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パナソニックエナジー、車載用リチウムイオン電池を量産する米カンザス工場で開所式

2025年7月14日 発表
パナソニック エナジー カンザス工場で生産される車載電池

 パナソニック エナジーは、米カンザス州デソトに建設した車載電池の新たな生産拠点であるカンザス工場の開所式を、7月14日8時(現地時間)に行なった。

 カンザス工場は、米ネバダ州スパークスの車載電池工場に続く、北米の第2工場となり、2170セルによるEV向け円筒形リチウムイオン電池を生産する。すでに、7月初旬から量産を開始しているという。まずは、テスラ向けに供給を開始し、その後、供給契約を結んでいる新興EVメーカーのルーシッド・グループやハービンジャーにも供給することになる。

 2025年5月9日に行なった2024年度連結業績説明では、カンザス工場の量産準備を2025年度上期中(2025年9月)、量産開始が2025年度中(2026年3月)になるとしていたが、これを前倒しして量産稼働させたことになる。

 パナソニックグループでは、「米国製電池に対する顧客からの要望が高い。それに対応するために早期に量産を開始した」という。

 だが、その一方で、2026年度末(2027年3月)には、年間生産能力で32GWhのフル生産を行なうことを公表していたが、今回、これを見送ることをあわせて発表。現時点ではフル生産への移行時期は「未定」とした。

 同社では、「車載電池の生産については、政策動向、市況を見極めるとともに、顧客の要望に応じながら、環境変化を踏まえて柔軟に対応していく。フル生産の開始時期が遅れているという認識ではない」としている。

 米トランプ政権におけるEV関連施策の減速がみられているほか、トランプ大統領と、パナソニックエナジーの主要顧客であるテスラのイーロン・マスクCEOとの対立が深まり、マスクCEOのさまざまな言動への反発を背景にしたテスラ車の不買運動なども影響。テスラの販売台数は2四半期連続で2桁の減少が続いている。米国市場におけるEVへの先行きの不透明感が、パナソニックエナジーの新工場のフル稼働にも影響が及んだ格好だ。

米カンザス州デソトのカンザス工場

 カンザス工場は、約40億ドル(約6000億円)を投資したカンザス州史上最大の経済開発プロジェクトと位置づけられている。東京ドーム約26個分に相当する約120万m 2 の広大な敷地に、延床面積で約44万m 2 の建屋を有し、省人化ラインの導入などによって、ネバダ工場と比較して、生産性を約20%向上させる。今後は、セル容量を約5%向上する新材料を用いた製品の生産も予定しており、さらに進化したモノづくりと早期の安定生産の実現を目指す。

 また、最大で約4000人が勤務し、サプライヤーなどの関連企業をあわせると、直接雇用と間接雇用を含めて、約8000人の新規雇用を創出することになる。

 パナソニック エナジーの只信一生社長は、「カンザス工場の開所は、先進的な米国製電池の生産拡大に向けたパナソニックエナジーの取り組みにおいて、重要な節目となる」とコメント。「今後は、ローカルサプライチェーンの強化や、次世代の専門人材の育成を通じて、電動化の発展に大きく貢献する。米国および地域における製造基盤の強化や雇用創出に対するパナソニックエナジーのコミットメントであり、長期的な協力関係とイノベーションの礎となると確信している」と述べた。

 今後は、カンザス工場を中心として、ハイテク人材の雇用機会創出および地域の産業振興を視野に入れ、カンザス大学など地域の高等教育機関と、技術開発や専門人材育成の連携を進める計画であり、「産学連携の取り組みを通じて、デソト地域やカンザス州周辺の経済圏のみならず、米国の経済や製造業の活性化にも貢献する」(同社)という。

パナソニックエナジー カンザス工場での量産工程

 パナソニックグループでは、モビリティの電動化に向けた顧客の需要に対応するため、「日米2軸」での車載事業を推進している。米国では、2017年から稼働しているネバダ工場に加えて、カンザス工場による2拠点体制を確立することになり、ネバダ工場の年間約41GWhの生産能力とあわせると、約73GWhの規模で米国製電池の生産体制を構築することになる。車載電池としては、北米最大級の生産体制となる。

 米国政府は、IRA補助金(Section 45X)として、米国内におけるEV向け電池などの販売に対する税控除を用意。ネバダ工場とともに、カンザス工場もこの対象となり、前倒しでの量産開始により、税控除の面ではプラスの効果が見込めることになりそうだ。

 トランプ政権では、EVの購入者に対する補助金制度であるSection 30Dの廃止は決定しているが、Section 45Xについて継続する予定だ。

 パナソニックグループでは、2010年度から車載向け高容量リチウムイオン電池の生産を開始し、2025年3月時点で、EV約370万台分に相当する約190億個のセルを供給している。また、これらの電池に起因する車両リコールは一度も発生していないことも強調する。

 同社では、「優れた電池性能に加え、EVへの搭載実績に裏打ちされた高い安全性と信頼性を備えている。これまで培ってきた信頼と実績をもとに、お客さまの期待に応え、EVの普及を通じたCO2排出量削減に貢献していく」としている。

カンザス工場での量産の様子