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ダイハツの新型「ムーヴ」取材会で開発担当者に聞いた“目利き世代”のためのクルマ作りとは?
2025年6月11日 07:00
- 2025年6月5日 開催
1995年に誕生した「ムーヴ」は30年にわたってユーザーに愛されてきたダイハツの基幹車種であり、初代からの累計販売台数は340万台を超えるものとなっている。
そんなムーヴは2025年6月5日にフルモデルチェンジを行なうと同時に都内の会場にて「新型ムーヴ報道発表会」が開催された。新型ムーヴ報道発表会については「ダイハツ、新型『ムーヴ』発表会で歴代ムーヴも展示 井上雅宏社長『多くの方の心を動かす軽の決定版』」で紹介しているので、本稿では発表会のあと、同会場で行なわれた取材会の内容を紹介しよう。
現在、軽ワゴン車のジャンルでは全高を高くして室内空間を広くとったスーパーハイト系が主流で、同時に後席ドアはスライドドアであることが定番となっている。そのような風潮のなかでスーパーハイトでもスライドドアでもない歴代のムーヴはちょうどいいサイズ感、性能のよさ、快適さ、便利さ、そして購入しやすい価格設定という項目を高いレベルでバランスさせることで、多くのユーザーに選ばれてきたクルマである。
このことを踏まえてチーフエンジニアの戸倉氏は「フルモデルチェンジにあたりムーヴらしさを継承、進化させながら、時代に対して“なにを変えるべきか”が大きな課題になりました。その結果、たどり着いたのが“ムーヴらしく動く姿が美しい”、そして“かっこよく凛々しいデザイン”です」と説明。続けて「新型ムーヴのターゲットはこれまで多くの消費カルチャーを経験し、商品の選択に合理性とこだわりを持っている方に向けたクルマとしました」と付け加えた。そしてそのような世代を「目利きの世代」と表現した。
とはいえ、この答えに達するまでに多くの議論があったそうだ。ポイントになったのは子育てが一段落をしたことで、再び夫婦2人でどこかに出かけるようなシーンにおいて、「若いころにスポーティなクルマに乗っていた人はどのようなクルマを選ぶのか?」と考えたことだった。
現在のクルマはコモディティ化が進んでいて、趣味嗜好を表すものでなく生活の道具になっている傾向にある。それに対してターゲットとしている世代が若いころは「クルマらしい」と表現できるスポーティないでたちのクルマが多かった時代を過ごしてきて、実際にその手のクルマに乗っていたり、憧れていたりしたと思われる。
そんなことを考えると湧いてきたのが「いまこの時代になっても当時のような気持ちで乗ってもらいたい」という思いであり、その気持ちが新型ムーヴのデザインには反映されているという。
つまり、傾向としてはスポーティなものとなるが、そこに使い勝手を優先したような装備であるスライドドアを採用した理由については、年齢を重ねたことで自身のこだわりに関しての「角」が取れて、日常使いにおける合理性を受け入れる余裕があると判断したものだ。
なお、ダイハツのラインアップにはスポーティでありながら実用的な便利さを併せ持つモデルはないので、新型ムーヴはそこのポジションを担当するモデルとなるということだ。
クルマの印象を語る際にかっこいいという言葉はよく使われるが、かっこいいの基準は見る人それぞれで違うので、メーカー側が使うには少々曖昧な表現だ。しかし新型ムーヴでは、そのかっこいいという言葉を使用した理由を探るため、開発担当者にデザインについての質問を多くしてみた。
新型ムーヴのエクステリアデザインについて
「目利きの世代」を意識した軽ワゴン車ということで、とくに力を入れたのが「デザイン」だ。
エクステリアデザインで目に付くのが、すべての面で造形が複雑であること。取材会の会場で使われていた照明ではボディの造形が作る陰影がはっきり出ているのでまずはそこを見てほしい。
目立つものとしてはヘッドライトの高さでフロントからリアに伸びるキャラクターラインとドア下部にある台形のライン。折り目をはっきりととったキャラクターラインはスポーティな印象を与えるものである。そして台形のラインは車体横面の視覚的な厚みを解消しつつ、踏ん張る感じや安定感を加えるために設けているが、ここでデザイナーは台形脚の下底側にわずかな三角の形状を入れた。
パッと見ただけではそこに三角があることを認識しにくいが、光の当たり具合によって台形脚の付け根付近が立体的に見えるようになり、さらにスポーティさも感じられるアクセントを作り出している。
次はフェンダーの造形だ。一般的にフェンダーでアクセントを付ける場合はアーチ側を膨らませたブリスター形状にすることもあるが、新型ムーヴではボンネット部とアーチ部の中間位置くらいにフェンダーアーチの曲線に合わせたプレスラインを入れ、その下は膨らませず平面とした。
独特のアプローチではあるが、ここもドア部の台形のラインと同じく段差が作る影がフェンダー部の視覚的な厚みを軽減しつつ、平面になりがちな部分に動きを付けている。また、ラインの両端の「消え方」も何度もデザインをやり直した末にできたもの。これらはすべて動く姿をキレイに表現するためこだわった部分だという。
軽ワゴン車では定番となっているスライドドアだが、この機構はドアがスライドするためのレールを上下平行に取り付ける必要がある。そのためルーフを横から見たラインをまっすぐにするしかないのでデザイン上の制約が出てしまう。これがボディサイズに制約がない登録車であればなんらかの対策によりデザインの自由度は出るが、軽自動車はそういうわけにはいかないのだ。
そこで新型ムーヴではリアクォーター後端のラインを大きく跳ね上げることでリアのデザインに動きを出す。加えてテールゲート上部に付くスポイラーも両端からセンターに向けて厚みを絞ることでリアクォーターの立ち上げと連続するラインを作り、視覚的にリアが絞り込まれているようなものとしていた。
新たに設定されたボディカラーについて
このように力の入ったデザインをまとう新型ムーヴだが、エクステリアに関してはもう1つのトピックがあった。それが新たに設定された「グレースブラウンクリスタルマイカ」というボディカラーだ。
前述したように新型ムーヴのターゲットは子育てが一段落した世代である。すると色に対する考えも若いころとは違ってきていることもある。とはいえ、クルマをはじめ、さまざまな消費を経験している世代でもあるので落ち着いたカラーであってもどこか個性を求めるものだ。
また、歴代ムーヴでは購入したユーザーが乗り換えをせずに長く所有する傾向が見られたので、新型ムーヴでもそうした乗り方をするユーザーは多いと想定した。そこでメインテーマである「ムーヴらしく動く姿が美しい」「かっこよく凛々しいデザイン」をなぞりつつ、「目立ちすぎず、個性的であり、長く乗っていても飽きがこない」という条件を満たすカラーとして、グレースブラウンクリスタルマイカは開発されたとのことだ。
ブラウンというカラーは暗い感じになりがちだが、このカラーではゴールドのフレークを混ぜることで光が当たったときの明るさを出している。ただ、ゴールドの分量が多いと派手な印象になってしまうので配合の具合は何度も試して決めたそうだ。
また、新型ムーヴは日の当たり方で明暗が付くような造形なので、濃いめのカラーでもその特徴が出ることを意識して細かい調色が行なわれたという。それだけにこのカラーを作った担当者からは「晴れた日の太陽の下で見てほしい」というコメントがあった。
新型ムーヴのインテリアデザインについて
「ムーヴらしく動く姿が美しい」「かっこよく凛々しいデザイン」といったテーマに沿うよう、強いこだわりと熱量を持って仕上げられたエクステリアであれば、インテリアも同様にこだわりを持ったデザインとなっている。ここからはインテリアのデザインを紹介していこう。
新型ムーヴのインテリアデザインを担当した方は1つ前のムーヴでもインテリアデザインを担当していたそうだ。
先代のムーヴからのテーマはかっこよく見せることであり、先代ではダッシュボードを乗員を囲うようなウイング形状とし、そこに機能のある要素を配置していくというデザインをしていた。インテリアデザインでのスポーティさは乗員に対して部品類をどのように配置していくかがポイントだということだった。
スポーツカー的な視点からデザインされてはいるが、軽自動車の場合は横幅に制限があるので、スポーツカーと同じ感覚でデザインするとインパネまわりがすごく狭く見えてしまうそうだ。
そこで「広さ」と「ほどほどのスポーツ感」を両立するために行なっているのが、ドライバーが運転席に座った際の視界がステアリングの中心から両サイドに広がるようなデザインとすること。これは先代のムーヴでも取り入れたものだが、新型ムーヴでは1つ違う要素を付け足したうえでそのデザインを構築していた。
新型ムーヴはかっこよさを目指した部分と使い勝手がよいなどの実利の部分も両立させたクルマであるため、実利についても盛り込むことが造形テーマに含まれていた。その例として紹介してくれたのがエアコンのレジスター(通気口)の部分。先代のインテリアではダッシュボードのアッパー部と本体側の隙間に設定していたのに対して、レジスター(その前にあるカップホルダーも)のような実利のある機能部品もインテリアデザインのなかの主役となるよう「見せる」ことを意識しているそう。その他の機能部品についても存在を強調し「かたまり」としてリズムよく見せるように配置しているとのことだ。
このようにレジスターを目立たせることでフィンの向きの調整などがしやすくなることは、室内の使い勝手に直結することなので、隠すのではなく、ちゃんと使いやすい位置に使いやすい形で置くのが大切だという。
ほか、機能部品の塊といえばダッシュボードセンターにあるディスプレイやエアコン系の操作パネルだが、クルマの運転時の視点の移動は横への流れはスムーズな傾向だが、縦の流れは視点が止まる傾向がある。そこで止まるのなら、必ず機能部品で止まるように「塊のデザイン」を考えているとのことだ。
以上のような要素を含んだうえでかっこよさを感じる造形としつつ、“あえて”乗員に対してせり出してくるような形状とすることでスポーティなイメージを作り出す。これが新型ムーヴらしい「かっこよくて実利もある」インテリアデザインなのだ。
新型ムーヴに採用された最新のDNGAとは
最後に新型ムーヴの機能面について紹介していこう。新型ムーヴには最新のプラットフォームであるDNGA(Daihatsu New Global Architecture)が使用されていると紹介されているが、プラットフォーム自体は完成されたものなのでハード面でほかのDNGA搭載車との違いはない。
では、どこが変わっているかというと、ソフトの部分である。例えばエンジン制御の内容や足まわりのスプリングやダンパーの適合といったところに、これまでのDNGA搭載モデルから蓄積されたノウハウが盛り込まれているということだ。
このあたりをもっと具体的に聞いてみたところ、例として話してくれたのが次のことだ。同じDNGAを使う「ムーヴ キャンバス」では女性のユーザーも多いことから、出だしのスムーズさを重視したCVTの使い方やスロットルの制御をしているが、新型ムーヴは男性ユーザーを意識していて、なおかつクルマの運転に慣れていることも想定している。それだけキビキビした走りをするような制御の設定にしているという。
さらにRSグレードでは15インチタイヤが標準装備となるため、その特性を生かすためにショックアブソーバーを他のグレードとは違うものとしている。この狙いはタイヤの大径化と低扁平化に伴うゴツゴツ感を解消するためのもので、コーナーを速く走るといった方向性ではないそうだ。
以上が新型ムーヴの取材会で開発担当者から聞くことができた内容。表向きだけ見ると、スライドドアの採用という部分だけが目立った感じではあるが、実際のところムーヴらしさをターゲットとした目利きの世代に受け入れられるよう、現代風にまとめ上げるためのデザインがあり、そこにより使いやすい、便利であるための付加価値としてスライドドアを導入したという流れであることが分かった。いろいろなポイントを紹介したので、新型ムーヴに興味のある人はぜひ販売店で実車を見て、ダイハツのこだわりを感じてほしい。





















































