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歴代ロードスターを感じられるスニーカー「SP-MX5」誕生秘話 マツダデザイナーが譲れなかった“こだわりポイント”とは?

2025年5月25日 発売
2万6500円
左から、レザースニーカー「SP-MX5」の開発に携わったマツダ株式会社 デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー 菊地有美子氏、株式会社スピングルカンパニー FW事業本部 商品企画部 小畑健氏、マツダ株式会社 デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー 寺島佑紀氏

広島&もの作りにかけるこだわりと情熱が融合

 マツダはオープンスポーツカー「ロードスター」とスニーカーブランド「スピングル」がコラボレーションしたレザースニーカー「SP-MX5」の発売に合わせて、東京都南青山にあるブランド体感施設「MAZDA TRANS AOYAMA」にて商品説明会を実施。

 スピングルカンパニー FW事業本部 商品企画部の小畑健氏、マツダ デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナーの寺島佑紀氏と菊地有美子氏が、コラボの経緯や開発から完成までの苦労話、商品のこだわりを語った。

東京都南青山にあるブランド体感施設「MAZDA TRANS AOYAMA」にて商品説明会を実施

 今回のコラボ相手のスニーカーブランド「スピングル」を手掛ける企業スピングルカンパニーは、1933年から広島でゴムの製造や加工を主事業としている日満護謨工業(現:ニチマン)が1997年に設立。2002年に自社ブランド「スピングルムーヴ」を立ち上げスニーカーの販売を開始した。

 2024年にブランドを「スピングル」へとリニューアルしつつ、子供用から大人用、サンダル、婦人靴、紳士靴、ゴルフシューズなど、スニーカー以外にも幅広いカテゴリーの靴を開発・製造し、近年ではゴムとセルロースナノファイバー(CNF)を混ぜた新たな靴底「CNFソール」の開発なども行なっている。

 現在は国内15店舗、海外8店舗を構えるほか、2025年7月1日に広島県府中市にオープンする市民プールのネーミングライツも取得し、「SPINGLE ウェルネスセンター gym&swimming」と命名するなど企業として精力的に活動している。

スピングルカンパニーの入口看板には「Nichiman(ニチマン)」の文字も入っている
ニチマンは重歩行に耐えられる耐摩耗性の優れた「天然ゴムタイル」などの製造を手掛けている。天然ゴムを使用したゴムタイルは、ソフトな弾力性と防滑性で安全性が高く、子供が転んでもケガをしにくいほか、野球場やサッカーグラウンドの控室などで選手がスパイクを履いたままでも歩きやすいといったメリットもある。この天然ゴムタイルは、地元広島のエディオンピースウイング広島やマツダスタジアムをはじめ、札幌ドーム、東京ビッグサイト、キッザニア東京、パシフィコ横浜、長野県立美術館、インテックス大阪など、多くの施設に採用されている

 そのスピングルカンパニーとマツダの出会いは、日比谷にある東京ミッドタウンで毎年(コロナ禍は除く)開催されているアートイベント「デザインタッチ」で、広島のもの作りにフォーカスしたトークショーでのこと。そこでスピングルカンパニーのハンドメイドにこだわったもの作りに対する姿勢を知ったことから、今回のコラボレーションにつながったという。

マツダの本社は広島県安芸郡府中町に、スピングルカンパニーは広島県府中市にある。これは本当に偶然でしかないが、両社とも所在地に「府中」と共通の文字が入る

 コラボの依頼はマツダ側から発信し、スピングルカンパニーも快諾。まずは両社のことをより深く知るところからと、お互いの会社視察が実施された。マツダのスタッフがスピングルカンパニーを訪問し、実際に靴底用ゴム板の製造やレザーをカットする工程、硫黄を加えたゴム底と靴本体を接着し、高温で熱と圧力をかけることでゴムを硬化させてアッパーとソールを一体化させるバルカナイズ製法など、スピングルカンパニーの熟練の技術などを見学した。

まずはマツダのスタッフがスピングルカンパニーを訪問
スピングルカンパニーは、天然ゴムと人工ゴムを練り合わせて靴底用ゴムを作るところからすべて自社工場で行なっている
スピングルカンパニーのバルカナイズ製法用の窯は1つに約100足ほど入り、熱と圧力をかける(加硫)時間は約1時間程度。そのため大量生産はできず1日600足くらいがMAX生産量とのこと

 その翌日にはスピングルカンパニーのスタッフがマツダを訪問。マツダの歴代車両が並び、歴史ともの作りに対するスピリッツを体感できるマツダミュージアムを見学。特にNAロードスターやRX-7(FC3S)に乗っていたこともあるという小畑氏は、「歴代ロードスターを1度に見ることなんて、なかなかできませんし、より進化の過程や共通する部分などを学べ、どんなスニーカーになるのかワクワクしていました」と視察当時を振り返った。

ローターハウジングとローターに興奮したという小畑氏
「NDロードスターに乗ったのはこのときが初めて」と小畑氏
色使いやデザインに込められた思いなどマツダの情熱を感じ取れたという

いざ開発がスタートすると思わぬ苦労も

 両社の見学会を終え、スニーカーの開発がスタートしたのは約2年前。デザイナーの寺島氏や菊地氏は入社当初こそ自動車のデザインに携わっていたが、マツダのブランド価値を広める方法は多様化していることもあって、2人は自動車デザインの経験を生かしつつ、現在は東京でマーチャンダイズ商品を担当している。

 マツダはこれまでに“クルマのある生活を豊かにする”というコンセプトで「MAZDA COLLECTION」と題して、ボストンバッグ、クッションブランケット、フレグランス、ドライビンググローブ、ドライビングシューズ、ウォレット、タンブラー、ダイキャストミニカーなどなど、多種多様なアイテムを発売している。今回開発したスニーカーはその中でも「ロードスター」にフィーチャーし、機能性とデザイン性によりこだわりのある「MAZDA ROADSTER COLLECTION」の第3弾となる。

マツダ株式会社 デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー 菊地有美子氏。2019年に入社し、プロダクションデザインスタジオにて「CX-60」のエクステリアデザインを担当。2022年からブランドスタイル統括部に転籍し、現在は東京オフィスにてマーチャンダイズ商品のデザインを担当している

 スニーカーのスタイリングは菊地氏がメインで担当。菊地氏は、「マツダがこれまで培ってきた精緻なデザインと、スピングルさんの生み出すハンドメイドの温かみを融合させたスタイリングを目指しました」と説明。また、「ロードスターのエッセンスを形でそのまま落とし込むのではなく、ロードスターのシンプルながらも美しい曲線をしっかりと落とし込むことを目指しました。大きなポイントは、アクセルとブレーキの踏みかえをスムーズにするような、かかとの巻き上げを強調するデザインで、同時に運転中だけでなくタウンユースまで幅広く楽しんでもらいたいと思いながら描きました。アッパー部分は足のアーチを描くようなラインを取り入れつつ、かかとからつま先まで全体的にホールドするようなデザインにし、フィット感にもつながっています」と説明。

2つのデザインポイント。靴と足に一体感を持たせることで、ロードスターの持つ「人馬一体」も表現している

 デザインが完成したら次は実際のスニーカーへの落とし込みだが、平面のデザインをいかに立体のスニーカーで再現するか、菊地氏はクルマと同じようにテープを貼りつける手法で作業を進めたという。また、途中で再度スピングルカンパニーを訪問し、試作品に直接手を触れながら、どこから見ても美しく見えるロードスターらしい曲線に近づけていった。

実際に菊地氏が小畑氏に送ったという指示図
カットラインや接合部分などにmm単位での修正指示が入るほか、ラインのピーク部分の微修正指示なども行なっている

 今回自動車メーカーとの共創が初というスピングルカンパニーの小畑氏は、「テープを貼っての修正依頼は他の企業さんとのやりとりで経験もあるのですが、最後に窯に入れて高熱・高圧をかけるバルカナイズ製法の場合、革の個体差によって縮み具合が異なるため、完全にまったく同じものは作れないこともあって、本来であれば0.5~1mmといった範囲は個体差と言いたいところなのですが、何度も対面で話し合いをしているうちに、そのラインへのこだわりが理解できるようになり、徐々にサンプル作りもスムーズになっていきました」と試作段階での苦労を明かした。

株式会社スピングルカンパニー FW事業本部 商品企画部 小畑健氏。スピングルカンパニーはスニーカーメーカーだけでなくライフスタイルを提案するような企業を目指して進化しているという

カラーや素材にもとことんこだわるのがマツダのスピリッツ

 今回のスニーカー企画の発案者であり、MAZDA ROADSTER COLLECTION第2弾の「ROADSTER ジャケット」にも携わった寺島氏は、毎年軽井沢で開催されているロードスターのオーナーズミーティングに足を運び、そこに並んだ1000台以上のロードスターの写真を自分で撮り、「この風景の印象をカラーで再現したいと思った」と説明。その結果、歴代ロードスターをイメージした「RED/WHITE」「NAVY/BLUE」「WHITE/BLACK」「BLACK/ORANGE」の4色に落とし込んだという。

RED/WHITE
NAVY/BLUE
WHITE/BLACK
BLACK/ORANGE

 カラーもスタイリングと同じくシンプルに見せつつも、アッパーとソールの色を明快に分けることで、スタイリングの特徴である“かかとの巻き上げ”を際立たせるコーディネートに仕上げている。

 また寺島氏は、シンプルでもマツダらしい深みのある表現をどこかに加えたいと考えた結果、同じ色相で明度を変化させた配色法「トーン on トーン」を採用。これにより立体感や深みが増すだけでなく、デザイン面でもプラスになるという。

マツダ株式会社 デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナー 寺島佑紀氏。色(Color)・素材(Material)・仕上げ(Finish)をつかさどるCMFデザイナーとして「MAZDA3 Fastback」「CX-30」などに携わった。ボディカラー「ポリメタルグレーメタリック」と内装色「バーガンディー」「ネイビーブルー/グレージュ」は、オートカラーアウォード2019でグランプリを受賞している。現在は東京オフィスにてマーチャンダイズ商品のデザインを担当している

2種類の革にジャガードタグや型抜きなどでカジュアルさと遊び心をプラス

 レザースニーカー「SP-MX5」は2種類の革を使用していて、メインのアッパー部分は、サッカーやラグビー、レーシングシューズなどにも使われる薄さと柔らかさを備えつつ牛革と比べてそん色ない強さを誇るカンガルーレザーを採用することで、足へのフィット感を追求。つま先はペダル操作を妨げないことと保護も考慮して牛革を採用。タンの部分はペダル操作で左右に動く足に対してもしっかりとフィットするように牛革をチョイスしている。

 スピングルカンパニーの小畑氏は、「特に革は1匹ずつ個体差があり、カンガルーの革は牛革よりも鮮やかな色が染まりにくく、狙った色が出しにくかった。中でも赤(NA型のクラシックレッドをモチーフにした色)の試作が一番多く、納得の赤色に仕上がったときはとてもうれしかったですね」と、当時を思い出していた。

メインはカンガルーレザーを採用
つま先とタンは牛革を採用。ソールゴムとメインの間には“トーン on トーン”配色のスウェードが入ることで立体感と深みが増している

 また、レザーだけだと大人過ぎや上質過ぎな印象を与えてしまうかもしれないので、寺島氏はWOVEN LABEL(織ネーム)と呼ばれるジャガードタグを取り入れ、素材にさりげなくコントラストを付与。カジュアルな素材を織り込むことで、どんなファッションにも合わせやすくしたという。もちろん、このジャガードタグも高熱・高圧をかけるバルカナイズ製法で縮んだり変色したりしないしっかりと耐えられる素材を吟味して使用している。

 さらに初代ロードスターのキャッチコピー「誰もが幸せになれる」をフィーチャーし、ソール面には商品名にも入っている海外でのロードスターの名称「MX-5」に由来したアイコニックなナンバー「5」を遊び心として型抜き。知る人が知る、見る人が見れば分かるポイントをさりげなく忍ばせた。また、ケースにも「すべてのロードスターオーナー&ファンに履いてもらいたい!」との寺島氏の思いから、NA~NDまで歴代ロードスターの線画が描かれている。

ソールに型抜きされている「5」は、ロードスターにとってはアイコニックな数字だ
ケースにもこだわっていて、歴代ロードスターの線画が描かれている

SP-MX5は修理もできるから長く履き続けられるのもポイント

鮮やかな赤色はNA型ロードスターの「クラシックレッド」がモチーフ

 このマツダとスピングルがこだわり抜いて開発したレザースニーカー「SP-MX5」の価格は各色2万6500円。サイズはXS(22.5cm)、SS(23.5cm)、S(24.5cm)、M(25.5cm)、L(26.5cm)、LL(27.5cm)、XL(28.5cm)の7種類で女性から男性まで対応。日本国内のみの販売だが、「マツダファンフェスタ」などイベントでも販売する予定なので、そこで購入したユーザーが海外へ持ち帰る可能性はあるとのこと。

 購入は「マツダコレクションオンラインショップ」または、スピングル銀座(東京都中央区銀座3丁目4-17 銀座オプティカ1階)、スピングル広島(広島県広島市中区上八丁堀5-5セントラルメゾン上八丁堀1F)、スピングルVINGO GATE(広島県福山市三之丸1番18号)、「スピングルオンラインストア」で可能となっている。

 また、数量は限定していないものの、マツダとしては初期ロット(数量未発表)が早く売り切れるようなら、追加生産あるいは別色追加など前向きに動くとしている。オンラインストアではすでに売り切れになっているサイズも出てきているので、気になっている方は早めにチェックしてみてほしい。

 なお、SP-MX5はアウトソール(靴底)やインソール、サイドゴアなどの修理にも対応していて、長く履き続けられるのも特徴の1つとなっている。修理に関する価格や詳細は、スピングルの「修理(補修)内容について」で確認できる。

ロードスターのアイコニックな番号「5」が型向かれたソールは、修理も可能となっているので長く履き続けられる
つま先は牛革で強度をアップ
サイドにはロードスターのネームタグ
タンにはコラボの証「MAZDA」と「SPINGLE」が並ぶ
ドライビングをサポートしてくれる特徴的なかかとの巻き上げ部分
プルバックにも「MAZDA MX-5」の文字が入る
インナーソールにもネームが入る