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NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏、Arm CEO サイモン・シガース氏が共同会見 約4.2兆円の買収については自動運転などAI時代への次の一手

ソフトバンクGのマサ(孫正義氏)を賞賛

2020年9月14日 発表

NVIDIA共同創始者兼CEO ジェンスン・フアン氏(2019年10月 MWC Los Angeles 2019で撮影)

 半導体メーカーのNVIDIAとソフトバンクグループは共同で、9月14日(米国時間では9月13日)に報道発表を行ない、ソフトバンクグループが2016年に310米億ドルで買収した英国Armの株式を最大400億米ドル(約4.2兆円、1ドル=106円換算)で、NVIDIAに譲渡する契約を結んだことを明らかにした。取引の完了には、英国、中国、EU、米国などの規制当局の承認が必要になり、最大18か月がかかると見られている。

 NVIDIAは同日、NVIDIA主催の報道・アナリスト向けのカンファレンスコール(電話会議)を行なった。この会議は、NVIDIAの本社がある米国時間の深夜、Armの本社がある英国時間の朝、そしてソフトバンクグループの本社がある日本時間夕刻(9月14日夕刻)に行なわれ、NVIDIA共同創始者兼CEOのジェンスン・フアン氏、Arm CEOのサイモン・シガース氏らが出席して両社の今後について説明した。

 この中でNVIDIAのフアン氏は「我々はこれからAIのさらなる広がりを見せる未来のとば口に立っている。これまでのクラウドベースのAIでNVIDIAは業界をリードしてきたが、それをArmが持つ1800億台というエッジデバイスのエコシステムへと拡大していくことができる、それがこの買収の狙いだ」と述べ、Armが持つスマートフォンやIoTデバイスなどのIPポートフォリオを半導体メーカーに提供するというビジネスモデルを活用して、NVIDIAの持つAIのIPポートフォリオを提供していくことがNVIDIA側のArm買収の目的だと説明した。

 その上で「Armのビジネスモデルはこれまでどおりだ」と述べ、ArmがNVIDIAの競合でもある半導体メーカーに半導体のライセンスを提供するというビジネスモデルは不変で、今後も何も変わらないと強調した。

NVIDIAが非上場のArmの全株式を取得。ソフトバンクグループはNVIDIAの主要株主に

取引の概要(出典:NVIDIA TO ACQUIRE ARM、NVIDIA)

 Armは英国に本社を置く、CPUやGPUといったPCやスマホ、そしてコネクテッドカーなどの自動車に使われているマイクロプロセッサの命令セットアーキテクチャ(ISA、ソフトウェアがCPUやGPUに処理を行なう命令を出す際の“言葉”のこと)やIPライセンス(CPUやGPUの設計図のこと)を、契約を結んで半導体メーカーに提供する「ライセンシングモデル」と呼ばれるビジネスを行なっている企業だ。Armの技術は、スマホにおいてはほぼ100%使われており、コネクテッドカーやEV(電気自動車)などの自動車でも、Armの技術が使われていることがほとんどだ。

Armの財務状況などを説明するスライド(出典:NVIDIA TO ACQUIRE ARM、NVIDIA)

 現代の半導体ビジネスに欠かせないArmは、かつて株式市場に公開していたが、その後非上場となり、2016年9月に孫正義氏率いるソフトバンクグループとその配下のビジョンファンドにより買収され、この4年はソフトバンクグループの子会社として活動してきた。

 非上場であるため財務状況などについては公開されていないが、本社はイギリスのケンブリッジに置かれており、2019年3月末時点での正社員は約6000人、2019年3月時点での年間売上高は18億3600万米ドルとアナウンスされている。

 今回発表された取引の概要は、ソフトバンクグループが持つArmの全株式がNVIDIAに売却され、その売却額は最大400億米ドル(約4.2兆円、1ドル=106円換算)に達するという。支払いは20億米ドルが即時に現金で支払われ、215億米ドルがNVIDIAの株式で支払われる。その結果、ソフトバンクグループはNVIDIA株の約6.7〜8.1%を保有する大株主になる見通しと発表されている。

 これまでのNVIDIAの最大株主である「The Vanguard Group」の所有割合が7.68%なので、最大側に振れるとソフトバンクグループがNVIDIAの最大株主となる可能性がある。

NVIDIAの狙いは自動運転車などのエッジデバイス市場に同社の技術を提供すること

 そうした取引が行なわれたことを受けて、NVIDIAのフアン氏は記者会見の冒頭でNVIDIAがArmを買収する狙いなどについて説明した。以下はフアン氏の冒頭コメントだ。

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 我々はAI時代のとば口に立っている。パーソナルコンピューティングの時代から、AIによる自動制御マシンの時代へと転換点にいる。AIはとてもパワフルな技術で、まずはクラウド側から始まった。それが今後はエッジ(筆者注:エッジとはインターネット上にあるサーバーであるクラウドを利用する、ユーザー側にある機器のこと。具体的にはコネクテッドカーや自動運転車、スマホなどのことを意味している)へと拡大していく。NVIDIAはこれまでそうしたAIの時代をリードしてきたが、Armはそうした1800億のエッジデバイスというエコシステム支えてきている。

 そのArmのソリューションに、NVIDIAのAIの強みをArmのエコシステムへと拡大していくことができる。それにより、クラウドデータセンターからスマホ、自動運転自動車、IoTまで幅広い次世代コンピューティングの新しい形をArmと一緒に作っていくことが可能になる。

 そしてNVIDIAの大株主としてソフトバンクグループを迎えることができたのもよい取引だったと考えている。両社は手を取り合って次世代のコンピューティングを作っていくことができると考えている。また、弊社の従業員にとっても、弊社が世界で最も急速に成長しているテックカンパニーの1つになるということを意味する。

 Armはこれまでどおりお客さまの話に真摯に耳を傾け、お客さまが抱えている課題を解決していく会社であり続ける。弊社もArmのビジネスモデルを愛しており、これまでどおりIPライセンスのポートフォリオ(製品群)を拡充していくことを後押しする。そして、今後はArmの製品群に、NVIDIAのIPポートフォリオが加わることになり、Armにとってはさらなる発展の機会となる。

 そして、Armはこれまでどおり英国の会社であり続ける。本社は英国に置かれ続けるし、研究所もこれまでどおり研究を続けていただく。さらに(Armの本社がある)ケンブリッジにはにワールドクラスのAI研究センターを設立する。これにより英国や世界中の科学者がこれを利用してより研究を深めることができるし、我々が「Inception」と呼んでいるAIアクセラレータのスタートアッププログラムも拡張していく。

Arm CEO サイモン・シガース氏

 我々の会社は設立以来30年、ケンブリッジに本社をおいてグローバルに顧客が必要なコンピューティング技術を提供してきた。そして特にこの数年はAIに関連する製品ポートフォリオを増やしてきた。まさに我々は新しいAI時代のとば口に立っているのだ。そして歴史を振り返ると、我々は組み込み向け製品を提供してきた。我々のライセンシングモデルというビジネスモデルは、世界中の半導体メーカーが素晴らしい製品を出す手助けをしてきた。

 そして日々、コンピューティングの未来がどうなっていくのか考え続けているが、我々にとっての未来はAIだ。AIは日々技術が成熟していっているが、まだまだ新しいアプリケーションも日々登場している、NVIDIAとの新しいパートナーシップにより、我々はお客さまである半導体メーカーに、新しい組み込み向けAIの為のチップを設計するのに必要な新しいビジョンを提供できる。そして今回NVIDIAは英国に投資をしてくれることを決めた、それは大変歓迎すべき事だ。

NVIDIAのGPU技術をIPとしてArm経由で顧客に提供することも計画

NVIDIAのIP(例えばGPUなど)がArmを通じてArmの顧客に提供される(出典:NVIDIA TO ACQUIRE ARM、NVIDIA)

 会見で記者やアナリストなどからは、ArmがNVIDIAという事業会社に買われたことは、QualcommなどのNVIDIAの競合にとっては歓迎すべきことではないのでは? といった質問が集中した。

 これについてArmのシガース氏は「我々の独立性は我々にとって最大の強みだ。従って、1800億ものデバイスにライセンスを提供しているという我々のビジネスモデルは今後も不変だ。確かに親会社は変わることになり、我々のロードマップには新しい要素が加わることになり若干の調整は必要になる。しかし半導体産業に優れたIPを提供していくというビジネスモデルはこれまでどおりだ」と述べ、NVIDIAが親会社になることで、NVIDIAが持つIPをArmの製品群に加えていくことが従来との違いなだけで、それも含めたIPライセンスを顧客となる半導体メーカーに提供するというArmのビジネスモデルには何も違いがないと強調した。

 買収する側のNVIDIA フアン氏は「重要なことはオープンで公正であるかどうかだ。Armにとって最善なことは独立性を維持するということだ。我々はArmに多額の投資を行なうのだから、Armにとって最善の道を選択するのは当然のことだ。AIは日々変わり続けており、クラウドデータセンターからエッジデータセンター、IoT、ロボット、自動運転車などさまざまな用途が生まれている。しかし、今それが形を変えつつあり、そしてアーキテクチャはそれぞれ非常に近づいており、その形やサイズなどを日々変えている。そこには何らかのソリューションが必要になる。そのために我々は2つの会社の技術を1つにして顧客に提供していく」と述べ、NVIDIAはArmの株主としてArmのためになるようにオープンで公正さを維持しながらArmの独立性を維持していくと説明した。

1300万以上のArmの開発者と200万以上のNVIDIAの開発者が1つになりさらに開発が加速する(出典:NVIDIA TO ACQUIRE ARM、NVIDIA)

 フアン氏がNVIDIAのIPをArm経由で提供するという件に関して、NVIDIAのGPUやAIソリューション、そして2019年にNVIDIAが買収を完了したMellanoxのソリューションは含まれるのかという質問が出た。

 フアン氏は「我々は可能な限り多くの製品を顧客に提供していきたいと考えている。Armを所有することにより、これまでのビジネスモデル(筆者注:NVIDIAの場合は製品を開発して半導体として提供するという形)では提供できなかった形で、製品やサービスを提供することが可能になる。Armが過去30年にわたって作り上げてきたお客さまとの関係やビジネスモデルはこれを行なうのに最適だ。今後すべての産業でAIが利用される世界が実現される中で、NVIDIAの技術を(Armの)ネットワークを通じて提供していきたい。例えば、現在SoCにはNVIDIAが開発した世界最高のGPUの技術を提供することができていない。しかし、Armのネットワークを使えば、Armのお客さまが望めばそれを提供していくことが可能になる」と述べ、NVIDIAのGPUをIPとしてArmの顧客に提供していくということを具体的に検討していると述べた。

Armの顧客のメリット(出典:NVIDIA TO ACQUIRE ARM、NVIDIA)

 また、Armが開発するGPUのIPである「Mali」に関して今後も開発を続けていくのか、またArmの競合と考えられているオープンソースの命令セットアーキテクチャ「RISC-V」を利用した製品開発をNVIDIAは今後も続けていくのかに関してフアン氏は「答えはどちらもイエスだ。NVIDIAはArmとRISC-Vの両方のユーザーであり、NVIDIAのGPUとMali GPUに関しても同じロジックで考えることができる。それぞれのアーキテクチャにはそれぞれのソフトウェアエコシステムがあり、開発者がいる。我々はRISC-Vを巨大なチップの内部のCPUやコントローラなどに使っている。それはこれからも続けていくだろう。NVIDIAのGPUとMaliに関しても同じことだ」と述べ、ArmとRISC-Vは用途が違うので競合していないし、NVIDIA自身もこれからも使い続けて行くと述べ、両者は共存するという見解を明らかにした。

フアン氏はすべてのコンピュータ革命で重要な役割を果たしてきたと孫正義氏を賞賛

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(2019年3月のGTC 2019で撮影)

 そしてArmにはこれまでのソフトバンクグループ下での4年間について質問があり、Armのシガース氏は「ソフトバンクグループの投資により我々は製品ラインアップの拡充を果たしてきた。マサ(筆者注:孫正義氏)は我々との約束を果たして、これまでよくサポートし続けてくれた。ソフトバンクの支援の下、我々は4年前には持っていなかったようなAIの製品群を拡充することができた。これからはNVIDIAの支援の下でそれを行なっていきたい」と述べた。

 フアン氏は「Armが非上場になったときの目的は製品開発を加速するというものだった。この4年間で、データセンター向けのサーバーCPU、自動運転車、エッジIoTという多くの顧客が関心を抱いている分野にArmは多額の投資を行なってきて、それを実現したのはソフトバンクとマサの力があればこそだ。私はソフトバンクとマサが、NVIDIAの主要株主である偉大なパートナーの1つになってくれることを大歓迎している。彼はエッジAIというビジョンを強く信じており、よくその話をしている。実際彼はPC革命、そしてその次のインターネット革命、モバイルインターネット革命、中国インターネット革命といったこの業界の多くのターニングポイントで投資を成功させるなど重要な役割を果たしてきた。そして今度はAI革命だ。AI IoTはコンピュータ業界だけでなく、その対象はすべての産業になる。その可能性は計り知れない」と述べた。

 ソフトバンクグループがArmの株式を所有していた4年間に果たした役割は非常に大きく、今後はNVIDIAの主要株主として、そしてパートナーとしてAIのさまざまな産業への普及に一緒に貢献していきたいと賛辞を送った。