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亡きご子息のS130型フェアレディZよ、よみがえれ―― 日産京都自動車大学校で完成報告会

2025年3月24日 開催
「Z復活プロジェクト」完成車両報告会が専門学校 日産京都自動車大学校で開かれた

不慮の事故、そして西日本豪雨

 専門学校 日産京都自動車大学校(京都府久世郡久御山町林)は3月24日、「Z復活プロジェクト」完成車両報告会を開催した。

 このプロジェクトは2018年の平成最大の豪雨といわれる西日本豪雨で水没したS130型フェアレディZを、日産京都自動車大学校の学生らがレストアし復活させるというプロジェクト。

 このS130型フェアレディZのオーナーは山本晃司さん。香川の託間電波工業高等専門学校(現香川高等専門学校)に通っていたが、1997年にバイク事故で他界されてしまった。これを機に、ご両親である山本夫妻は「晃司のために」と自宅を新築された。

 この新築の自宅には2階に晃司さんの部屋が作られ、クルマ好き、バイク好きの晃司さんの所縁の品々、写真などが所狭しと飾られ、晃司さんが大好きだったというS130型フェアレディZは車庫に保管。車体も一度再塗装されたり、たまにエンジンをかけたりして手入れをしていたという。

 だが、2018年7月の西日本豪雨で山本夫妻の自宅1階部分が完全に浸水、2階の晃司さんの部屋で思い出の品に囲まれながら救助を待った。その際にS130型フェアレディZも完全に水没した。所縁のある人や亡き晃司さんの友人が集まり、浸水した自宅の立て直しを手伝っている中、無残なS130型フェアレディZが発見された。

 2019年、山本夫妻はS130型フェアレディZを「処分するか」と決意し、「整備を学ぶ学生さんの勉強材料になるなら」と、ボランティアできていたトヨタ神戸自動車大学校の人に相談をもちかけた。そこで「S130型フェアレディZなら日産さんにお話しした方がよいのでは」ということとなり、そこで山本夫妻は日産京都自動車大学校に相談の連絡を入れた。これを機にスタートしたのが「Z復活プロジェクト」である。

「Z復活プロジェクト」は授業の一環ではなく有志学生による課外活動。しかもスタートした2021年6月はコロナ禍真っただ中で、学科はともかく実習まで一部オンライン授業となっていて、活動には制限がかかっていた。その中でも34期生の35名が活動に参加したという。水没した車両のレストアは一筋縄ではいかないものだったが、車体の各部や部品の洗浄、エンジン全分解、各部点検、修正などが行なわれていく。

 そして2023年、34期生が卒業となるため新たに入学してきた新入生に有志を募った。34期生の多くは上級課程に進学する学生で、作業の進捗状況などの引き継ぎを行ないながら新たに36期生18名による活動がスタートした。

 しかし作業は思うように進まない。そもそもS130型フェアレディZの資料がなく、インターネットで調べるのにも限界があった。そこで救いの手を差し伸べたのが日産名車再生クラブ代表の木賀新一氏(日産モータースポーツ&カスタマイズ 専務執行役員/SUPER GT 日産系チーム総監督)だ。木賀氏は日産京都自動車大学校へ行きアドバイスを送るとともに、整備要領書と配線図を手配するなど、活動の強い味方となった。

 また、2024年2月にはS130型フェアレディZが走らなくなって20年以上が経ち、さらに水害での車両のダメージは想像以上だったため部品取り車両を購入。エンジンやトランスミッションのない状態だったものの、最大限活用して作業が進められた。そして2024年5月には新入生が入学、活動希望学生を募り、新たに12名の有志学生が加わった。

 この年、山本夫妻が日産京都自動車大学校を訪れた。その際、お母さまは他界された晃司さんのS130型フェアレディZを学生が作業しているようすを見て、「晃司が夜な夜なZを触っていたのを思い出します。お孫さんはいないのですか? と聞かれることもあって、晃司が元気ならこのくらいの孫がいてもおかしくないのにと思うと涙が出てきました」と話したという。

 その後、木賀氏が2回目の訪問を行なうなどして作業はコツコツと続き、2025年2月にエンジンに火が入る。エンジンがかかってからの学生のテンションは上がり、作業が順調にはかどり、今回の完成車両報告会の開催に至っている。完成車両報告会が行なわれた翌日にはプロジェクトに携わった学生が卒業し、寮を退去してしまうことから急遽3月24日に行なわれることが決まったそうだ。

「Z復活プロジェクト」完成車両報告会で披露されたS130型フェアレディZ
水没からよみがえったS130型フェアレディZ
エンジンも全分解し、各部点検、修正、清掃したのちに組み付けが行なわれた。なお、今回のS130型フェアレディZは後期型で、キャブレターではなくインジェクター仕様だという
内装もきれいな状態に戻された

こんなふうによみがえるなんて思ってもいなかった

日産京都自動車大学校 校長の川嶋則生氏

 完成車両報告会に出席した日産京都自動車大学校 校長の川嶋則生氏は、「車両をお預かりしてはや4年が経とうとしていますが、在校生のみんながバトンリレーのように作業を行ない、ようやくこの日を迎えることができました。この教材を提供いただき、学生、われわれ教員、携わったすべての人が成長できたのではないかと思っています。本当にありがとうございます。5月のZミーティングに出品する方向でご了承いただきましたので、今から楽しみにしています」とあいさつ。

今回のプロジェクトでキーパーソンとなった日産名車再生クラブ代表の木賀新一氏(日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社 専務執行役員/SUPER GT 日産系チーム総監督)
「Z復活プロジェクト」完成車両報告会では、実際にレストア作業に携わった学生からポイントの説明も。またキーの贈呈も披露された

 また、山本夫妻も登壇し、お父さまからレストアに対する感謝の意が述べられるとともに、お母さまは「本当に皆さん、ありがとうございました。息子の写真を乗せ朝晩に話しかけていたクルマが帰ってくる、よみがえったということで何て言ったらいいか。安本先生(指導教員)、校長先生、学生の皆さん、本当に皆さんのおかげです。こんなうれしい日はありません。西日本豪雨で災害にあい、水が1階の天井まできました。水がひいたときに『クルマのエンジンかかるかな?』と言ったら主人に笑われてエンジンなんてかからないよと言われました。ドロドロになったクルマがご縁があって日産さんに引き取っていただいて、そのときは晃司と最後だなあと思っていました。それがこんなふうによみがえるなんて思ってもいなかったです。安本先生に(レストアの)過程を報告いただくたびに『晃司がそこまで帰ってきている』というような感じで、私たちももう少し頑張らないとねと、元気をいただきました。本当にこのクルマを見て、なんと皆さまにお礼をいったらいいか。神さまが与えてくださったチャンスかも分からないし、幸運かも分からないし、うちの息子は大学生のときに死にましたが、でも皆さんがこんなして頑張ってくださって、こういう(水没して)ダメなクルマでも復活できる力があるということで感動しております。私たち夫婦は80代でおっちゃんとおばちゃんでこんな格好ですけれども、息子の晃司は身長も170cmをこしてカッコいいイケメンでした! その息子がこのクルマに乗ったらもう、どんな人でも振り返って見るんじゃないかなと思うくらい、感動です。本当に皆さん、ありがとうございました」と述べた。

何度も学生にお礼を伝える姿が印象的だった山本夫妻

 なお、今回レストアされたS130型フェアレディZはナンバーが付いておらず、これは西日本豪雨の際、書類関係が流されてしまったため。「登録ができて体力があればこのクルマに乗ってみたい」とはお父さまの弁だが、その日がくることを望まずにいられない今回の報告会だった。

お2人でS130型フェアレディZをドライブされる日を楽しみにしています