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ラリードライバーとパイロット採用に共通点? TOYOTA GAZOO RacingがJALのシミュレータを体験し意見交換会

フィンランドから来日したTGR WRCチャレンジプログラム チーフインストラクター ミッコ・ヒルボネン氏(左)と、トヨタ自動車GR企画部WRC・パートナーグループグループマネージャ 千徳篤史氏(右)

フィンランドからミッコ・ヒルボネン氏が来日

 JAL(日本航空)は、WRC(FIA 世界ラリー選手権)に参戦するTGR WRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)に2020年から協賛を開始している。2023年用のWRCマシンであるGRヤリス ラリー1 ハイブリッドのCピラー付近に、おなじみの鶴丸ロゴが入っているのを見たことがある人もいるだろう。

 JALは、フィンランドを本拠地として世界を転戦するTGR WRTのロジスティクス関連のサポートを行なっており、世界選手権をリードする同チームを輸送の面からも支えている。

 そんな関係にあるJALとTGR WRTが、9月16日にJAL 羽田第1テクニカルセンターにおいて、「ラリードライバーとパイロット採用の知見、意見交換会」と呼ばれる会議を行なった。この会議には、フィンランドからWRCチャレンジプログラムのチーフインストラクター ミッコ・ヒルボネン氏らが来日し、JALのシミュレータを体験。ヒルボネン氏をはじめとし、WRC に挑戦する若手ドライバー育成プログラム担当者が、JALのパイロット採用・育成を担当する機長らと意見交換を行なった。

JALは非常に強力なパートナー、今後も関係を深めたいとTGRの千徳篤史氏

トヨタ自動車株式会社 GR企画部WRC・パートナーグループグループマネージャ 千徳篤史氏

 あいさつに立ったトヨタ自動車GR企画部WRC・パートナーグループグループマネージャ 千徳篤史氏は、「日本航空には2020年という、普通に乗客が航空機に乗るのが難しいという苦しかった時期にTGR WRTのパートナーになっていただき、感謝している。今年の5月末、スーパー耐久富士24時間の会場で、弊社会長の豊田より、“一番苦しい時に本当にありがとう”と日本航空の中部支社長に感謝の意を伝えさせていただいた。社長の佐藤からも感謝の気持ちを表明させていただいた経緯があり、TGRとしては非常に強力なパートナーだと思っている。今後もより関係を深めていきたい」と述べ、TGRとしてはJALとの関係をさまざまなレベルで築いていきたいと考えているため、このような企画を立てたと語った。

日本航空株式会社 運航企画部リソース戦略グルーブ調査役機長(767型機機長)久野康幸氏

 続いて、JALのパイロット採用を担当する日本航空 運航企画部リソース戦略グルーブ調査役機長(767型機機長)久野康幸氏は、JALのパイロット訓練シミュレータに関しての説明を行なった。

 久野機長は30年におよぶフライト経験を持つベテランで、現在は運航企画部の調査役機長という、後進のパイロットを採用する立場でシミュレータなどを活用しパイロット訓練生の採用にあたっている。久野機長によれば、採用リソースによってはパイロット訓練生として入社するといってもまったくの素人ではなく、パイロット養成機関で飛行訓練を受けて、基礎的な操縦ライセンスを取得しているのが一般的だという(一般大学の学生をパイロット訓練生として採用する「自社養成」という制度もある)。

 JALがフライトシミュレータで行なう訓練は、飛行機の基本的な動きというよりは、ボーイング 737/767/777/787、エアバス350といったJALが運航しているジェット旅客機を操縦する訓練を行なっている。

 久野機長は、飛行機の基本的な操縦方法など、クルマとの違いを意識しながら説明を行なった。例えば自動車であれば、アクセルペダルは右足だが、飛行機では右手で操作する(機長の場合)スロットルが相当するなどを座学としてレクチャーした。

 また、航空機の離陸時の角度、アクセルの開度など具体的な操作方法も示され、TGR WRTスタッフは初めての「空のドライブ」に向けて真剣に聞き入り、久野機長に質問をしている様子が印象的だった。

 久野機長は「パイロットの採用で大事なのは、安全に運航するため、マルチタスクで作業ができるかどうかになる。操縦桿やラダーを操作しながら、管制官とコミュニケーションを行ない、同時に次にどの作業を行なうか決断もしていかないといけない」と述べ、パイロットの資質は同時並行での作業力だと説明した。

機長の神業対応に「スナップオーバーステアだ」と表現するなど、空でもラリードライバーはラリードライバーだった

シミュレータで記念撮影するミッコ・ヒルボネン氏とJALの久野機長

 今回このイベントに参加したのは、TGR WRTの若手育成プログラムのインストラクターやプログラム運営を担当する4人(ミッコ・ヒルボネン氏、ヨウニ・アンプヤ氏、ヤリペッカ・ラウライネン氏、ヤルモ・テイスコネン氏)。その中で、WRCチャレンジプログラムのチーフインストラクターを務めるのが元WRCドライバーのミッコ・ヒルボネン氏だ。

 ヒルボネン氏は2000年代にフォードのMスポーツからWRCに参戦しており、2008年には当時の絶対王者だったセバスチャン・ローブ氏にわずか1点差まで詰め寄る選手権2位を獲得。その後も2011年、2012年と選手権2位になるなどWRCスタードライバーの1人だった。近年はTGR WRTでWRCチャレンジプログラムのチーフインストラクターを務めており、今回は、日本人の若手ドライバー発掘のため来日した。

参加者で記念撮影
シミュレータの外観

 ヒルボネン氏をはじめとした4人は、JAL 羽田第1テクニカルセンターにおいて、フライトシミュレータに搭乗した。シミュレータは、JALとシミュレータメーカーであるCAEのジョイントベンチャーであるJCFT(JAL CAE FLIGHT TRAINING)が管理運営しており、航空機のコクピット部分だけを切り出した本体と、それを支えるアームから構成されている。このアームが前後左右に実際に動くことで、航空機の動きをある程度再現しながら飛行体験ができるというものになる。

 シミュレータのデータやプログラムは、航空機メーカーであるボーイングやエアバスなどから提供されている。旅客機の操縦ライセンスは型式ベースになっており、ボーイング767に乗る場合にはボーイング767のライセンスが必要になる。そのためシミュレータも型式別に用意されている。JAL関係者によれば、737、767、777、787、A350などJALが運航している旅客機のシミュレータに関して基本カバーしているそうだ。

 TGR WRTの4名はこのシミュレータを、久野機長をコパイロット役として体験した。プログラムは離陸と着陸の2つ。久野機長のアドバイスで操縦訓練を行なった。

久野機長が先生役になってレクチャー

 なお、最後には、久野機長の模範フライトも行なわれ、ドライバーたちの体験フライトでは使っていなかったギア操作など「マルチタスク」での作業をデモした。寸分の狂いもなく、滑走路中央に着陸する様子を披露すると、ドライバー達からは感嘆の拍手が起きた。

 離陸時に右側のエンジンが故障したことを再現したシーンでは、機長が操縦桿やラダーなどの操作で、左右のバランスをすぐに取って操縦する様子に「これはスナップオーバーステア(アクセルを急に開けたときなどに発生するクルマのリアが滑ることを言う)だな」と述べ、ドライバーらしい表現で動きを表現していた。

 そうしたシミュレータ体験後に、ヒルボネン氏に感想をうかがうと「本当に素晴らしい体験で、シミュレータがどのように動いているかもよく理解できた。(クラッシュせずに最後まで操縦できたかを聞かれて?)もちろんちゃんとクラッシュしないで着陸できたよ、でも正直なところ久野機長のようにスムーズには着陸できなかった(笑)。ただ、機長がとても的確な指示を出してくれたことで、きっちり操縦できたと思っている。(フィンランドに帰るフライトで操縦していく?と聞かれて)それにはまだまだトレーニングが必要だ(笑)。ラリーでクルマを運転するのとはまったく異なる体験で、本当にドラマティックだったよ。例えば自動車ではゆっくり走ればいいけど、飛行機ではゆっくり飛ぶという訳にはいかず、まったく異なる体験だね。その意味ではクルマを運転するようにマージンをもって操縦するのは難しい、クルマに比べてより細心の注意を払わないといけないとうことがよく分かった。いずれにせよ、素晴らしい体験だったよ」と述べ、興奮冷めやらぬ様子だった。

シミュレータ体験終了後に意見交換会を実施

 シミュレータ体験後、4人は、JAL側の久野機長、日本航空 運航企画部リソース戦略グルーブ調査役機長(777型機機長)立岡孝弘氏、日本航空 運航本部 運航訓練部 部長 777型機機長 堀川裕史氏らと意見交換会を行なった。