試乗記

マセラティの新型SUV「グレカーレ」、全グレードをイッキ乗り

「グレカーレ」全グレードに試乗した(写真左からトロフェオ、モデナ、GT)

エントリーグレードなら1000万円を切る価格設定

 イタリアの名門ブランド・マセラティが生み出した新型SUV「グレカーレ」。その全グレードを今回はイッキ乗りしてみる。マセラティといえば高級であり希少な存在かと思いきや、グレカーレはいま日本市場で台数を伸ばしつつあるというから興味深い。

 その要因はさまざまだろうが、1つは絶妙なサイズが挙げられるだろう。全長を5m以下に収めたこと、そしてエントリーグレードであれば全幅1950mm、上位グレードでも1980mmとなり、なんとか都市部のパレット駐車場でも収まるところがウケているのだとか。兄貴分と言える「レヴァンテ」は横幅こそ同じくらいだが、全長は5m超えなのだから、駐車場難民にとってはありがたい存在。そしてもう1つの要因が価格だ。エントリーグレードの「GT」であれば1000万円を切る価格を達成。約半数のユーザーがそれを選ぶという人気ぶりだ。

「あなたの日常を特別なものに」と謳うグレカーレを目の当たりにすると、ややコンサバティブなデザインに感じるところがあるが、これは狙いなのだとか。マセラティではタイムレスなデザインを重視することで、時が経っても古さを感じさせないようにしているという。グリルに対してヘッドライトの位置が後になり、さらにその2つの間に空間を作ることで、往年のレーシングカーのような雰囲気を生み出しているのだとか。また、フェンダーの峰とボンネットのアーチもまた、マセラティの伝統的なデザインを継承している。

グレカーレは300PSの4気筒マイルドハイブリッドエンジンを搭載した「GT」、330PSの4気筒マイルドハイブリッドエンジンを搭載した「モデナ」、530PSの高性能V型6気筒3.0リッターガソリンエンジンを搭載した「トロフェオ」の3モデルを設定
撮影車は中間グレードにあたるモデナ(1151万円)。ボディサイズは4845×1980×1670mm(全長×全幅×全高。全幅はミラー含まず)、ホイールベースは2900mm
グレカーレのエクステリアは低く堂々としたグリルが特徴の1つで、側面は美しい流線的なフォルムをもつボディと、カーボンファイバーを用いたテクニカルな技術的構成要素を備える。リアまわりではジウジアーロがデザインした「3200GT」から着想を得たブーメラン型のテールライトなどを装備した。足下は21インチのペガソ・スタッガードホイール(グロッシーブラック)にピレリ「P ZERO」(フロント:255/40R21、リア:295/35R21)を装着

 ボンネットアーチがあるとはいえ、GTとその上位グレードとなる「モデナ」のボンネットに収まるのは2.0リッターのマイルドハイブリッドだ。けれどもそれを燃費ばかりに振ろうとせず、走りに使おうとしているところがおもしろい。48V MHEV E-boosterはためた電気を使いオルタネーターを41Nmで瞬間的に回転させる。それと同時に電動ターボを回転させて圧縮した空気をエンジンへと押し込んでいるという。

 おかげでわずか2000rpmから450Nm(GT)を発生し、最高出力は300PS。モデナは2250rpmで450Nmとなり、最高出力は330PSとなる。対して最上位グレードの「トロフェオ」はV6 3.0リッターツインターボで最高出力は530PS、トルクは2750rpm時に620Nmを発生させている。このユニットは2シーターミッドシップの「MC20」譲りだが、馬力は抑えられている。全てのグレードで8速ATを採用し、駆動方式は4WDとなり、状況に応じてトルク配分は0:100~50:50に変化させている。

 プラットフォームはステランティスグループで使っているジョルジオプラットフォームを採用しているが、味付けはもちろんマセラティ独自のものとなる。ブレーキはバイワイヤとなることも特徴的。GTは19インチタイヤが標準となり減衰力固定。ちなみにモデナは21インチで減衰力は調整式、トロフェオは21インチでエアサスとなる。

GTがウケる理由は安さや大きさだけの話ではない

 そんなグレカーレのGTにまずは乗ることに。前後255サイズのタイヤを装着することで、上のグレードのようにリアのフェンダーガードを装着せずに全幅が収められているエクステリアは、迫力こそ薄いが、スッキリと上品なたたずまいが好印象。

 インテリアはエントリーモデルとはいえ上質さが伝わる空間が広がっている。このグレードのみプレミアムレザーではないのだが、上を知らなければこれでも十分と思える質感だ。センターに配されたアナログ表記のデジタル時計やパネル下にあるATセレクターが目新しく、スッキリとしたコクピットだ。一方でリアシートにも座ってみたが、空間はきちんと確保されており、身長175cmの筆者でも窮屈には感じなかった。

 市街地を走れば確かにスタンディングスタートにもたつきはなく(アイドルストップからの復帰はやや遅めだったが)、リニアに吹け上がっていくから心地よい。バイワイヤだというブレーキもクセをあまり感じずに、踏む方向だけでなく抜く方向も扱いやすさが得られていた。

 実はこの印象、ほかのグレードに乗るとちょっと違う印象のクルマもあったのだが、それはブレーキバイワイヤにある学習機能によるところが大きいのだとか。乗れば乗るほどなじんでくる、育つブレーキということらしい。フットワーク系は19インチということもあってか、ゆったりとソフトなフィーリングでマナーよく動いていた。スポーティなものを求めないのであれば、これで十分かもしれない。なぜGTがウケるのか? 決して安さや大きさだけの話ではないような気がしてくる。

「GT」(964万円)のボディサイズは4845×1950×1670mm(全長×全幅×全高。全幅はミラー含まず)で、リアのフェンダーガードは装着しない。48Vマイルドハイブリッド仕様の直列4気筒2.0リッターターボエンジンは最高出力220kW(300PS)/5750rpm、最大トルク450Nm/2000rpmを発生

 1つ上のモデナに乗ると、きらびやかな感覚が増してくる。フロントは255で、リアは295サイズの21インチを装着していることもあり、インパクトはかなり大。片側15mm広がるフェンダーガードを装着していること、さらにはリアトレッドが実質広がっていて、安定感の高いスタイルを実現していることが強烈な印象を与えてくる。

 インテリアはプレミアムレザーが奢られていることもあり触感もなかなかだ。走るとGTとはまるで違う路線に感じるほどスポーティ。全体的にかなり引き締められた感覚がある。走行モードを変化させていけばその印象はさらに高まり、高速域の安定感もさらに引き上げられた感覚になる。リアがどっしりと安定した感覚もまた特徴的な部分。これならどんなシーンであっても安定性を失うようなことはないだろう。エンジンについては上の伸びがさらにある感覚だった。

モデナのインテリア

 最後にトロフェオに乗ると、エアサスということもあり、乗り味はどうにでもなる感覚だ。つまりはGTとモデナの両方を味わえるとでもいえばいいだろうか? 時には車高を上げてさらにSUVっぽさを演出できたりと、七変化ぶりがなかなかおもしろい。それはパワーユニットも同様で、ゆっくり走って気筒休止してみたり、一方でフル加速をすれば大トルクと4輪駆動で蹴飛ばされるように発進してしまうのだ。

「トロフェオ」(1604万円)のボディサイズは4860×1980×1660mm(全長×全幅×全高。全幅はミラー含まず)で、リアのフェンダーガードを装着。V型6気筒3.0リッターツインターボエンジンは最高出力390kW(530PS)/6500rpm、最大トルク620Nm/2750rpmを発生

 また、モデナ以上ではドライバー・アシスタンス・パッケージがレベル2となり、ステアリングアシストが装備されるところもうれしい。手を添える必要はあるが、車線内をキープしようとサポートしてくれるそのシステムのおかげで、ロングドライブも安心して走行することができるだろう。

 このように、価格だけでなくおのおのに魅力が満載されていたグレカーレは、まだまだ販売を伸ばしそうだということが伝わってきた。これまで興味がなかった、もしくは自分には関係がないと考えていた方々には、一度試してみてほしい1台だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛