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NetApp、フォーミュラE・ポルシェチームの戦略的データプラットフォームやクラウド活用でのCO2削減技術について解説

2024年3月27日 開催

フォーミュラE・ポルシェチームにIT環境に関する技術を提供するNetAppがメディアラウンドテーブルを開催

 企業向けのクラウドストレージ提供やAIエンジニアリングサービスを行なうNetAppは3月27日、BEV(バッテリ電気自動車)のフォーミュラマシンによる国際レース「フォーミュラE」に参戦する「タグ・ホイヤー ポルシェ フォーミュラEチーム」に同社が提供している戦略的データプラットフォームについて解説するメディアラウンドテーブルを開催した。

 NetAppはフォーミュラEで重要なポイントになるIT部門で、ポルシェチームと2022年7月からパートナーシップを締結。サステナブルでシームレスなIT環境の実現をサポートしている。

フォーミュラEで培った技術を「タイカン」にもフィードバック

ネットアップ合同会社 CTOオフィス チーフ テクノロジー エバンジェリスト 神原豊彦氏

 ラウンドテーブルでは、NetAppの日本法人であるネットアップでCTOオフィス チーフ テクノロジー エバンジェリストを務める神原豊彦氏が解説を担当した。

 フォーミュラEのポルシェチームとNetAppが2022年7月に締結した複数年のパートナーシップでは、「NetAppとポルシェが共同設計したリアルタイム データ コラボレーション環境」「サーキットで担当者1人で運用できるシンプルで効率的なデータ管理」「カーボンネットゼロを実現するITサステナビリティ」という大きく3点についてフォーミュラEでのレース活動に貢献している。

3月30日に東京大会が行なわれるフォーミュラEの大会概要
フォーミュラE・ポルシェチームは2019年シーズンから参戦し、これまで6回の表彰台を獲得。年間優勝を目指して活動を強化している
フォーミュラE・ポルシェチームとNetAppのパートナーシップ概要

「NetAppとポルシェが共同設計したリアルタイム データ コラボレーション環境」では、フォーミュラEではおおむね2~3週間に1回、ないし2回のレースが開催され、実車のレースマシンが走行時の各種実データを前日練習、当日練習、予選、決勝レースでそれぞれ生成する。これをベースとして、ドイツ本国にあるポルシェのモータースポーツ 本社工場にある開発本部で連日シミュレーションを行ない、レースマシンのセッティングや開発に活用していく。

 具体例としては、ポルシェチームのマシン「Porsche 99X Electric」ではキャリパーを使う独立したブレーキは前輪のみに装着し、後輪は回生発電で制動力を発生。加速で消費した電気の回収と制動力、前後のブレーキバランスなどをデジタルデータのパラメーターとしてチューニングしており、コースレイアウトや天候で最適なブレーキバランスと発電量を見極めるため念入りにシミュレーションしているという。

 開発本部で定められたセッティングはマシンに反映され、実際にコースで行なわれる練習走行で検証。開発本部と現地ピットでデータが共有され、必要に応じて決勝レース中でもセッティング変更を実施する。このほか、レース中に天候が変化したり、レース展開などを受けたチーム戦略でもデータを活用。レース後にも開発本部で各種データを解析しており、レースごとのサイクルで膨大のデータが生成、通信され、勝利に向けたマシン開発に利用されている。

 このような大量のデータ処理を担うITシステムはチーム運営を左右する部分になり、ここでNetAppの技術が生かされている。また、Porsche 99X Electricのコア技術であるパワートレーンはポルシェの市販BEV「タイカン」とほぼ同じものを使用しており、フォーミュラEの熾烈なレースで培った技術をタイカンの将来的なモデルにフィードバックすることもポルシェでは想定して参戦を行なっているという。

ポルシェチームのマシン開発では大量のデータを活用

 また、既存のレースイベントでは、とくにF1やSUPER GTのようなメジャーレースになれば各チームで数十人から100人を超えるようなスタッフがサーキットに足を運び、必要となるさまざまな業務を分業制で進めていく。しかし、サステナブルなレース運営を大きな軸としているフォーミュラEでは、レースの現場で作業できるのは1チームに付き最大12人(ドライバーを除く)に限定されており、ポルシェチームでもわずか1人のIT担当者が現場で求められるIT関連の作業を一手に担う状況となっている。このため、NetAppが提供する「サーキットで担当者1人で運用できるシンプルで効率的なデータ管理」は、円滑なチーム運営の手助けになり、チーム戦略にも大きな影響を与えている。

クラウドのデータをNetAppの「Cloud Volumes ONTAP」で管理

フォーミュラE・ポルシェチームで採用するデータ連係の概念図

 マシン開発からチーム戦略まで幅広く、大量のデータをやり取りするデータ連係システムでは、一方でレース現場のIT担当者が1人でも運用可能なシンプルさも併せ持つことが求められ、それぞれを並び立たせて管理できる仕組み作りがポイントになったと神原氏は説明。

 ポルシェチームではマイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」のプライベートネットワークにあるクラウドストレージにすべてのデータを保存し、NetAppの「Cloud Volumes ONTAP」と呼ばれるソフトウェアによってデータを管理。レースの現場では会場に持ち込まれるパッケージ型のサーバー「モバイルデータセンター」を使ってIT担当者が、クラウドストレージに置かれたデータにキャッシング技術でアクセスして運用する。

 IT担当者は必要なデータをエッジ側になるモバイルデータセンターで読み書きすることで即時扱うことができ、通信環境が万全ではないレース現場でもリアルタイムにデータに変更を加えることが可能なほか、エッジ側で起きた障害でデータが破損した場合でもクラウドストレージの本体データが残るデータ保護性も実現している。

 また、キャッシングされたデータが本体データに書き込まれて更新されると、Cloud Volumes ONTAPが自動的に更新データをほかのキャッシング先に分配することで一元制を保つ仕組みを備えている。

 NetAppの強みになるのは、本体データからエッジ側のローカルに振り分けるキャッシングをどのように制御するかといった技術のほか、キャッシュデータを扱うキャッシュサーバーでデータ同士の整合性を保つタイムラグの最小化、キャッシングによる分散環境でアクセス権を制御する「ロックマネジメント」などに力を入れて開発を行なっている。また、クラウドから各ユーザーのオンプレミスまで一元管理できる点も競合他社にはないポイントになるという。

キャッシング技術をサステナビリティにも利用

必要なデータを切り分けて使うことで電力消費を抑制する

「カーボンネットゼロを実現するITサステナビリティ」については、フォーミュラEで重要なサステナビリティにキャッシングを利用するデータ連係が効果を発揮。Cloud Volumes ONTAPが必要となるデータだけを切り分けてキャッシングすることでエッジ側の処理で消費される電力が抑えられ、Microsoft Azureのクラウドストレージでも、アクセス頻度が高い「ホットデータ」は読み書きが早いSSDに保存し、アクセス頻度が低い「コールドデータ」はAzure内にある「Blob」ストレージで保存する自動振り分け機能で保存先を選択。消費電力を抑え、合わせてコストも下げてくれる。

2030年には世界全体のデータ総量が1YB(ヨタバイト)になるとの試算

 このほか神原氏は、IT企業で注目されている「デジタルパラドックス」についても説明。IT企業はデジタル技術を活用することで消費電力やCO2の削減に寄与することが期待されているが、一方でデジタル技術を使うほど電気を使うことになり、現時点でのデータ成長率が維持された場合、2030年には世界全体のデータ総量が1YB(ヨタバイト)になると試算されているという。1YBは10兆TBとイコールで、ICTによる世界の電力消費は2020年の2%から2030年には8~15%に上昇するとの統計もあり、データセンターも省電力化も大きな課題になっている。

 そんな社会情勢で、フォーミュラEは世界で初めてCO2の排出を実質ゼロにした「ネットゼロ・カーボン」のスポーツであり、サステナビリティのショーケースとしての役割も果たしており、ポルシェチームもチャレンジしがいのある目標として取り組んでいると説明した。