試乗記

BMWの新型「M2クーペ」、パワフルな直6ツインターボを6速MTで味わう!

新型「M2」

もっともコンパクトなMモデル

 2シリーズクーペのMハイパフォーマンスモデル「M2クーペ」は、1985年に登場した初代「M3」と1973年に誕生した「2002ターボ」の伝統を引き継ぐ、もっともコンパクトなMモデルと位置付けられる。

 クーペを除く2シリーズと1シリーズが横置きFFベースになった中で、1シリーズクーペから改名した最初の2シリーズクーペは、1つ前の世代のFRで最後のF20型1シリーズがベースだったことを念を押しておこう。もちろん初代M2クーペも同じだ。

 2代目となる2シリーズクーペは、現行のG2#系3シリーズと4シリーズとプラットフォームやパワートレーンを共用するなどメカニカル面での共通性が高くなった。もっとも近い関係にある「M4クーペ」に対して、全長と全高は違うが、全幅と前後トレッド幅やOEMタイヤ銘柄とサイズが同じ。執筆時点では直6エンジンの型式は同じでスペックが差別化されており、6速MTはM2のみに設定されている。

 外観は大きな縦長のキドニーグリルを持つM4クーペに比べて、一見するといくぶん常識的に感じるが、開口部を大きく確保した独特のデザインにより、むしろ個性が強まったようにも思える。その開口部にはみっちりとクーラー類が収められている。初代M2ほどフェンダーの張り出しが極端ではないにせよ、ただならぬ雰囲気が伝わってくる。

 さらに、200万円あまりするオプションの「M RACE TRACK PACKAGE」を装着した試乗車には、カーボンバケットシート、カーボンファイバートリム、カーボンファイバー製ルーフ、Mドライバーズ・パッケージなどが与えられているが、この印象的な「Mザントフォールド・ブルー」というボディカラーが無償だと知って驚いた。

今回試乗したのは2023年2月に受注を開始した新型「M2クーペ」。価格は8速AT、6速MTモデルともに958万円。ボディサイズは4580×1885×1410mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2745mm
新型M2クーペでは自然吸気エンジンのような吹けあがりとターボテクノロジーによる圧倒的なパワーを併せ持ち、約50:50の理想的な前後重量配分(車検証の記載では前軸重900kg、後軸重810kg)により俊敏なハンドリングと卓越したロードホールディング性能を実現
新型M2は2シリーズ クーペをベースとしながら大きく左右に張り出した四角型基調のエアインテーク、ヘッドライトまわりのデザイン、横バーを採用した直線的なデザインのフレームレスのキドニーグリル、横方向にワイドにしたフロントホイールハウスなどにより存在感を強調した
フロント19インチ、リア20インチのM ライト・アロイ ダブルスポーク・スタイリング930Mを標準装備。タイヤサイズはフロントが275/35R19、リアが285/30R20
オプションの「M RACE TRACK PACKAGE」(204万5000円)に含まれるMカーボン・ファイバー強化樹脂(CFRP)製ルーフを装着。スチール製に比べて約6kgの軽量化を実現するとともに、さらなる低重心化を図れる
リアまわりではMハイ・パフォーマンス・モデル伝統の存在感のある4本出しエキゾーストパイプ、空力特性の改善に寄与する立体的なリアディフューザーなどを採用

 BMWの最新モデルらしく眼前にはカーブドディスプレイが配されていながらも、Hパターンに刻まれた6速MTと3つのフットペダルがあるのは、もはやこのクルマぐらいのものだ。

インテリアでは上級モデルの「M3」「M4」と共通のコンポーネントを多く採用し、iドライブ・コントローラー、タッチ操作が可能な視認性に優れたカーブド・ディスプレイなどを装備。サーキット走行に適した「Mカーボン・バケット・シート」もオプション設定(「M RACE TRACK PACKAGE」に含まれる)し、こちらはベースシートと比べ前席2脚で約10kgの軽量化も実現する

味わい深い直6エンジン

 高度にチューニングされた直6ツインターボエンジンは、期待どおり絶品だ。レスポンスも吹け上がりもサウンドも、このクラスでこれ以上など心当たりがない。とくに3000rpm付近でいろいろな周波数の音が複雑に絡み合いながら高まっていくところが美味しい。さらに踏み込むと余韻を残しながらトップエンドまで吹け上がっていく。非常に強力でかつ味わい深いエンジンである。

 BMWは量販モデルに搭載される型式がN系エンジンのシングルターボのツインスクロールもよくできている。このクルマのあたかも研ぎ澄まされた自然吸気エンジンのようにレスポンスがよくブーストのかかりもリニアなのは、M社が手がけたS系のツインターボなればこそに違いない。ヒエラルキーのため車両重量差はそれほどないにもかかわらずM3やM4とはエンジンスペックがだいぶ差別化されているが、このクルマを味わう上で、その差を気にする必要はあまり関係なさそうだ。

最高出力338kW(460PS)/6250rpm、最大トルク550Nm(56.1kgfm)/2650-5870rpmを発生する直列6気筒DOHC 3.0リッターツインターボエンジン。WLTCモード燃費は9.9km/L

 6速MTのシフトフィールもすばらしい。ガシッとした剛性感とコリッとした節度感があり、実際はそれほどでもないのに、ストロークが短く感じられ、回転が合うとすると吸い込まれるように入る。自動的にエンジン回転を合わせるシフトアシスト機能も選べる。俊敏なエンジンレスポンスとあいまって、シフトチェンジするのが本当に楽しみになる。

 ただし、ハウジングの太いMTが重量配分へのこだわりでコクピットに食い込むかのように後方に搭載されているせいか、右ハンドル仕様では足の位置が右に寄っていて、一般的にブレーキペダルのあたりにクラッチペダルがあり、しかも操作する際にフットレストと干渉する。おそらく左ハンドル車なら問題ないのだろうと考えると、日本が左側通行であることがあらためて恨めしく思えてきた。せめてフットレストを低くするなど右ハンドル車ももう少し改善を図ってくれるよう望みたい。

 また、カーボンバケットシートの座面の前側中央にある盛り上がった部分も頻繁に触れて気になった半面、かなり低めのポジションに調整することができたり、こうしたシートであるにもかかわらず後席にアクセスするため背もたれを前倒しすると電動で自動的に前にスライドするあたりは、さすがはエントリーモデルとはいえBMWのMモデルだ。

最新のMモデルらしい進化を

 ドライブモードをあらかじめ設定された組み合わせから選ぶのではなく、「Mドライブ」によりいろいろな項目を個別に選択した2パターンを呼び出せるようになっているほか、プラス(=0)からマイナス側に効き具合を10段階も調整できる「Mトラクションコントロール」や、「ドリフトアナライザー」など独自の機能がいくつも搭載されているのも特徴だ。

 Mドライブでサスペンションのコンフォートを選択すると、Mハイパフォーマンスモデルながら路面への当たりがマイルドになり、意外なほど乗り心地が快適になることも印象的だ。そのあたりは「コンペティション」の名の付くモデルではないからだろうか、その他の項目も最強にセットしてもけっして過剰な特性にならないところもこのクルマらしい。もっと基本素性としてスパルタンな乗り味をイメージしていたのに、そうでもない。これなら同乗者を乗せて日常的に使ってもぜんぜん問題なさそうだ。

 ランフラットでないタイヤはフロントが275/35R19、リアが285/30R20サイズと前後で幅だけでなく径も異なり、太いサイズを履くわりにはステアリングの切れ角は大きい。

 一方で気になっていたのは、「M240i」のときと同じく手の内で操れる感覚をどれぐらい味わえるかだ。1710kgという車両重量は、初代M2が1500kg台半ばだったことを思うと1割ほど重くなっていることには違いない。

 ワインディングも走ってみて、たしかにもう少し軽ければという気もしたが、カーボンルーフによる車体上部の軽量化も効いてか、回頭性は俊敏で揺り戻しも小さく、車体の剛性感も極めて高く、トラクションも十分に確保されていて、コーナー立ち上がりでパワーをかけても横に流れることなく前へ前へと進んでいくあたりは、いかにも最新のMモデルらしい。

 そのあたりが荒削りだった初代M2は、そのジャジャ馬ぶりを楽しむのが一興でもあったわけだが、モノの進化としては、いかにハンドリングを楽しめて、いかに不安なくアクセルを踏めるかというのが重要な要素に違いなく、その点では2代目M2は大きな進化をはたしていることには違いない。それも、とにもかくにもパワフルな直6ツインターボを6速MTで味わえる、極めて貴重な存在でもあるわけだから。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛