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ル・マン24時間を運営するピエール・フィヨン会長が緊急来日、豊田章男会長にスピリット・オブ・ル・マン賞を直接贈る

ピエール・フィヨン会長(右)からスピリット・オブ・ル・マン賞を直接受け取る豊田章男会長(左)

豊田章男会長、ピエール・フィヨン会長からスピリット・オブ・ル・マン賞を直接受け取る

 7月19日、世界三大レースの1つであるル・マン24時間レースを運営するACO(Automobile Club de l'Ouest、フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長が来日。スピリット・オブ・ル・マン賞をトヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏に直接手渡しで贈った。

 このスピリット・オブ・ル・マン賞は、100周年にあたる2023年のル・マン24時間レース前(2023年5月29日)に豊田章男会長へ贈られることが発表されていたもの。豊田章男会長は2023年100周年のル・マンを訪れ、プレスカンファレンスや水素カローラのデモランを実施していたものの、その際に授賞式などが行なわれることはなかった。

 その背景は、豊田章男会長がル・マン24時間レースのプレスカンファレンスなどで語っており、関連記事を参照していただきたい。

 フィヨン会長は、今回ブラジルでのWEC終了後に日本に立ち寄り、1年ぶりに豊田章男会長と直接面談。豊田会長とさまざまな意見交換を行なうと同時に、スピリット・オブ・ル・マン賞の贈呈式を実施した。

 時間が限られる中、フィヨン会長、豊田会長にスピリット・オブ・ル・マン賞の贈呈について話を聞くことができた。

笑顔でがっちり握手する2人

──(フィヨン会長に)1年ぶりにスピリット・オブ・ル・マン賞を豊田章男会長に手渡すことができました。今の気持ちを教えてください。

ピエール・フィヨン会長:very very happy、すごくうれしいです。本当は昨年にお渡ししたかったのですが理由はちゃんと理解しています。過去は過去というふうに言いたいと思います。そして、本当にうれしく思っています。

 豊田さんはモータースポーツのためにいろいろなことをしており、ル・マンのために、耐久レースために、本当に多くの貢献をしてくださったので、スピリット・オブ・ル・マンに値する方だと思っています。

 ここでこうしてスピリット・オブ・ル・マン賞を直接渡すことができ、受け取っていただき、私はとてもうれしく思っています。

──(豊田会長に)同様の質問となりますが、1年ぶりにスピリット・オブ・ル・マン賞をフィヨン会長から受け取りました。今の気持ちを教えてください。

豊田章男会長:昨年は失礼な態度をして大変申し訳ありませんでした。私が受ける賞は、モータースポーツにかかわるすべての人を代表して受けるものだと思っています。ドライバーもいれば、エンジニアもいれば、メカニックもいれば、すべてのサポートする人たち、マーケティングも含めて。すべての人を代表して受けるにあたり、ポリティクスにかかわったという思いがあり、受け取れませんでした。

 今年のル・マン24時間の最後の1時間を見たときに、「これはお許しいただけるのであれば、頭を下げてでも(スピリット・オブ・ル・マン)を受けたいな」と思ったのが正直な気持ちです。

 スピリット・オブ・ル・マンは非常に伝統のある賞だと考えておりますので、今後もモータースポーツに貢献することによって「モリゾウに賞を与えてよかったな」と思っていただけるようさらに努力していきます。

──(フィヨン会長に)ル・マンを何度か取材しており、その際のプレスカンファレンスにおけるフィヨン会長の印象的な言葉として、ル・マンはクルマの歴史や革新を生み出してきたというものがあります。スピリット・オブ・ル・マン賞を贈った今、トヨタと一緒にどのようなクルマの未来を作っていきたいですか?

ピエール・フィヨン会長:モータースポーツに関することでいいですか?

──はい、よろしくお願いします。

ピエール・フィヨン会長:私が希望しているのは、2028年以降に水素を使うクルマが参戦していることです。そのクルマは、水素を燃料とすることだけではなく未来的な新しいデザインを示してほしいと思います。やはりモータースポーツにおいてはエモーショナルな部分が大事です。感情がかき立てられるようなサウンドと、スタイルが大事だと思います。

 ただ、最後には戦う力、デッドヒートを見せてもらいたいと思っています。

 今年、私の一番記憶に残っている場面というのは、ル・マン24時間レースでのフェラーリとトヨタ7号車の終盤の戦いです。あの戦いは本当に素晴らしくで、最後の20周は早く過ぎ去ったように感じていました。

 ル・マンとしてもそういった真のスポーツを耐久レースでやっていきたいと思っていますので、そこは豊田さんと同じ気持ちだと思います。

 モータースポーツで重要なのは、ル・マンのDNAでもあるのですが、マニュファクチャラーに対して革新の可能性の場を提供することだと思っています。将来のロードカーをどのようにすべきかを考える機会を提供する場だと思っています。これが、ル・マンの過去100年のストーリーでもありました。

 多くの技術的イノベーションが生まれてきました。ディスクブレーキに代表されるような革新が今までもありました。

 これからもトヨタは道を示していってほしいと思っていますし、モビリティの未来というのを一緒に考えていきたいと思っています。

 カーボンニュートラルの方向に向かっても、一緒に進んでいけたらと思っています。

──(豊田会長に)同様の質問となりますが、トヨタはル・マン24時間でどのようなクルマの未来を作っていきたいですか?

豊田章男会長:クルマ好き、運転好きがエキサイトしてくれるモータースポーツであってほしい。それはトヨタだけではできません。それがフィヨン会長とであれば、現時点で答えはないのですが、何かできそうな気がします。

ピエール・フィヨン会長:thank you、thank you。

豊田章男会長:ありがとうございます。

意見交換後の記念写真

 質問として聞けた部分はわずかなものだったが、フィヨン会長と豊田会長はレースのことやカーボンニュートラルの未来についてなど、さまざまな意見交換を行なっていた。

 ル・マン24時間レースという過酷な場があることで、多くの自動車メーカーは歴史を作り、クルマの耐久性を磨き、安全技術を生み出し、結果としてブランドを育て上げてきた。トヨタは現在のWECに再参戦して12年になるが、その中でレーシングハイブリッド技術を磨き、さまざまなドラマを生み出しながら24時間戦うことが可能な圧倒的な信頼性を得た。

 その信頼性が、2024年のル・マン24時間レースではフェラーリとの激闘につながり、世界中のモータースポーツファンに大きな感動を生み出した。その感動は豊田会長も同様だったようで、スピリット・オブ・ル・マン賞の受け取りにつながり、さらにル・マンの将来に向けてフィヨン会長と濃密な時間を過ごすことにつながったようだ。その答えは、9月14日~15日に行なわれるWEC富士6時間耐久レースや今後のル・マン24時間レースで明らかになっていくと思われる。