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ダイハツ車ラインアップ取材会で聞いた「良品廉価」な軽自動車作りのこと

ダイハツ車ラインアップ取材会に用意された車種は乗用車が8台、特装車・商用車・福祉車が3台の計11台

 ダイハツ車がずらりと並ぶ光景。ダイハツ工業が開催した「ダイハツ車ラインアップ取材会」は、よくある発表会や試乗会とは違い新型車を紹介するものではい。では、どんな内容かというと、これまでのクルマを見直すことで、ダイハツ車の魅力を改めて掘り下げてみるという一風変わった趣旨のものだった。

 取材会では割り当てられた時間内であれば、用意された車種に試乗をするのもよし、会場に来ている開発者に話を聞くのもよし、ということだったので、Car Watchでは普段なかなか話ができない開発者の方に、ダイハツのクルマ作りについて改めて聞いてみることにした(クルマだけなら借り出せるが、開発者の方は簡単には借り出せない)。

「小は大を兼ねる」のキーワードに沿う「良品廉価」のクルマ作り

 今回用意されたクルマは、「ミライース」と「コペン」を除くとすべて共通点がある。それが新世代のクルマ作り技術「DNGA」(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)と呼ぶプラットフォームを使用していることだ。

 DNGAはサスペンション、アンダーボディ、エンジン、トランスミッション、シートといった部分を構成する新開発の共通プラットフォームのことで、このDNGAプラットフォームを使うことで、CASE時代のクルマ作りを進めるにおいて技術対応やスピーディな商品ラインアップ拡充を同時に実現するというもの。

 DNGAの第1弾は2019年に登場した「タント」で、以降のモデルはすべてDNGAを採用したものとなり、その中には登録車(普通車)である「ロッキー」も含まれている。軽自動車の中での汎用性ならともかく、普通車も同じプラットフォームを使うところに不思議さを感じる人もいるかもしれないが、ダイハツは「小は大を兼ねる」というキーワードでクルマ作りを進めていて、まずは小さいクルマで基本性能のいい良品廉価を極めてから、そこに付加価値を足していくということを行なっている。

 つまりDNGAプラットフォームは普通車にも展開できるように構造部材の種類や配置の仕方などが設定されていて、ロッキーの場合、あらかじめ設計に盛り込まれていたホイールベースやトレッドを広げたりする変更を行なうことで普通車へと発展させているのである。

 こうしたクルマ作りは性能と生産性を高めるだけでなく、製造コストを抑えられるものなので、結果としてダイハツのクルマは「良品廉価」となっている。

 あと、TVなどのニュースで軽自動車が関わる交通事故の模様が流されたりするが、その際、軽自動車の壊れ方が大きく見えることがあり、そこから“軽自動車のボディは普通車に比べてあまり強くない”という印象を持つ人もいるだろう。

 しかし、衝突実験の決まりでは普通車も軽自動車も同じ値で試験をすることになっているので、試験に合格しているということは基準を満たしているということだ。

 ただし、クルマ同士の衝突事故では相手の質量が衝撃に影響するので、重いクルマと軽い軽自動車が衝突した際には、軽い軽自動車の方により強い衝撃が加わるようになる。そのため相手のクルマに対して軽自動車の方が壊れ方が大きいということにはなる。

DNGA登場前のクルマだが、開発者が「良品廉価の代表作」と呼ぶのがミライース。低価格設定であり、高い燃費性能、運転がしやすい運転席まわりの作り、そして予防安全機能の搭載などすべて備えた軽自動車。撮影車はG“SA III”、ボディカラーはスカイブルーメタリック
ミライースのインテリア。豪華ではないが質感のあるデザイン。運転しやすさを追求しているのでペダルの角度なども操作しやすいように練られている。また、シートも形状はシンプルながら高さを調整できるリフターを装備している
ミライースのステアリングまわり。メーターパネルは液晶タイプ。数字などは白色であらゆる条件でも見やすい
DNGAプラットフォーム採用のロッキー プレミアムG HEV。ボディカラーはシャイニングホワイトパール。軽自動車よりサイズが大きいので、ロッキーのDNGAは軽自動車用のトレッドやホイールベースを広げた派生版になっている
ロッキー プレミアムG HEVの運転席まわり
プレミアムGという上級グレードなのでデザインや装備はしっかりしている
100%モーターで走行できるe-SMART HYBRID。エンジンを積むがこれは発電用。走行条件に応じてバッテリと1.2リッターエンジンでの発電を使い分けている
HEVはトルクの立ち上がりが早いことから、ホイール締結ボルトの数をガソリン車の4穴から5穴に変えてある

実は同一車種でもキャラクターによって乗り味を変えている

 DNGAにはサスペンションの構造も含まれるが、サスペンションを構成するショックアブソーバーやスプリングまで同一ということではない。これは軽自動車と普通車で分けているというレベルではなくて、例えば「ムーヴキャンバス」は女性に選ばれることが多いことから、女性が心地いいと感じる乗り心地のよさに仕上げている。対してSUVである「タフト」では走りのよさを楽しみにするユーザー層を意識して操縦安定性が高い方へ振ってあるという具合だ。

 さらにいうと、同じタントのシリーズでもタイヤサイズが14インチのモデルと「タントカスタム」という15インチのモデルがあり、タイヤの特性的には15インチの方がスポーティであるため、乗り味はタントカスタムの方が操縦安定性を高めるセッティングにしてあるという。

 そんな味つけの違いもあるので、クルマの購入を検討するときは、エクステリアやインテリアデザインだけで決めず、できれば試乗車に乗って自分の感性に合う乗り味かどうかを確認したいところだが、乗り味を確認するといっても違いが大きいというものではないはずだ。そこで今回の取材会では「乗り比べ」のときにどういうところに気をつけて乗ればいいのかを車両性能評価を行なっている方に聞いてみた。

 クルマの走りを評価するポイントはたくさんあるそうだが、その中でも分かりやすいのが発進や停止のときに起こる縦方向の動き(ピッチング)の評価。そして、路面が波打っているようなときに感じる揺らぎ(アンジュレーション)の評価だ。このときのポイントは「目線」を安定させること。目線の移動が大きいほどドライバーに不安感を持たせてしまう要因になるので、ダイハツではサスペンションの味つけがどの方向であっても、目線の移動が不快に感じることのないように仕上げているという。

 そういうことであれば、われわれユーザー側が乗り味を確認するときも、まずはピッチングとアンジュレーションをチェックしてみるといい。

 そしてそのときの運転のコツは、安全に走行できる状況であることを確認したうえで、なるべく頭の位置を固定しつつ視点がブレないようにすることだそうだ。

 なお、その際はシートに深く腰掛ける、ステアリングを持つ腕に余裕を持たせるなどクルマの動きを感じやすい乗車姿勢を取ること。そうしたうえで自分にとってどのような動きが合っているかを感じてみると、自分なりの「乗り心地がいい」が見つかるかもしれないので、試乗の機会があれば試してほしい。ちなみにそんな横比較ができるのは走りの大元であるプラットフォームがDNGAという共通のものであるからだろう。

今回の展示車の中で軽乗用モデルの撮影題材として選んだのはタントシリーズの「ファンクロス」。自然吸気エンジン、2WD(前輪駆動)、CVTでボディカラーはレイクブルーメタリック。ファンクロスもプラットフォームにDNGAを採用している
ダイハツはファンクロスについて“このクルマを選ぶことでなにかできそうだ”と感じてもらえるよう、タントに対して演出や装備を追加したモデルと表現。スポーティというかタフなイメージなので、乗り味がどんなものか試乗の機会があればチェックしてほしい

実はお金がかかっている軽自動車のエンジン

 次にエンジンについて聞いてみた。ご存じのとおり軽自動車の排気量は0.66リッターと小さいものだが、海外向けのモデルになると0.66リッターである必要がないので排気量は大きくできる。そして各国で発売されるので生産台数も増えるため製造コストは抑えられる。

 それに対して0.66リッターのエンジンは日本用なので数的には海外向けより少なくなるし、排気量が少なくてもパワーやトルクをしっかり出していくためのエンジン開発・製作には別途のお金も時間もかかる。そのため、ダイハツ側は「実は軽自動車のエンジンは普通車のエンジンと比べて製造コストが高い」と説明した。

 また、エンジンを構成するパーツ、例えばクランクシャフトやメタルなどの材質や精度は、排気量の違いによって変えていることはない。世の中では軽自動車のエンジンは普通車のエンジンより傷みが早いと言われることもあるが「軽自動車のエンジンが傷みやすい」ということはないということだ。

 ならばなぜそんな話が出るかというと、軽自動車は排気量が少ないぶん常用するエンジン回転域が普通車のエンジンより若干高いから。また、仕事で使われることも多いので使用環境も厳しいことがある。そんな状況ではエンジンオイル交換などのメンテナンスは普通車以上に大事だが、そこが十分ではなかったということが多かったのかもしれない。

タント ファンクロスの水冷直列3気筒12バルブDOHCのKF型エンジン。撮影車は自然吸気だが、インタークーラーターボエンジンの設定もある。排気量は小さいが性能を出すための作り込みが多く盛り込まれる高性能エンジンだ

基本的な使いやすさを抑えてから車種ごとの彩りを加える

 タント ファンクロスのインテリアを見てみると、タントとしての使い勝手のよさに加えて遊び心もある作りなので、それこそ幅広いユーザーにマッチするものに見える。そこで今度はタント ファンクロスを通じてダイハツ車のインテリア作りについて聞いてみた。

 軽自動車は日常使いのよさが大事と考えるダイハツは、ベースとしてまずそこを考えていた。なお、この日常使いという意味は単に使い勝手がいいというだけでなく、タントのユーザーになるであろう子育て世代にとって保育園や幼稚園への送り迎えのときに便利だったり、高齢の親御さんがいる家庭であれば年配者でも楽に安全に乗り降りできたりすることなども含まれる。

 そうした“使い勝手がどうか”という面は設計の現場でも十分に考えるところであるため、ダイハツでは一般ユーザーを招いて車体のモックアップなどに実際に乗ってもらって意見を聞くということもやっている。そういう場では例えば「ドアの開口部は広くていいが、つかまるところがないと乗り降りしにくい」という意見もあり、そういうものを多く集めてクルマ作りに反映しているとのことだった。

 そしてそのうえで“彩りを加えた”カスタムやファンクロスといったモデルを追加して、ユーザーに「このクルマを買うことでなにかできそうだ」と感じてもらえるようにしているとのこと。

 また、タントを含めてダイハツの軽自動車は女性に選ばれることも多いが、女性は男性に比べて小柄な人も多い。そこで小柄な人でも運転しやすくする機能として、レバー操作によりシートの座面の高さを調整できるシートリフター機構を幅広い車種に採用している。これにより身長が150cm~185cmくらいまではカバーできるシートとしているそうだ。あと、重要なこととしてアクセルやブレーキのペダルの位置がシートに座った際に自然に操作できるかというところだが、これはシートに座った状態で体のちょうど真ん中あたりにブレーキペダルがあるよう設定してあるので、無理ない姿勢でペダルの操作できるものとなっている。

タントシリーズは助手席側はピラーレスで広い開口部を持つ。運転席、助手席はシートヒーター付き。ファンクロスでは、すべてのシート表皮は撥水加工のフルファブリックとなる
運転席は後方に540mmもスライドする。いちばん下げると運転席から後席へウォークスルーでアクセスもできる。助手席は前方へ380mmスライドするので、左後席の足下を広々使うこともできる
ユーザーの声を参考に追加された装備。後席への乗り込みを容易にするグリップ
シートリフターが付いている車種ではドライバーの身長に合わせて座面の高さが調整できる。ダイハツのシートリフターは座面の角度があまり変わらず上げ下げできるので、座ったときの違和感がない。これはもっとも下げた状態。身長は約185cmに対応
座面をもっとも上げた状態。身長約150cmに対応。シフトリフターのレバーはシート横にあるもの。レバーを何度か操作することで、座面の高さを細かく調整できる
タント ファンクロスのインパネ
ステアリングの左に[スマアシ](予防安全・運転支援機能のスマートアシスト)の操作スイッチがある。ステアリングスポークが平行になっているのは直進状態で握ったときにスイッチ操作をしやすくする意味がある
以前のダイハツ車ではメーターの表示色がアンバーであることが多かったが、情報をより読み取りやすくするために、現在は白色になっている。ただ、コストの面では白色の照明の方が負担が大きいそうだ
車内の物置スペースや収納スペースの充実度も大事なポイントだ。車内ではちゃんとしまっておきたい物と、ポンと気軽に置きたい物がある。そこでフタが付いた収納と物を置くためのトレイの両方を用意。タント ファンクロスの助手席では、インパネの上部に物を置くためのトレイを設置。そしてその下には取扱説明書なども入るフタ付きの大きなグローブボックスを用意している
軽自動車はボディの大きさが決まっている。その中で居住性のよさなどを求めるのだが、同時に収納のことも考えなければいけない。そのため、小さいスペースでも有効に活用する工夫があちこちに見られる。タントシリーズでは黒色の内装カバーと白色の内装カバーの合わせ部分にできた段差を利用して、後席に座った人がスマホを置けるようにしている