試乗記

独自の世界観を作り上げた新型アルファード、走りを重視した新型ヴェルファイアに試乗

新型アルファード Executive Loungeや新型ヴェルファイアなどに試乗してきました

作り分けがされた新型アルファードと新型ヴェルファイア

 新型アルファードと新型ヴェルファイアは発表会の段階から驚きと意外性の連続だった。プラットフォームをTNGA GA-Kにしたことに始まり、ボディをこれでもかと強化。2種類の構造用接着剤を使い分け、高剛性と振動吸収を行なうと同時に、2列目のシートは防震ゴムをおごりフロアからフローティングした状態で取り付けていた。開発トップの吉岡氏いわく「コンセプトは快適な移動の幸せをお客さまに提供すること」。それは後席の快適性だけでなく、ドライバーにも疲れを軽減させようという狙いがあるという。

 さらに衝撃だったのはアルファードとヴェルファイアで走りのテイストを変化させたことだ。かつては見た目だけのスキンチェンジでしかなかったが、新型はヴェルファイアにはフロントパフォーマンスブレースをおごるとともに、バネやダンパー、そしてタイヤサイズに至るまでスポーティな方向に振り切るようにセットしたようだ。果たしてその違いは感じ取れるものなのか? じっくりと2台の違いを味わってみたいと思う。

新型アルファード
新型ヴェルファイア

独自の世界観を作り上げている新型アルファード Executive Lounge

新型アルファード Executive Lounge E-Four
新型からTNGA GA-Kのミニバンプラットフォームを採用

 試乗会で乗り込んだ最初のクルマは、アルファードのやりたかったすべてを注ぎ込んだといえる最上級グレードのExecutive Lounge E-Four(872万円)。外観上こそ225/65R17サイズのタイヤ&ホイールを装着していることもあり、おとなしいというか上品な仕立てではあるが、2列目シートはプレミアムナッパ本革シート表皮や、脱着式のリアマルチオペレーションパネルをおごったエグゼクティブラウンジシートが標準装備となる超豪華版。

 フロントクォーター、フロントドア、そしてスライドドアに備わるガラスはこのグレードのみ高遮音性ガラスとなっている。また、ショックアブソーバーにはバルブを3つ設けて入力する周波数に合わせて減衰力を機械的に変える周波数感応型となるのもアルファードではExecutive Loungeのみとなる。

 まずはドライバーズシートに収まりドライビングポジションをセットしてみると、かつてより乗用車的な感覚になったことがうかがえる。かつては垂直から前に30.4度の傾斜だったが、新型では25.9度まで立ってきた。もちろん、アジャストの仕方によって変化はあるが、最も下げた状態ではミニバンとは思えぬ仕上がりに感じる。

 動き出せばそこは2.5リッターハイブリッド+あらゆる遮音対策による圧倒的な静けさと、エアボリュームのある225/65R17+ブリヂストン トランザ T005A ENLITENとソフトな足によるウォーターベッドにでも乗っているかのような包み込まれた空間が広がっている。タウンスピードにおけるその乗り味はどこか懐かしく、個人的には1980年代半ばのクラウンロイヤルサルーンのようだと感じた。これでペースを上げて大丈夫なのか? やや不安を感じながら高速道路に入っていく。

独特の乗り心地を生み出す因子となっている225/65R17+ブリヂストン トランザ T005A ENLITEN

 けれどもすべてがフワッとしているわけじゃない。フロントサスペンションはリアに比べれば引き締められており、しっかり感を得られるようにセット。コラムアシストからラックアシストに変更された電動パワーステアリングは、ソフトな印象ながらもしっかりと路面状況を伝えてくるから不安感はない。

 足まわりが取り付けられる着力点剛性は従来比で前後ともに30%アップされたことも効いているのだろう。首都高速横羽線のワインディング区間においても、足まわりがソフトに設定されている割には追従性もよく、進路を乱すようなことはない。

 床下Vブレース、ノア・ヴォクシーから採用されたスライドドアレール周辺のストレートロッカー構造、そして構造用接着剤を従来型に比べて5倍の50mとしたことも効いているのだろう。本来であれば扱いにくさを感じそうなくらいにリアがソフトなのに、ドライビングしていて嫌みが出ていないのだ。もちろん、これは日本の道路で制限速度内で動かしたときという限定的なものだが、その状況で乗り心地に振り切った割にネガが出ていないことがすごいと思えた。昔のクラウンのようにフワフワでノーインフォメーションとならないあたりが現代流なのかもしれない。

 大黒パーキングエリアに入り今度は2列目に座ってみると、そこは極楽な空間が広がっている。駐車場内にある歩道の段差を横切る際にどうしても感じてしまうガツンとくるはずの入力を一切感じない。フワッと乗り越えてしまったのだ。座圧分散性の高いウレタンを座面におごり、シートバックには低反発まくらに似たフォームパッドをセットしたこのシートは、とにかくソフトに全身を包み込んでくれる。さらに、アームレストにまで低反発フォームパッドが与えられるというのだから驚きだ。シートを倒し、オットマンを出して寝そべれば、宇宙空間での無筋力姿勢と同じ体勢になれるということもあり、試してみるとどこにも力を入れずに全身が浮遊しているのではないかと錯覚するほどの感覚になる。リアマルチオペレーションパネルで天井とサイドのシェードを閉じ、TVでも見ていればクルマに乗っていることさえ忘れられる。

新型アルファード Executive Loungeのコクピットまわり
フロントシート
防振ゴムなどが採り入れられている2列目シート
2列目シートは極楽でした
走行時の乗り心地を確認中
マッサージも装備されています
サンシェードなどもリモートコントロール可能

 トヨタ車として初めて防震ゴムブッシュを与えたシートには振動もほとんど入ってこないように感じる。人の指先、皮膚、筋肉は15Hz前後の共振周波数があるというが、それを徹底的に排除するようにセットされたその空間は絶品。足下には高減衰性接着剤をおごったせいか、足下にもブルブルは感じない(ちなみに3列目に移動すると足下にはややブルブルが入る)。これはやはりショーファードリブンのグレードということで間違いない。

 お抱え運転手のオプションメニューをカタログラインアップすべきか!? そんなことを思うほど、セカンドシート特化のグレードといっていい。これぞアルファードの世界観なのだろう。

走りを重視した新型ヴェルファイア

新型ヴェルファイア Z-Premier 2WD

 その対極にいるのが後に乗ったヴェルファイア Z-Premier 2WD(655万円)だ。2.4リッターターボ+Direct Shift-8ATが生み出すアクセルに忠実な応答性はTHS-IIでは得られないドライバビリティ。足まわりはこちらもまた周波数感応型となるが、先ほどに比べればかなり引き締められた設定であることがうかがえる。それはタイヤが225/55R19サイズになること、そして銘柄がダンロップ SP SPORT MAXXになることもあり、かなりスポーティな印象だ。また、今回のウリであるフロントパフォーマンスブレースや手応えあふれる電動パワーステアリングの設定も、走りを予感させる仕上がりだ。

 走りを重視しているクルマだが、タウンスピードにおいて突き上げ感が強まるようなことはない。ボディをフラットにキープしながら、短いストロークで入力をうまく収めている感覚があり、快適性も損なわれていないあたりはなかなかのバランス。首都高の横羽線では、ミニバンであることを忘れさせてくれるほどの一体感あふれる走りを展開してくれる。走りが好きだけど家族の関係でミニバンに移行しなければならないというユーザーにとってはうってつけのセットに感じた。

 セカンドシートに乗り換えて大黒パーキング内の段差を乗り越せば、ややガツンとやられる感覚はあるが、ダンパーが追いつくような入力であれば十分にこなせる感触だ。こちらのシートにはソフトなウレタンが採用されておらず合皮となるが、それでも質感は十分に感じる。引き締められた足まわりとシートのダンピングとのバランスが取られ、無駄な揺らぎがないところがマル。慣れてくれば不快に感じるほどじゃない。また、音に関してはExecutive Loungeと比べてしまえば風切り音もロードノイズも入ってくるが、あくまでコレが一般的だと思えるレベル。Executive Loungeがやや超越しており、それに慣れてしまったからこそ音の大きさを感じるのだろう。

走りの振り幅を大きくした新型アルファードと新型ヴェルファイア

 最後にアルファードのメインともいえる2.5リッターハイブリッドのZ E-Fourにも試乗した。こちらは周波数感応型のサスペンションを持たず、タイヤは225/60R18サイズの横浜ゴム アドバン V03を装着していた。乗り味としては先述した2台の中間を行く感覚で、コンフォート性もスポーツ性も特化することなく、あくまでバランス重視の仕上がりに感じた。よい意味でかつての延長上にいるが、ほかの2台が飛び抜けすぎていただけに、特長がないことが逆にもったいなくも映る。個人的にはこのグレードにExecutive Loungeと同じ17インチのオプションをつけてみたい。それだけでどこまでコンフォートな乗り味になるのか? ちなみにコレ、レスオプション扱いとなり11万円も安くなるというから、気になる方は試してみてほしい。

 このように、ミニバンながらも走りの振り幅を大きくしてきた新型アルファードと新型ヴェルファイアは、旧型とは似て非なる世界に突入している。個人的には子供が大きくなってきたところでミニバンを離れてしまったのだが、この仕上がりがあるのならもう一度戻ってみたいとさえ思えてきた。それほどに魅力的だと思う。

 ただ、やはりというか当然ながら納期が長いようで、向こう1年は手に入らないことが濃厚だとか。月販8500台基準となり、そのうち70%がアルファード、30%がヴェルファイアだという新型。そんな環境であっても追いつかないほどの人気がすでにあるという。ここが唯一の残念ポイントなのかもしれない。対応方法としてはサブスクリプションサービスの「KINTO」を使うこともできるようだ。それなら数か月レベルで手元に来るのもあるのだとか。気になる方はチェックしてみてはいかがだろうか?

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学