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水素領域で4社協力も ダイムラートラック、三菱ふそう、日野、トヨタが共同記者会見 三菱ふそうと日野の統合後ブランドは存続

2023年5月30日 発表

左から、日野自動車 代表取締役社長 CEO 小木曽聡氏、トヨタ自動車 社長 CEO 佐藤恒治氏、ダイムラートラック CEO マーティン・ダウム氏、三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏

 ダイムラートラック、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車、トヨタ自動車の4社は5月30日、CASE技術開発の加速を目指すとともに、三菱ふそうと日野を統合する基本合意書を締結したと発表した。同日、4社共同の記者会見が開催され、4社で基本合意した協業内容について、ダイムラートラック CEO マーティン・ダウム氏、三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏、日野自動車 代表取締役社長 CEO 小木曽聡氏、トヨタ自動車 社長 CEO 佐藤恒治氏が登壇して説明した。

 今回発表された協業内容では、ダイムラートラック、三菱ふそう、日野、トヨタが、グローバルで電動化や自動運転などのCASE技術開発・商用車事業の強化を通じたカーボンニュートラルの実現、豊かなモビリティ社会の創造に向けて協業するとともに、三菱ふそうと日野は対等な立場で統合し、商用車の開発、調達、生産分野で協業するとしている。

 具体的な三菱ふそうと日野の統合計画では、ダイムラートラックとトヨタが出資する持株会社を設立し、三菱ふそうと日野は新会社100%出資の子会社として、三菱ふそうと日野のブランドは存続される。新会社の名称、所在地、体制、協業の範囲や内容については、協議の上、2024年3月期中の最終契約締結、2024年中の統合完了を目標として進められる。関係者すべてが合意に達し、関連する取締役会、株主、当局の承認のもと進めるとしている。

トヨタ自動車株式会社 社長 CEO 佐藤恒治氏

 共同会見では各社トップが登壇。トヨタ自動車 社長 CEOの佐藤恒治氏からは、今回の協業における全体的な狙いが説明された。佐藤氏は「この協業の背景にあるのは、商用車の未来を共に作るという私たち4社の強い思いです。人や物の移動を通じて暮らしを支える商用車は、まさに社会インフラとも言える重要なモビリティであり、社会システムに組み込まれることで移動の価値をさらに高めることができます。カーボンニュートラルに向けては、世界の自動車CO2排出量の4割を占める商用車を、環境に優しいモビリティへ進化させていくことが不可欠です。すなわち、商用車の新しい未来を作っていく挑戦が、豊かなモビリティ社会の創造に重要な役割を果たしていきます。その鍵を握るのが、電動化や自動運転などのCASE技術です。CASE技術は広く普及してこそ社会の役に立ち、そのためには技術開発力が必要です。そのようなCASE時代を生き抜く上で、日本の商用車市場は世界と比べて規模が小さく、各社が単独で戦うことは難しい状況です。豊かなモビリティ社会を創造していくためには、競争のみならず、みんなで力を合わせて未来を作っていくことが強く求められています」と、カーボンニュートラルの実現に向けて協業の重要性を説いた。

4社で目指すもの

 4社が協力する領域については「こうした思いで、今回、4社での協業を通じて、CASE技術の普及を加速していきたいと考えています。三菱ふそうと日野は統合により、両社のシナジーを高め、開発、調達、生産における事業の効率化を図ることで、CASE技術に取り組む事業基盤、競争力を強化してまいります。ダイムラートラックとトヨタは両社の強みを持ち寄り、CASE技術で統合後の会社を支えながら、両社の間でもさらなる技術力の強化に取り組んでまいります。この4社が集うことで、新たな未来の可能性も広がってまいります。中でも、水素領域の取り組みは、豊かなモビリティ社会を実現するために4社で力を入れて協力していく大きなテーマだと考えています。ダイムラートラックとトヨタは、早期から水素エネルギーの持つ可能性に着目し、燃料電池や水素エンジンの技術開発を積極的に進めてまいりました。そして、普及に向けて、商品の実用化や水素インフラの整備にも取り組んでまいりました。今後、三菱ふそう、日野も含めた4社で水素モビリティの普及を商用車から加速させていきたいと考えています」と、水素領域での取り組みに期待を寄せた。

 また、「こうした未来に共に取り組んでいくためにも、まずは三菱ふそうと日野の統合により、世界で戦える事業基盤を整えていきます。そして、健全な競争を通じて、よりよい商用車の未来に貢献してまいります。ダイムラートラックのダウムCEOとは、商用車の未来を変えていくこと、CASE技術の普及にはスケールが必要であること、そして未来はみんなで作るもの、こうした思いと価値観を共有しながら、パートナーシップのあるべき姿について議論を重ねてまいりました。そのプロセスの中で、お互いのビジョンを確認し合え、大変有意義な話し合いをできたと思っています」と、三菱ふそうと日野が統合する狙いが語られた。

ダイムラートラック CEO マーティン・ダウム氏

 ダイムラートラックCEO マーティン・ダウム氏からは、商用車においてもカーボンニュートラルへの対応が迫られる状況が語られる中で、「ゼロエミッションに向けて加速していく中で、1つ大きな課題があります。すなわち、そのためには投資が必要だということです。私たちの業界の変革を意味するのは、同時に複数の新しい技術に投資しなくてはならないということです。バッテリ、水素の燃料電池、または水素エンジン。これらすべて同時に行なうというのは、この業界におけるトップ企業にとっても非常に大変なことです。この同時並行の技術開発を経済的に成り立たせる方法は1つしかありません。規模の経済スケールです。スケールこそが鍵なのです。投資を行ないより大きなスペースで広げていくことが不可欠です。そして私たちは今日、大胆な行動に出ています。私たちは、日本の商用車大手3社のうち2社の力を結集させます。そして、このことが劇的なスケールアップにつながります。三菱ふそうと日野の統合事業は、大型トラックにおけるダイムラートラックのすべての技術にアクセスすることが可能になります。この統合はまさに決定打になりえます。私たちが全く同じ分析を行ない、同じビジョンを持つパートナーに出会えたこということを、本当にうれしく思っています。本日発表した内容は、単に私たち自身が企業として成長する可能性を秘めるだけではありません。真の国内トップ企業を作ることは、日本の経済を活性化する可能性があるのです。お客さまの成長に貢献するだけではなく、強固な製品ラインアップを作り上げることができます。ゼロミッションの輸送への変革を加速するために、今日の協業は4社すべてにメリットをもたらします」と、スケールによるメリットが語られた。

三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏

 三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEOのカール・デッペン氏からは、「相互補完的な製品ラインアップを持ち、広大な販売ネットワークを有し、世界中に熟練の従業員がいる巨大な日本のトラックメーカーとなります。この大胆な行動によって、私たちは資源を倍以上にできるのです。つまり、より高度な知識や専門性にアクセスし、より多様なサプライヤやインフラのネットワークを持ち、そしてより多くの人々と技術開発を加速するために一緒に働けるようになります。 お客さまに対してもよりよい価値を提供し、サプライヤやディーラー、そして従業員の皆さんにさらなる機会をもたらします。そして、株主の皆さまに対してもしっかりと還元していくことにつながります。この統合によって、アジア地域の輸送セクターにおける業界をリードする存在となります。新しいブランドが続々と市場に参入する中でも、十分に戦えると信じています」と、日野自動車とタッグを組むことに向けた意気込みが語られた。

日野自動車株式会社 代表取締役社長 CEO 小木曽聡氏

 日野自動車 代表取締役社長 CEOの小木曽聡氏からは、認証不正を踏まえた現状が報告されるとともに「日野自動車として、不正問題への徹底した対応、そしてカーボンニュートラルなどの将来に向けた対応を検討し続けてまいりました。お客さまをはじめとしたステイクホルダーの方々の期待にどうすればお応えすることができるのか、日々仲間と悩み、検討し続けています。不正の対応については、日々の活動の中で手応えを感じてきていますが、これからのカーボンニュートラルなどの環境変化への対応を同時に実現することは、日野単独では実際は非常に厳しいと、ずっと悩んでまいりました。こういった中で、私たちは今回の4社の枠組みを千載一遇の機会と捉えています。CASE技術にも優れた商用車、乗用車のリーディングカンパニーのダイムラートラック、トヨタ、そして日本の商用車メーカーとして長い歴史を持つ三菱ふそうとともに、移動を支え、社会に貢献したいという志を1つにして、将来に向けて歩んでいけることの意義や意味の大きさを改めて強く感じております。日野自動車としては、認証問題などの基盤は自らしっかりと立て直し、そしてこの4社の枠組みで将来の姿を作っていきたいと思っています。三菱ふそうと日野は、東南アジア諸国にも早くから進出し、現地に寄り添い、物流、人流を通じて人々の生活に貢献してまいりました。将来にわたって貢献し続けるためにも、この協業がまさに必要であると考えております。日野としても、全社でこのプロジェクトを進め、24年末ごろに予定されている統合後は、デッペンCEOのチームとともに学び合い、共感し合えるチームを作り上げたいと決意を新たにしております」との思いが語られた。

 会見後の質疑応答の中で、複雑化するトヨタ自動車の提携関係について質問に答えた佐藤氏は「このご質問に対してはシンプルにお答えしたいと思います。未来はみんなで作るもの、もうそこに尽きると思っております。当然、ビジネスライクに資本関係等々の観点は大変重要ではありますが、冒頭にダウムさんがお話になったように、これから自動車産業が向かっていく未来というのは、1社でどうこうできるようなものではありません。より大きな連携を実現して、スピードを上げて、社会的に実現しうる可能性を高めていくということが、大変重要になります。そういった意味で、こういった多くのパートナーシップが進むことで、多面的なテーマを同時進行的に取り組めて、幅の広いチャレンジ、挑戦ができるということが、最終的にはモビリティ社会をより豊かで実りあるものにしていくために大変重要だというふうに考えております。未来はみんなで作るというその思いで、このいただいたチャンスを生かして連携を深めて、それぞれに深めてまいりたいと思います」との考えが語られた。