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Arm、ホンダやパナソニックとSDVの開発期間短縮へ取り組み 「Arm Tech Symposia 2024」で対談
2024年11月7日 20:45
- 2024年11月7日 実施
英Armの日本法人となるアーム(両社合わせてArm)は11月7日、Armとパナソニック オートモーティブシステムズ(PAS)の両社が共同でSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウエア定義による自動車)を開発するためのアーキテクチャ標準化を目指すという戦略的なパートナーシップを発表した。
Armは同日に東京都内の会場で年次イベント「Arm Tech Symposia 2024」を開催しており、アーム 代表取締役社長 横山崇幸氏とパナソニック オートモーティブシステムズ 開発本部 プラットフォーム開発センター 所次長 中尾象二郎氏による対談が行なわれ、ArmとPASが目指す方向性などに関して説明された。
また、本田技術研究所 常務執行役員 先進技術研究所 担当 小川厚氏が登壇し、ホンダのSDV開発に向けた取り組みなどに関して説明を行なった。
生成AIの実現には低消費電力なCPU/GPU/ISPなどが必要になるとArm
Arm上級副社長 兼 オートモーティブ事業部門 事業部長 ディプティ・ヴァチャーニ氏は、同社の車載向け戦略などに関しての説明を行なった。
ヴァチャーニ氏は「AIはまさに現実と1つになりつつあり、それによって世界はものすごい勢いで変わりつつある。しかし、AIには課題もいくつかあり、その代表的なものが消費電力だ。今後グローバルに設置されていくデータセンターは、AI需要の増大によりドイツ一国よりも多い消費電力を消費すると言われている。Armは元々モバイル機器向けにCPUを提供する企業として始まったこともあり、低消費電力はDNAの1つで、低消費電力のCPUやGPUをモバイル機器だけでなく、IoTや自動車向けに投入していっている」。
日本でもAIの潜在市場は今後2027年までに1兆円の価値があると考えられており、「Armも日本市場に積極的な投資を行なっていく」と説明。生成AIによるAIの市場爆発という現状において、Armは低消費電力という同社の強みをもってさまざまな事業に取り組んでおり、日本市場でもそうしたことを鍵にして、顧客に対して同社製品(IPデザインと呼ばれるCPUやGPUなどの設計図ライセンス事業)の採用を呼びかけているとした。
その上で、バランスのよいAIを実現するには、「ハードウエアはソフトウエアがなければ何にも使えない。そのため、AIを実現するにはハードウエア、ソフトウエア、そしてソフトウエアを開発する開発者などから構成されるエコシステムがあることが重要だ」とヴァチャーニ氏は述べ、Armではそれらそれぞれにソリューションを提供していると説明した。
ハードウエア向けには、Arm CSSと呼ばれるCPU、GPU、ISP、さらには製造するファウンドリ(TSMC、Samsung、Intelなど)への最適化など半導体を設計、製造するための要素をすべて1つのパッケージにした製品の提供を開始。サーバー向けの「Arm Neoverse CSS」、スマートフォンやPC向けの「Arm CSS for Client」、自動車向けの「Arm CSS for Auto」などの提供が開始、あるいは今後提供が開始される(Arm CSS for Autoは2025年に提供予定)。
ソフトウエアに関しては、ArmはSOFEEという業界団体を作り、自動車向けのソフトウエアの開発をより容易にする取り組みを業界各社と行なっている。
ヴァチャーニ氏は「SOFEEにはすでに140社が参加しており、35の実際のアプリケーションに採用されている、さらには最大で2年の開発期間の削減に貢献するなど効果が出ている」と述べ、Armが自動車向けにハードウエアもソフトウエアも用意し、それを顧客に提供していくことで、より速く生成AIを活用した車載システムの開発が可能になると強調した。
自動車メーカーにとってArm CSSのようなパッケージは時間短縮になるというホンダ
次いで、ヴァチャーニ氏は本田技術研究所 常務執行役員 先進技術研究所 担当 小川厚氏を壇上に呼び、ホンダが取り組んでいるSDV開発に関して対談を行なった。
本田技術研究所の小川氏は「SDV時代ではソフトウエアが重要になるのはもちろんだが、ソフトウエアだけが重要になるのではない。自動車メーカーは自動車のことをよく知っていることが強みになる。例えば自動運転のソフトウエアを開発するときには、どうして事故が起きるのか、どうして渋滞が起きるのか、そうしたことを理解していることが強みになる。それを活かして、ソフトウエアとハードウエアが協調して動くようにしていかなければならない」と述べ、これまでソフトウエアの会社ではなかった自動車メーカーがソフトウエアを開発していくことは、自動車メーカーならではの強みが出せるという点で大きな意味があるとした。
その一方で「システムは非常に複雑になっている。自動車メーカーはハードウエアには慣れ親しんでいるが、ソフトウエア開発に関してはチャレンジであることは事実だ。現在自動車メーカーはAIを自動運転や画像認識などに利用しているが、将来は行動計画などに関してもAIに置きかえられていくなど、用途はもっと広がっていくと考えている。そうした中で、CPU、GPU、NPUのような、どのプロセッサを選ぶか評価するプロセスは複雑で、Armの競合も含めると組み合わせはたくさんあり、それを評価するのには非常に時間がかかる作業だ。それをArmがセットで提供するArm CSSは自動車メーカーにとっては非常にありがたいものだし、それが定位消費電力であるというのもうれしいポイントだ」と述べ、自動車メーカーが自社でソフトウエアを開発するときだけでなく、自社設計のカスタム半導体を設計するときにもArm CSSは有益だと説明した。
ハードウエアを仮想化することでSDVソフトウエアの開発を加速するというパナソニック
アーム 代表取締役社長 横山崇幸氏とパナソニック オートモーティブシステムズ 開発本部 プラットフォーム開発センター 所次長 中尾象二郎氏は、講演の後半に壇上で対談し、同日に発表されたArmとパナソニックが共同で行なうSDV向けのソフトウエアアーキテクチャ共通化の取り組みを説明した。
パナソニック オートモーティブシステムズはパナソニックグループの事業会社で、IVI(車載情報システム)やデジタルコクピットなどの開発を行ない、自動車メーカーなどに納入する、いわゆるティアワンの部品メーカーになる。
IVIやデジタルコクピットは、人間が自動車とコミュニケーションを取るときに重要な要素だと考えられており、自動車メーカーもそこが他社との差別要素になると開発に力を入れている部分になる。
パナソニック オートモーティブシステムズの中尾氏は「現代の自動車開発ではソフトウエア開発が重要になっているが、ソフトウエアは一度開発したら終わりということはなく、常に進化させていかないといけない。そのため、開発のやり方も変える必要があり、ハードウエアができあがる前にソフトウエアを開発するというソフトウエアファーストの開発が必要になる」と述べ、いわゆるSDVと呼ばれるソフトウエアと汎用プロセッサの組み合わせではソフトウエアの開発が従来よりも重要になり、さらにソフトウエアの開発をハードウエアと切り離して行なう必要があると説明した。
そうしたハードウエアからは独立したソフトウエアの開発のために、パナソニック オートモーティブシステムズでは3つのことを柱にして開発を進めており、それがArmとの協業の中身だという。それが「デバイスI/Oの仮想化」「クラウドまで含めた開発の加速」「HMIの仮想化」の3つだという。
デバイスI/Oの仮想化では、「VirtIO」(バートアイオー)と呼ばれる、仮想化技術車載版の標準化をArmとパナソニック オートモーティブシステムズが共同して推進していく。I/O(Input/Output)は、コンピュータが周辺機器とデータのやりとりを行なう際の入出力のことで、本来はハードウエアレベルで実装されている。VirtIOではそれを仮想化し、ソフトウエアから同じように見せることでハードウエアの違いを吸収する。ソフトウエアはVirtIOに対応できるようにコードを書いておくことで、どんなハードウエアでもサポートできるようになるため、開発時点では開発用のハードウエアで開発していても、そのまま製品で使うハードウエアに置きかえられるようになる。
クラウドを含めた開発の加速ではパナソニック オートモーティブシステムズが提供しているクラウドベースの車両サポートシステム「vSkipGen」を利用して、車載システムとクラウドで同じArmアーキテクチャの環境でシステム開発を行なえる。vSkipGenは、ArmのNeoverseというArm CPUをベースにして作られており、車載システムも、クラウドもArmベースとなっているため、より迅速なシステム開発が可能になると説明した。
そして、HMIの仮想化では、VirtIOの機能を利用して、ディスプレイ出力を仮想化する。現状、物理的なディスプレイは、そのディスプレイが接続されているSoCなどにひも付いてしまっているので、アプリケーションが動作しているSoCに接続されているディスプレイにしか出力できない。しかし、VirtIOを活用すると、複数のディスプレイを1つの大きなディスプレイとして扱うことが可能になり、アプリケーションが必要なディスプレイに対して画面を出すことが可能になる。
パナソニック オートモーティブシステムズの中尾氏は「今回の協業の狙いはSDVにおけるアーキテクチャを標準化することでイノベーションを加速することだ。現状はソフトウエア資産をハードウエア上に実装する場合、そのハードウエアベンダーに縛られて再利用性が下がることになる。しかし、標準化ができあがれば、最新のソリューションが採用しやすくなる」と述べ、両社の協業により標準化が進むことで、業界全体にメリットがあると説明した。