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KDDIなど4社、脳科学とIT技術の活用でeモータースポーツにおけるドライビングテクニック向上を確認

2022年3月24日 発表

KDDIなど4社は脳科学×IT技術=ブレインテックを活用することで、eモータースポーツにおけるドライビングテクニックが向上するかを実験してきたが、実際にテクニックが向上すると確認できたという

eモータースポーツ×ブレインテックの実証実験の結果を発表

 KDDI、アイロック、VIE STYLE、レーシングヒーローの4社は3月24日、脳科学とIT技術を組み合わせたブレインテックを活用し、脳の認知能力を高めることでeモータースポーツのドライビングテクニックの向上を目指す実証実験の結果を発表した。

 この実証実験は2021年12月14日~2022年3月11日まで実施されたもので、eモータースポーツで活躍する宮園拓真選手や佐々木唯人選手など8名が被験者として参加。被験者のうち、脳の認知能力を高めるトレーニングを受けた2名について、シミュレータでの筑波サーキット走行時のベストラップを比較し、ドライビングテクニックの向上について確認できたという。

 今後4社は、実車での走行テストなどを行ない、将来的にeモータースポーツのプレイヤーがプロレーサーを目指すことができる環境の整備や技術開発を進めていくとしている。

eモータースポーツのドライバーを実車でのレーシングドライバーへと育成する
ブレインテックを活用してレーシングドライバーの脳へと進化させる
トレーニング前後でのベストラップ比較

実証実験を行なってきた背景と課題

 プロスポーツでは、ゲームを活用したトレーニングが増えているが、特にモータースポーツはステアリングやペダル操作が同一のため、シミュレータの親和性が高い一方、実車とは加速度(G)など違いがあり、実車のドライビングテクニック向上に結び付かない可能性が指摘されていた。

 同時に脳科学研究の進展によりプロスポーツ選手のスキルと脳の認知機能の関連性が明らかになってきた今、モータースポーツにおいてもプロレーサーが一般人と比べて反応速度が速いという結果が報告されている。

 そこで、リアルタイムに選手の脳波を可視化し目的の脳活動に近づける「ニューロフィードバック」の活用で、脳の反応速度向上につながるトレーニング技術の研究も進み、将来的には多くのeモータースポーツのプレイヤーが、実車のレーサーとして活躍できる可能性が広がっているという。

今回の実証実験の概要

 今回の実証実験では、ブレインテックのトレーニングによる、シミュレータ上でのドライビングテクニック向上を目的とし、実車でのレースやeモータースポーツで活躍する4選手を基準に、多様な脳の評価・比較を行ない、トレーニング対象となる脳の認知能力(脳スキル)を特定。

 その後、トレーニングを実施する2選手に対し、例えば認知テストにおける脳の反応時間の短縮やポジティブな感情戦略をとるなど、伸びしろが大きいと想定される脳スキルを高めるため、ニューロフィードバックを利用したトレーニングを実施したという。

 そのトレーニングの前後にシミュレータで、筑波サーキットを5周走行した際のベストタイムを比較した結果、トレーニングを受けた2選手は、トレーニングを受けていない6選手と比較してベストタイムを約0.6秒短縮できたとしている。

実証実験について

・目的:脳の認知機能に着目した新しいドライビングスキルのトレーニング方法の開発
・参加者:ベンチマーク選手4名(基準となる認知能力の分析対象選手)
 実証参加選手8名(トレーニング実施2名、トレーニングなし6名))
・実証方法:多様な認知能力の評価を行なうテストをベンチマーク選手に行ない、その結果に基づいてトレーニング対象とするスキルを特定。その後トレーニングを実施する2選手に対しては、ニューロフィードバックも利用した認知能力のトレーニングを実施。
・評価方法:IROCのドライビングシミュレータ「T3R Simulator」とレーシングシミュレータゲーム「iRacing」で、筑波サーキットを5周したベストタイムをトレーニング前後で比較。

ニューロフィードバックの仕組み
テストは「iRacing」でMAZDA Roadster(MX-5)を使用
宮園選手による脳トレーニングの模様

・トレーニング内容:ウェアラブル脳波計「VIE ZONE」を利用したニューロフィードバックトレーニング(α抑制)に加え、ストループ課題(佐々木選手)とポジティブ感情制御ニューロフィードバックトレーニング(宮園選手)を週1回、4週間にわたって実施。
・検証結果:
 結果1/認知課題成績の変化の確認 GoNoGo課題の反応時間とストループ効果。トレーニングにより、特に佐々木選手の反応時間の短縮とストループ効果(色名と色が一致していない際に反応時間が遅くなってしまう現象)の減弱に成功。
 結果2/レース成績の向上(iRacingのラップタイム短縮)。トレーニングを実施した2選手は、筑波サーキットのラップタイムを65.496秒から64.886秒に0.61秒短縮することに成功。なお、トレーニングを受けていないコントロール選手は、65.040秒から65.154秒+0.114秒、交互作用F(1,6)=15.5402 p=0.007。

結果1のグラフ1(GoNoGo課題の反応時間)
結果1のフラフ2(ストループ効果)
結果2のグラフ(iRacingのラップタイム短縮)

・体制:この実証実験では、プロレーサーのトレーニングから市販車のバーチャル試乗、交通安全啓蒙などあらゆるシーンで活用の実績があるIROCの「T3R Simulator」を採用。また、現役プロレーサーでもあるIROCの古賀代表から、リアルでの運転とドライビングシミュレータの違いの技術的なアドバイスを享受。この実証参加者となる8名のeモータースポーツ選手のトータルマネージメントを、eモータースポーツの番組作成やイベント企画を実施するレーシングヒーローが担当。また、この実証ではトムスと日本グッドイヤーも参画し、今後ドライバー育成に関する知見の共有や、実車でのトレーニングにも取り組むとしている。

参画企業と役割や内容

・KDDI:プロジェクト全体マネージメント
 全体企画設計、各パートナーアレンジ・マネージメント、ビジネスモデル設計
・アイロック:レーシングシミュレータ「T3R Simulator」の活用
 シミュレータ活用のサポート、仮設の設定やリアルドライバー視点での課題提起などトータルアドバイザー
・VIE STYLE:脳波分析
 脳波を測定し、ニューロフィードバックを経て脳のトレーニングプログラムを開発・実行
・レーシングヒーロー:eモータースポーツ選手のマネージメント
 e-Motorsports関連ディレクション等コンサル業務。e-Motorsports選手のアレンジ、ベンチマーク設定など
・トムス:ドライビングシミュレータ、実車トレーニングのサポート
 トムス社製シミュレータの活用。「フォーミュラカレッジ」でデジタルトレーニング実施後の実車トレーニング実施予定。
・日本グッドイヤー:実車トレーニング時の車両提供など
 実車トレーニングのための車両提供、ヤリスカップカーでの走行機会の提供
・インテル:PC(CPU)の提供
 脳波分析や選手のニューロフィードバックで使用するPCの構成検討・機材提供(予定)