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老舗ショックアブソーバーメーカー「カヤバ」の岐阜工場見学会、生産性を高める新たな「革新ライン」公開
2024年1月3日 08:10
- 2023年9月28日~29日 開催
自動車メーカーの純正ショックアブソーバーも数多く手掛けるカヤバ
カヤバ(KYB)は9月28日~29日の2日間、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員や報道関係者を対象に、自動車用ショックアブソーバーを生産しているKYB 岐阜北工場の見学会&製品技術勉強会と、開発センター内にあるテストコースを舞台とした製品装着車の試乗会を開催した。
本稿では岐阜北工場の見学会の模様をお伝えする。
KYB 岐阜北工場施設概要
工場敷地面積 15万6818m 2 (東京ドーム3.3個分)
建物延床面積 13万1035m 2
従業員数 社員:1459人(2023年3月末時点)派遣/シニアスタッフ:737人
生産品目 4輪車用ショックアブソーバー、パワーステアリング
製品に使用する外筒、内筒を工場内で鉄板から作っている
見学会では工場内の見学に先立ち、カヤバ オートモーティブコンポーネンツ事業本部 サスペンション事業部 生産技術部 部長 鈴木勇人氏から岐阜北工場の概要などが説明された。
カヤバで最大の工場となる岐阜北工場では約2200人の従業員が生産に携わっており、敷地面積は東京ドーム3.3個分に相当する15万6818m 2 。主に4輪車用のショックアブソーバーを生産しており、資料では生産品目としてパワーステアリングも記載されているが、これについては中国にある工場に生産ラインの移管を進めているという。ショックアブソーバーでは常時取り扱う品目が約7500種類、新車装着されるOEM向け以外まで含めると1万2000種類に及ぶ製品をラインアップ。最盛期には300万本/月という時期もあったが、現在は220万本/月のショックアブソーバーを生産している。
カーボンニュートラルの取り組みでは、工場の屋根に太陽光発電用のソーラーパネルを2021年から設置しており、2023年度には5000t/年のCO2排出削減効果を発揮するガスコージェネ施設を更新。2030年までに2018年比のCO2排出量を半減させる計画を立てて取り組みを進めており、生産施設に省電力なプレス機の駆動源を油圧/空圧アクチュエーターからサーボモーターに置き換えた「サーボプレス」や「高効率油圧ユニット」などの機器を採用することで、目標達成に向けて着実に成果を重ねている。
ショックアブソーバー(ストラット型)製造の概要では、製品に使用する外筒、内筒を、工場内で行なう「造管」と呼ばれる前加工の工程で鉄板から作っていることが岐阜北工場の大きな特長になると説明。このように製品のパイプ類まで内製しているのはおそらく岐阜北工場だけで、さらに内部に封入されているオイルやガスなどが漏れないよう密封するゴムシールについても内製を実施。また、工場内で切断や溶接、塗装などの組み立てに利用する生産設備も85%を自社の専門部署で内製している。これらによって製造コストを引き下げ、他社との差別化を図ってアドバンテージとしている。一方、主要パーツとなるスプリング、ナックルブラケット、ホースブラケット、バンプストッパーなどは外部メーカーから購入して使用している。
“タクトタイム4.2秒”も実現しているKYB 岐阜北工場・第1工場
鈴木氏から概要や見どころの解説を受けたあと、実際の工場見学がスタート。見学コースは基本的に製品の生産工程に合わせて進み、加えてラインにおける生産性をさらに高めるため取り組みを進めている「革新ライン」についても紹介された。
見学は鉄板を曲げてパイプ状にする「前工程」から解説開始。厚さのある板材は一気には曲げず、複数の治具を使って数回に分けて円柱状にしていく。溶接で造管されたパイプは製品ごとに必要となる長さに切断して使われる。
また、通路を挟んで逆サイドでは、足場が組まれた2階部分で製品の摺動部以外を塗装するカチオン電着塗装が行なわれていた。
製造の最初にある「P01ライン」では、スプリングシートやナックル、ホースブラケットなどをショックアブソーバーのアウターシェルに取り付ける「溶接工程」を実施。ロボットハンドリング溶接の機械を組み合わせた3つのモジュールを使って自動化。溶接スパッタの発生を極低下していることも特長となっている。タクトタイムはKYB 岐阜北工場で最速の4.2秒とのこと。
「革新ライン」に取り組むKYB 岐阜北工場・第2工場
第2工場ではパイプの片側に熱を加えながら加工することで丸く閉塞する「クロージング」の工程、古くからあるラインを有効活用するため、既存車の補修向けで受注した製品などを1本単位から対応する「補給品専用ライン」などが紹介されたあと、新たな取り組みとなる革新ラインの現場が公開された。
競合他社との熾烈な競争を勝ち抜いていくために推し進めている生産ラインの革新では、これまでの「KPS生産方式」では2階に設定されていた塗装ラインを溶接や組み立てと同じ1階フロアに並べ、一貫性を高めた構成にすることで作業員の人数を削減。人件費の削減によるコストダウンに加え、工程ごとの直結化に合わせて自動化、無人化を推進して生産のリードタイムを大幅に短縮。従来は33時間(1日半)かかっていたリードタイムを6時間まで抑えることが目標になっている。
これまでKYB 岐阜北工場では、限られた品目を大量生産する高速ラインを「F1ライン」、幅広い品目を生産する中速ラインを「F2ライン」、手作業に近い補修向け製品を受注生産する低速ラインを「F3ライン」と呼称して使い分けてきたが、生産ラインの革新を受けてF1ラインとF2ラインを統合。最初の段階となる「F0ライン」では生産に必要となるサイクルタイムはこれまでより長くなるものの、合理化によるコストダウンで需要拡大を目指す。このF0ラインの取り組みを軌道に乗せ、そこからAIやIoTの活用、無人化などによってサイクルタイムを短縮する「革新ライン」に進化させていく計画だ。
これに加えて今回の工場見学では、カヤバが2016年から量産を始めたIDC(比例ソレノイド減衰力調整式)ショックアブソーバーの生産ラインについても説明が行なわれた。
カヤバのIDCショックアブソーバーは、アウターシェル側面に流路面積を入力電流で制御するソレノイドバルブ(電磁弁)を追加。路面からの入力に応じて減衰力をリアルタイム制御することが可能となり、幅広い減衰力可変幅を利用して乗り心地のよさと操縦安定性を高次元で両立する。構造としては、標準的なツインチューブショックアブソーバーに中間パイプを追加する3重管構造に分類される。
また、工場内では伸び側、縮み側のどちらかを電子制御するシングルタイプが説明用に用意されていたが、カヤバでは主に欧州メーカー向けの製品として伸び縮み両方を制御可能なダブルソレノイドタイプの製品もラインアップしている。
生産面では高い生産精度と品質管理が求められ、生産ラインで作動油などにコンタミ(不純物)が混入すると狙った減衰力を発生させられなくなるため、管理には細心の注意が求められている。IDCは現場泣かせの技術となっているが、一方で世間的にニーズが高まっている製品だけに、カヤバではもの作りの力をレベルアップさせ、IDCをより低コストで世に送り出せるよう注力しているという。
実際に見学したIDC専用ラインは食品工場を思わせるクリーンルームとなっており、専用のユニコームを着用したスタッフが減衰力設定の再チェック、組み付けなどの作業を行なっていた。オイルシールなどは人の手が触れるとコンタミにつながってしまうため、自動組み込みとなっている。