試乗記

マセラティ渾身のSUV「グレカーレ」、4気筒マイルドハイブリッドの「GT」試乗

マセラティの新型SUV「グレカーレ」

日本では立派なラージサイズのSUV

 マセラティと言えばフェラーリと並ぶハイエンド・スポーツカーメーカー。一方、その立ち位置はフェラーリの華やかさとは対照的で地味だが、中身から作り上げる実力派の印象がある。

「グレカーレ」は「レヴァンテ」に続くマセラティ渾身のSUV。サイズはレヴァンテよりも少し小さい。運転席に座るとコンパクトに感じるが、実際は全長4900mm、全幅1950mm。ホイールベースは2900mmの立派なラージサイズのSUVだ。プラットフォームはステランティス・グループのアルファロメオ「ステルヴィオ」などと共通となる。

 試乗車のGTグレードは2.0リッターの4気筒ターボ+48Vマイルドハイブリッド、そして8速ATとの組み合わせになり、駆動方式は後輪駆動が基本の4WD。出力は221kW/450Nmだ。さらにe-Boosterと呼ばれる電動コンプレッサーも備え、主として低中速回転域でエンジンをサポートする。滑らかなドライバビリティに効果大だ。

1月にデリバリーを開始した新型SUV「グレカーレ」。モデル名のグレカーレは“地中海の北東風”を意味し、マセラティブランドの牽引役としての役割が期待されている
試乗車のグレードは「GT」(922万円)。フロントは低く堂々としたグリルが特徴で、リアにはジウジアーロがデザインした「3200GT」から着想を得たブーメラン型のテールライトが備わる。ボディサイズは4845×1950×1670mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm
装着タイヤはブリヂストン「ポテンザ スポーツ」(255/45R20)。ブレーキキャリパーは4ピストンのブレンボ製

スポーツカーメーカーらしいSUV

 スタート直後はベルトドライブのマイルドハイブリッドがアシストし、続いてe-Boosterでのサポート、さらに高速回転域ではターボによる加速の伸びが楽しめ、グレカーレのドライバリティの高さは驚くばかりだ。

 スペックどおりトルクのたっぷりした途切れのない加速がグレカーレの特徴。数字から推し量る出力以上に身体で感じる加速力を秘めているのがマセラティらしい。ストップ&ゴーの多い都内でも微低速のアクセルコントロールが楽で乗りやすい。物理的な1950mmの全幅サイズさえクリアできれば大きなクルマを転がすときの躊躇は感じない。ただ停車時に便利なパーキングブレーキのオートホールドがなく、都市部では利便性が高いだけに残念だ。

 少し前が空いたところで軽くアクセルを踏むと瞬時に加速する。e-Boosterが作動しているのがメーター内のグリーンの横バー表示で分かる。あまりにもスムーズな加速なので1920kgの車両重量を全く感じさない。市街地から高速道路に入り、低いギヤに固定してアクセルを踏み込む。e-Boosterが一気に全域表示になり、さらにターボが本領を発揮する回転域になる。

 トップエンドでの回転の伸びはそれまでのレスポンスの鋭さとは異なって、5500rpmを超えたあたりで頭打ち感がある。しかしそこまでの滑らかで途切れのない加速感は見事だ。必要なところで必要なだけ力を出すパワートレーンはマセラティの変貌を物語る。エキゾーストノートもかつての突き抜けるような音とは違い、低音を響かせるような力強いものに変わった。

 8速トルコンATの変速は滑らか。マメに変速しており回生も頻繁に行なっているのは現代のクルマらしい。基本的に低回転を維持するがスポーツモードにすると低いギヤを優先するために回転が上がり、変速にもショックを伴う味付けとなっていた。

GTグレードが搭載する48Vマイルドハイブリッド仕様の直列4気筒2.0リッターターボエンジンは、最高出力221kW(300PS)/5750rpm、最大トルク450Nm/2000rpmを発生

 試乗車の装着タイヤはブリヂストン「ポテンザ スポーツ」。サイズは255/45R20でイタリア生産のタイヤとなる。グレカーレのハンドリングは素直でターンインからの反応もよく、4輪がしっかり接地している感触に安心感がある。重いSUVだが予想以上に回頭性がよく、2900mmのロングホイールベースとは思えないほどキビキビ動く。操舵力は切り始めが少し重めだがダイレクト感があってマセラティらしい。保舵力も適切で正確なコーナリングトレースを可能としている。スポーツカーメーカーらしいSUVだと思った瞬間だ。

 フロント:ダブルウィッシュボーン、リア:マルチリンクのサスペンションは中高速になるほど真価を発揮し、身体になじんでくる。高速道路での直進安定性もドッシリしてロングツアラーらしい仕上がりだ。さらに4WDの駆動力は基本的に後輪が担っているが、コーナーでは前輪も駆動を担当しグイと曲がっていく感触が頼もしい。

 ドライブモードはGTとオフロード、コンフォート、スポーツの4種類が選べ、試乗車では可変制御ショックアブソーバーが装備されており、コンフォートモードだと路面からのあたりはマイルドだが少しダンピングが不足してピッチングもある。ただピッチングは速度を上げてもゆったりとした動きに変わりはないので不快感はない。デフォルトのGTモードではシャキッとした動きでオールマイティな乗り心地だ。コツコツとした感触はあるがマセラティというスポーツカーブランドを考えるとこの位置をデフォルトとしたのは納得だ。

 さらにスポーツでは足が引き締まり、ロール制御も強くなる。一方で乗り心地は硬くなるが、マセラティの本音を味わうなら日常的に使うのもありかなと感じた。ただしギヤは低いポジションを選び、加速もシャープになるのでドライバーの自制心が必要だ。ドライブモードの切り替えはハンドルの右についているダイヤルで簡単に操作できる。

 さて、室内を見ると高級イタリア車独特の丁寧な作り込みの内装とたっぷりとして包み込むようにホールドしてくれる柔らかい革シートが素晴らしい。リアシートも同様で広いレッグスペースで大人4人がゆとりのある空間を共有できる。静かなキャビンと広いラゲッジルームに大量の荷物を積み、ロングツーリングも快適に違いない。

 ちょっと不満なのは液晶ディスプレイの表示がもう少し大きく、メリハリを利かせた方が見やすい点、加えればほとんどのスイッチがスクリーン上のタッチスイッチになっており、伝統のマセラティならアナログスイッチも残してほしいと感じた。

 価格は922万円。試乗車はサンルーフなどオプション込みで1017万円と決して安くないが、マセラティがこの価格で手に入るのもすごいことだ。

インテリアではマセラティ伝統の時計盤を採用するとともに、マセラティ史上最大の12.3インチの大型センタースクリーン、そのほかのコントロール用の8.8インチディスプレイ、リアシート専用の3番目のディスプレイからもテクノロジーをコントロール可能とした
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学