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自動車整備士の即戦力を養成する「ドイツ専門職業訓練」日本初導入 ドイツ大使館でキックオフセレモニー

2024年4月4日 開催

「ドイツ専門職業訓練」キックオフセレモニーのフォトセッション。前2列に並んでいるのは、4月からスタートするプロジェクトで研修を受ける三菱ふそうトラック・バスの研修生15人

 在日ドイツ商工会議所は4月4日、自動車整備士を養成するプロジェクト「ドイツ専門職業訓練」のキックオフセレモニーを駐日ドイツ連邦共和国大使館で開催した。

 ドイツ専門職業訓練は、日本では「マイスター制度」という表現で知られる専門職の職人を育成するドイツの訓練制度。企業で働きながら研修を受ける「実践」と、専門知識・一般教養を学校で学ぶ「教育」を3年間並行して受講して認定を受ける制度で、日本ではこれが初導入となる。

 モビリティ業界での整備士不足が喫緊の課題となっている状況を受けて在日ドイツ商工会議所が中心となり今回のプロジェクトを実施。ビー・エム・ダブリュー、三菱ふそうトラック・バスもパートナー企業として参加する。両社の若手メカニックがプログラムを受講して、本来5年程度の期間で習得する知識や技能レベルに3年程度で到達することを目標に設定。メカニックの知識や技能レベルの標準化・底上げによるカスタマーサービス向上を目的としている。

在日ドイツ商工会議所 副事務理事 ルーカス・ヴィトスアスキー氏

 セレモニーに先駆けて実施されたメディアブリーフィングでは、在日ドイツ商工会議所 副事務理事 ルーカス・ヴィトスアスキー氏がドイツ専門職業訓練の概要を説明したほか、「ドイツや日本では専門職の人手不足によってさまざまな社会的問題が起きています。このようなプログラムを導入することにより、少しでも力添えができればと思っております。在日ドイツ商工会議所が毎年発表している在日ドイツ企業の景況感調査では、近年、在日ドイツ企業が優良な人材確保に課題を抱えていると回答しており、なかでも自動車業界がとくに人材不足の影響を受けています。中長期に渡る深刻な自動車整備士不足を背景に、われわれは日本における次世代の自動車整備士の雇用・教育を目指したさらなるプラットフォーム構築が急務であると考えました」。

「今後はほかの職種にもドイツ専門職業訓練を広げていきたいと考え、そのためにも日本の教育機関との連携を非常に重視しています。また、人材育成の支援を通じて、優秀な人材の確保という日独両国共通の課題において、ドイツと日本の2国間関係の発展に持続的に貢献したい」との考えを示した。

ドイツ国外におけるドイツ専門職業訓練の展開状況
在日ドイツ商工会議所 カーメカトロニクス専門職業訓練コーディネーター 菊地隆一氏

 在日ドイツ商工会議所 カーメカトロニクス専門職業訓練コーディネーター 菊地隆一氏は、ドイツ専門職業訓練では「デュアルシステム」と呼ばれる制度を採用しており、訓練全体の70%を現場で行なうOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で身につけ、訓練の残り30%となる専門知識などの講義は、教育機関のパートナー企業である「NPO法人メカニックカレッジ」、または「阪神自動車航空鉄道専門学校」で実施されることが特徴になると説明。最新モデルを扱う整備現場でOJTを実施することにより、最新技術を学ぶことができ、修了後に現場で即戦力として活躍できる人材を育成できるシステムになるとした。

ドイツ専門職業訓練では現場で行なうOJTと教育機関のパートナー企業で専門知識などの講義を受ける「デュアルシステム」を採用
関東にある「NPO法人メカニックカレッジ」と関西にある「阪神自動車航空鉄道専門学校」では異なるスケジュールでプログラムを実施。どちらがより効率的に進めることができるかの見極めを行なう

 また、研修生はプログラムに参加する3年間、所属するパートナー企業から経済面でのサポートを受けることとなり、研修生は生活費などを心配する必要なくプログラムに参加できる。プログラムを修了するとドイツ政府が発行する自動車整備士の証明書が付与され、所属するパートナー企業に就職できる契約となっている。

研修生を経済面からもサポートして、プログラムに集中できる環境を確保

「この活動を通じてドイツの工業製品が高い品質を保っていける」とゲッツエ駐日大使

駐日ドイツ連邦共和国 大使 クレーメンス・フォン・ゲッツエ氏

 メディアブリーフィングに続き、駐日ドイツ連邦共和国 大使 クレーメンス・フォン・ゲッツエ氏、駐日ドイツ商工特別代表 兼 在日ドイツ商工会議所 専務理事 マークゥス・シュールマン氏、ビー・エム・ダブリュー 代表取締役社長 長谷川正敏氏、三菱ふそうトラック・バス 代表取締役会長 松永和夫氏、ドイツ専門職業訓練を受講する研修生などが出席するセレモニーが実施された。

 セレモニーで最初にあいさつしたゲッツエ大使は「このたびは、在日ドイツ商工会議所が計画した『ドイツ専門職業訓練』の自動車整備士養成プロジェクト第1回がスタートすることになり、非常に喜ばしく思います。ドイツ専門職業訓練のプログラムは、自動車産業に限らずドイツの産業における背骨となっております。このプログラムにより、ドイツの製品が高い品質を保ち、整備が行き届いていることを保証していることを示すものだからです」。

「また、今回はドイツの2社を通じて訓練プログラムが日本に導入されるということをうれしく思います。それは、この活動を通じてドイツの工業製品が高い品質を保っていけるようになるからです」とコメント。

 プロジェクトのパートナー企業となったBMWと三菱ふそうトラック・バス、プロジェクト日本導入の中核となった在日ドイツ商工会議所、導入を支援した経済産業省に対して感謝の言葉を贈ったことに加え、プログラムに参加する研修生たちに、初めて実施されるプロジェクトに応募し、ドイツ製品の品質を支える教育を受けると決断してくれたことに感謝して、研修生たちにとって大きな成功につながることを期待すると述べた。

駐日ドイツ商工特別代表 兼 在日ドイツ商工会議所 専務理事 マークゥス・シュールマン氏

 続いてあいさつしたシュールマン専務理事は「職業訓練プロジェクトの立ち上げは、私たち在日ドイツ商工会議所の歴史において大切な節目であり、約4年に渡る準備期間を経てようやくスタートできることをとてもうれしく思います。この取り組みは、現在の熟練労働者不足に貢献するだけでなく、日独両国のさらなる関係強化にもつながります」。

「また、この訓練プログラムは複数のパートナーさま同士の緊密なご協力があってこそ実現できるものです。ビー・エム・ダブリュー株式会社、三菱ふそうトラック・バス株式会社、NPO法人メカニックカレッジ、阪神自動車航空鉄道専門学校の皆さまのご協力に心より感謝申し上げます。そしてなによりも、1年目の研修生の皆さまにお祝いを申し上げると共に、これからの3年間が皆さまにとって実りあるものとなりますよう祈っております」と語っている。

ビー・エム・ダブリュー株式会社 代表取締役社長 長谷川正敏氏

 ビー・エム・ダブリューの長谷川社長は「モビリティ業界ではいろいろな変革が起きています。そういった状況で、このような整備士の皆さまをどうやってより多く育てていこうかという壮大な計画であり、ここで組織として関わってくるのが正規販売代理店です。正規販売代理店でも今回のプロジェクトに興味を持っている人が非常に多くいますが、ソーシャルなエコシステムがしっかりと構築されなければならないということで、『継続は力なり』と言いますが、このプロジェクトを10年、20年、それ以上の年数をかけてしっかりと育てていかなければならないなとわれわれも肝に銘じております」。

「研修生の皆さまは、ある意味で資金援助を受けながら、同時に現場での実践と基礎知識の学習を受けて技量を高めていくことで、正規販売代理店と研修生の皆さまがお互いにWin-Winの関係が必ず構築されていくだろうと考えています。研修生の皆さまはこのプログラムでしっかりと学んでいただいて、モビリティ業界を支えていっていただきたいというのが私たちからのメッセージです」と語り、プロジェクトに対する期待を口にした。

三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役会長 松永和夫氏

 三菱ふそうトラック・バスの松永会長は「当社ではこの4月から新たに入社した新入生1人を含め、計18人が第1期生として今回のプログラムに参加させていただきます。ここで知識やスキルを学んだ若手メカニックがそれぞれの現場で発揮することは、当社にとってアフターサービスの全体的な底上げにつながると確信しております。人口減少による人手不足に加え、いわゆる『2024年問題』などによって物流を取り巻く環境が厳しさを増しているなか、高レベルな技能や知識を有するメカニックが増えることは、われわれの整備工場からお客さまにいち早く車両をお返しして、お客さまのビジネスがスムーズに展開していくことにつながるわけです。このプログラムへの参加は、弊社がこれまで以上に信頼される存在となるチャンスでもあると理解しています」。

「また、充実した教育機会を提供することで社員全員のモチベーションが上がっていき、社員の定着率のさらなる向上、あるいは社外から優れた人材が集まってくる、そういったことにつながっていくと非常に強く期待しております」。

「さらに、ドイツ専門職業訓練というプログラムは現下の日本にとって最重要課題の1つである『リスキリング』の機会としてもふさわしい内容であると考えます。転職が一般的な存在になってきたとはいえ、日本ではまだまだキャリアの再構築、とりわけ未経験の人が自動車業界のような専門職に就くことには高いハードルがあるのが現実だと思います。このドイツ専門職業訓練では、企業から支援を受けながら新たな分野について学ぶことができ、修了のあかつきにはその企業でのフルタイムの就業機会を得ることができるわけで、リスキリングを期待する人材にとってまたとない制度であると考えております。この制度が若い人だけでなく、キャリアチェンジを考えるすべての人に対する選択肢として定着していくことを心から願っています」。

「そこで当社では、この3年間の本プログラム終了後に、新卒メカニックの教育をドイツ専門職業訓練に全面的に移行することを検討しております。当社が新たなプロジェクトで第1号になる大変意義のある機会をいただけたことに改めて深く感謝を申し上げるとともに、このプロジェクトが日本に定着していくため、微力ながらお力添えさせていただきたいとの決意を述べさせていただき、ごあいさつとさせていただきます」と、プロジェクトのパートナー企業になる意義について語った。

研修生代表の三菱ふそうトラック・バス 小玉空氏

 このほかセレモニーには、三菱ふそうトラック・バスに所属してプロジェクトの訓練を受ける研修生15人も来場。研修生を代表して三菱ふそうトラック・バス 小玉空氏が「私は今回のトレーニングプログラムに参加できることを大変うれしく思っており、これから始まる研修に期待を寄せています。私たち研修生が3年間のプログラムを終えたときに、成長した姿を皆さま方に見ていただきたく、全員努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします」と意気込みを語った。

経済産業省 貿易経済協力局長 福永哲郎氏の音頭で乾杯が行なわれ、セレモニーは終了した