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BMW、燃料電池車「iX5 ハイドロジェン」で実証実験を開始 BMWグループのユルゲン・グルドナー氏が水素戦略などについて語る

2023年7月25日 開催

BMW GROUP TOKYO BAYで「iX5 ハイドロジェン」を公開

 ビー・エム・ダブリューは7月25日、燃料電池実験車両「iX5 Hydrogen(アイエックスファイブ・ハイドロジェン)」の日本における実証実験を2023年末まで行なうと発表した。

 同日、BMW GROUP TOKYO BAY(東京都江東区青海)でiX5 ハイドロジェンの車両展示を行なうとともに、BMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏、iX5ハイドロジェン・プロジェクト・マネージャーのロバート・ハラス氏を招いてのプレスカンファレンスを開催した。

 BMWグループでは現在、ガソリンエンジン搭載車、クリーンディーゼルエンジン搭載車はもとより、48Vマイルドハイブリッドシステム搭載車、PHEV(プラグインハイブリッド)、BEV(バッテリ電気自動車)という複数のパワートレーンを提供している。

 燃料電池車は新たなパワートレーンの1つとして注目を浴びており、BMWグループは2011年よりトヨタ自動車と燃料電池車の基礎研究を共同で行なっている。水素を燃料とする燃料電池車は、燃料の充填に時間をかけずに長距離走行が可能なことが最大の特徴の1つであり、今回のiX5 ハイドロジェンの場合、燃料である水素が空の状態から約3分程度の水素の充電で約500kmの走行が可能という。

 BMWグループは2020年代後半に燃料電池車を市場投入する予定で、その実現に向けてドイツやアメリカといった主要国でiX5 ハイドロジェンを走行させ、実証実験を実施しているが、日本でも公道での実証実験を実施することを決定。

 日本における実証実験では、日本各地で実際に車両を走行させ、さまざまなデータを取得すると共に、官公庁や行政機関、大学を訪問し、各方面の専門家の視点から製品に対するフィードバックを受け、それら全てをドイツにあるBMWグループ本社に送って製品開発に役立てるという。

 なお、iX5 ハイドロジェンは295kW(401HP)の電気モーターを持ち、水素タンク容量は約6kg。航続距離(WLTP)は約500kmとしており、最高速約185km/h、0-100km/h加速6秒という性能を備える。車両重量はX5のPHEVモデルと同等、X5のBEVより少ないとしている。

iX5 ハイドロジェン。基本はX5だがパワートレーンは異なる。タイヤはサステナブルラバーを採用するピレリ製を履く
iX5 ハイドロジェンのスペック

トヨタとのパートナーシップは「大変光栄」

BMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏

 プレスカンファレンスでは、まずBMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏が登壇して同社の水素戦略などについて語った。

 グルドナー氏はまずここ10年、サステナビリティをテーマに戦略を進めてきたが、ここ数年で分かったことは「使える全ての技術を使って脱炭素を図っていかなければならない」「原材料を調達するところから生産まで脱炭素化が必要」の2点だといい、BMWのサステイナビリティ戦略において「燃料電池も使っていなければならないという結論に至った」と語る。

 グルドナー氏は、水素について「エネルギーの移行の中でとてつもなく重要であるということが認識されております」と述べるとともに、「将来的に再生エネルギーは電力として使われていきます。太陽光であったり風力であったり、あるいは水力であったり、さまざまな電力が使われていくことになります。電力は長期間にわたって保存ができず、長距離輸送するのに向いておりません。現在、石油、ガスなどといったエネルギーが取引されており、世界は国際エネルギー機関によって導かれて戦略を打ち立てております。将来的には再生可能エネルギーも長距離輸送しなければならない。さらに保存しなければならない。例えば太陽光をヨーロッパの南から中央に輸送したい、あるいは風力を北から工業都市中心部まで輸送したいということになりますと、電力そのままでは不可能なわけです。だからこそ水素のようなガスで輸送を可能にしていかなければなりません。日本もやはり同じ状況ではないでしょうか。例えばオーストラリアから太陽光を輸入する、これは単純にその電力のままでは不可能なわけです。だからこそ日本の非常に強い、強力な水素戦略を策定してこの数年間進めてきていらっしゃいます」と、水素の重要性について説いた。

 また、グルドナー氏は車両が大型になればなるほど、車両の使用が過酷になればなるほど電力よりも水素を使う方が適していると語り、「ほとんどのトラックが水素をエネルギー源としておそらく使うようになると予想しています。また、われわれ自身の物流を考えたとき、われわれの工場にさまざまな部品を持ち込むトラックも燃料電池を想定しております。一方で乗用車はどうでしょうか。ここではおそらく電池になると予想されております。しかしながら利用用途によって、あるいはお客さまの一部、あるいは国によっては燃料電池車が同時に発展していくであろうと予想しております。燃料電池車は電気自動車でもありますが、唯一の違いはエネルギーです。加速力があり、非常にスムーズな乗り心地。さらにゼロエミッション。こういったところを享受しつつも、さらに水素タンクそのものを数分で充填することができるというメリットが上乗せされていきます」と、水素を使うメリットについて述べるとともに、BEVを充電するための充電器を設置する初期費用は低いものの、充電するクルマの台数が増えるにつれて非線形に増加し、一方で水素ステーションの設置にかかる費用は主に規模によって異なり、展開後の費用が一定であると語る。さらにグルドナー氏は水素と電気、このインフラを2つ組み合わせる方が将来的にはコストが安く済む、経済的であるということが分かっているともいう。

BMWグループはパリ協定の1.5℃目標の実現に向けて取り組んでいる
脱炭素化への挑戦
BEVとFCEVの相互補完的な関係
2つの電気自動車、異なるエネルギー貯蔵方法
ユーザーによる水素自動車の使用事例
ドイツでのインフラの観点
ヨーロッパでのインフラの観点

 参考までに、現在世界では1000以上の水素ステーションが稼働(2023年3月現在)しており、地域別で見るとアメリカが116、ヨーロッパが276、アジア太平洋地域が650以上(日本163、韓国210、中国300以上)。また、2020年では全世界で545だった水素ステーション数は2021年に690(対前年比25%増)、2022年には1070(対前年比55%増)と増加傾向にあり、グルドナー氏は「日本は実は他の国を牽引している一国でもあり、160以上の水素ステーションが日本にすでに配備されております。この数年間でまだまだこの数を増やしていく計画です。そのほかの国も着々と増えており、アジア、中国、韓国しかり、そしてヨーロッパでもどんどん水素ステーションが増えております。特にドイツ、中央ヨーロッパに位置するような国、それから北米、特にカリフォルニア州は数が増えております」と説明した。

現在世界では1000以上の水素ステーションが稼働

 また、グルドナー氏はヨーロッパでは安全面を考慮したうえでユーザーが直接水素を充填できる仕組みができていることを解説し、「これこそが将来のトレンドだと私たちは考えています。お客さま自身で水素を扱うことができる、日本でもすでにそのような水素ステーションが1つ、2つオープンしたと聞きましたけれども、より利便性が高いということで、こういったものも日本では増えていくかと思います」と語っている。

 なお、グルドナー氏はトヨタ自動車との協業について「内燃機関から燃料電池に移行していく形で私どもは進化してまいりました。この水素の分野においてもテクノロジーを進化していき、その中でトヨタ自動車さまとかれこれ10年間パートナーシップを組ませていただいております。非常に強力なパートナーと一緒にこの水素技術を開発できているということ、そして水素社会を世界中に広めていっていること、大変光栄に存じております」と述べるとともに、「iX5 ハイドロジェンのパイロット車両ですが、今後の市場導入に向けて準備していきたいと思っており、2030年までに投入、そしてそれ以降に展開していきたいと思います。市場の反応も確認していきたいと思っておりますし、水素ステーションの各国の展開や動向も見ていかなければなりません」と語りプレゼンテーションを締めくくった。

ヨーロッパにおけるインフラの観点
エネルギーシステムについて
水素の抑制か生成か?
温室効果ガス排出のライフサイクル分析
多様性は回復力を高める
BMWグループでの水素体験
BMWグループの電動化プログラム