ニュース
三刀流の活躍を見せるラリードライバー、奴田原文雄選手のいま
2025年10月2日 13:34
- 2025年9月5日～7日 開催
9月5日～7日、北海道・十勝地区で開催された全日本ラリー選手権第6戦「2025 RALLY HOKKAIDO」にて奴田原文雄/東駿吾組（ADVAN KTMS GRヤリス Rally2）が総合2位を獲得し、6戦終了時点でのポイントリーダーとなった。
昨シーズンより導入したRally2マシンでの初優勝となった7月のARKラリーカムイ（北海道）に続き、今回のRALLY HOKKAIDOの2位で大きくポイントを稼いだ形だ。この奴田原選手、2002年から2006年までの5年連続を含む9度の全日本チャンピオンをはじめ、2006年の世界ラリー選手権（PWRC）ラリー・モンテカルロでの優勝など、名実ともに日本を代表するベテランラリードライバーだが、その速さは健在だ。
そんな奴田原選手だが、近年ではラリー選手育成にも力を入れていて、自ら立ち上げた「NUTAHARA Rally School」を主宰している。こちらはラリー参戦を目指すビギナーからさらにステップアップしたい中堅のスキルアップまでを対象とした幅広い層に向けたラリースクールだ。
このラリースクールについて、「ラリーを新たに始めるにしても違うカテゴリーからの挑戦にしても、どうやって始めるのかちょっと分かりにくい競技だと感じていました。そして、いざ始めてみてもクラッシュ1回で終わってしまったりする。だからちゃんと走り切らなきゃならない。そのためのドライビングやコ・ドライバーのペースノート作りなど、そういうことをやりたかったんです」と奴田原選手。いや、ここでは奴田原校長か。
自分が大好きなラリーの裾野を広げていくため、欧米では普及していながら日本にはなかったラリースクールを開設するという長年の夢を実現させたのだ。ラリー以外のモータースポーツにおいては、このような取り組みは現役引退後の選手の活動の場として行なわれることも少なくないが、「自分が現役選手として活動しているからこそ繋がっている生きたネットワークが活用できるのは大きい」と奴田原選手は語る。ちなみに現在、奴田原選手と共に戦うコ・ドライバーの東駿吾選手はこのラリースクールの卒業生だ。
このようにラリーの入り口として、そして選手の育成を後押ししているのが「NUTAHARA Rally School」。一方でモータースポーツで培った知識や技術を活かし、高齢ドライバーに向け事故防止を促すレッスン活動も行なっている。それが「グッドドライバー・レッスン」だ。
こちらは数々のラリーの開催地として競技を支援してきた北海道・蘭越町の町長 金英行氏が自分たちの町の高齢者の力になって欲しいとのリクエストから生まれた活動だそうだ。その後、「NPO法人グッドドライバー・レッスン」を発足。現在ではTGRラリーチャレンジと事業連携して全国に広がりを見せている。
ちなみに今年の7月にRally2マシンでの初優勝を遂げたARKラリーカムイの舞台ともなっているのが蘭越町だ。蝦夷富士・羊蹄山が見渡せる風光明媚な蘭越町だが、クルマがなければ不便な地域であることは否めず、高齢の方であっても免許返納は簡単ではない。それだけに天候などの影響を受けながら刻々と環境が変化する一般道を舞台として高い次元で競うラリーのプロの視点は、高齢者ドライバーの安全運転に役立つことも多いだろう。
実は、このプログラムにはもう1つの目的があるとのこと。奴田原選手が若手だったころは練習する場所に今ほどの規制がなく、よくもわるくもゆるい時代だったから練習も十分にできた。そんな時代にキャリアをスタートさせ、ラリーを楽しんできた世代だからこそいま社会に恩返したい、というのが裏テーマだそうだ。
若手の育成、高齢者向け運転レッスンを全国で行ないながら、現役ドライバーとしてトップグループを走るという、二刀流ならぬ三刀流の活躍には恐れ入る。
さて、今シーズンの全日本ラリーもあと2戦を残すのみとなった。セッティングの幅の広いRally2マシンは奥が深く、まだまだセットアップを探っていく必要があると奴田原選手。グラベルでは一定の成果を上げつつも、ターマック（舗装路）はまだまだ模索中だという。現在シリーズチャンピオンの行方は混沌としていて、トップグループの誰がその栄冠を掴んでもおかしくない状況だ。
今週末の10月3日～5日には愛媛県・久万高原町で第7戦「久万高原ラリー」、そして10月17日～19日には岐阜県で最終戦「M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2025supported by カヤバ」が開催される。11月には世界選手権「WRC FORUM8 RALLY JAPAN2025」も控えているわが国のトップドライバーが競う全日本ラリー選手権の動向にも注目していきたいものだ。
