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Arm、非競争領域向け自動車ミドルウエア「SOAFEE」 トヨタのウーブン・プラネット、フォルクスワーゲンのCARIADなどが賛同

2021年9月15日(現地時間)発表

Armが発表した「SOAFEE」の取り組み

 ソフトバンク・グループの子会社で半導体メーカー NVIDIAへの売却が発表されている(現在は各国の規制当局の承認待ち)Armは、9月15日14時(現地時間。日本時間9月15日22時)に報道発表を行ない、同社が計画している自動車向けのミドルウエア(アプリケーションソフトウエアやハードウエアの中間に位置して、両者の協調を行なうためのソフトウエア)となる「SOAFEE」(ソフィー)を発表した。

 SOAFEEは「Scalable Open Architecture For Embedded Edge」の略称で、「組み込みエッジ向けの伸縮可能な開かれたアーキテクチャ」という意味の名称が示すとおり、組み込みエッジデバイスの最右翼と言える自動車のソフトウエア定義化(Software Defined)を実現するソリューションとして提供される。現在、自動車メーカーは従来の特定機能を持ったMCUから、汎用プロセッサ+ソフトウエアによるソリューションへの移行を進めている段階で、自動車メーカーは多くの投資を行なっている状況だ。そうした中で、競争領域となるIVIや自動運転などのアプリケーションは自動車メーカーやそのパートナーが開発し、非競争領域のミドルウエアにはこのSOAFEEを使ってもらうというのが基本的なArmの考え方だ。

 このSOAFEEには、トヨタ自動車の子会社でソフトウエア開発を担当するウーブン・プラネット、フォルクスワーゲングループの子会社でソフトウエア開発を担当するCARIAD(キャリード)などが賛同を表明しており、グローバルの自動車市場においてシェアでトップ2となる両社のソフトウエア子会社が賛同を表明したことは、ほかの自動車メーカーの採用にも大きな後押しになりそうだ。

汎用プロセッサ+ソフトウエアというソフトウエア定義の自動車という大転換期にある自動車メーカー

自動車の開発=ソフトウエア開発と言っても過言ではないほど複雑化していくソフトウエア開発

 Armは、半導体メーカーが汎用プロセッサを設計するときに、その設計図(IPライセンスと呼ばれる)などをライセンス契約に基づいて提供するビジネスを行なっており、Apple、Qualcomm、Samsung Electronics、NVIDIAといった世界を代表する半導体メーカーがその顧客となっている。自動車でも採用が進んでおり、IVI(In-Vehicle Infotainment)や自動運転、ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進運転支援システム)などが、そうした半導体メーカーが提供する汎用プロセッサに、自動車メーカーやそのパートナーが開発したソフトウエアにより実現する「ソフトウエア定義化(Software Defined)」が進んでいる。

ソフトウエア定義化が進展している

 従来のようなMCUという特定機能を実現する半導体を利用したシステムと、こうしたソフトウエア定義化されたシステムの最大の違いは、アップグレード可能になっていることだ。ユーザーが持つスマートフォンを想像してみるのが一番分かりやすい。

 スマートフォンの代表格と言えるAppleのiPhoneはiOSというOS(基本ソフトウエア)が採用されており、定期的にアップグレードされている。iOS 13からiOS 14などとメジャーバージョンがアップグレードされるたびに新しい機能の導入やセキュリティの強化などが行なわれる。そうしたことが可能なのは、スマートフォンが汎用プロセッサ+ソフトウエアで構成されている「ソフトウエア定義化」されたデバイスであるからだ。今後、自動車でも同じように自動車のソフトウエアを日々アップグレードする仕組みが導入され、自動車のライフサイクルにわたって新しいアップデートが提供されていく仕組みが導入されていくと考えられている。すでにフォルクスワーゲングループはそうした構想を明らかにしており、同社のBEV(バッテリー電気自動車、完全な電気自動車のこと)である「ID.3」などでサービスを開始している。

フォルクスワーゲン、自動車の差別化の鍵はソフトウエアにあり アジャイル開発で日々機能をアップグレード

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1330183.html

 そうしたときに自動車メーカーにとって大きな課題となってくるのが、ソフトウエアの開発費だ。OSやその上で動くアプリケーションソフトウエアをすべて自社で開発すると、多大なコストがかかる。PCやスマートフォンのOSも、MicrosoftのWindowsやGoogleのAndroidなどOSベンダが開発したものを機器ベンダがライセンス提供されて自社製品に組み込んでいる。これは開発費を業界全体でシェアしている、とも考えることができる。それほどOSなどのソフトウエアの開発には多大なコストがかかるのだ。

 それは自動車でも同様。そこで、自動車では「競争領域」「非競争領域」という2つに分割してソフトウエアの開発を進めるアプローチが一般的になりつつある。例えば、IVIのHMI(Human Machine Interface)や自動運転関連のソフトウエア、デジタルメータークラスターのデザインなど、他車との差別化にあたる領域は「競争領域」であり、その下のOSやネットワーク、セキュリティといった領域は誰が作っても同じで、差別化が難しくユーザーに対してアピールにならない「非競争領域」と定義される。競争領域は自動車メーカーが自社で開発し、非競争領域は自社ではなく半導体メーカーなどが提供するソフトウエアをベースに開発することになるのだ。

 例えば、ADASや自動運転の実現に利用されているNVIDIAのDRIVEシリーズの場合は、NVIDIAが非競争領域のOSなどを提供し、自動車メーカーはその上で動くアプリケーションを開発することで開発期間を短縮することができる。ルネサス・エレクトロニクスやQualcommといったほかの半導体メーカーも同様の仕組みになっており、そのメーカーのプロセッサを使い続ける限りは、開発期間や開発費などの削減が可能だ。

ソフトウエア定義な自動車を実現するにはソフトウエアの可搬性やクラウドネイティブなどを実現する必要がある

 しかし、例えばルネサスからNVIDIAに乗り換えると、今までルネサス向けに開発してきたソフトウエア資産は捨てて、また0から開発をしなければならない状況になる(IT業界の用語で言うとソフトウエアの可搬性=ポータビリティがないという)。このため、自動車メーカーにとっては半導体メーカーに依存しない、ソフトウエアの可搬性を実現したミドルウエア(中間ソフトウエア)の登場が待ち望まれている状況だった。

ハードウエアを抽象化してソフトウエアの可搬性を高めるためのミドルウエアとなるSOAFEE

SOAFEEの仕組み

 今回Armが発表したSOAFEEはそうした半導体メーカーに依存せず、ソフトウエアの可搬性を実現する自動車ソフトウエア開発のためのミドルウエアになる。エッジ側(自動車側)とクラウド側(サーバー側)それぞれにミドルウエアとなるSOAFEEフレームワークが提供され、IVIや自動運転/ADASなどに必要なソフトウエアコンポーネントがエッジ側、クラウド側それぞれで提供される。ミドルウエアには、ハイパーバイザー(複数のOSを平行して実行するソフトウエアのこと)やOSなどが提供され、自動車メーカーはその上で走るカーナビゲーションなどIVI向けソフトウエアや、HMI、ADAS/自動運転を実現するアプリケーションソフトウエアなどを開発して実装していく形となる。

 SOAFEEはプロセッサなどのアーキテクチャの違いを吸収する仕組みになっているため、Armアーキテクチャのプロセッサでなくても動作する。クラウド側ではArmのCPUは一般的ではなく、Intelのx86 CPUが一般的だが、そうした他社のアーキテクチャでも利用できるようになっている。もちろん自動車側も同様で、x86などのArm以外のプロセッサなどでも利用することが可能だ。ただし、ArmとしてはArmアーキテクチャのCPUなどの利用を奨励しており、Arm自身が提供する開発用のリファレンス・ハードウエアは、Armの顧客でもあるAmpereのCPUを搭載したリファレンス・ハードウエアがベースになっている。

SOAFEEの開発キットは本日よりダウンロード可能に

 Armによれば、SOAFEEはオープンアーキテクチャを採用しており、利用などは無償でライセンスなども必要ではない。SOAFEE SIG(Special Interest Group)というプロモーター団体が設立され、今後さまざまなプロモーションや資産管理などはSOAFEE SIGを通じて行なわれることになる。

 すでにリファレンス・ソフトウエア・スタックと呼ばれるソフトウエア開発に必要な文章などを含んだ開発キットのダウンロードが可能になっており、以下のサイトなどからダウンロードすることが可能になる予定だ。

SOAFEE reference software stackの詳細情報

https://gitlab.arm.com/soafee

リファレンス・ハードウエアは2つが用意されている

 また、第4四半期(10月~12月期)には前述のリファレンス・ハードウエアの入手もADLINKより可能になる予定。このリファレンス・ハードウエアを利用すると、SOAFEEソフトウエアの開発や検証を行なうことが可能になる。

SOAFEEリファレンス・ハードウエアのプリオーダーページ

https://www.ipi.wiki/pages/com-hpc-altra

トヨタ子会社のウーブン・プラネット、フォルクスワーゲン子会社のCARIADなどがSOAFEEに賛同を表明

SOAFEEに賛同する企業の一覧

 こうしたSOAFEEの発表にあたり、自動車業界各社からその取り組みに賛同するコメントが寄せられている。代表的なものとしては、トヨタ自動車の子会社で自動運転ソフトウエアの開発を行なっているウーブン・プラネット、さらにはフォルクスワーゲングループの子会社で自動車ソフトウエア開発を担っているCARIAD、ティアワンの部品メーカーであるコンチネンタル、日本の自動運転ソフトウエア開発ベンダとして知られるティアフォーなどが賛同を表明している。

 ウーブン・プラネット チーフ・アーキテクトのJF・バスティエン氏は、Armが発表したリリースの中で「ウーブン・プラネットは誰にでも開かれたオープン車両プログラミング環境“Arene platform”を提供しており、それを利用することでソフトウエア・ファーストの自動車を開発することを可能にしている。この業界のハードウエア開発をリードしているArmは自動車メーカーにとって未来を定義し、ソフトウエア・ファーストの自動車開発を一緒に開発するためにユニークなポジションにいるパートナーだ。ウーブン・プラネットはSOAFEEの取り組みに一緒に加わることを喜んでいる。SOAFEEは自動車開発とクラウド開発を高度に統合することが可能で、プログラマーが新しい取り組みを行なうことの助けになるものだ」と述べ、同社がSOAFEEの取り組みへの参加と歓迎の意向を表明した。

 また、CARIAD 上席副社長 兼 インテリジェント・コックピット/ボディー開発責任者のリクレフ・シュミット-クラウセン氏は、Armが発表したリリースの中で「ソフトウエア定義の自動車は遠い未来ではなく、すでに近未来になっており、その実現に必要なインフラや開発などが必要とされている。しかし、現在業界は、複数のハードウエア上でのソフトウエアの可搬性(ポータビリティ)の実現や、エッジと強調して動くクラウドネイティブなソフトウエアインフラの構築など、いくつかの解決すべき課題に直面している。それらをいち早く評価し取り組んでいくために、CARIADはArmと一緒に取り組みを進め、ソフトウエアにより定義される自動車の未来に向けて課題を解決していきたい」と述べ、ArmとSOAFEEに取り組んでいき、ソフトウエア定義自動車の実現に向けて課題を解決していきたいと表明した。