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JAL、機内食作りの裏側を公開

徹底した衛生管理とおいしさを両立させる工夫とは?

 機内食は一度調理したものを冷却して、実際に食べるのも数時間後という普通の飲食店とは異なる状況で提供される特殊な食事だ。では機内食は実際にどのように作られ、機内で提供されるのか。今回はJAL(日本航空)の国際線用機内食を作っているジャル ロイヤルケータリング(JRC)を取材する機会を得たのでその様子をリポートしていこう。

 JRCは1995年4月にJALとロイヤルの合弁会社として開業した会社で、成田空港においてJALの国際線用機内食を提供している。従業員は334名。

 成田発10路線12便の機内食を担当し、1年で148万3000食、1日平均で4063食を提供。便数では年間3686便を担当する。フル稼働時には最大で1日1万2000食、25便まで対応可能だそうだ。

 機内食は調理後すぐに10℃以下の温度に冷却される。盛りつけやパッケージングの時も常に温度は一定に保たれ、機内で再加熱されるまで徹底して温度管理がされる。機内での再加熱にはスチームオーブンが用いられることが多い。カートの内部に加熱用のトレイを組み込んだものもあるが、トレイ自体が重くなって取り回しが不便であることや、加熱自体が中途半端になることもあり、今のところスチームオーブンがもっとも信頼性が高いという。

 機内にはもちろん電子レンジも搭載しているが、これは軽食類の加熱や食事時間に眠っていた乗客のために一度暖めた食事をすぐに再加熱する場合などに使う。また、白米は電子レンジを使って機内で炊飯しているそうだ。

 ちなみに機内食は年に4回(春夏秋冬)リニューアルされるが、この区切りは3月~5月、6月~8月と、一般的な季節の区切りよりもひと月早く切り換えている。これは期間中に旬の食材が変わってしまうことがあるため、ひと月前倒しで更新しているという。

 調理室見学の前に取材に訪れた参加者は全員、白衣とマスク、帽子などをフル装備した。これはもちろん食事への異物混入を防ぐためだ。装着を終えたらさらに身体をブラッシングするとともに、粘着テープのローラーで丹念にホコリをとり、さらに石けんとアルコールで入念に洗っていく。これでようやく入室の準備が整うのだ。当然、従業員の方々は毎日この手順を行って作業をしている。厳しい衛生管理の一端だ。

参加者は全員こんな感じに。さらにこれにマスクを付けて準備完了
まずはブラシなどで全身のホコリを落とす。床の緑色の部分は粘着性がありホコリを吸い付ける
入室前の手順
手洗いの方法を細かく説明してある
念入りに手を洗う
最後は全身にエアを浴びて入室。もちろん作動中は扉が閉まる

 まず初めに見学したのは、運営部 機用品グループ。ここでは機内搭載用の食器類などの洗浄や検品を行っている場所だ。機内で使うカートもここで丸ごと洗浄される。食器類は主に「3トラック洗浄機」と呼ばれるもので洗浄されている。これは食器トレイ、食器類、ナイフやフォークなどの3レーンを同時に洗浄できるもので現在メインとして使われている洗浄機だ。また、透明なグラスはグラス洗浄機を使って行われるが、これは純水を使って洗浄することで水垢などが付着しにくくしているという。ここでは1分間に16人分、最大で20人分ほどの食器類を洗浄する能力がある。

「3トラック洗浄機」。一番左がトレイ、中央が食器類、右側がナイフやフォークなどのカトラリー類を洗浄するライン
洗い終わった食器類
ほとんどの食器はJALのロゴ入り
洗い終わったものはここで検品をしていく
基本的に検品作業は人の目によって行われる
機械を使ってカトラリーをパッケージング
ビジネスクラス用のカトラリーは手作業で用意されていた
洗浄後のグラスを目視でチェック。さすがにすべてを1つ1つ確認はできないので抜き打ちでチェックをしていく
こちらは光りに当ててキズなどをチェックしている

 次は調理部。ここは5つのセクションで構成され、ステーキなどの加熱が必要な調理をするホットキッチングループ、オードブルなど冷製メニューの調理をするコールドキッチングループ、食器への盛り込みを行うディッシュグループ、デザートやパンの生成を行うペストリーキッチングループ、各キッチンで作られたものをトレイにセットしてミールカートに収納するミールセットグループがある。

 ホットキッチングループでは、たとえばステーキを調理する場合、肉の内部の温度が75℃以上になるよう加熱するが、その後4時間以内に4℃以下に温度を下げる。これは菌の繁殖を防ぐためで、中途半端な温度で長時間放置するとリスクが高まるからだ。そのため、ここでは大型の「ブラストチラー」と呼ばれる急冷庫を使って一気に冷却する手法をとっている。ブラストチラーは食材に冷風を吹き付けることで素早く温度を下げる機材だ。また、あくまで冷凍にはしないので風味も損なわないようになっている。

 食品類は調理後は最終工程まで一貫して10℃以下の温度に保たれ、細菌類の繁殖を防いでいる。

冷製メニューを担当するコールドキッチングループ
加熱調理を行うホットキッチングループのエリア。残念ながら調理は終了していた
加熱調理した料理はこの「ブラストチラー」で一気に冷却する
盛りつけを行うディッシュグループ
盛りつけサンプルを見ながら丁寧に盛りつけていく
盛りつけが終わると金属探知機を通過させてから封をしていく
換気システムでは風を吹き付けてホコリが舞わないよう配慮されている
ミールセットグループは作り終わったものをトレイにセットしていく
セットが終わるとカートごと冷却室に置き、10℃以下の温度で2時間冷やす

 次は購買グループ。ここは食材や社内で使うマスクや手袋など、備品類の買い付けなどを行う部署だ。食材類はすべてタグで産地管理などがされており、いつ乗客から産地の問い合わせがあっても即座に回答できるようにしているそうだ。また食材のチェックも厳しく行っており、一度冷却した食品は表面温度8℃以上であれば受け取らないし、再凍結の疑いはないかなどを厳重にチェックしていく。

購買グループの食材倉庫。食材以外にもマスクや手袋などの備品も取り扱う
納入業者によって消費期限は異なるので、もっとも期限の近いものから消費するようタグが付けられる
産地なども全てタグで管理されデータベースに登録される

 次は搭載グループ。ここではこれまでの工程で作られた機内食や機用品、飲料、機内販売品などを輸送車両へ搭載する仕事をしている。食事類は一定の温度を保つようドライアイスで冷却される。カートを積み込む場所などは毎回場所が決まっており、積み込み時間は1台あたり4~6名体制で30分くらいで完了するそうだ。

搭載グループでは機内食を始め機内に搭載する備品すべてを用意して車両に積み込む。ゲートは外の車両と直結して荷物を積み込むことができる
車内に積み込んだ状態。767クラスの飛行機だと1台で1機分搭載、それ以上の機体の場合は2台で搭載する
お米は機内で炊飯するので水と白米を搭載
電子レンジを使ってこの容器で炊飯する

 最後は品質管理室。ここではJRCが提供する全メニューの細菌検査や、従業員の衛生管理などを担当している。食品に関してはできあがった料理と原材料の両方をチェックしており、そのほか水質や調理器具、工場内の落下菌なども月に1回のペースでチェックしている。

細菌検査室。恒温庫など各種検査用機材が揃っている

 見学後、実際にホノルル線で提供されているビジネスクラスの機内食を試食させていただいた。メインディッシュはキノコソースの国産牛ステーキ。通常、ステーキを焼く場合は弱い火力でじっくりと焼いて内部に熱を通すが、機内食の場合は同じ条件で加熱してしまうと、再加熱時に火がとおりすぎてしまう。そのため、通常より高めの温度で焼き、内部温度が上がりすぎないように調整しておくことで、機内での再加熱時にちょうどよい焼き加減になるように工夫しているそうだ。

 実際に再加熱していない普通に焼いたステーキも試食させていただいたが、確かに再加熱していないほうが風味はあるが、その差は僅か。肉のうまみを損なわない工夫が活かされていると感じた。また上空では人間の味覚が鈍るそうで、機内食は味付けを濃いめに調整してあるのもポイントだ。

今回試食させていただいたビジネスクラスメニュー
商品開発を行う調理室も拝見させていただいた
機内に搭載されているのと同型のスチームオーブン。機内と同じ機材を使って商品開発を行っている

 以上がJALの機内食が作られるまでの流れとなる。全体として感じたのはその安全性への取り組みと顧客満足度を両立させたいという姿勢だ。食品は納入段階からその状態を記録してデータベース化し、調理後は徹底した温度管理がされる。その上で風味を損なわない工夫をこらす。安全性や保存性だけを考えれば単純に冷凍をすればよいと考えてしまいがちだが、そうではないのだ。そこには安全性を最大限に高めつつ、可能な限り美味しい物を食べてもらいたいというJALのおもてなしの心が現れているように思う。

(清宮信志)