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パナソニック、光源の種類に関わらず正確な色再現が可能な「有機CMOSイメージセンサー技術」開発 自動運転における車載用カメラへの用途など想定
2023年3月29日 19:16
- 2023年3月29日 発表
パナソニックホールディングスは3月29日、光源の種類に関わらず、正確な色再現が可能となる有機CMOSイメージセンサー技術を開発したと発表した。今後、自動運転用途における車載用カメラへの採用をはじめ、業務放送用カメラ、セキュリティ用カメラ、産業検査用カメラなど、幅広い用途への活用提案を開始することになる。市場動向を踏まえて、近いうちに量産化を進めていく考えを示した。
パナソニック ホールディングス テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 主任研究員の佐藤嘉晃氏は、「有機CMOSイメージセンサーは、特定色に強度が偏った光源においても、正確な色再現性を有しているのが特徴である」とし、「有機膜の高い光吸収率による光電変換層の薄膜化と、電気的な画素分離技術により、混色を抑えた良好な色再現が可能になった。光電変換を行なう有機薄膜と電荷蓄積および読み出しを行なう回路部を完全独立した独自の積層構造により、緑、赤、青の各画素において、対象外の波長域では感度を抑え、混色を大幅に抑制し、低混色な分光特性を達成できた」としている。
車載カメラの用途としては自動運転への貢献が見込まれており、「色再現性の強みを生かして自動運転の実現を支援できる。夜間の街灯の中には青色波長の街灯があり、こうした特殊な環境においても認識率を高めることができる。ダイナミックレンジを高くできるため、トンネル出口のような明暗差が大きいシーンでも、白とびや黒つぶれがない撮像ができる。また、グローバルシャッターにより、自動運転車が高速で移動している場合でも、周辺の物体を歪みなく形状を把握でき、認識率を高めることができる」と述べた。
また、検査領域では、製造工程における部品の確認や、酸化および腐食の確認、野菜や果物の成熟度、腐食、異物混入の確認などに活用。健康・美容領域では、肌の血色や血管の様子、シミや肌荒れを認識して、健康モニターや肌ケアに応用できるという。さらに、高い色表現性で撮影した風景などの画像や、後世に残したい文化財などの映像も、鮮やかな色彩のまま記録したり、保存したりできるようになるとしている。
佐藤氏は「正確な色再現性とともに、ワイドダイナミックレンジにより、反射が大きいところや少ないところでも識別でき、グローバルシャッターにより動作するものへの対応や、高速な識別が可能になり、精度を高めることができる。対象物の照度の変化や、対象物が移動する速度に対しても、ロバスト性が高い検査システムや撮像システムを構築できる」としたほか、「労働人口の減少や高齢化が進む中で、人の目で確認する作業を、色再現性が高い有機CMOSイメージセンサーを搭載したカメラなどによって置き替えることができる」とした。
従来のベイヤ配列のシリコンイメージセンサーは、緑、赤、青の色分離性能が十分ではなく、特にシアン光やマゼンタ光のような特定波長にピークを持つ光源下では、正確な色再現や色の認識、判定が困難だった。
それに対して有機CMOSイメージセンサーは、光を電気信号に変換する光電変換部を有機薄膜で構成したほか、信号電荷の蓄積および読み出しを行なう機能を下層の回路部で構成。それぞれが完全独立した2階建て構造としているのが特徴だ。
これにより、シリコンの物性に影響されない光電変換特性を持たせることが可能であり、さらに高い光吸収率をもつ有機膜によって薄膜化を実現。画素の境界部には電荷排出用の電極を設け、画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制することができる。
また、有機薄膜の下部は有機薄膜で発生した信号電荷を捕集するための画素電極と電荷排出用電極で覆われた構造であることから、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光が回路部側に透過することを抑制。隣接画素から侵入する光や信号電荷を抑制できるようになる。混色を十分低く抑えることが可能になるため、光源の色(スペクトル)によらず、正確な色再現を実現している。この電荷蓄積部は小型化できるため、高機能回路を追加することも可能だ。
佐藤氏は、今回の有機CMOSイメージセンサーについて薄い光電変換層を実現した「光電変換層薄膜化技術」、画素境界部の不要電荷を排出する「電気的画素分離」、有機薄膜下部の電極により光の透過を抑制する「光の透過抑制構造」の3点を有することが特徴だと語る。
「光電変換層薄膜化技術では、シリコンに比べて有機膜が10倍の光吸収特性を持つため、光路長が短くでき、0.5μmの薄膜化が可能になる。この結果、斜め入射光を低減でき、混色を抑制できる。電気的画素分離では画素境界部に入った不要な信号電荷を吸収し、排出することで色交じりを抑制する。光の透過抑制構造によって、光電変換層を透過した一部の光を画素電極で反射し、有機薄膜を再度通過させることで光を吸収することができる。従来のシリコンイメージセンサーでは、波長600nmの光は約20%透過するが、開発した有機CMOSイメージセンサーでは透過は約1%と大幅に抑制できる」と説明した。
パナソニックグループでは、2016年に有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサーによる広ダイナミックレンジ化技術を開発。業界初となるダイナミックレンジ123dBにより、鮮明に、時間ずれがなく撮影することを可能にした。また、同年には従来比約10倍の明るさで忠実に画像を撮像できる有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサー向け高機能グローバルシャッター技術を開発。2017年には、世界で初めて同一画素内でフレーム単位の撮像波長域の切り替えを実現した積層型有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサーによって、近赤外線域撮像を可能にする電子制御技術を開発。2018年には業界初となる45万飽和電子によって、高解像度で動体歪みのない高画質撮影を実現したり、8K高解像度を実現したりする高性能グローバルシャッター撮像技術を開発してきた経緯がある。
有機CMOSイメージセンサーは、シリコンの物性に依存しない感度特性と、広い面積を有効利用した性能向上および機能実装が可能であり、それにより高感度と高飽和を備えた画素で逆光での白飛びを抑制する「ワイドダイナミックレンジ」、全画素同時露光で動体を歪まずに撮像する「グローバルシャッター」、有機薄膜の構造を変更することで近赤外光も撮像できる「感度波長域選択性」の3つの特徴を持つ。
佐藤氏は「光電変換部と電荷蓄積部を分離した構造により、ワイドダイナミックレンジを実現。光電変換特性を電気的に制御することで、ローリングシャッターとグローバルシャッターを切り替えることもできる。そして、有機薄膜の構造を変更することで感度波長帯域を自由に設計でき、感度波長域選択性を実現している。近赤外光でも撮影が可能になる」とした。
また、「他社においても有機CMOSイメージセンサーに関する発表が学会で行なわれているが、ここまでの完成度で報告している例はない。その点では一歩進んでいると自負している。パナソニックグループとして、有機CMOSイメージセンサー技術に関する知財を蓄積しており、参入障壁も高めることができる」と述べた。