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デンソー、統合ECUの展開などソフトウェア戦略について説明 車載を知り尽くしたソフトウェア会社として部門を強化

2024年7月12日 実施

ソフトウェア戦略の説明会ではCSwO(Chief Software Officer)の林田篤氏(右)が説明。質疑応答ではモビリティエレクトロニクス事業グループ 電子システム統括部長の山本浩孝氏(左)も回答した

 デンソーは7月12日、東京・日本橋の東京支社において、ソフトウェア戦略についての説明会を開催した。デンソーのCSwO(Chief Software Officer)である林田篤氏が、デンソーの車載ソフトウェアの実績や半導体の知見を活かした統合ECUにおいても優位性があると強調したほか、ソフトウェア人材の確保についても多くの時間をかけて説明した。

3つの基本戦略は、実装力、人財力、展開力

 説明に立った林田氏はまず、現在のクルマを取り巻く環境や課題を挙げ、その解決にはSDV(ソフトウェア デファインド ビークル)化というクルマの制御をソフトウェアで行ない、販売後も機能拡充や性能向上などをしていくモビリティの進化が必要と訴えた。

CSwO(Chief Software Officer)の林田篤氏

 SDV化では、統合ECUの世界市場が2022年から2035年までに11倍に拡大し、ソフトウェアコード行数が2020年から2030年にかけて6倍、ソフトウェアの売り上げは2040年までに自動車業界全売上の38%に達すると推定。「SDV化によってソフトウェアが占める価値が拡大していくということが、世の中のデータを含めて明らかになっている」とした。

SDV化による事業構造の変化

 そのうえでデンソーの基本戦略は「総合システムメーカーならではの知見でモビリティ社会全体の安全と環境に貢献」とし、ソフトウェアの価値からビジネスを生み出してクルマ全体の進化と未来のコミュニティや社会をリード、しこれを成し遂げるための基本戦略として、実装力、人財力、展開力を掲げた。

デンソーのソフトウェア基本戦略は3つ

車載を知り尽くし、統合ECUになっても競争優位性がある

 実装力では、車載ソフトウェアを40年にわたる長期に手掛けているだけでなく、パワートレーンからエアコンなどにいたるまで、クルマの中のすべての機器に対するハードウェアに加えてソフトウェアも手掛けてきたことを強調した。林田氏は「カーメーカーをまたぐニーズの理解と最適なソフトや設計、リアルな形に仕上げる力がわれわれの強みと考えている」と述べた。

デンソー車載ソフトウェアの歴史
統合ECUにおけるデンソーの競争優位性

 統合ECU化には、これまでの1つの機器の単一ECUに対する要求から、車両システムとしての視点で発想しなければならず、単機能ECUではなく、複数ECUをまたぐ大規模ソフトウェアの最適設計、品質・コスト・性能を両立させて形にする「インテグレーション設計」が重要となる。

 そのうえで統合ECU搭載ソフトウェアでは、従来のクルマの領域であるIn-Carの領域から、モビリティに関連するソフトウェア基盤や、モビリティに関連しない一般向けソフトウェアやサービス、公共、インフラなどのOut-Carの領域の「界面」が大事で、クルマとクラウドの連携システムやITやモバイルの車載適用といった「界面」を制することで、新領域の機会創出につなげるとした。

In-CarとOut-Carの領域の「界面」が大事で、界面を制する

 また、デンソーとしては、これまではハードとソフト一体で製品を提供してきたが、統合ECUになれば、例えば統合ECUのソフトウェアだけの提供といったことも考えられるとした。

 さらに、統合ECU化した場合には、クルマ1台に占めるソフトウェアのコスト比率が、ソフトウェアの領域を広げることを含めて、現在の10%以下から50%以上まで引き上げられるとした。

 そして、統合ECU化を支え、全体のシステム設計を行なう「アーキテクト人材」の育成が重要で、この部分の人材も含めてソフトウェア人材をどう強化していくかが、非常に大きな課題だとした。

職種転換や、ソフトウェア会社としての認知などのソフトウェア人材の強化

 統合ECU化に向けてはソフトウェア人材の強化が必要になるが、自動車業界でソフトウェア人材の獲得競争が激化しているなか、デンソーでは「人財」として人材強化策に、ソフトウェア会社としてのデンソーのブランディング強化や、ソフトウェアへの職種転換、積極的なM&Aなどを実施する。

自動車業界のソフトウェア人材動向

 ソフトウェア人材の規模としては、2023年の1.2万人から2030年には1.8万人に拡大を予定する。その間、開発量は3倍になるが、効率を2倍にして対応する。その結果、2035年には現状4倍の事業規模8000億円を目指す。

ソフトウェア開発の人材強化と効率化の取り組み

 林田氏はさまざまな人材強化策があるなかで「デンソーはメカの会社というイメージが強くてソフトウェアエンジニアの採用が難しい。デンソーに入ってソフトウェアの仕事ができることをしっかりと発信していきたい」と述べ、デンソーのブランディング強化に注力。ソフトウェアはグローバルで展開するが、国内ではソフトウェア部門の拠点を東京都内に開設したことも強調した。

デンソーの国内のソフトウェア開発拠点

 職種転換では立候補制の「リカレントプログラム」を2021年から実施して約200名が職種転換。さらにプロフェッショナル人財認定制度として、能力の高い人材をきちんと認定していくとした。

 さらに、NTTデータとの包括提携により、人材育成、ソフトウェア開発支援基盤の拡充、社会課題解決への取り組みなどを行なう。

NTTデータと包括連携による人材強化

 一方、効率化についてはAIを積極的に活用。これまでのデンソーの知見をAIに取り込み、自動化するという試みも行なう。例えば「半導体の使いこなし」では、顧客の要求に合わせたハードウェアのCPU能力やメモリーサイズなどの制約のなかで、トライアンドエラーを繰り返して実装してきた知見がある。

 現在開発中の自動最適コード変換ツールでは、AIに過去の知見を取り込んでおき、過去の知見を入れ忘れることなく、ヒューマンエラーによるバグもないソフトウェアの生成をすることを目標としているという。

ソフトウェア開発効率化に向けた取り組みではAIを積極活用
ソフトウェア戦略における半導体の使いこなしの知見はAIで活用

人材面と技術の標準化で業界貢献をする

 3つの基本戦略の最後となる展開力では、日本のモビリティ業界がグローバルで勝ち残るべく、人材の面と技術の標準化の2つで業界貢献を進めているという。

SDV時代にソフトウェアに対するデンソーの業界貢献

 デンソーではモビリティ業界のソフトウェア技術者が備えるべき能力と想定する役割を17種類の標準的なスキルセットとして定義したキャリアイノベーションプログラム「SOMRIE」を開発し、業界標準化を進め、モビリティ人材が集まり育つ環境整備に貢献する。

ソフトウェア技術の標準化に向けJASPARの幹事社に
人材育成の標準化に向けた取り組み

 ソフトウェア技術では標準化と共通化をリードするよう業界全体に協調型のモビリティ・エコシステムを構築する。具体的には車載電子制御システムのソフトウェアやネットワークの標準化や共通利用を進めるJASPARの幹事社となっており、幹事社5社のなかで唯一のサプライヤーとして参画、標準化を推進している。

 なお、最後にまとめとして林田氏は「『デンソーのソフトウェアがないとモビリティ社会の未来はつくれない』とお客さまに言っていただける実績をしっかりつくり、そんな存在を目指したい」と語り、総合システムメーカーならではの幅広い領域でソフトウェア開発力と価値提供力をさらに高めてモビリティ社会全体の安心と環境に貢献していくと話した。

デンソーの目指すもの