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三菱ふそうと日野自動車の統合に関する共同記者会見 CASE技術への大規模な投資をしつつも競争しながら成長を目指す

2025年6月10日 実施
共同記者会見に参加した(左から)、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長・CEO 佐藤恒治氏、野自動車株式会社 代表取締役社長・CEO 小木曽聡氏、新会社CEO 兼 三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏、ダイムラートラック社 CEO カリン・ラドストロム氏

 ダイムラートラック、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車、トヨタ自動車の4社は6月10日、三菱ふそうと日野自動車の統合についての共同記者会見を都内で実施した。

 登壇者は、三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEOであり、4月にダイムラートラックとトヨタが出資して新たに設立される持株会社のCEOも兼ねるカール・デッペン氏、日野自動車 代表取締役社長・CEOの小木曽聡氏、ダイムラートラックCEOのカリン・ラドストロム氏、トヨタ自動車 代表取締役社長・CEOの佐藤恒治氏の4名。

 今回統合が発表された日野自動車は、80年以上の歴史、3万人以上の従業員、世界の90以上の国で販売という実績があり、三菱ふそうトラック・バスは90年以上の歴史、世界170以上の国での実績があるほか、日本初の小型EV商用車「e:キャンター」を発売するなど商用界をリードしている。

日野自動車の歴史と実績
三菱ふそうトラック・バスの歴史と実績

 今回の三菱ふそうトラック・バスと日野自動車の統合は、2023年5月30日に4社による基本合意が発表され、当初は協議のうえで2024年3月期中の最終契約締結、2024年中の統合完了を目標として進められてきたが、2024年2月に競争法、その他の法令に基づく必要な許認可取得や、日野の認証問題への対応が継続しているため延期されてきた。

新会社CEO 兼 三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏

 デッペン氏は、「業界が変革期を迎えているという共通認識のもと、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術への投資ニーズを踏まえて検討を重ねてきた結果、ともに前進するための道を見い出せました」と説明。

合意した項目(骨子)

・三菱ふそうと日野は対等な立場で統合し、商用車の開発、調達、生産の分野で協力
・新会社は三菱ふそうと日野を100%子会社とする持株会社として2026年4月に事業開始を目指す
・ダイムラートラックとトヨタは、統合された三菱ふそうと日野の(上場)持株会社の株式をそれぞれ25%保有することを目指す
・持株会社は三菱ふそうと日野の株式を100%保有する予定
・持株会社は東京証券取引所プライム市場への上場を目指す
・新会社代表者はカール・デッペン氏
・本社所在地は東京(日本)

 今回の統合では、ダイムラートラックとトヨタが出資して、三菱ふそうトラック・バスと日野自動車を100%子会社とする持株会社を新たに設立。あくまで対等な立場での統合で、商用車の開発、調達、生産の分野で協力し合う。これまで両社が個々に投資していた同じ分野・領域の研究開発費などをまとめられることで開発費の効率化も図れる。

商用車ではCASE技術の進歩が求められている
2025年4月からの新体制予想図

 この協業により、先述したCASE技術のほか、「2024年問題と言われた深刻なドライバー不足への対応、振興企業の躍進などこれまで以上に激化するグローバル競争への備え、カーボンニュートラル車両の実現などに向けた大規模な投資を行なう必要がある」とデッペン氏は言及。

 続けて、「日本市場でこれほど多くの商用車メーカーが個々に存在し続けることは現実的ではなく、会社の技術力や知見、専門性を結集することで、新会社はクライアントの輸送ニーズに対し、これまで以上に的確に応えられるようになり、効率的な商品、優れたサービスとソリューションを提供できる」と紹介した。

4社でともに目指す商用車の未来

 販売店や販売代理店には、「長年にわたる信頼関係とこれまで築いてきた緊密な協力関係を心から大切にし、ともに市場での成功を目指す。両社ともに信頼に基づいた販売ネットワークがあり、価値を持っているので、そこは今後も維持していきたい」と説明。従業員に対しても、「強固で健全な企業基盤と成長を続けることで、働くことを誇れる会社になる」と誓った。

 またステークホルダーに対しては、市場競争力の強化と魅力的な利まわり、透明性のある情報開示と信頼される実績を見い出し、重要産業における大きな成長の可能性を示すとし、新会社は、自動車産業と社会全体はもちろん地域社会のために信頼されるパートナーになるとしている。

 最後にデッペン氏は、「この新会社を率いることは大きな名誉であり、責務でもある。そして必ず成功させなければならない。4月1日の事業開始を目指し、本当の意味での挑戦は今から始まる。また今年後半には進捗を報告するので、今後の展開にご注目いただきたい」と締めくくった。

新会社の名称や経営陣、協力の範囲や内容など詳細は、関連する取締役会の承認を経たうえで、株主や当局の承認を得られ次第、適時発表するとのこと

 続いて、日野自動車の小木曽社長は、「カーボンニュートラルや物流の効率化など、さまざまな課題が山積している商用車の未来のためには、これまで以上のスピードと柔軟性、投資が必要となる」と紹介。「トヨタとダイムラートラックの強力なサポートのもと、事業とそれを支える人的資本、企業活動の土台となる財務基盤を整えつつ、特にシナジーの源泉である人的資本が成長と貢献を実感し、生き生きと働ける企業であることを第一に考え、統合後もそこは変わらない」と説明した。

 また、「異なる文化と風土が出会い融合することによるシナジー効果は計り知れないと思っている。この2年間どのような未来を一緒に実現していくか、じっくりと話し合ってきた。当初の想定よりも少し長く時間を用いたが、その分お互いに対する理解も深まり、信頼も強いものになった」と言い、「この変化の大きい世の中に貢献していく、強くてしなやかなチームを作り上げていけると確信している」と語った。

日野自動車株式会社 代表取締役社長・CEO 小木曽聡氏

 ダイムラートラックのカリンCEOは、「トラックメーカーは、ディーゼル、バッテリEV、FCEV(水素燃料電池車)、水素エンジンと同時並行的に複数の技術を開発しなくてはならず大変な作業となる。この作業を経済的に行なう方法はただ1つ、スケール規模しかない」と強調。また、「ダイムラートラックは大型車両に強みが集中しているため、小型車両のスペシャリストである三菱ふそうトラック・バスが得られるスケールメリットが限定的だった」と解説。

ダイムラートラックCEO カリン・ラドストロム氏

 しかし今回の日野自動車との連携では、ダイムラートラックの中で最も国際的で、現在170の市場に展開するほか、2017年には国内初の量産型EV小型トラック「eキャンター」を発売し、今現在ヨーロッパ、オセアニア、アジア、南米など38の市場で日々使われているといった技術的なリーダーシップに加え、厳しい市場環境でも強い財務基盤で絶え抜いてきた三菱ふそうトラック・バスが強力なパートナーとして参画することで、「大きな可能性を秘めている」とカリン氏。

トラックメーカーは同時並行的に複数の技術開発が求められている
三菱ふそうトラック・バスは170の市場に展開している

 最後にトヨタの佐藤社長は、今回の協業の経緯を振り返りつつ、原点は三菱ふそうトラック・バスと日野自動車の強みを生かして、日本とアジアの事業基盤を守り、4社で商用車の未来をともにつくりたいという思いであると紹介。

 また、2年半前に当時のダイムラートラックCEOであったダウム氏と豊田章男氏が、お互いのビジョンと価値観に共感し合い、協業のスタートが切られたことに触れ、「歴史や文化が異なる会社が一緒になるには、さまざまな課題を残り超える必要があり、なかなか埋まらないギャップについても4社で時間をかけて対話することで相互理解を深めてきた」と言及した。

 また、遅れた2年については、「時間はかかってしまったが、とてもクリアな判断が出て今日を迎えているので、前向きにとらえている。いたずらに時間が過ぎたわけではなく、逆にこの時間があったから理解できたこともある。相互点を出し尽くして一緒になったので、チーム全体ですっきりした気持ちを持ってスタートできるので、意味のあるディレイだった」と述べている。

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長・CEO 佐藤恒治氏

 続けて佐藤社長は、「統合により世界で戦うために必要な規模を確保しながら両者の強みを持ち寄り、それぞれの得意領域を伸ばすことで技術開発のスピードアップと生産事業の効率向上させると同時に、今後両社で日本とアジアにおける事業基盤の強化を進め、ダイムラートラックとトヨタはCASE技術を軸に統合会社の競争力向上をサポートしていきます。そしてカーボンニュートラルをはじめ、商用車を取り巻く社会課題の解決に向けて4社の枠組を生かしてCASE技術の実装を加速したいと思います」と語った。

今回の協業でダイムラートラックとトヨタも水素領域での連携が深まったという

 また、水素領域での取り組みについても紹介し、今回の共業を通じてダイムラートラックとトヨタの連携も深まったと説明。「両者の技術力を融合して水素モビリティの社会実装と普及をいかに加速できるか、踏み込んだ連携のあり方も含めてさまざまな可能性を追求し、引き続き具体化に向けた取り組みを進めたい」と締めくくった。

共同記者会見後に4人で自撮り記念撮影を行ない打ち解けた様子を見せていた