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BYD、東京工科自動車大学校に「ATTO3」と「ドルフィン」を持ち込みEV特別講座を実施

2024年5月29日 実施

BYDの実車と一緒にクラス全員で記念撮影!

 BYD Auto Japanは5月29日、東京工科自動車大学校中野校において、共同で企画したEV(バッテリ電気自動車)に関する特別講座を実施した。

 この特別講座では、EVについての基本的なことや整備箇所の違いなどを学び、BYDの「ATTO3」と「ドルフィン」の実車にて車両構造の特徴の説明や故障診断など体験、さらに整備ビジネスの将来まで語るものとなった。

BYDのことやバッテリEVの特徴などについて説明

 特別講座は4年制の一級自動車整備課を受講する3年生を対象に行なわれ、講師はBYD Auto Japanのアフターセールス技術部門シニアアドバイザーの三上龍哉氏が担当。三上氏は東京工科自動車大学校の卒業生でもあり、講座は三上氏によるBYDの説明にはじまり、EVの特徴、これまでのクルマとEVとの整備の違いなどを説明した。

東京工科自動車大学校中野校の佐藤康夫校長が、今回のEV特別講座についての説明を行なった

 今回、特に三上氏が力を入れて説明したのは、従来のクルマとは違うエアコンの構造や役割について。EVではいわゆる「熱マネジメント」と言われる部分となる。

 EVは初期のものを除けば、エアコンは空調だけでなくバッテリの充電や運用に密接に関わっている。走行中のさまざまな部分の温度管理などが重要で、温度管理をきちんとすれば、航続可能距離や充電性能に大きく影響が出るということなどが説明された。

 また、EVの内部には直流と交流の電気が流れていて、電池から出る電気は直流、しかし、モーターに加える電気は交流で、モーターを回す交流を生成するためにはインバータが必要になることなど仕組みも解説。

講師のBYD Auto Japan アフターセールス技術部門シニアアドバイザー 三上龍哉氏

 さらに、電池の安全性についても説明。中国では2020年の段階でバッテリの安全要件が設定されていて、ほかのEVなどは三元系リチウムイオンバッテリを利用することが多いなか、BYDのクルマはリン酸鉄リチウムイオンバッテリを使っているのが特徴。リン酸鉄リチウムイオンバッテリを採用する理由は安全性のためと強調し、2つのタイプの電池に鋭利なものが刺さった動画を紹介し、さらに発火の仕組みという点からも安全ということをアピールした。

感電事故防止の心得や、EV特有の整備についても解説

 三上氏によるとEVの整備作業にまず必要なこととして、走行用バッテリには高圧電気が流れているが、電気は目に見えないことから、感電事故の防止。そのために高電圧のかかるところに触れる場合に必要となる絶縁手袋を紹介した。

感電事故の防止のための絶縁手袋を紹介。労働安全衛生規則によって規定されたもので使用有効期限もある

 さらに、整備前には走行用バッテリからの電気の遮断を確認する必要があるとし、遮断方法は車種によって異なるが、スイッチの車種、プラグを抜く車種、さらに、補機バッテリのターミナルを抜くと走行用バッテリが遮断させる車種もあるなど、いろいろなタイプがあることを紹介。

 プラグを抜くタイプの車種では、抜いたプラグが別の人に挿入されて通電してしまうトラブルを防ぐため、「抜いたプラグは作業者のポケットに入れておく」という整備規定も説明した。

 また、部位ごとの整備についても、例えばブレーキの場合、EVにはエンジンの負圧がないためマスターバックがない。BYD車ではブレーキフルードの交換も従来車の「一生懸命足で踏んでブレーキ液を出す」ようなことはなく専用ツールで行なう必要があるという。

EVの整備で従来と変わるもの

 一方で、サスペンションとステアリングはガソリン車などと同じ構造で、従来どおりの整備方法となるが、三上氏が示した表では「現在のところ」と注釈が付いている。次世代のサスペンションにはモーターで収縮を管理するタイプもあり、サスペンションの上下動のエネルギーから発電して充電池に蓄える方法も考えられ、将来は構造が異なっていく可能性もあると示唆した。

BYDの実車を体験、最新機能に学生が盛り上がる

 続いて、座学の教室から「ATTO3」と「ドルフィン」の2台の実車が置かれた実習室へ移動。実車に触れる前に、高圧の電気がかかるオレンジ色の配管には触らないことと、コネクテッド機能でそのまま通報されてしまう「SOSボタン」には絶対に触らないなどの注意を受けた。

ATTO3の説明をしているところ

 BYD車の特徴的な装備はいくつかあるが、なかでもドルフィンには幼児置き去りをレーダーで、動物の呼吸を検知しているため、体が動いていなくても検知できるのが特徴。学生が置き去りにされた子供の役になり、車内で意図的にじっとしていても検知され、警告音が鳴り響くことを体感していた。

こちらはドルフィンのボンネット内を説明しているところ

 さらに、音声入力についても実演「ハイ! ビーワイディー」と言葉を発すると待機状態になり「暑い」と言えばエアコンの温度を下げ、「窓を閉めて」と言えばサイドウインドウの窓が閉じる。音声を発した人の位置も検知しており、運転席にいる人が「窓を閉めて」と言えば運転席の窓、助手席の人が言えば助手席の窓を閉めるようになる。

 音声操作についても学生が実際に試してみたほか、BYD車の機能を学生が体験し、今後の学習の刺激になったようだ。

ドルフィンの整備について説明中。三上“先輩”は学生に質問を投げかけ「分かった人には“海苔スペ”(近所の弁当店、とんぼ食品の伝統的メニュー、海苔スペシャル)を奢るよ!」などと先輩しか分からないような会話も飛び出した。

 続けて三上氏は、車体に診断機を接続して情報が出てくることも実演。出た情報をどのように読み解いたらいいのか、対処はどうするのかといった基本的なことを説明した。

 また、エンジンルーム内は空洞部分が多く、特に機能統合されたeAxleの上部は空洞になっていることで耐衝突性能を確保しているとし、安全基準も年々厳しくなっていることなどを説明。さらに、エアコンのコンプレッサーといった熱マネジメントに重要なパーツの場所を示し、ボンネット内に記載してある冷媒の量なども確認し、EV特有の整備の注意点を解説した。

学生たちは楽しそうにATTO3とドルフィンに触れていた

整備ビジネスの転機がやってくる

 実車を前にした講義のあとは、最後に教室に戻って三上氏が整備ビジネスの将来について語った。今後EVの比率が高まると整備士に要求される知識が増える一方で、EVは消耗品が少ないことや劣化不具合が減ることで、整備や点検の売上が減少するなどの変化が見込まれるという。

EVの比率が高まると整備ビジネスの転機がやってくるかも

 しかし、三上氏は整備のビジネスモデルの変化は「ビジネスの転機」だとし、整備関連でも未着手なビジネスや、手薄な領域への取り組みを開始する必要があると述べたたほか、「最新技術を常に学習することが大事である」と語った。

最後は一礼して特別講座が終了

BYDは今後も講座を実施、東京工科自動車大学校ではコンピュータ教育にも力を入れる

 今回の特別講座は、卒業生の三上氏と東京工科自動車大学校中野校 校長の佐藤康夫氏との交流が続いていたことから実現したもの。

 三上氏によれば、2年くらい前からBYD Japan 代表取締役社長の劉学亮氏から「2歩も3歩も先行く仕組みのものを扱うことは、皆さんに周知が必要になる。学校での教育プランを考えよう」との指示を受けていた。今回の講座の実現まで時間がかかってしまったが、今後も同様の講座を実施することを検討しているという。

 東京工科自動車大学校でも、企業による特別講座は多く行なっており、自動車メーカー系列の学校ではないため、さまざまなメーカーとの付き合いのなかから講座の支援などのバックアップを受けているという。

 また通常の学習においても、EVだけではなくHEV(ハイブリッド車)もあることから、すでに電動車についての教育は実施中。さらに、先進安全装備が必須になるなか、センサーを使って距離を検知するようなプログラムをパソコン上で作るような授業や、LiDARセンサーがどう人間を認識しているのかを学ぶカリキュラムも取り入れている。

 さらに、先進安全ではコンピュータがブラックボックス化するなかで、センサーに信号が入ったらブレーキが作動するといった単純な覚え方ではなく、東京工科自動車大学校では、その中身の電子制御についても学ぶことを心がけているという。

 東京工科自動車大学校は、整備工場にパソコンが導入される前からコンピュータの教育にも力を入れており、入学者全員にパソコンを持たせることも20数年前から実施しているとのことだ。