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お宝のようなスバル航空宇宙部門の廃カーボンをマツダが採用 スーパー耐久参戦車両を1月19日までスバル本社で合同展示

2025年1月15日~19日 展示

スバル本社ショールームに展示されたマツダ3

マツダとスバルが、スバル本社ショールームで合同展示

 1月15日~19日に、スバルとマツダのスーパー耐久参戦車両がスバル本社のある「スバル スター スクエア(恵比寿ショールーム)」(東京都渋谷区恵比寿)で展示される。スバル スター スクエアに他社銘柄のクルマが展示されるのは初めて。両社はスーパー耐久を通じてカーボンニュートラル燃料開発や、サステナブルな車社会の実現に取り組んでおり、その取り組みがサーキットではなく都心で一般公開される。

 それに先立つ1月14日夕刻、モータースポーツを通じたカーボンニュートラルの取り組みについてスバルとマツダ関係者によるトークイベントがあった。登壇者は、スバル Team SDA Engineering代表 本井雅人氏、同 航空宇宙カンパニー 基盤技術部 関根尚之氏、マツダ MAZDA SPIRIT RACING代表 前田育男氏、同 ブランド体験推進本部 ファクトリーモータースポーツ推進部 上杉康範氏の4名。モータージャーナリストの河口まなぶ氏が司会をする形で進行した。

マツダ、スバルの協業であることを示すカーボン再生材を使用したボンネット

スーパー耐久の現場で進むカーボンニュートラル社会実現の取り組み

スバル本社ショールームでトークイベントを実施

 トークイベントでは、会社を超えスーパー耐久の場を通じてカーボンニュートラル社会の実現に取り組むようになった背景や、現場での戦いの様子、そして今回の展示のテーマであるスバル航空宇宙部門の廃カーボンをマツダが使うようになった経緯が語られた。

 そもそもの経緯としては、トヨタ自動車のスーパー耐久参戦、そして開発車両でも参戦可能なST-Qクラスの設立を挙げ、現在ではトヨタ、マツダ、スバルの3社でカーボンニュートラル燃料の改善に取り組むまでになっている。日本自動車工業会の会長でもあったトヨタ 豊田章男社長(当時)から、マツダ丸本明社長(当時)、スバル 中村知美社長(当時)に声がけがあり、「モータースポーツで一緒に技術開発をやっていきませんか」ということからスーパー耐久参戦につながった。

 マツダはル・マン24時間参戦以来のワークス活動、スバルはWRC(世界ラリー選手権)以来のワークス活動ということで大きな話題となったのは記憶に新しいところだ。

 トヨタは直列3気筒ターボ、マツダは直列4気筒自然給気、スバルは水平対向4気筒自然給気(現在は、水平対向4気筒ターボ)の車両を使って参戦しており、それぞれのエンジン形式が違うことから、多面的に燃料特性を検証できるとしている。

株式会社SUBARU Team SDA Engineering代表 本井雅人氏
マツダ株式会社 MAZDA SPIRIT RACING代表 前田育男氏
株式会社SUBARU 航空宇宙カンパニー 基盤技術部 関根尚之氏
マツダ株式会社 ブランド体験推進本部 ファクトリーモータースポーツ推進部 上杉康範氏
司会・進行を務めたモータージャーナリストの河口まなぶ氏

 実際、燃料の改質も進み、スーパー耐久で採用しているP1 Fuels製のカーボンニュートラル燃料も世代として進化。当初問題になったオイル希釈や、燃焼特性なども従来のガソリン燃料に近づき、スーパー耐久レースをレースとして戦えるようになっている。

 3社合同で取り組むことで、燃料メーカーへの発言力も向上。燃料と燃焼器であるエンジンの両面からカーボンニュートラルの開発がスーパー耐久の場で行なわれている。

 現在、スーパー耐久のST-Qクラスには、トヨタ、マツダ、スバル、ホンダ、日産と5社の自動車OEMが参加。レース後には、5社で問題点を振り返る「ワイガヤクラブ」と題した懇談会を実施。お互いの問題点を深いレベルまで話し合っている。現在では、その取り組みを「共挑」という形でアイコン化。共挑マークも作り上げ(ちなみに、このデザインはマツダが担当。マツダの前田氏は、魂動デザインを作り上げた世界的カーデザイナーでもある)、分かりやすい形で社会に訴求しようとしている。

共挑ロゴ

 その共挑の中で、スバル側の本井氏からスバルのマシンにも使われている同社航空宇宙部門の廃カーボン利用の提案があったという。そこにマツダが手を挙げ、スバル宇都宮工場を訪問。航空機用部品を作る上で、どうしても発生してしまう廃カーボンがお宝のようだったと語る。

 よく知られているように、スバルは世界的ベストセラーである双発ジェット旅客機「ボーイング 787」の中央翼と呼ばれる主要構造部品を半田工場で生産しており、カーボン部品の高い生産能力を持つメーカーでもある。宇都宮工場では、新型ヘリコプター「SUBARU BELL 412EPX」を生産しており、そこでもカーボン部品が多用されている。

レースや市場ではライバル同士だが、カーボンニュートラルという未来に向けては共に挑む仲間

 航空機用カーボンには、主翼や中央翼などの構造部材に使うもの、フラップやスポイラーなど二次構造部材に使うものの2種類があるとスバル関根氏は説明し、生産の過程で出た廃カーボンの樹脂を焼き飛ばし(カーボン素材は、炭素繊維に樹脂を含浸して作られている。CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)てリサイクルカーボンファイバーとして編み上げ、それを積層・樹脂含浸・硬化という過程を経て部品として作り上げている。

 具体例としては、この航空機用リサイクルカーボン材料を使うことでの軽量化を挙げ、マツダのスーパー耐久用車両であるマツダ3ではスチール製ボンネットに比べて約14kg軽量化。それまで使っていた通常のカーボン材料よりも1.4kg軽くなっているという。

 スチール製に比べて大幅に軽量化でき、通常のカーボン材料に比べても軽くなるほどの高性能カーボンであることが分かる。

スバルの取り組み
カーボンニュートラル燃料について
スーパー耐久で得た知見
マツダの4つの挑戦
マツダの取り組み
ワイガヤクラブについて
スバルとマツダ、リサイクルカーボンパーツの取り組み
スバル航空宇宙カンパニーと連携
お宝と語る、航空宇宙カンパニーの廃カーボン
航空機で使用しているカーボン素材
BRZでの活用
ハイパフォエックスでの活用
マツダへの提供
マツダの今後の取り組み

 この軽さはレースでは速さとなり、耐久レースにおいては燃料の節約にもつながってくる。もちろん、リサイクル製品でもあるため、サステナブルな社会づくりにとっても重要な実験となっている。

 マツダでは、2024年シーズンはボンネットのみだったが、2025年シーズンは適用範囲拡大を検討しており、さらなる軽量化と戦闘力向上を描いている。

 また、スバルからはマツダ以外の他社への供給拡大も示唆され、それらはスーパー耐久の現場で明らかになっていくものと思われる。

スーパー耐久シリーズ2025スケジュール

 このスーパー耐久レースシリーズもST-Qクラスが新設されたことで盛り上がりを見せ、トークイベント後半に登壇したSTMO(スーパー耐久未来機構)理事 桑山晴美氏は、2025年のエントリー台数が80台と史上最高の台数になっていると語り、現在その80台にどのような形で参加してもらうか、レースフォーマットを検討中であると話した。

STMO(スーパー耐久未来機構)理事 桑山晴美氏

1月19日までスバル本社ショールームで一般公開

1月19日に開催されるトークショーの告知

 一般公開の中で展示される車両は、マツダの55号車 MAZDA3、スバルの61号車 BRZとHIGH PERFORMANCE X FUTURE CONCEPT(通称:ハイパフォエックス)。それに、各種カーボン素材や、カーボン部品とアルミ部品、スチール部品の強度や重量の違いを体験できるサンプルも用意される。

 どれだけカーボン部品が軽いのか、そして強靱であるのかが感できるようになっており、子供の学習体験としてもおすすめできるものだ。

BRZとハイパフォエックスも展示してある

 1月19日の日曜日15時からはスバルドライバー、マツダドライバーが参加するトークショーを実施。定員60名(ペアで30名)の申込制で行ない、カーボン製のキーホルダーもプレゼント予定。

 市販車ベースのレーシングマシンが都内で見られる貴重な機会なので、近くを訪れた際は、立ち寄ってみていただきたい。

ショールームの受付に掲げられたスバルとマツダ(MAZDA SPIRIT RACING)のロゴ。フォトスポットになるかもしれない