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Arm、新しい高性能IP「Neoverse V3AE」を発表 CSSを自動車向けにも投入し設計から製品化までの時間を短縮

2024年3月14日 発表

アーム 代表取締役社長 横山崇幸氏

「アームは日本における最大産業の自動車産業をサポートしていく」と横山社長

 ソフトバンク・グループ傘下の英Armは、3月14日に東京都内で記者会見を開催し、同社の自動車向けソリューションの最新製品を発表した。

 Armは、IPライセンスと呼ばれる半導体の設計図を顧客に提供するビジネスを行なっており、スマートフォンやタブレットなど向けに採用されている。近年は自動車向けの製品も拡充しており、スマートフォン向けのIPライセンスを機能安全に対応させるなどして自動車向けとして提供してきている。

 今回Armは自動車向けの新しいIPライセンスの提供を開始したほか、同社がCSS(Compute SubSystem)と呼んでいるプロセッサーの設計図だけでなく、さらに実際に製造を担当するファウンダリ(受託製造半導体メーカー)の製造技術(プロセスノード)への最適化など半導体の設計にかかわる情報を1パッケージとして提供することで、顧客となる半導体メーカーがすぐに設計を開始でき、設計開始から製品投入までの時間を従来よりも削減できるとした。

 Armの日本法人であるアームの代表取締役社長 横山崇幸氏は「アームでは日本における自動車産業の重要性が高いと認識し、日本の自動車メーカーとの協業を進めてきた。今回はArmの歴史の中でも初めてのソリューションとしての自動車向け製品の発表になる。特にCSSを自動車向けに導入することは、実際の製品投入までの時間を大幅に短縮できる」と述べた。

 横山氏によれば、ArmはすでにIVI(車載情報システム)では85%、マイクロコントローラなどでは50%の想定市場シェアを持っており、今後大きく成長が期待されるADAS向けや、自動運転向けなどの製品を強化し、それが今回の発表になっていると説明した。

SOFEEやCSSなどを提供していくことで設計から製造までの時間を短縮

Arm オートモーティブ事業部門 製品・ソフトウエア・ソリューション担当 副社長 スラジ・ガジェンドラ氏

 Arm オートモーティブ事業部門 製品・ソフトウエア・ソリューション担当 副社長 スラジ・ガジェンドラ氏はそうしたArmが発表した新製品に関して説明を行なった。

Armの自動車向けソリューションの歴史

 ガジェンドラ氏は「前のモデルを発表して投入した2020年~2021年から比べても自動車産業はさらに大きく変わった。自動車メーカーやティアワンの部品メーカーと話をすると、現代の自動車はソフトウエアが非常に複雑になっており、それに対処することが何よりも重要だと言われている」と述べ、自動車メーカーやティアワンの部品メーカーにとってソフトウエアの開発の複雑性に対処することがもっとも重要になっているため、Armは「SOFEE」(ソフィー)と呼ばれる自動車向けソフトウエアのうち非競争領域の自動車向けミドルウエアを提供していることを強調した。

Armの自動車向け製品の製品群
SOFEEによりソフトウエア開発の期間は短くなる
すでにArmを利用している顧客

 ガジェンドラ氏は「Armは2018年にAE(Automotive Enhanceed)な自動車向けIP製品を投入し、2021年にはSOFEEの取り組みを行なうなど自動車向けのソリューションを発展させてきた。これまではIP製品を発表してから18か月後に実際に搭載した製品が登場するというのが通例だった。その間にわれわれの顧客はさまざま開発をし、それを製品として投入してきた。5年前なら18か月は正当化されたと思うが、現代ではそうではない。大事なことは顧客(である半導体メーカー)がわれわれのIPの提供を開始したら、可能な限りすぐに製品として投入できるような体制を作ることだ」と述べ、ArmがCSSと呼ぶ開発期間を短縮する製品を提供していくと説明した。

Neoverse V3AE、Cortex-A720AE/520AEなどの自動車グレードのCPU IPを提供開始

Neoverse V3AE

 今回Armが発表したのは、CPUやISP、そして機能安全を実現するCPUなどのIP製品(半導体の設計図)と、それを元にしたCSSという、2種類の製品となる。

 CPUに関しては、Neoverse V3AE、Cortex-A720AE、Cortex-A520AEの各製品となる。ブランドの最後にAEがついていることが自動車グレード向けの製品であることを示しており、それぞれデータセンター向けCPUのNeoverse V3、スマートフォン向けのCortex-A720、Cortex-A520の自動車グレード版(例えば機能安全に対応するなどの機能拡張が行なわれている)であることを示している。なお、それぞれの元になった製品に関しては僚誌PC Watchの記事が詳しいのでそちらをご参照いただきたい。

 Neoverse V3AEは、元々データセンター向けに投入されるようなNeoverse(ネオバース)シリーズがベースになっていることもあり、とにかく高性能を実現している。自動車専用グレードとしてASIL-Dの機能安全にも対応できるような設計が可能になる。

 もとのNeoverse V3は1つのダイで最大64CPUコアまで構成可能になっている。Neoverse V3AEではCPUコアは可変でそこまでのコア数は搭載することは想定されておらず、例えば12コアなどの構成が考えられる(理論的にはもっと多くすることは可能)。また、チップレットと呼ばれるパッケージ上に複数のダイを搭載してCPUコア数などを増やす設計も可能で、小さなダイを利用して製造することでコストを抑えながら性能を上げていく設計も可能だ。

 CPUコア1つあたりの性能はCortex-A78AEに比べて50%以上も高いとされており、ターゲットとしては自動運転やADASでのL2+などより高い性能を必要とする製品向けと位置づけられている。

Cortex-A720AE、Cortex-A520AE

 また、Cortex-A720AEやCortex-A520AEではASIL DのFusa、ASIL-Bのハードウエア認証などが提供される予定で、ロックステップの機能が拡充されるなどしており、より自動車向けのグレードとしての機能安全などが強化されていることが特徴になる。こちらはL2+より下のADASなどがターゲットとして想定されている。

Cortex-R82AEとMali-C720AE ISP

 リアルタイムOS向けのCortex-Rシリーズ、ISP(Image Signal Processor)にも最新製品が投入され、Cortex-R82AEとMali-C720AE ISPが投入される。Cortex-Rとしては初めて64ビットのArm命令に対応した製品となり、64ビットのリアルタイムOSに対応することが可能になる。それにより、より大容量のメモリをリアルタイムOS上で活用することが可能になる。

 Mali-C720AE ISPは、AIを活用したコンピュータービジョンの機能などを実装する場合に必要とされるISPを、製品に実装したい場合に利用できるIPとなる。

Neoverse V3AEをベースにしたCSSは25年に投入、それにより半導体メーカーの開発期間が短縮される

CSSを導入

 ガジェンドラ氏によれば、今回Armが投入したCSSは、その発表されたNeoverse V3AEをベースに構成されており、2025年に投入される計画だという。

 CSSは簡単に言えば、IPライセンスがCPU単品、GPU単品……のように基本的に単品で提供されるのに対して、CSSではCPUはこれ、GPUはこれ、そして周辺部分はこれというのをセットにして提供される仕組みだ。また、それに伴いArmのパートナー企業が提供するIP(例えばUSBコントローラとかアナログ回路)などとの動作検証も終えられており、さらにはファウンダリで製造するときに必要になる製造技術への最適化に関しても行なわれた状態で引き渡されるなど、半導体の設計に必要となる機能がセットになって提供される。

 このため、半導体メーカーはCSSのデータを受け取ると、設計から製造までのリードタイムを最短にでき、タイムトゥマーケットな製品を投入することが可能となる。スマートフォン向けやデータセンター向けなどでは人気の製品で、現在Armが積極的に押しているソリューションとなり、それが今回のNeoverse V3AEから自動車向けにも拡充されることになった。

 ガジェンドラ氏によれば「Neoverse V3AEはTSMCの3nmとIntelのIntel 18Aへの最適化がすでに終わっている。また、顧客が必要とするのであればUCIeというチップレットの標準技術にも対応しており、それも利用可能になる。その意味で、顧客は製品のデザインを始めてからすぐに製造に取りかかることが可能になる」と述べ、CSSを利用すると製造までの時間が短くなることをアピールした。

 また、今回の発表にあたり、デンソー、eSOL、日立アステモ、パナソニック・オートモーティブ・システムズ、ルネサス エレクトロニクス、ソニー・ホンダモビリティ、ティアフォーなどの日本のベンダーから歓迎コメント(クオート)をもらっているとして、そのコメントを紹介した。

デンソーのクオート
eSOLのクオート
日立アステモのクオート
パナソニック・オートモーティブ・システムズのクオート
ルネサス エレクトロニクスのクオート
ソニー・ホンダモビリティのクオート
ティアフォーのクオート