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アイシン、トヨタの液体水素カローラで極低温バルブ技術に挑戦 軽量化の大きな要素に
2023年11月12日 07:53
アイシン、液水カローラの極低温バルブを軽量化
マイナス253℃の液体水素を燃料にして、スーパー耐久に挑戦し続けるトヨタ自動車の水素カローラ。水素自動車の可能性を切り開くべく、トヨタ自動車 会長 豊田章男氏(当時は社長)自らがドライバーのモリゾウ選手となって、毎戦アップデートを続けている。
当初は、FCEV「MIRAI(ミライ)」の70MPa高圧水素タンクと、デンソーの水素インジェクターなどを用いて気体水素車両としてデビューしたが、2023年シーズンからは体積エネルギー密度に優れる液体水素を燃料として、液体水素車両(液水カローラ)としての公開開発を継続している。
体積エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):767Wh/L
圧縮気体水素(70MPa):1290Wh/L
液体水素(LH2):2330Wh/L
石油系(ガソリンなど):約9600Wh/L
リチウムイオンバッテリ系:約700~600Wh/L
質量エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):39,400Wh/kg
圧縮気体水素(70MPa):39,400Wh/kg
液体水素(LH2):39,400Wh/kg(気体にして使用するため、圧縮気体と同じ)
石油系(ガソリンなど):約12,800Wh/kg
リチウムイオンバッテリ系:約250Wh/kg
(参考文献:GSユアサ 再生可能エネルギーの大規模導入に対応するためのエネルギー貯蔵・輸送技術[PDF])
この液水カローラの技術的ポイントとなるのが、マイナス253℃の液体水素を蓄えておく液体水素燃料タンク。断熱として真空二重槽方式(つまり魔法瓶)を採用し、常圧液体水素をトヨタが自社開発したマイナス253℃で動作するポンプで圧縮、高圧にして、さらに気化して燃料として用いている。高圧にしているのは、直噴エンジンであるためで、シリンダー内に直接噴射できるだけの圧力(公開されていない)まで昇圧して水素燃料を噴射している。
マイナス253℃という極低温で液体となる水素は、真空二重槽タンクを使っても常温の環境化では、自然気化が発生する。これはボイルオフという現象で、なかなか避けられない。放っておくと、タンクの内圧が上昇し、最悪の場合はタンクからのアンコントロールな液漏れ(水素漏れ)が発生してしまう。
そこで、液水カローラの真空二重槽タンクには、圧力逃がし弁である「ボイルオフガス弁」(ボイルオフバルブ)、万が一の圧力上昇に対応する「第一安全弁」、突然の状況に対応する破裂板(ラプチャーディスク)が装備されている。つまり、3段階で安全装置が用意されているという。
この弁を製造しているのが、トランスミッションなどの製造で知られるグローバルサプライヤーであるアイシンになる。
2世代目に進化した極低温バルブ
今回、この特殊バルブについてアイシン グループ技術開発本部 先進開発部 第1開発室 主幹 田代宗大氏、同 主幹 豊田健嗣氏の両名に解説いただいたが、このバルブ開発にはアイシンの歴史が大きくかかわっているという。
現在のアイシンは、アイシン精機とその子会社であったアイシン・エイ・ダブリュが2021年4月1日に経営統合した会社になる。経営統合の理由として、100年に一度と言われる大変革期にグループの連携強化と経営の効率化を挙げていた。
両名によると、この精機とAWの経営統合が液体水素バルブの誕生につながっているという。
液体水素バルブは、バルブである以上、まずは弁を開閉するという高度なバルブ技術が必要になる。オートマチックトランスミッションは、高度なバルブ技術で油圧をコントロールするなどして変速を行なっている。つまり、AWが培ってきたバルブ技術が使われている。
一方、マイナス253℃の極低温下で動作させるには、低温下で動作させるノウハウや材料が必要になる。両名によると、精機は液体ヘリウム(マイナス269℃)向けのシール材などの技術があり、AWのバルブ技術を組み合わせることで液体水素向けのバルブを実現したという。
今回、展示されていたのは、その液体水素バルブの進化版になるという。液体水素による挑戦を始めたシーズンであるが、シーズン半ばにバルブに必要なスペックを特定。安全係数を大きく採ったバルブから、運用知見に基づくバルブとすることで軽量化を果たした。
今回の先進的な開発について、「お互い(精機とAW)の技術がすでにある中で、挑戦させてください、今チャレンジさせてほしい」ということで、トヨタと一緒に開発ができているという。
アイシンは、水素モビリティの実現へ向けて、鍵となるデバイスの実用化に挑んでいく。