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マーレ、トラック用「水素エンジン部品」やフクロウやペンギンから発想を得た「ファン」など人とくるまのテクノロジー展2025横浜で初公開
2025年5月22日 18:59
- 2025年5月21日~23日 開催
- 入場無料(事前来場登録制)
トラック用水素エンジンのパーツをサポート
ドイツの自動車部品メーカー「MAHLE(マーレ)」は、パシフィコ横浜で開催されている「人とくるまのテクノロジー展2025 YOKOHAMA」に、高効率で持続可能な内燃エンジン、熱管理、電動化の3つの戦略分野に注力したブースを出展している。
マーレは2024年11月に、ドイツのトラック&バスメーカーMANから水素エンジン用部品の受注を獲得。2025年後半に登場する予定の水素エンジン搭載トラック「hTGX」にその部品が使用されるという。
水素燃焼エンジン「H45」は、実績のあるディーゼルエンジン「D38」をベースとしていて、ニュルンベルクのエンジン・バッテリ工場で生産される予定。水素は燃えやすい特徴があり、エンジン下部のクランク室にある潤滑オイルが、熱で気化してシリンダーとピストンの隙間を通過して燃焼室に入ってしまうと、水素に通常点火する前に異常燃焼してしまうのが課題の1つ。もしそうなったら上向きに動いているピストンに下向きの力が強制的に働き、最悪の場合エンジンが壊れてしまうという。
また、水素は分子が小さいので漏れやすい(狭い隙間を通りやすい)のも特徴で、正常に燃焼してもガスの一部がピストンとシリンダーの隙間からクランク室へ入り込んでしまう(=ブローバイガス)こともある。このブローバイガスの中には未燃焼の水素が残っているため、再度燃焼室へ送って完全燃焼させる必要があるが、水素は燃えやすい特徴もあり、ブローバイガスとはいえ水素濃度が約4%に達すると自然発火してしまうという課題もあり、ブローバイガスをそのまま吸気口へ戻すと燃焼室へたどり着く前にエンジンルーム内で発火してしまう危険性があるという。
そこでマーレはピストンリングやシリンダーにダイヤモンドとグラファイトの両方の特性を持つ薄膜を金属表面にコーティングする表面処理技術「DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティング加工」を施し、潤滑オイルの燃焼室への侵入、ブローバイガスのクランク室への侵入をできる限り減らしつつ、吸気口へ戻すブローバイガスのパイプには、強制的に外気を送り込んで気体を希釈する電動ブロワー「ハイプレッシャーインパクター」を装着することで、水素濃度が4%になるのを阻止する仕組みを開発。水素センサーでセンシングして濃度を常に管理することで、潤滑オイルの消費を減らしつつ、水素の安定した燃焼サポートを実現している。
また、金属は水素を吸収することによって靭性(ねばり強さ)が低下してしまい、もろくなる現象=水素脆性(すいそぜいせい)が起きるが、これもピストンリングなどと同様にDLC加工を施すことで予防しているという。
バルブもガソリンや軽油なら液体なので若干潤滑効果があるが、水素は気体のためまったく潤滑効果がないので、ここにはマーレがCNG(Compressed Natural Gas=圧縮天然ガス)エンジンで培ったノウハウを生かし、バルブへのダメージを最小限にとどめるように加工が施してある。
自然界のデザインから発想を得たアイデアを採用
電動車両に使用されるリチウムイオン電池は、温度に非常に敏感で、急速充電などの過酷な条件下でも、セル温度は長時間にわたって40℃を超えてはいけないし、すべてのセルの温度分布は可能な限り均一なのが望ましい。
それを実現するためエンジニアは、バッテリを冷やすための冷却材が流れる水路に、サンゴの形状を生かしたデザインを採用。結果的に冷却性能10%向上、圧力損失20%低減。さらに、バッテリ効率の向上、充電の迅速化、耐用年数の延伸、プレートに使用する材料を最大15%削減、CO2排出量15%削減と、大きな恩恵をもたらした。
2024年8月に発表したのが、商用車の静粛性を大幅に向上させる「バイオニック高性能ファン」で、エンジニアたちは世界で最も静かな鳥類の1羽であるフクロウの羽根の騒音低減効果から着想を得て、「バイオニックファンブレード」を開発。トラックのファン騒音を最大4dB(A)低減するという。また走行時だけでなく、住宅街やSS(サービスステーション)での休憩時間、夜間の充電時にも気になるファン騒音の問題を解決してくれるほか、従来の設計品と比べて10%の性能向上と10%の軽量化も実現している。
2025年4月に発表したばかりなのが、水中を素早く滑空するペンギンのヒレをモデルに空気力学的形状を設計した「バイオニックラジアルブロワー」で、インペラを最適化する際のモデルにペンギンのヒレを参照。類似品と比較して4dB=60%静かになるほか、最適化された設計によってモーターのエネルギー消費も減り、約15%効率が向上するとしている。
熱ダレしにくく93%の高い連続ピークパワーを実現
電動化製品のトピックは、2022年7月に発表した「SCT(Superior Continuous Torque)E-motor」で、コンパクトで軽量な設計にもかかわらず、連続出力はピーク出力の90%以上となる93%を誇る。
中心にあるシャフトから空気とオイルの混合液を入れ、回転によってオイル内の空気がバブル(泡)化し、それを循環させることで高い冷却能力を発揮。高温による熱ダレを抑制することで、長時間ピークパワーを発揮できるのが最大の特徴。乗用車以外にも、商用車、建設機器、トラクターなどの用途が期待されている。