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Arm、車載半導体向けCPUなど新IPデザイン Cortex-A78AE、Mali-G78AE、Mali-C71AEの3製品
2020年9月29日 22:00
- 2020年9月29日 発表
半導体関連のライセンス事業を展開している英Armは、9月29日(英国時間)に報道発表を行ない、同社が半導体メーカーに提供している車載向けIPデザイン(半導体の設計図)の最新製品となる3製品を発表した。Armは半導体メーカーに対して、半導体の設計図に該当するIPデザインのライセンス供与ビジネスを展開しており、スマートフォンやPC向けの半導体などに採用されている。
自動車向けでも、NVIDIA、Qualcomm、ルネサス エレクトロニクスといった大手半導体メーカーの車載向け半導体で採用されており、今回発表された製品はその最先端製品。今後半導体メーカーが出荷を計画する製品などで採用される見通しだ。
今回Armが発表したのはCPU(Central Processing Unit、中央演算装置)の「Cortex-A78AE」、GPU(Graphics Processing Unit、グラフィックス演算装置)の「Mali-G78AE」、ISP(Image Signal Processor、画像処理装置)の「Mali-C71AE」の3製品で、いずれもISO26262で規定されているASIL-B(Cortex-A78AE/Mali-G78AE/Mali-C71AE)ないしはASIL-D(Cortex-A78AE)の機能安全に対応させることが可能になる。
今後ADAS(先進安全運転システム)やデジタルコクピット向けの半導体などに採用される見通し。
NVIDIAが買収することを発表したArm、車載向け製品は2030年に向けて20%成長の余地
英国のArmは2016年にソフトバンクグループ株式会社に買収され、現在は同社の100%子会社として運営されている。9月14日には、米国の半導体メーカーであるNVIDIAに売却される計画が発表され、今後規制当局の承認などを経てNVIDIAの子会社となっていく。
Armは元々はスマートフォンなどの携帯機器向けの半導体技術のライセンスを提供する企業として成長した会社だ。現在販売されているスマートフォンのほぼ100%にArmの技術が利用されており、AppleのiPhoneやGoogleのAndroidなどはいずれもArmの技術が利用されている。Armはそうした半導体技術を、半導体メーカーにライセンスという形で提供し、ライセンス料を受け取る形でビジネスを行なっている。多くの半導体メーカーがArmのデザインしたCPUやGPUを、自社の半導体に組み込んで設計・製造している。
Armは近年自動車向けのソリューションにも力を入れており、NVIDIA、Qualcomm、ルネサス エレクトロニクス、NXP、Mobileyeといった大手半導体メーカーが販売する自動車向け半導体にもArmの技術が活用されている。ADAS向けの半導体、デジタルコクピットやカーナビなどのCPUなどもArmが提供するIPデザインが作用されていることが多い。
Arm 副社長 兼 オートモーティブ/IoTビジネス事業部長 シェット・バブラ氏は「車載向けや産業向けの半導体製品は、2030年に80億ドルのTAM(筆者注:実現可能な最大市場規模、将来の市場予測の中で最も高い数字という意味)があると考えられており、それは2020年の今から見ると20%以上も成長することになる」と述べ、自動車やロボットなどに向けた半導体製品が今後も成長を続けていくという見通しを明らかにした。
30%性能が向上するCortex-A78AE、ISO26262/ASIL-Dの機能安全に対応
今回Armは車載向けのIPデザインとなる、CPUのCortex-A78AE、GPUのMali-G78AE、ISPのMali-C71AEの3つの製品を発表した。いずれもスマートフォン向けのIPデザインがベースになっており、Cortex-A78、Mali-G78はこの夏に発表されたばかりの新しいIPデザイン。Cortex-A78AE、GPUのMali-G78AEは自動車向けに機能安全向けの機能などが追加されたAutomotive Enhancement(自動車向け拡張)を意味するAEが追加された製品となる。
Arm、2021年のフラッグシップスマートフォン向けCPU/GPU/NPUの最新デザイン(ケータイ Watch)
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1254912.html
CPUのCortex-A78AEは、2018年に発表されたCortex-A76AEの後継製品だ。Cortex-A78AEは従来製品(Cortex-A76AE)に比較して30%ほど性能が向上しており、国際的な機能安全の基準であるISO26262ではASIL-D、IEC 61508ではSIL 3というレベルの機能安全を実現する機能を備えている。
従来からCPUの内部のリソースを分割して、CPUの一部が壊れても機能の継続には問題がない(ロックモード、ASIL-D向け)モードと、通常のCPUと同じようにすべてのリソースを演算に利用する(スプリットモード、ASIL-B向け)モードの2つを備えていたが、ASIL-Bの機能安全を実現するスプリットモードでは、機能に問題があるときを検出する機能に内部リソースが使われてしまい性能が低下するという課題があった。
そこで、今回のCortex-A78AEでは新しいハイブリッドモード(スプリットモードとハイブリッドモードの両方の特徴を備えたモード)が用意されており、CPUのリソースを管理するクラスターロジックをロックモードで動かすことで、CPU内部のリソース利用を最適化する。これによりCPUの利用率が改善することで、性能低下を招くことなくASIL-Bの機能安全を実現することが可能になる。
ISO26262/ASIL-Bの機能安全に対応したGPUのMali-G78AEとISPのMali-C71AE
GPUのMali-G78AEは、Armの車載向けに機能安全向け機能を追加したGPUとしては最初の製品となる。従来半導体メーカーが自社の車載向け半導体に採用していたのは、そうした機能安全向けの追加機能を持っていない「Mali」シリーズだったが、Mali-G78AEの登場によりGPUに関しても機能安全を実現することが可能になる。
Mali-G78AEがサポートするのはISO26262のASIL-BおよびIEC 61508のSIL 2となる。そうした機能安全を実現する為に、Mali-G78AEは完全に独立した4つのパーティションに仕切って利用することが可能になっている。例えば、2つのパーティションをナビゲーションの描画と道路検索の演算に、残り2つをメータークラスターと画像認識に割り当てて、それぞれに影響が起きないようにする。そのように機能安全を必要とするアプリケーションとそうではないアプリケーションを仕切りをかけて実行することで、ナビゲーションなどのOSが落ちても機能安全が必要なメータークラスターや画像認識には影響を与えないようにする。
なお、スマートフォン向けのMali-G78は演算ユニットを最大24コアまで必要な製造に応じて増減できるように設計されていたが、車載向けのMali-G78AEでも同じように1コアという最小構成から最大24コアまで増減できるような設計になっており、半導体メーカーが必要とする性能に応じて設計できるという柔軟性も特徴の1つだ。
ISPのMali-C71AEは、最大で4つのリアルタイムカメラ、ないしは16のバッファー付きカメラ(別途メモリを搭載したカメラ)までをサポートする画像処理装置。ADASの機能などを実現する上で必須となる車載カメラからの画像を処理してCPUやGPUに渡す役割を果たしている。
1.2Gピクセル/秒のスループットが実現されており、超広輝度幅(Ultra Wide Dynamic Range)の性能を持ち、暗いトンネルの中から明るい外に出たときなどの輝度の大きな変化などにも対応することができる。
なお、ArmはAEのつかないMali-C71を2016年に発表しており、今回投入されたMali-C71AEとの違いは機能安全のサポートになる。Mali-C71はISO26262のASIL-D、IEC 61508のSIL 3までの対応となっているが、Mali-C71AEはASIL-B、SIL 2までの対応となっている。
このため、Mali-C71に比べ廉価版の位置付けと考えることができる。Armのバブラ氏によれば「Mali-G78AEとMali-C71AEがASIL-Bまでの対応であることは顧客の要求に基づいている。重要になるワークロードが走るCPUに関してはASIL-Dまでが必要だが、GPUやISPに関してはそうではない」と述べ、GPUやISPに関してはASIL-Dまでの機能安全が必要とされていないため、こうした仕様になっていると説明した。
バブラ氏によれば製品のライセンス供与はすでに開始されており、Armの顧客となる半導体メーカーは自社製品に採用が可能ということだった。通常であるとライセンスの供与契約が行なわれてから1、2年経ってから搭載製品が登場するため、今回発表された製品も実際の製品に搭載されるのは来年以降という可能性が高い。