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障がい者とGTドライバーがレーシングシミュレータ「iRacing」で対決、もう1つのスーパー耐久

障がい者とGTドライバーがレーシングシミュレータ「iRacing」で対決を楽しんだ

 モビリティリゾートもてぎでは、9月2日~3日にかけて「スーパー耐久第5戦 もてぎ5Hours Race」を開催されていたが、実はサーキット内において“もう1つのレース”が開催されていた。バリアフリーeスポーツを提唱するePARAが主催するeモータースポーツレース「クロスラインレース」だ。

 同社では、eスポーツを通じて障がい者が輝ける社会づくりを目指し、さまざまな活動を行なっているが、今回のイベントもその一環となる。トヨタ・モビリティ基金のアイデアコンテスト「Mobility for ALL - 移動の可能性を、すべての人に。」部門の採択を受けており、スーパー耐久機構事務局(STO)公認イベントにもなっている。

 競技としては、バーチャルレースの定番ソフトウェアとも言えるiRacingを使用し、3人のドライバーがもてぎで90分の耐久レースを戦うというものだが、ドライバーはもちろんのこと、実況やピットレポート、大会のキービジュアルやテーマソング、走行車両のリバリーのデザインなど、レース運営のあらゆる場面に障がい者が関わっている。

クロスラインレースを説明すべく、障がいを持つユニットでまとめた図解グラフィック(イラストレーター・坂上綾さん作)
クロスラインレースのキービジュアル(発達障がいを持つデザイナー・あまだれさん作)
1日目、MCでレースを盛り上げたプロレーサーの塩津佑介選手と、車椅子ユーザーの牧野美保さん
自らがデザインしたレーシングカーの疾走をリモートで解説するまるぽすさん(難病・アイザックス症候群)

 今回エントリーした4チームのうち2チームは、脊髄性筋萎縮症や頚椎損傷で手足に不自由がある車椅子ユーザー、網膜色素変性症で視力がほとんどないブラインドeレーサーなどがドライバーとして参加。テクノツールが開発した特殊な器具をレーシングシミュレータに装着することで、健常者と一緒に走行できるようにしている。

弱視のいちほまれさん(網膜色素変性症)にインタビューをするピットレポーター・希央(発達障がい)
テクノツールのシミュレータでレースに出場した車椅子ユーザー・干場慎也さん

 残り2チームは、SUPER GTのGT300クラスに参戦するプロドライバーらで構成されるリアルレーサーチーム(日曜のみ参加)、ブレインテックを活用しながら若手ドライバーの育成などに取り組むKDDIチームとなっており、どういうわけか記者本人もKDDIチームの一員として参加することになった。

リアルレーサーチームの3人。左から塚本ナナミ選手(日比野塾)、岩澤優吾選手(Yogibo Racing)、塩津佑介選手(GAINER TANAX GT-R)

 驚かされたのは、障がい当事者による2チームのスピードだ。2日目はスーパー耐久の決勝スタートと同時にこちらのレースもスタート。開始早々、障がい当事者による2チームがプロドライバーチームとテールトゥノーズでデッドヒートを展開。90分にわたって熱い戦いが繰り広げられた。

プロレーサーとデッドヒートを繰り広げた石水優夢さん(Racing Fortia)との岩澤優吾選手
レース後に互いの健闘を称え合った

 ちなみに、記者が参加するKDDIチームの面々も、事前に2週間ほどiRacingのコソ練をしていたのだが、まったく歯が立たず、その差は歴然、2日とも最下位に沈んだ。

真剣な眼差しでレースに臨むKDDIチーム

 大会への参加を通じて心を打たれたのは、関係者全員が本気で各々の役割をまっとうしようと取り組んでいる姿だ。それは障がい者だけでなく、健常者も同じで、参加したプロドライバーも真剣そのもの。これまで現実のレースでは決して実現することがなかった障がい者と健常者のガチンコの戦いが繰り広げられ、レース終了後には笑顔で健闘を称え合っていたのが印象的だった。

表彰式後の参加者は笑顔に満ちていた
クロスラインレースの模様を記録したダイジェスト動画(2分55秒)