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JALの定時運航に関する取り組みを見る

世界一の定時到着率は、どのように達成されたのか?

 3月25日、JAL(日本航空)の定時運航に関する取り組みの取材会が開催された。これは、JALが世界主要航空会社の定時到着率ランキング世界一になり、その取り組みを見てもらおうというものだ。空港で働く特殊車両も見られるし、交通機関の一つとして航空機の定時発着には何が影響しているのか興味があったため、Car Watchもその取材会に参加してみた。

そもそも航空機における定時とは?

 JALが定時到着率世界一になったのは、世界中のフライトの出発・到着遅延に関わる情報をWebサイトで提供している米国のFlightStatsの定時到着率調査において。

●FlightStats
http://www.flightstats.com/go/Home/home.do
FlightStats Airline On-time Performance Awards
http://www.flightstats.com/go/story.do?id=1050

 JALグループは、Major International Airlines(JAL、90.35%)、Asia Major Airlines(JAL、90.35%)、Asia Regional Airlines(J-Air、92.58%)、Airline Alliance(oneworld Alliance、79.55%)の4部門で1位を獲得している。ちなみに、2009年~2010年はMajor International AirlinesでJALが1位だったものの、2011年はANA(全日本空輸)が1位を獲得。JALは1位を奪還した形になっている。

今回、定時運行に関する取り組みに関して話をうかがったJALのスタッフ。左からJALグランドサービス 東京支店 総務部 業務グループ 課長 山本氏、JALスカイ 羽田事業所 業務部 オペレーション業務グループ 村尾さん、JALスカイ 羽田事業所 業務部 国内パッセンジャーサービス業務グループ 長谷川さん、日本航空 顧客マーケティング本部 商品サービス開発部 企画グループ 南氏

 この90.35%という数字は、定時到着した便の割合を表しているのだが、秒単位で管理されている鉄道と異なり、到着遅延が15分未満は「on-time(定時)」としてカウントされている。この到着とは、滑走路に着陸した時刻ではなく、航空機がスポットに停止した(スポットイン)時刻を指しており、そういった意味でも15分未満というのは高いハードルなのではないだろうか。

 JALがこの定時性向上に組織での対応を始めたのは2009年から。航空会社である以上、第一に安全があり、次に定時性、お客様の快適性があると言う。

 定時性を向上させる上で大切なのが、「定時に出発する」ことで、その実現のために「お客様にスムーズに乗っていただく」努力を行っている。その1つが保安検査場を15分前(繁忙期は30分前)に通過してもらう告知と、搭乗口に10分前に来てもらう告知。そしてJALグループ側の努力として、到着した便を、いかに次の出発にスムーズに持って行くかがある。

 たとえば、この日の取材機となっていたボーイング 737-800(JA337J)は、宮崎空港(RJFM/KMI)から羽田空港(RJTT/HND)にJL1880便として9時25分に到着、10時15分にはJL1843便として長崎空港(RJFU/NGS)に飛ぶ予定となっていた(4月からは時刻表が変更されている)。つまり、50分で荷物や乗客を降ろし、そして機内清掃や次の出発へ向けての機内食などの積み込み、そして荷物の積み込みや乗客の搭乗を終えなければならないわけだ。乗客がすべて降りるのに10分程度かかり、出発20分前には搭乗が始まることを考えると、スタッフの作業時間は30分もない。

この日の取材機となっていたボーイング 737-800。機体番号JA337Jは、「がんばろう日本」の文字が機体に書いてあることで知られている
到着後、ボーディングブリッジが近づく
機体に覆い被さるように接続部が伸びる

各部門の連携で定時性向上を実現

 737-800は、小型機といえども165座席ある航空機のため、それなりの作業が発生する。JL1880便として羽田空港に到着すると、ボーディングブリッジが接続し、荷物を荷物室から下ろすベルトローダーが機体横に接続する。機内では清掃スタッフの清掃作業のほか、CA(キャビンアテンダント)も時間短縮のため、作業を手伝う。その作業中に、ケータリングカーが機体横に接続され、長崎行きの便で必要となる機内食や飲み物を積み込んでいく。

737-800は小型機のため、ベルトローダーが機体横に登場
機内から荷物が単体で出てくる
荷物はコンテナに移し替えられる。結構手作業が多い
機内食や飲み物を機内に積み込むケータリングカー
ボーディングブリッジの外側では、清掃スタッフが待機。乗客がすべて降りるのを待っている
乗客がすべて降りたら清掃開始。ゴミやイヤホンなどを手際よく片付けていく
JA337は165座席仕様。前方には1000円の追加料金で快適な旅を楽しめるというクラスJのシートが設置されている
テーブルなども、一度展開して確認していたようだ
CAなど機内スタッフも掃除のお手伝い。毛布の整理などをしていた
ケータリングカーから、機内食などが運び込まれる。国内線のため、主に飲み物だろう
後方のギャレーに、ボックスごとセットしていた
モニターのチェックなども実施
荷物を出し終わる頃に、航空機を押す、トーイングカーが到着。一般的に旅客機はバックしないため、出発時はトーイングカーで押す必要がある
トーイングバーを前脚に接続中
トーイングカーにも接続する
綿密に点検
トーイングカーのナンバープレート。RJTTは羽田空港のことなので、羽田に所属するJALのクルマのようだ
ベルトローダーで荷物の積み込みが始まった
最後の荷物は手で運んでいた
荷物室の扉を閉める
737-800の前輪。タイヤはブリヂストンだった
737-800のエンジン
トーイングカーが押し、後ろに下がるプッシュバックが始まった。この時点が出発時刻になる
がんばろう日本。翼の先にはウイングレットと呼ばれるものが付いており、燃費改善に効果があるそうだ
トーイングバーを外し、いよいよ自力で動き始める
手を振ってお別れ。旅の無事を祈ってくれている
ボーイング 737-800の隣には、ボーイング 777-200が到着していた。こちらの機体番号はJA8977だった
777は、機体が大きいため、荷物はコンテナで積まれている。LD-3と呼ばれるコンテナを、横に2つ積めるので大量輸送にも適している
LD-3に限らず座席の下の空間は荷物室になっている。丸い胴体に積みやすいよう、下側が斜めにカットされている
LD-3を上げ下ろししているのは、ハイリフトローダーと呼ばれる特殊車両
荷物を出している時点で、次の便の機長が航空機の確認を行っていた

 その間に、次の便のパイロットスタッフは、羽田空港内にあるJALのオペレーションセンターで天候などをチェック。このJALのオペレーションセンターでは、航空路における天候などをJAL便同士で情報共有しているほか、他社との情報交換もしている。ただ、天候情報をどこまで伝えるかなどは各社によって差があり、多数の便を飛ばしているJALグループは、自社の情報のプライオリティが高いと言う。

オペレーションセンターで天候などをチェックするパイロット
JALの各飛行機から入る、天候情報を確認
搭乗スポットが一覧できるモニターもあった
到着便の作業遅れなどは、1便ごとに管理されている。慢性的に遅れる便などの存在は、次のダイヤを決める際などに参考にしている。(このブロックの画像は、クリックしても拡大できません)

お客様の協力があってこその世界一

 JALによると、「定時到着率で世界一は、お客様の協力があって達成できた」とのこと。出発保安検査場を定刻以前に通過(つまり出発15分前に通過)し、出発便にすべての乗客がスムーズに乗れば、定時前に出発できるし、乗り遅れる人がいれば定時を越えてしまう場合だってある。そのため、「なるべく早く搭乗口に来ていただくよう案内している」と言い、機内清掃などをスムーズに終えることで現在はより早い搭乗開始を目指し、余裕をもって乗ってもらおうとしている。

 また、これはJALのある第1ターミナルに限って起るミスだが、「座席番号と、搭乗口番号を間違えてしまうお客様がいらっしゃる」とのこと。JALが主に使う第1ターミナルは、搭乗口番号が1から始まっており、5A、5Bと、座席番号とまぎらわしい搭乗口番号まで存在する。さらに、出発保安検査場で発券される「搭乗案内控え」などで搭乗口番号と座席番号が同じ行に同じような大きさであるのも、その要因の1つになっていると言う。

 乗客の立場から勝手なことを書かせてもらうと、5Aと5B問題は、1番を0番、2番を1番にして、4番、5番で振り直しをして解決を図る。搭乗控えなどについては便名の横に座席番号を書き、搭乗口番号の横には第1ターミナルの略図と搭乗口の場所を図示していただければと思う。発券システムを空港専用に作ることになってしまうが、羽田空港は巨大空港だけに、出発保安検査場で発券される搭乗案内控えに関しては専用システムの構築もありなのではないだろうか。乗客にとっても容易に搭乗口を見つけることができるのは、旅の安心感を高めるために大切なことかと思う。

 と書いたものの、実際の搭乗口のスタッフを見ていると、その働きは非常に献身的。丁寧なアナウンスを行い、航空機に乗る乗客をサポートしている。福岡空港(RJFF/FUK)に向かうJL315便の搭乗を取材したが、最後の1人の乗客がなかなか搭乗口に現れず(搭乗口ゲートを通過したのが出発4分前の12時21分だった。

JL315便となる航空機がスポットに到着
乗客が降りた後、次の便へ向けての搭乗案内が始まる
搭乗控えのバーコードでも、JAL ICカードでも、スマートフォンのアプリ画面でも通過できる
乗客のチェックイン状況を確認
出発20分前に案内が始まるようだ
10分前に来ることをうながす表示
機長もフライト前に、乗客の状況などを確認するとのこと
小さい子供と一緒の乗客などへ向けた優先搭乗が始まった。この段階では、CAが搭乗口に現れ、搭乗する乗客のサポートを速やかに行う
時刻は12時3分だった
最後の乗客が通過した時刻は12時21分。出発4分前
最後の乗客であることを確認しているのであろう
JL315便は定刻に出発していった

 一連の働きを見せてもらって感じたのは、空港の裏側では実に多くの人が働いているということと、働く目的が「お客様のため」ということに集約されていたこと。しっかりした作業を行うことで、航空機はできる限り安全に飛ぶことができ、また定時出発することで、乗客の旅の予定が確実になる。JALグループ全体で、羽田の発着便は400便ほどあるそうだが、定時性向上のためには「1便1便お客様をしっかり案内することが大切」との言葉が印象的だった。

737-800が出発していった後、最後に一礼をしていたスタッフ。多くのスタッフの総意によって航空機の運航は守られている

(編集部:谷川 潔)