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マセラティの木村隆之社長による“木村塾” マセラティのブランド背景や最新モデル「GT2 ストラダーレ」について解説

2025年7月23日 実施
マセラティ ジャパン 代表取締役社長 木村隆之氏による「マセラティブランド」についての勉強会が開催された

マセラティの“イタリアン・ラグジュアリー”とは

 マセラティ ジャパンは7月23日、同社代表取締役社長 木村隆之氏による“木村塾”を開催。マセラティの歴史や、ブランドが生まれたイタリアの文化的背景などの解説を行なったほか、新型「GT2 ストラダーレ」について紹介した。

 木村社長はトヨタ自動車に入社後、異業種となるファーストリテイリングに転職し、ユニクロ営業副本部長を務めた。その後、日産自動車、ボルボ・カー・ジャパンと移り、現在はStellantisグループのマセラティに携わっている。マセラティでは中国を除くアジア・パシフィック全般を担当していたが、2024年に韓国にもイタリア資本の現地法人「マセラティ・コリア」を設立し、現在は日本と韓国の社長を兼任している。

マセラティ ジャパン 代表取締役社長 木村隆之氏
木村社長の経歴

 今回開催された“木村塾”は、本来は木村社長が社内でディーラーの経営者や社員向けに行なっているブランド理解を深めるための講義。「イタリアン・ラグジュアリー」をキーワードとして、約1時間にわたってマセラティというブランドの背景やユニークさを分かりやすく説明した。

 イタリアの産業は、地方の各都市がそれぞれ専門性の高い産業を興し、発展してきたことから、クラスターが国中にくまなく存在しているという。さらに、そのほとんどがファミリービジネスであるため、大企業が少なく、ファミリーネームを冠したブランドを世界に売り込むことに長けたビジネスモデルを築き上げているとのこと。

 マセラティ発祥の地であるモデナを中心とした一帯は「モーターバレー」とも呼ばれており、マセラティのほかにフェラーリ、ランボルギーニ、パガーニ、ドゥカティといった名だたるブランドが集結。一説によると、この地域は戦前は航空機産業の部品供給基地であり、戦後に航空機の製造が制限された際に、高度な技術を持つ人や実験設備がスーパーカー産業に転用され、発展の礎を築いたのではないかと言われている。

イタリア各地の主な産業
モデナ一帯はイタリアのモーターバレーとされている

 また、“ラグジュアリー”という概念については「個人主義」だとして、製品の特徴として「排他性」「職人気質」「品質」「革新」「パーソナライゼーション」があり、利益追求として「ステータス意識」「経験追求」「自己表現追求」「自己顕示欲」「向上心」といったさまざまな要素が複雑に絡み合っていると解説。これらの要素は自動車に限らず、高級ワインや家具、宝飾品や皮革製品など、多様なセグメントに“横串”として存在しており、自動車同士を比較検討しているのではなく、ほかのラグジュアリーグッズや会員権といった異なる選択肢との間で購買を決定している可能性を示唆しているとした。

 この“ラグジュアリー”という価値観は、経済合理性だけでは測れず、極論で例えるなら「生活必需品ではないもの」に対して支払われる対価だと木村社長は解説。「単なる性能や物理的な商品特性だけでなく、むしろ非合理で数値化できない部分にこそ宿っているのです。言葉の起源をたどっても、プレミアムが経済的な上乗せを意味するのに対し、ラグジュアリーの語源であるラテン語の“ルクス”は“過剰なもの”を意味しており、両者の思想的な背景が異なることが分かります」と説明した。

 これを自動車業界に当てはめると、フェラーリやランボルギーニはラグジュアリーでありつつも、それ以上に感覚を刺激するエキサイティングな要素が強く、マセラティやロールス・ロイス、ベントレーといったイタリアやイギリスのブランドが純粋なラグジュアリーを追求していると紹介。ラグジュアリーに不可欠な2つの要素として「アート(芸術性)」「クラフツマンシップ(職人技)」を挙げ、この2つの世界観を感じさせるブランドや製品だけが、真のラグジュアリーとして認められるとした。

ラグジュアリーとは
世界のラグジュアリーマーケット。さまざまなセグメントが存在する中でも自動車は比較的多くの経済的割合を占めている
ラグジュアリーとプレミアムの違い
自動車業界におけるカテゴライズ
マセラティの立ち位置
ラグジュアリーを再定義する“4C”

 なお、自動車である以上、パフォーマンスとスタイルは不可欠な要素であり、特にパフォーマンスが一級品でなければ、自動車の世界でラグジュアリーを名乗り続けられないと言い、「私たちのクルマ、特に『グランツーリスモ』は、長距離を走れば走るほど楽しさが増し、旅の帰路、自宅が近づくにつれて“もっと走っていたい”と思わせるような、奥深い味わいを持っています。これこそが、グランツーリスモの神髄であり、マセラティの全てのモデルに共通するDNAなのです」と力説。

 さらに、「あくまで私個人の見解ですが、フェラーリはまさしく“非日常”を体験させてくれる純粋なスーパーカーです。ポルシェはボディ剛性、エンジンのスムーズさ、どれをとっても完璧なまさに“自動車のお手本”のような存在です。対してマセラティはひとことで言えば“優しいクルマ”です。その懐の深さ、優しさこそがマセラティのドライバビリティの最大の特徴ではないでしょうか」とマセラティの特徴を語った。

マセラティのモータースポーツ活動
マセラティのトライデントロゴの由来
モデナ工場は街の中心地に近い場所にある

サーキットと公道をつなぐ「GT2 ストラダーレ」

 木村社長は、年内に日本でも納車が開始される予定のニューモデルとなるGT2 ストラダーレについても紹介。GT2 ストラダーレは、そのままレースに出られるようなサーキット専用車「GT2」と、「MC20」の進化形となるスーパースポーツ「MCプーラ」のちょうど中間に位置し、サーキットを本気で攻めることができる性能を持ちながら、“ストラダーレ”(公道)を走れる、サーキットと公道をつなぐモデルだという。日本ではすでに10台以上の注文が入っているとのこと。

GT2 ストラダーレ
サーキット専用モデルの「GT2」からパーツを流用しつつ、公道も走行できるようにしている
ベースとなった「MC20」と同じV型6気筒3.0リッターツインターボ“ネットゥーノ”エンジンを搭載。フードにトライデントを摸したデザインが採用されているところにイタリアンデザインらしさを感じる
ブレーキやホイールはGT2から流用したという

 GT2 ストラダーレの開発は小さいチームで行なわれ、GT2の開発チームの横でストラダーレの開発チームが働き、お互いに情報を共有しながら開発されたという。そのため、バネ下重量の軽減につながるブレーキやホイールといったパーツはGT2から流用し、59kgの重量軽減を達成。リアスポイラーをはじめとするエアロパーツもGT2で培われた技術が惜しみなく投入され、強烈なダウンフォースを発生するとした。

 インテリアもMC20とは異なり、センターコンソールやシートが専用品となるとともに、ステアリングホイールにはシフトアップインジケーターを組み込むことで、レーシングカーのような雰囲気を付与。シートベルトも通常の3点式から本格的なレーシングハーネスまで選択できるようになっている。さらに、パフォーマンスパッケージを装着することで、「コルサ」と呼ばれるレーシングモードが4段階で選べるようになり、電子制御の介入度を好みに応じて減らすことも可能になる。

ドアを開けないと見えない位置に「MADE IN MODENA」「GT2 Stradale」の文字
インパネ
シート

 このような圧倒的パフォーマンスを持ちながらも、最新の運転支援システムやパーキングセンサー、1泊2日程度の荷物が入れられるトランクなど、公道を運転するにあたっての安全性や快適性も犠牲にしていないとのこと。木村社長は「MCプーラは、コンビニには乗っていけるとは言いませんが、毎日の通勤では十分使えるスーパーカーだとアピールさせていただくことが多いです。GT2 ストラダーレはそこまでかどうかわかりませんけれども、本当にスーパーカーとは思えないほど快適で乗りやすいモデルです」と語った。

GT2 ストラダーレ
グローバルコンセプトを採用したショールームの「マセラティ横浜港北」で行なわれた“木村塾”の最後には試乗の時間も設けられた。試乗した「グレカーレ モデナ」では、マセラティ車の“ずっと乗っていたくなるような味わい深い走り”を体感できた