試乗記

ホンダの特別仕様車「フリード クロスター ブラックスタイル」試乗 “ちょうどいい”魅力にあらためて触れた

フリード クロスターの特別仕様車「ブラックスタイル」

印象的なブラックのアクセント

 そういえば、少し前まで2023年にフルモデルチェンジするらしいというスクープ情報がちらほら見られたはずのホンダ「フリード」だが、どうやらそうではないようだ。ここへきて特別仕様車を出すほどだから、もうしばらく現役を続けると見ていいだろう。

 実際の話、フリードは売れている。コロナ禍等の影響はともかく、自販連の発表による2022年度(4月~3月)の販売台数において、現行型になったのは2016年ながら、フリードはホンダ車では最上位となる7万9820台を販売し、全体でも6位と大健闘している。

 ご参考まで、マイナーチェンジして間もない「フィット」が6万824台で11位にとどまったのもフリードの存在は小さくないだろうし、あるいはモデルチェンジして前年比185.6%の9万2766台を販売し、直上の5位につけた「シエンタ」ともそれほどかけ離れているわけでもない。フリードの底力をつくづく感じさせられる。

 CROSSTAR(クロスター)に設定された特別仕様車の「BLACK STYLE(ブラックスタイル)」は、その名のとおりブラックをアクセントにすることで、より上質で洗練されたスタイルを目指したという。

 クロスター専用デザインの15インチアルミホイールやドアミラー、アウタードアハンドル、ルーフレールなどがブラックで統一されているほか、前後のガーニッシュをブラッククロームメッキとするなど、ブラックが象徴的にあしらわれている。前後のロアースポイラーとロアーガーニッシュもガンメタリック塗装とされて引き締まった印象になっている。

 思えば、控えめな雰囲気こそ持ち味だと認識していたフリードに、クロスターが加わったときも意外に感じていたところ、さらにこうしたイマドキの流行りの要素を取り入れた仕様まで登場したわけだが、けっこう似合っていてちょっと驚いている。

今回の試乗車は6月9日に発売されたコンパクトミニバン「フリード」のクロスオーバースタイルのグレード「CROSSTAR(クロスター)」に設定された特別仕様車「BLACK STYLE(ブラックスタイル)」。ハイブリッドの2WD(FF)の価格は303万3800円
ボディサイズは4265×1695×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2740mm
エクステリアではフロントグリルガーニッシュ、リアライセンスガーニッシュにブラッククロームメッキを採用したほか、クロスター専用デザインの15インチアルミホイールやドアミラー、アウタードアハンドル、ルーフレールなどをブラックで統一。さらにフロント・リアともにロアースポイラー、ロアーガーニッシュをガンメタリック塗装にすることでより引き締まった印象に仕上げた。クリアタイプのLEDハイマウント・ストップランプも装着

あらためていろいろ感心

 走りや機能的な部分での変更は伝えられていないが、特別仕様車の登場を機に、今一度フリードを再検証することにしよう。借り出したのはオドメーターが500km台のおろしたての新車だ。

 小さいながらも広々とした車内空間を確認しつつ運転席に収まり、さらに視界のよさを確認。しばらく走ってみて感じるのは、手ごろなボディサイズによる取り回しのよさ。あらためて“ちょうどいい”ぶりを実感した。そういえば、いつだったか取材用に借りた広報車に妻を乗せたときにも、妻はTV-CMのことはぜんぜん知らなかったのに、「これ、ちょうどいい!」とずっと言っていたのを思い出した(笑)。

ブラックスタイルのインテリア。専用ステッチ(シルバー)コンビシート&インテリアなどを採用

 フロアが低くワンステップで乗り降りできて、センタータンクレイアウトのおかげで荷室の床面も低く、隅まで広くスペースが確保されていて使いやすい。3列目シートが「ステップワゴン」や「オデッセイ」は床下格納式であるのに対し、左右跳ね上げ式とされているのもフリードの特徴の1つだ。

 床下にもろもろを収めたハイブリッドでは1列目シートの下あたりがふくらんでいるが、できるだけ気にならないようにされている。2列目は1列目よりもヒップポイントが高めに設定されていて見晴らしがよいあたり、小さいながらもミニバンとしての期待にも応えている。サイドウィンドウにはシェードもある。

 収納スペースもいたるところに使いやすくレイアウトされている。運転席前のダッシュや、カーナビの下にもちょっとしたものを置けるようになっていて、まさしく隙あらばという感じで、少しの無駄も許さない印象だ。ドア内張りあたりも、これ以上は考えられないほど機能的に作られている。よくぞここまでやっていたものだといまさらながら感心する。

収納スペースも豊富に用意される

 後席向けのエアコンの吹き出しがないのだが、それは広いながらも小さいサイズが幸いしてか、前席でAUTOに設定しておけば不快に感じることがないようになっている。

ミニバンっぽくない走り

 小さくても車内空間は“ミニバン”しているのに、走りはいい意味であまりミニバンっぽくない。いたって軽やかで、見た目からイメージするほど重心が高そうな感覚もなく、ステアリングも軽くて乗りやすい。

 思えば、今でもときおり話題に上がっているのを目にするi-DCDを新車で搭載しているのももうフリードだけになったわけだが、おろしたての個体だからか改良されたからか、心なしか制御がスムーズになっているように感じられた。それにダイレクト感のある走りは、スポーツハイブリッドを称するi-DCDの強みだとあらためて感じた。

パワートレーンは最高出力81kW(110PS)/6000rpm、最大トルク134Nm(13.7kgfm)/5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンに、最高出力22kW(29.5PS)/1313-2000rpm、最大トルク160Nm(16.3kgfm)/0-1313rpmを発生するモーターを内蔵した7速DCTを組み合わせるSPORT HYBRID i-DCDを搭載。試乗車のWLTCモード燃費は20.9km/L

 インフォテイメント系が新しくなかったり、ディスプレイの表示と操作系が最新のホンダ車のように整理されていなかったりするのはご愛敬ということで。先進運転支援装置も操作の仕方が最新ではないにせよ、車線維持機能など機能的には十分に今でも通用するだけのものを備えている。

“ちょうどいい”を強みに、まだまだ売れ行きは絶好調なことだし、これが最後の特別仕様車というわけでもないだろうが、これからフリードに乗るならモデルライフ終盤だからこそ出てきたこの雰囲気を楽しむのは大いにありだと思った。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛