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日産、経営再建計画「Re:Nissan」説明会 人員2万人削減、工場数削減などを経て2026年度の黒字化を目指す

2025年5月13日 発表
経営再建計画「Re:Nissan」について説明した日産自動車株式会社 社長兼CEOのイヴァン・エスピノーサ氏

 日産自動車は5月13日、2024年度通期および第4四半期決算を発表するとともに、経営再建計画「Re:Nissan」の説明会を日産グローバル本社で開催した。

 社長兼CEOのイヴァン・エスピノーサ氏、最高財務責任者のジェレミー・パパン氏が出席し、2024年度の実績比で固定費と変動費を計5000億円削減すること、人員を2万人削減すること、日本を含め車両生産工場を17から10へ削減することなどが説明され、2026年度までに自動車事業の営業利益およびフリーキャッシュフローの黒字化を目指すことがアナウンスされた。

日産自動車株式会社 最高財務責任者のジェレミー・パパン氏

 2024年度の財務実績としては、グローバルの販売台数は334万6000台となり、2024年度通期の連結売上高は12兆6332億円、連結営業利益は698億円、売上高営業利益率は0.6%となった。当期純利益は-6709億円、自動車事業のフリーキャッシュフローと同営業利益はそれぞれ通期で赤字という結果となった。

 また、2025年度も引き続き競争の激化、為替やインフレ圧力などから厳しいビジネス環境が続くとしており、米国の関税政策への対応として米国生産車両を優先的に販売し、現地生産の最適化、関税の影響を受ける生産の再配分、サプライヤーと連携して現地化を推進し、市場ニーズに迅速に対応するといった対策を講じていく。

 一方で米国関税による環境の不確実性を踏まえ、2025年度の営業利益、当期純利益、自動車事業におけるフリーキャッシュフローの見通しは現時点で未定とした。これについては見通しが立ち次第、アナウンスをするという。

2024年度の財務実績。連結売上高は12兆6332億円、連結営業利益は698億円、当期純利益は-6709億円
2025年度の見通しについて

 この結果を受け、エスピノーサ社長は「2024年度通期の実績は警鐘を鳴らす内容でした。当社の実情は明白です。まず変動費が増加しています。固定費は現在の収益では賄いきれない水準にあります。パパンが申しましたように2025年度は過渡期となります。従いまして慎重を期し、売上高は前年並みを想定しております。現状は明らかで、高コスト構造の問題を抱えています。さらにわるいことに、グローバルな市場環境は不安定かつ不透明な状況にあり、そのような中、計画策定と投資の判断が極めて難しくなっております。従いまして、当社は業績改善をより緊急かつ迅速に進め、優先的に取り組み、販売に頼らず収益を確保できる体質にならなくてはなりません。これが新たな再建計画『Re:Nissan』の目的です」とコメント。

 そのRe:Nissanでは「コスト構造の改善」「市場・商品戦略の再定義」「パートナーシップの強化」を主要な柱とし、2026年度に自動車事業の営業利益とフリーキャッシュフローを黒字に転じさせることを目指す。

2025年度の売上高は横ばいの見通し
Re:Nissanの主要な柱である「コスト構造の改善」「市場・商品戦略の再定義」「パートナーシップの強化」

 まず「コスト構造の改善」については今まで以上に迅速かつ徹底的に進める必要があるとし、「当社の抱える構造的な課題と市況を勘案すると、より大規模なコスト削減を実現する必要があることが分かりました。新たな目標として総額5000億円の削減を掲げています。これには変動費を2500億円、固定費を2500億円削減することが求められます。変動費の削減目標を引き上げ、2027年度にさらに改善を図り、しっかりとした持続可能な収益性の確保を目指してまいります」と説明。

2026年度までに変動費を2500億円、固定費を2500億円削減する目標

 また、変動費削減を実現するためには専用のプログラムとタスクフォースがなくてはならないとし、すでに新たな変動費改革プログラムを確定し、開発およびコスト効率の最大化に向け取り組みを進めているという。そしてもう1つ重要な領域としてサプライチェーンを挙げ、「ベンチマークを行ないながらサプライベースを見直し、より少ない数のサプライヤーでより多くの量を確保し、効率化を図ってまいります。実用的な成果を目指し、社内基準も見直してまいります。これにより3年間で10%の削減を目指し、2027年度にはさらに大幅な削減が期待できます」という。

 同時に固定費削減の効率化も進め、生産体制の改革も行なう。これには国内を含むグローバルな車両およびパワートレーン工場の集約が含まれ、これにより車両工場数を17から10に減らすと同時に、稼働率を2027年度に100%へ引き上げる予定。さらに2027年度までに生産能力を250万台に削減し、需要の増加に合わせて50万台の上方余力を持たせ、必要に応じてパートナーの工場を活用していくとした。

 すでに決定した内容としては、アルゼンチンからメキシコへピックアップトラックの生産を集約すること、パートナーのルノーとインド事業を再編すること、そして国内に建設を予定していたリン酸鉄リチウムイオンバッテリ工場への投資を断念するが挙げられた。また、Re:Nissanの一環として、生産拠点の集約を中心とする人員の最適化をさらに進める必要があるとし、「目標を見直し、2027年度までにグローバルで2万人を削減(発表済みの9000人の削減を含む)することといたしました。うち約65%は生産機能、18%は販売管理機能、17%は契約スタッフを中心とする研究開発機能です。本決定は業務効率を向上させ、長期的な持続可能性を担保するために不可欠です。しかしながら、実行にあたり対象となる従業員には必要な支援を行なってまいります。以上の取り組みに加え、労務費の削減、シェアードサービスのさらなる活用、そしてマーケティングの効率化を進めてまいります」と述べた。

車両工場数を17から10に減らすと同時に、稼働率を2027年度に100%へ引き上げる
2027年度までにグローバルで2万人を削減(発表済みの9000人の削減を含む)する

 また、開発の分野では、人員の時間当たりの平均単価を20%削減することを目指し、研究開発拠点を合理化し、グローバルな研究開発体制の中で最も競争力のある拠点に業務を割り当てていく。加えて2つの主要分野で種類削減に取り組むとし、1つ目は部品種類で、部品種類は70%の削減を目指す。2つ目はプラットフォームの数で、エスピノーサ社長は「プラットフォームの削減には時間がかかりますが、削減すれば開発負荷の低減につながります。グローバルな車両プラットフォームの数を2035年度までに13から7とほぼ半減させる予定です」と説明。加えてリードモデルの開発期間を37か月、後続モデルの開発期間を30か月へと短縮する取り組みを進め、このプロセスで最初に投入される車種として新型スカイライン、新型日産グローバルCセグメントSUV、新型インフィニティ コンパクトSUVの3モデルを挙げた。

開発スピードを上げて新型スカイライン、新型日産グローバルCセグメントSUV、新型インフィニティ コンパクトSUVを導入する
実行計画
開発戦略

「パートナーシップの強化」としては、力強い商品ラインアップを必要とすることから日産ではコア市場に向けた商品開発に集中する一方で、その他市場やニーズについては複数のパートナーの力を借りるとし、「たとえば欧州ではルノーと、アメリカでは三菱自動車と、そして中国では東風日産と協力してまいります。以上のように、複数のアプローチで異なる市場をカバーし、アメリカでは環境の変化に対応するべくさらなる協業の可能性を模索してまいります。市場と商品の優先順位をつけることで市場の動向に合わせて適切なクルマを適切な市場に適切な価格で、需給のバランスをとりながら販売してまいります。つまり、地域ごとに戦略を立てるということです。アメリカではクロスオーバーとSUVに集中します。またハイブリッドを増やし、インフィニティのプレゼンスを強化する計画です。国内では日産ならではのブランド力を取り戻し、より大型のクルマとシグネチャー技術をてこに、平均単価の改善を図ります。中国では合弁会社をより有効活用することでコストを抑制し、新エネルギー車の生産を最適化してまいります。成長著しいインド市場では商品ラインアップを刷新し、アライアンスのシナジーの最大化を図ります。その一環として、インドの工場の持ち株をルノーに売却いたしました。いずれ同工場でアライアンスパートナーに次世代の日産車の生産を委託し、輸出の好機をつかんでまいります。欧州ではサンダーランド工場で電動車両の生産を増やし、プレゼンスの強化を図ります。また、ルノーとのアライアンスパートナーシップを生かし、ルノーの組立ラインやEVアーキテクチャを活用してまいります。メキシコおよび中東では、現在ある強いブランド力を生かし、利益ある事業を維持してまいります」と、各市場での動向について述べる。

主要市場戦略

 そして「端的に申し上げると、商品に関わる取り組みは、日産の心臓の鼓動をより強くすることが目的です。商品ポートフォリオに向けた投資は次の3つの目的を中心に優先させてまいります。第1に既存のお客さまにとって価値のあるクルマをご提案することで、既存のお客さまを維持し、事業の強化に努めます。第2にターゲットを絞り込んだ市場で新規のお客さまを獲得するべく地理的およびセグメントの拡大を図ります。第3にアイコニックなモデルを対象とする販売マーケティングの取り組みを強化します。アイコニックモデルはまさに日産の心臓の鼓動です。これらのクルマで日産ブランドに対するお客さまの情熱に再び火をつけていきます。当社はこれら日産の心臓の鼓動を象徴するアイコニックなモデルに誇りを持っています。これらのクルマはまさに日産の真のDNAを体現しているからです。アイコニックなモデルは販売台数のみならず、アイコニックなデザインエンジニアリングの志、そして何よりも日産の価値観を体現しています。また、パートナーシップを生かし、さまざまなセグメントや地域に対し投資の最適化を行なうことで、当社はコアとなるプロジェクトにリソースを振り向けることができます。当社はコアモデルに集中する一方で、パートナーとの協業を通じて車両の開発を補完してまいります。ルノーとは欧州、インドそして中南米で協力関係を強化してまいります。三菱自動車とホンダさんとは、知能化と電動化の分野での協業の可能性を検討しております。三菱自動車とはピックアップとEVバッテリの共用で協力を進めており、アメリカの市場の変化に対応するべく積極的に協業の可能性を模索してまいります」とも説明した。

商品戦略
パートナーシップによる補完

 エスピノーサ社長は最後に、「日産の業績回復は急務です。当社の未来を守るためには、より踏み込んでより早く取り組みを進めていかなくてはなりません。現時点の赤字から上昇していかなくてはならないのです。今後は現実に即したRe:Nissanリカバリープランを断固たる取り組みで実行してまいります。計画達成はたやすいことではありません。全社を挙げて献身的な活動を進め、規律をもって多大な努力をすることが求められます。しかしながら、日産の再生に必要なものはそろっていると信じております。改めてビジネスパートナー、ステークホルダー、そして今後ご協力いただくパートナーの皆さまにご協力を賜りたくお願い申し上げます。日産従業員とベクトル合わせ、日産をあるべき姿に戻します。以前申し上げましたように、ワンチームで協力する限り参加できない競争はありません。今日から私たちは日産の未来を切り開いてまいります」と力強く宣言した。

「今日から私たちは日産の未来を切り開いていく」と力強く宣言