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シャープ、2027年度までの中期経営計画を発表 EVは事業化できるかを中期経営計画中に見極める方針

2025年5月12日 発表
シャープが中期経営計画を発表。中央はシャープ株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 沖津雅浩氏

車載ディスプレイを強化。亀山第2工場を鴻海に売却

 シャープは5月12日、2027年度を最終年度とする中期経営計画を発表。構造改革を進めるディスプレイデバイス事業において、「車載」ディスプレイを強化し、三重県亀山市の亀山第1工場を車載パネル専用工場として活用する方針などを明らかにした。

 また、2024年9月に発表したEVコンセプトモデル「LDK+」への取り組みについても触れたほか、家庭用テレビ向け液晶パネルなどを生産している亀山第2工場を、鴻海に売却することを発表した。

パネル生産工場の選択と集中

 シャープが発表した新たな中期経営計画は、「再成長」を実現するフェーズと位置づけ、2024年度の「構造改革」のフェーズから、ギヤを一段上げることになる。

 経営指標としては、2027年度には、営業利益800億円、営業利益率7%を計画。売上高は2024年度比で14%減の1兆8500億円を想定している。

「ブランド事業のグローバル拡大と事業変革の加速」「持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築」「成長をドライブするマネジメント力の強化」の3点を、中期経営計画の重点テーマに掲げ、家電やテレビ、PC、スマホ、複合機(MFP)といったSHARPブランド製品による「ブランド事業」へのリソース集中を図る。

 その一方で、2024年度からデバイス事業のアセットライト化を本格化しており、液晶パネルなどのディスプレイデバイスでは、大型液晶パネル生産の堺工場を閉鎖。これらの土地や建物を、AIデータセンターとして、ソフトバンクやKDDIに売却するとともに、エレクトロニックデバイスではカメラモジュールや半導体を事業売却しており、大幅な事業縮小を進めているところだ。

事業別業績見通し

 全体的に縮小路線を進めるデバイス事業ではあるが、今回の中期経営計画のなかでは、ディスプレイデバイスにおいて、車載向けディスプレイを競争優位性が発揮できる事業領域の1つと位置づけて、事業継続を図る考えを示した。

「シャープの次世代コックピットのコンセプトモデル」(2024年9月に開催されたSHARP Tech-Dayの会場で)

 具体的には、亀山第1工場および白山工場を活用。競争優位性を持続できると想定している「車載」「XR製品などのモバイル」「産業用途」に集中した事業展開を進めることになる。

 亀山第1工場は車載パネル専用工場として活用。超低反射やデュアルビュー、クリックディスプレイなど、シャープの特長技術を活用した製品開発を加速するという。これにより、市場が成長している車載用液晶パネルの需要に対応する考えだ。

三重県亀山市のシャープ亀山工場。手前にあるのが車載用専用工場になる亀山第1工場

 また、ベトナムの実装拠点での生産能力を増強。完成品メーカーが、地政学リスクを背景に、部品の調達網を再構築する動きを捉えて、この需要を取り込み、大型および高付加価値の車載ディスプレイの受注拡大を図る考えも示した。調達網の再構築にあわせて、すでに欧米の完成車メーカーから多数の機種の受注を得ていることも明らかにしている。

 2025年度からは車載向けの新規受注を獲得し、製品ミックスの改善により、平均単価を上昇。年平均成長率で10%強の向上を目指していく。さらに2026年度からは、欧州完成品メーカーの主力車種を含む複数車種向けの量産を行ない、同社向けの投入比率比率を45%以上に高めるという。

 同社では、車載用パネルの約9割を液晶パネルが占めていると見ており、亀山第1工場における13型超の売上構成比を2024年度の30%から、55%以上に引き上げる考えだ。

 一方、白山工場では、IGZO技術を導入するなど、シャープの特長技術を結集することで、XR向けの超高精細液晶パネルの量産や、EV向けの車載用超低消費電力ディスプレイ、高画質ePosterなどの高付加価値製品を生産する考えを示した。

亀山第1工場・白山工場の基本戦略

 シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「アセットライト化による固定費削減と、高付加価値商品の販売を拡大することで、2026年度にはディスプレイデバイス事業の黒字転換を目指す」とした。

 亀山第1工場および白山工場の売上規模は、2027年度までに2.3倍となる2500億円に拡大する計画だ。また、ディスプレイデバイス事業全体では、2024年度実績は売上高が4517億円であったが、2027年度の売上高は3100億円へと縮小を計画。だが、営業利益はマイナス261億円の赤字から、2027年度は55億円への黒字転換を目指す。2027年度の営業利益率は1.8%を見込む。

 なお、シャープでは、亀山第2工場を2026年8月までに、鴻海に譲渡する計画も明らかにした。

 沖津社長兼CEOは、「ボラティリティの高い亀山第2工場を譲渡することで、固定費の大幅削減を図ることができる」としている。

 亀山第2工場は、第8世代のパネル生産設備を導入。家庭用液晶テレビ向けパネルを主力で生産してきた。ここで作られた液晶パネルを採用したテレビは、「亀山モデル」として一世を風靡した。

 現在、シャープが提供している重点顧客向けのパネルは、鴻海への譲渡後も鴻海から調達してシャープが販売する予定だが、「鴻海との話し合いによって、重点顧客向けの製造が継続できないということになれば、一定量を作りだめして、それを供給しながら、供給停止に向けた話し合いを進めることなる」とした。

 さらに、スマホやタブレット、PC、車載向けなとの中小型液晶パネルを生産している三重第3工場は、日産1100枚にまで規模を縮小しており、「最終的には試作ラインだけを残すことになる」としている。

「LDK+」の研究開発を推進

 一方、2024年9月に発表したEVコンセプトモデル「LDK+」については、中期経営計画のなかでも研究開発を推進する姿勢を示した。

EVコンセプトモデル「LDK+」

 シャープでは、2028年度以降を「飛躍」のフェーズとしており、EVは、AIデータセンターソリューション、インダストリーDX/ロボティクス、宇宙とともに、新産業領域と位置づけている。シャープの沖津社長兼CEOは、「鴻海のリソースも有効に活用しつつ、新産業領域へのNext Innovationを具現化していく」と語った。

 LDK+では、家の拡張空間として、EVの利活用を提案。鴻海が持つEV設計および生産のノウハウと、シャープが持つAIoT機器および関連サービス、エネルギーソリューションを組み合わせることで研究開発を進めているところだ。

 沖津社長兼CEOは、「EVに関しては、事業化ができるかどうかを、この中期経営計画期間中に見極めることになる」と位置づけた。

 現在、シャープでは、「I-Pro(イノベーションアクセラレータープロジェクト)」による全社横断プロジェクトを3件進めており、EVはそのうちの1つになる。もともとシャープでは、1977年から、緊急性を要する重点製品の開発において、社内から横断的にスタッフを集め、優先的に開発を行なう「緊急プロジェクト(通称・緊プロ)」に取り組んできた経緯があり、300以上のプロジェクトが推進されてきた。「I-Pro」は、これを進化させた新たなプロジェクトと位置づけており、新規事業創出の切り札としている。

さらなる成長に向けて