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パナソニックグループ戦略説明会 車載電池は2030年度までに200GWhの生産能力を目指すなど、「本格的成長フェーズへ移行する」と楠見雄規グループCEO

2023年5月18日 開催

戦略説明会に出席したパナソニック ホールディングス株式会社 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

 パナソニックホールディングスは5月18日、グループ戦略説明会を開催し、楠見雄規グループCEOが登壇して説明を行なった。その中で、重点投資分野の1つである車載電池について言及し、2030年度までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指すことを明らかにした。

 これまで同社では、2028年度までに2022年度の約50GWhの3~4倍を目指すという表現をしていたが、2030年度の目標値として生産規模を明確にした。楠見グループCEOは、「生産能力増強に向けた準備も整い、本格的成長フェーズへ移行する。2022年にはグループとして戦略投資を決定し、現在建設中のカンザス新工場では2170セルを量産して、北米での供給拡大に対応していくことになる。また、4680セルは和歌山工場において早期に安定生産を実現し、北米新拠点へ大規模展開する」と述べた。

 北米新拠点の場所については「まだ決まっていない」と発言。「すでに稼働しているネバダ工場かもしれないし、建設中のカンザス新工場かもしれないし、それ以外かもしれない」と述べるにとどまった。

車載電池について、2030年度までに現在の約4倍となる200GWhの生産能力を目指す

 北米の車載電池の生産拠点は、米国IRA(Inflation Reduction Act、インフレ抑制法)による税控除が受けられ、試算によると、単純計算でもネバダ工場では年間約13億ドル、カンザス新工場では年間約10億ドルの補助金が見込まれる。IRAは、米国における過度なインフレ抑制とエネルギー政策の推進を趣旨としており、得た補助金は北米での電動車の普及のために活用することになる。北米新拠点での4680セルの大規模展開は、IRAの補助金の使途の1つとして検討されているようだ。

 楠見グループCEOは「パナソニックグループが注力する北米市場においては、EVが年平均35%という急速な勢いで市場拡大が見込まれている。また、米国政府は米国内でのEVサプライチェーンの構築を国策として進めており、米国での車載電池生産への強い要請がある。特に高いエネルギー密度と安全性、低コストを実現するセル形状の円筒形は、電動自動車の利便性にとって重要な急速充電時の冷却にも適しており、今後さらなる需要拡大が見込まれる。パナソニックグループは、円筒形車載電池と北米市場にフォーカスして事業拡大を目指す」と述べた。

北米市場ではEVが年平均35%という急速な勢いで市場拡大が見込まれている

 同社ではテスラ向けに車載電池を供給しているのに加えて、Lucidの高級EVである「Lucid Air」向けや、Hexagon Purusの商用車向けにも車載電池を供給する契約を締結している。楠見グループCEOは「このほかにも新たな引き合いがある」と、北米市場における需要が旺盛であることを示す。また、「生産能力の拡大を実現するには大きな投資も伴うが、パナソニックエナジーによる投資のみならず、さまざまな資金調達オプションを検討し、機動的に投資していく」とも語った。

 パナソニックグループでは2022年度~2024年度の3年間で、グループ全体で1兆8000億円の投資を計画。そのうち6000億円を戦略投資とする方針を示している。今回の説明会では「6000億円の戦略投資は、主に車載電池事業にあてることになる。その多くがカンザス新工場に投資をしていくことになる」と明かした。

 さらに、研究開発体制の集約および増強を推進する考えも示し、2024年には大阪 住之江に生産技術開発拠点を新設して、生産性向上の加速と生産拡大への対応を進める計画を明かした。また、2025年には大阪 門真に次世代電池および材料の源流開発を行なう研究開発拠点を新設するという。

2024年に大阪 住之江に生産技術開発拠点を、2025年には大阪 門真に次世代電池および材料の源流開発を行なう研究開発拠点を新設

 説明会ではパナソニックグループの円筒形車載電池の技術的優位性にも触れた。楠見グループCEOは、「30年にわたって高容量化、レアメタルレス、そして安全性に直結する品質で業界をリードしてきた。高容量化では体積エネルギー密度を第一世代から現在までで3倍以上に高めており、2030年までに1000Wh/Lの達成を目指す。航続距離を大きく伸ばすことができ、当社電池を搭載するクルマの性能向上につながる」とした。

 また、「世界で初めてコバルトの含有量を5%以下とし、技術的にはゼロすることもできる。さらにニッケルレスに向けた技術開発も進めている。今後増大する車載電池の需要に応えるためには、レアメタルをいかに使わずに製造できるかが重要になる。その点でも技術的優位性がある」とした。さらに、2012年から現在までにEV車換算で累計200万台相当の車載電池を供給しているが、「重大事案の発生はゼロを継続しており、品質面でも高い評価を得ている」と胸を張った。

パナソニックグループの円筒形車載電池の技術的優位性

 加えて楠見グループCEOは生産拠点のオペレーションの強みについても言及し、「ネバダ工場では高いオペレーション力を培ってきた」とし、「作業者の入れ替わりの多い北米では、経験の少ない作業者でもできるモノづくりが競争力につながる。そのためのプロセスの改善やノウハウの蓄積によって、いまではプロジェクト開始時の目標を10%超える生産実績を達成している。また、現地に改善思想を定着させたことにより、さらなる生産能力増が射程に入っている」と報告。「コスト構造の面では、中長期的な拡大を見据えた投資効率の改善を行なっており、ネバダ工場でのノウハウをカンザス新工場の設計段階からモノづくりに反映している。設備費用や生産準備工数が低減でき、設備生産性と人生産性を高めている」とした。

 さらにカンザス新工場では、カンザス州政府から人材確保や税制優遇の支援を得ているほか、材料の安定調達とリードタイムの短縮を図りながら北米での現地調達を進めていることも明らかにし、「これらの競争優位性の進展により、いままさに北米での車載電池の供給拡大へ準備が整った」と、北米での事業拡大に自信をみせた。

北米における車載電池の供給拡大へ足場固めが完了

 一方で、環境戦略の観点からも車載電池事業の取り組みを説明した。楠見グループCEOは、「CO2排出量の削減において大きな貢献につながるのは、モビリティや街、家庭で、ガソリンやガスなどの化石燃料を使う機器を電化機器へと置き換えることである。中でも、グループ全体のCO2削減貢献量の6割を占める車載電池に対して重点的に投資をしていくことが大切だ」と語った。

 車載電池事業では、2030年度には自社のCO2排出量を実質ゼロ化する取り組みに加えて、Scope3の上流側の取り組みとして、RedwoodやNMGの低カーボンフットプリント材料の採用に向けた準備を開始。さらに北米での調達を推進するサプライチェーンを構築することで、材料輸送距離の短縮が実現でき、これも環境負荷の大幅削減に貢献できるとみている。これらの取り組みにより、ネバダ工場では2030年度にはサプライチェーンのCO2排出量を半減させる計画だ。また、「EV用車載電池の供給能力を拡大することにより、モビリティの電動化を促進し、2030年度には2022年度の5倍となる5900万tのCO2削減に貢献できる」と述べた。

モビリティの電動化を促進し、2030年度には2022年度比で5倍となる5900万tのCO2削減に貢献

 なお、今回のグループ事業戦略において、楠見グループCEOは「2023年度は成長に向けてギヤチェンジをするためにグループが目指す姿の解像度を上げ、使命達成に向かって変革を加速する」と発言。「2023年度から、成長フェーズに向けて事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進める。2023年度中に方向づけし、順次実行していく。その判断基準になるのがグループ共通戦略との適合性と、事業立地や競争力になる」とした。

 また、「グループ共通戦略との適合性」では、環境領域においては社会へのCO2削減貢献や資源の使用削減への貢献などを重視。「事業立地や競争力」では、市場の成長性や継続性、市場における事業ポジションや収益性を判断基準に設ける。

「2030年度においては、パナソニックグループの売り上げを構成するすべての事業が『地球環境問題の解決』『お客さま一人ひとりの生涯の健康・安全・快適』のどちらかの領域で貢献するものだけになる。将来にわたってお役立ちを果たせる事業は、成長に向けてグループ内で引き続き競争力を高めるが、グループの外で競争力を獲得した方が成長のスピードを高めることができる場合は、そうした判断を行なう。スピンオフということも考えられる」などとした。

事業ポートフォリオ
地球環境問題の解決に資する事業を拡大