、カーメーカーのSDV化、統合HPC化に貢献していきたい」と述べた。また、2030年初期には統合HPCの売上計上を目指す計画も明らかにした。
SDV化および統合HPC化においては、IVI(in-vehicle infotainment)やCDA(Connected Display Audio)で、トップクラスシェアの実績を持つこと、コクピット関連商品および技術のカバレッジの広さがあること、仮想化やOS、セキュリティ、開発ツールなどのSDV基盤技術を持つ強みを生かせるという。
コクピット領域でのUX価値の創出においては、「パナソニックグループが得意とする人や暮らし視点の技術を生かし、新たな体験価値の提案を展開する。ファミリー、シニア、エグゼクティブといったターゲットユーザーを想定したソリューション提案を行なう」とした。
ファミリー向けには衛生・コミュニケーションソリューション、シニア向けには運転支援ソリューション、エグゼクティブ向けにはパワーリセットソリューションの提案を進める。
高出力充電器を中核とするEVパワエレでは、2030年までを投資フェーズとし、高出力化に加え、電力変換系システムに求められるパワーエレクトロニクスの要素技術確立に取り組む。また、適切な収益性が担保できる件名にしぼり、受注活動を推進していく姿勢も強調した。
同社では、現在量産している案件において、開発難易度が高くコストが厳しい状況にあり、供給責任を果たしながら、3桁億円規模の赤字が継続している。2020年代中盤に市場投入を予定しているマイナーチェンジモデルなどにより、黒字化を見込んでいる。
永易CEOは、「充電時間の短縮のために高出力化、高電圧化が進むことになる。現在、先行投資として、800Vの充電器開発に力を入れている。名古屋大学と共同で、GaN(窒化ガリウム)を使用した800V充電器の開発を進めており、これにより、競争優位性を担保するとともに、充電時間の課題を解決し、EV業界全体に貢献したい」と述べた。
中長期業務見通し。2024年度までの累計売上高は増加を見込むも、累計営業利益は減
パナソニック オートモーティブシステムズの中長期の業績見通しについても触れ、「2022年度実績は、自動車生産は年初の想定を下まわり、部材高騰や円安が想定以上に進んだため、売上高は実質減少、営業利益は価格改定や合理化、研究費などの固定費削減に取り組むことで減益幅を抑えた」と厳しい業績になったと報告。
また、2024年度までの3年間累計売上高は2891億円増加させて4兆1033億円としたものの、累計営業利益は194億円減の622億円とした。また、累計営業キャッシュフローは2000億円という当初計画は維持したものの、2024年度のRIOCは8.5%から、6.4%に修正した。
だが、永易CEOは「継続的な開発効率化への取り組みなどによるオペレーション力強化の効果もあり、事業環境の変化への対応力は着実についている」と体質改善に手応えをみせた。
新たに打ち出した2027年度計画では、ROICで8.5%(2022年度実績は5.2%)、営業利益率は5.0%(同1.3%)を目指す。
「着実に利益率を向上させ、充電器や車載コクピットシステムなどで増益を図る。充電器事業の赤字は2022年度から縮小に転じ、2028年度の黒字化を目指す。車載コクピットシステムは一定の利益を確保しており、ソフトウェア開発サポートサービスなどの新たな形態の事業を増やしながら、収益性を向上させる。車載エレクトロニクスでは高付加価値商品への入れ替えを進める。また、オペレーション力強化による固定費の最適化も推進する」と述べた。
2022年度からの3年間はオペレーション力強化による変化対応力強化に集中し、収益性向上とキャッシュフロー改善により、競争力強化につなげるとした。
「自動車業界が激変する中で、失敗を恐れずに果敢に挑戦することが必要不可欠である。敦賀拠点では、2022年度に生産リードタイムの半減、AI導入ラインによる生産性2倍を達成している。これらの成果を2023年度には国内拠点、2024年度には海外拠点に展開する。また、ソフトウェア開発では、開発生産性3倍の手法を確立した。SDV化や統合HPC化の進展に伴い、ソフトウェア進化のスピードがクルマの価値を決定する。クルマへの新機能投入サイクルの短縮に向けて、ソフトウェア開発のリードタイム削減を図る」と述べた。
なお、永易CEOは、「パナソニック オートモーティブシステムでは、CASEよりも、PACEに注目している。社内で使っている言葉であり、パーソナライズ、オートノマス、コネクテッド、エレクトリフィケーションの頭文字からとっている。とくに着目しているのがP(パーソナライズ)である。クルマの価値が、車内空間や移動体験に移行している中で、パーソナライズのニーズは着実に高まっている」と述べた。
一方、パナソニック エナジーでは、先ごろ発表したように、2030年度に、車載電池のグローバル生産能力200GWhにまで増強することが重点戦略になる。
パナソニック エナジーの只信一生CEOは、「急成長する北米のEV市場に対応するため、開発効率の向上や電池の高容量化などによる競争力強化、北米現地調達率の向上などによるサプライチェーンの強靭化を進める。また、生産能力の拡大としては、既存拠点の能力増強、カンザス新工場の立ち上げに加えて、次の北米新拠点の建設を2023年度中に決定する」と述べた。
北米新拠点については、「現時点では決まったものはない」としたものの、「2030年度に全体で200GWhを計画しており、そこから逆算すると80GWhを加える必要がある。工場は作るたびに進化しており、技術やケミカルの進化に応じて、セル数を小さくし、GWhを稼ぐこともできる。新拠点では、これまでと同等規模前後が見込まれるが、お客さまとの関係などもあり、はっきりした段階で伝えたい」と述べるに留めた。
さらに「2030年までの拡大期においては、商品やモノづくりを自ら進化させ、丁寧に仕上げ、急ぎながら技術革新や投資を行なう。高性能電池ではトップを走り続ける。技術ライセンスのようなビジネスは考えていない」と語った。
競争力強化では、高容量化と生産性向上を挙げた。高容量化では、2030年に体積あたりのエネルギー密度を25%向上させて、1000Wh/Lへと進化させる。2170(⾞載⽤円筒形リチウムイオン電池の品名)では、セル容量密度を5%向上させた次世代セルを2025年度までに立ち上げ、新材料を採用し、さらなる高容量を実現。4680では、当初予定よりも高容量した技術を和歌山で量産開発中のモデルに採用。2170の進化技術を4680に展開するという。
生産性向上では、「ネバダ工場で先行した生産経験を強みに、カンザス新工場でのモノづくり力を進化させる」とし、カンザス新工場では自動化率をさらに高め、GWhあたりの人員を20%削減、整備投資額の10%削減を進める。「カンザス新工場は、建設のタイミングをにらんだかたちで、できうる技術はすべて投入していく」という。
さらに検討を開始した次期新工場ではさらなる進化を図る。ネバダ工場では、現在は第3世代の2170セルを生産。今後、生産能力の継続的な改善と次世代セルへの切り替えにより、2025年度には、GWhあたりの生産能力を10%向上させるとした。
また、要素技術の研究開発は大阪・守口の開発拠点で継続しながら、2025年には大阪・門真に新たな開発拠点を設置。セルの開発拠点として集約し、次世代材料やプロセス開発、新商品開発までを行なう集約型開発拠点として、DXやシミュレーション活用による開発期間の短縮化を進め、次世代セルの開発を加速する。
車載電池の国内主要生産拠点である住之江工場では、2024年に新棟を建設。生産設備や工法開発に携わる人材と設備を集約。次世代モノづくり開発から既存設備の生産性向上まで、電池のモノづくりを支えるマザー開発拠点に位置づける。生産現場に隣接し、迅速な現場フィードバックと課題解決を可能にし、新たな技術をスムーズに量産化できるようにする。さらに、「技術やモノづくりのコア人材の強化に向けて、2025年度までに、国内で1000人の増強を図る」とした。
車載電池のサプライチェーンの増強に向けては、「生産能力増強に向けて、量と環境性能の両面からサプライチェーンを構築していく」と述べた。
2025年度のカンザス新工場での増産に向けては、量の確保についてはめどがついており、今後は2030年度に向けた調達先の多様化を推進するという。また、北米での現地調達化のほか、ニッケルやリチウム、黒鉛を対象にした戦略的オフテイク契約を進めるほか、環境負荷低減に貢献するリサイクル材の活用、低CFP材の活用も進め、2030年度にはカーボンフットプリントを半減させるとした。
パナソニック エナジーでは、2030年度の売上高は現在の3倍となる3兆円超、EBITDA率は20%を目指している。そのうち、車載事業が2兆5000億円を占めることになる。
この実現に向けて両輪経営を実践。車載では、実績ある円筒形プラットフォームの展開と次世代商品の事業化により成長を牽引。産業・民生では電池応用システムでの提供価値の最大化、供給体制の整備により、収益を牽引するという。
2023年度は下期からの回復を見込み、調整後営業利益で550億円を計画。2024年度は営業利益870億円、EBITDAで1500億円、ROICは12%とする。これは当初計画から変更はない。
只信CEOは、「2022年度の成長投資戦略は、車載、産業・民生ともに着実に進捗している」とし、「2024年度の稼働を予定しているカンザス新工場では、顧客との協議により、当初生産予定の4680セルから、2170セルへと変更したものの、増強する生産能力には変更ない。4680は高容量化にめどがたち、次の拡大に向けて、和歌山工場での量産開始時期を見直している。これは遅れたのではなく、カンザス新工場がお客さまの要望により、2170で立ち上げることになったため、4680に新たな技術を投入し、従来以上に仕上げるかたちにするというオプションを選択したためである。和歌山工場では、建屋の建設がほぼ完了し、量産設備を搬入し、立ち上げを行なっている」とした。
また、ネバダ工場では、熟練度に依存しない生産体制を構築。生産性やロスの改善が進み、当初の目標を10%以上も上回る生産効率ができたという。
米国IRA(インフレ抑制法)による補助金収入の使途については、「北米におけるサプライチェーンの強靭化や新工場の展開をはじめ、さまざまなことが考えられる。お客さまと協議をしているところであり、決まり次第、伝えていく」と語った。
なお、車載電池の引き合い状況についても説明。「引き合いは非常に多くある。だが、ビジネスの価値観、規模感などについて意見交換を行ない、パナソニックエナジーのポリシーにあわせて選択をしている。日系企業からも引き合いはあるが、いまは議論を深める状況ではない」と述べた。
産業・民生では、電動化や蓄電市場の拡大に向けた成長投資を推進。徳島工場でのインフラ向け高容量セル、中国・無錫の新ラインでのリチウム一次電池において、いずれも2023年度の量産開始に向け、設備の導入を開始しているという。
産業・民生分野では、2030年度には、現在の2倍となる6000億円の売上規模を目指しており、高いシェアを持つデータセンター向け蓄電池に加えて、家庭用蓄電池への展開を推進。家庭用新蓄電システムは、日本では2023年6月から、米国では2023年度下期からそれぞれ量産する。さらに、新規領域として建機や二輪車の電動化に向けた展開をスタート。新技術モジュールによる実証実験を開始しているという。
最後に「産業・民生事業においては、システムとしての提供価値を高めながら、事業拡大を図る」とした。