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“おいしいダウンサイジング”、マツダのダウンサイジングターボ「SKYACTIV-G 2.5T」を人見光夫氏が語る
ディーゼルより軽量な250馬力エンジン。スポーツモデル搭載の可能性は?
(2015/12/14 00:00)
- 2015年12月 開催
マツダがロサンゼルス オートショーで世界初公開した新型SUV「CX-9」。マツダのSUVとしてフラグシップとなるモデルで、アンベールされた新型CX-9には現行と異なり、V型6気筒 3.7リッター自然吸気エンジンに代わり、新開発の直列4気筒 2.5リッター 直噴ターボエンジン「SKYACTIV-G 2.5T」が搭載されていたのが大きな話題となっている。
この新エンジンの仕様は、排気量2488cc、ボアxストローク89.0mm×100.0mm、圧縮比10.5、オクタン価87のガソリンで最高出力(ネット)169kW(227HP)/5000rpm、最大トルク(ネット)420Nm(310ft-lb)/2000rpmと発表。オクタン価93のガソリンでは250HPを発生する。
この新型エンジンに関する説明会がマツダ東京本社内で開催され、パワートレイン開発・統合制御システム開発を担当するマツダ 常務執行役員 人見光夫氏が詳細な開発背景を語った。
ダウンサイジングターボとSKYACTIV
人見氏はマツダの新世代エンジン「SKYACTIV(スカイアクティブ)」シリーズの開発を率いてきた人物だ。ガソリンエンジンのSKYACTIV-Gは、これまでのエンジンより高圧縮比化することで熱効率を改善。優れた燃費性能を実現している。SKYACTIV-Gは排気量によって圧縮比が異なるが、今回取り上げる2.5リッタークラスの直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5(PY-VPS型)」では13.0となっている。
人見氏は「過給ダウンサイジングを意味あるエンジンにするには?」というタイトルでSKYACTIV-G 2.5Tに対する解説をスタート。マツダのエンジン開発を率いる人見氏の考えを、詳細な資料とともに示した。
今回の説明会がこのようなタイトルになっているのは、「マツダはこれまでダウンサイジングターボエンジンをやらないと言っていたのでは?」と思われていた背景があるとのこと。人見氏自身は、マツダにはスーパーチャージャーなどさまざまな過給エンジンを手掛けてきており、そのような発言はとくにしていないと言い、マツダのこれまでの過給エンジンに対する取り組みの解説を始めた。
1980年代からのターボ。ただし圧縮比が低く効率がわるい
人見氏は、1980年代に始まった日本のエンジンのターボ化から解説。日本の市販車のターボ化は現在と同様“燃費によい”がウリで始まったが、圧縮比が7後半から8であったため実用燃費がわるかった。そこで、手掛けたのが高圧縮比スーパーチャージャー。これであれば低速トルクとレスポンスをスーパーチャージャーで補い、掃気効果で圧縮比低下も回避できるという。
次にダウンサイジング比率と圧縮比低下のスライドを示し、50%ダウンサイジングで45%圧縮比が低下するため、2.5リッターから1.4リッターとなる50%のダウンサイジング率は“やり過ぎ”と表現していた。
いずれにしろダウンサイジングを行なうと高圧縮による高温となるため、耐ノッキング性能(以下、耐ノック性能)が悪化する。この際に燃焼時の残留ガスが占める影響も大きく、残留ガスが10%あると吸気温度72℃上昇と等価になるという。
ならば、残留ガスを半減すれば圧縮比を3上げることができ、直噴化による潜熱効果でさらに1程度上げられるとし、そのために必要なのは排気が詰まるターボではなく、機械式スーパーチャージャーとのこと。機械式スーパーチャージャーなら可能と見て開発を行なっていたという。そしてこの時代に考えついていたのが「クールドEGR」。これを使えば、ノッキング抑制、エンジン内部温度低減、排ガス温度低減、NOx低減のメリットがある。“これはいつか使える”と思っており、SKYACTIVにも使われているのはよく知られているとおりだ。
但し、この比較は通常のガソリンエンジンとの話。マツダが開発したSKYACTIV-Gエンジンとの比較となると、燃費的にSKYACTIV-Gエンジンのほうがよいという。過給ダウンサイジングでは軽負荷時の燃費はよくなるものの、高負荷領域の燃費はSKYACTIV-Gエンジンに比べて悪化。その結果、軽負荷時の領域を使うモード燃費はよいものの、実用燃費のよくないエンジンになるという。2.0リッターのSKYACTIV-Gエンジンに気筒休止システムを組み込めば軽負荷時も燃費が改善し、全域で3気筒1.0リッター、4気筒1.4リッターの過給ダウンサイジングエンジンに勝てるという。
人見氏はここで問題点を整理し、過給ダウンサイジングでは、「実用燃費がよくない」「低速レスポンスがよくない」「コストが高い」の3つを提示。これが解決できるのであれば、過給ダウンサイジングをする意味があるとした。
“おいしい領域”であれば過給ダウンサイジング可能
人見氏が解決方法として示したのは、「ダイナミック・プレッシャー・ターボ」「クールドEGR」「V型から直列」「適度なダウンサイジング比率(比較的大きな排気量)」の4つ。これで、前述した3つの問題点を克服できるという。
ダイナミック・プレッシャー・ターボは、排気管に細いものを別途用意することで排気速度を向上し、別の気筒の排気に対して掃気効果を得ようというもの。通常の排気管と細い排気管は弁で切り替えを行ない、1620rpm以下の低速域では、タービンの手前に設置したバルブを絞ることで流速が速くなるようコントロールしていく。これを1番、2番と3番、4番の3つの気筒に用いることで、SKYACTIV-Gエンジンで採用している4-2-1排気管の倍程度の掃気効果が出ていると考えられるとし、これであれば3割ダウンサイジングしても1.5程度の圧縮比低下で行けると目処を立てた。
ただ、1.5程度の圧縮比程度による効率の悪化は避けられない。この効率低下をV型6気筒から直列4気筒にエンジン形式を変更することで得られる機械抵抗低減で補っている。SKYACTIV-GエンジンのV6 3.7リッターに対して、高負荷領域ではさすがに負けるものの、直4であればある程度補えるとした。
また、クールドEGRを使うことで、単気筒容積の大きくなる直列4気筒2.5リッターエンジンの排ガス温度上昇を抑制でき、理論空燃比(ガソリンにおいては14.7、ストイキオメトリであることからストイキとも呼ばれる)での運転領域を拡大。リッチ領域(燃料をストイキより濃くして潜熱効果を得る)を減らすことができ、燃費もこれまでの技術より改善するという。
とくにV6→直4化によるメリットで大きいのは、SKYACTIVで必須となっているVVTなどの高価な部品を半減できること。直噴用の高圧レールも「結構高い部品」といい、重量面でのメリットも出てくる。その結果、「実用域の走りはV型6気筒 3.7リッターエンジン以上で燃費は大幅改善」した直列4気筒 2.5リッター 直噴ターボエンジン「SKYACTIV-G 2.5T」が生まれた。
人見氏の挙げたメリットを考えると、V6→直4化を行なえる領域がマツダの考える過給ダウンサイジングポイントになる。SKYACTIV-G 2.5T以外の排気バリエーションについて訪ねたところ、「V6 3.7リッターがなんとかなればええんです」という回答を得ることができ、振動面での問題が厳しい直4 3.0リッターや、3割ダウンサイジングでV6→直4化が起きにくい直4 1.4リッターの過給ダウンサイジングはあり得ないのであろう。
SKYACTIV-G 2.5Tの重量面については、ディーゼルターボのSKYACTIV-D 2.2よりは軽く、自然吸気ガソリンのSKYACTIV-G 2.5よりは重いとのこと。CX-9の日本市場投入がないことをマツダは明言しているが、それ以外の車種へのSKYACTIV-G 2.5T搭載については何も語られていない。SKYACTIV-D 2.2よりも軽いということは、現在SKYACTIV-D 2.2が搭載されている車種へのSKYACTIV-G 2.5T搭載のハードルは低いことになる。また、機械的強度に影響する最大トルクについても、SKYACTIV-D 2.2とSKYACTIV-G 2.5Tは同じ420Nmで、まるであえて揃えたかのような数値になっている(主にトランスミッションからの要求かもしれないが)。
SKYACTIV-G 2.5TのシリンダーブロックはSKYACTIV-G 2.5と同一、SKYACTIV-D 2.2よりフロントが軽く、馬力も250馬力(レギュラーは227馬力)となる。「アテンザ」であればそのまま搭載できる範囲にあるだろうし、「アクセラ」でも搭載にムリはないだろう。であるなら、「マツダスピード○○」のような車種の登場には期待したいところだ。
しかし、マツダの方針としてディーゼルエンジンによるモータースポーツ参加を現在行なっている(スポーツイメージの向上)最中でもあり、市販されるかどうかは市場の要望次第だろう。また、CX-5とアテンザでは同じSKYACTIV-G 2.5でもエンジン特性の違いかエンジン型番が異なる。SKYACTIV-G 2.5TもCX-9から別の車種に搭載される際は、型番変更を伴うエンジン特性の変更が必要になるかもしれない。CX-9の日本市場投入はないと明言されている以上、SKYACTIV-G 2.5Tを日本で楽しめる車種の登場に期待したい。