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パナソニック、2025年度第2四半期決算 車載電池事業に急ブレーキ

2025年10月30日 発表
パナソニックホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

 パナソニックグループの車載電池事業に急ブレーキがかかっている。

 パナソニックホールディングスが10月30日に発表した2025年度上期(2025年4月~9月)連結業績において、車載電池事業を含むエナジーセグメントの売上高は前年同期比4%増の4469億円、調整後営業利益が219億円減の329億円となった。

 増収減益の結果となっているが、その中から、第2四半期(2025年7月~9月)の車載電池事業だけの業績を見ると、売上高は前年同期比19%減の984億円、調整後営業利益はマイナス169億円と、一気に赤字に転落した。

エナジー部門の2025年度2Qのセグメント情報

 パナソニックホールディングス 執行役員 グループCFOの和仁古明氏は、「車載電池は、北米工場の販売量は拡大しているが、国内工場での販売減、原材料価格の低下に伴う価格改定などが減収に影響した。また、米国関税の影響に加え、カンザス工場および和歌山工場の立ち上げ費用の増加が減益につながった」と説明した。

パナソニックホールディングス 執行役員 グループCFOの和仁古明氏

 だが、トランプ大統領の就任以降の米国関税政策の変更や、EV購入者に対する補助政策であるIRA 30Dの終了などにより、北米市場におけるEV需要が急減速。その影響は大きい。

 結果として、パナソニックエナジーでは、北米市場における車載電池の2025年度の年間販売見通しを、期初計画の46GWhから40GWhへと下方修正することを発表している。

 米ネバダ工場に加えて、2025年7月から、米カンザス工場で車載電池の量産を前倒しして開始。生産量の拡大にこれから拍車をかける計画であったが、出鼻をくじかれた格好だ。

 そして、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の車載電池事業の業績見通しも下方修正した。

 期初計画では、売上高が5540億円、調整後営業利益は980億円、調整後営業利益率は17.7%を見込んでいたが、今回発表した修正値では、売上高は1280億円減額した4260億円に、調整後営業利益は620億円減額した360億円に、いずれも大幅な下方修正となった。調整後営業利益率は8.5%にとどまる。調整後営業利益の620億円の下方修正額のうち、240億円が米国関税の影響であることも明らかにした。

 また、2026年度も厳しい見方をしている。

 和仁古グループCFOは、「北米での販売量は、2025年度は前年並みになると見ており、さらに2026年度も前年並みになると想定している」と、需要の停滞が長期化する見通しを示す。

 パナソニックエナジーが「戦略パートナー」と呼ぶテスラ向けの車載電池は、トランプ政権の政策の影響もあり、米国内で生産しているパナソニックエナジーの車載電池の搭載が進展しており、ほぼ100%に達しているという。

「戦略パートナーに対する高いシェアを維持するとともに、最終的には戦略パートナーのEVが売れるように、競争力を高めることに貢献をしたい。カンザス工場で生産している車載電池は、ネバダ工場で生産している車載電池に比べて容量が5%向上しており、これがEVそのものの競争力強化につながる。カンザス工場が貢献できる部分であり、実際、顧客からの引き合いは強い」としたほか、「今後は、米国生産のメリットを生かして、他の顧客に対しても供給先を拡大していきたい。カンザス工場の生産体制は、需要を見ながら立ち上げていくという方針を堅持する」と述べた。

 カンザス工場では、年間生産能力を2026年度末にフル生産となる32GWhに引き上げることを公表していたが、2025年7月の量産開始にあわせて、この目標を撤回。「顧客の要望に応じながら、環境変化を踏まえて柔軟に対応していく」としていた。今回の発表を受けて、フル生産の開始時期については、より慎重な判断をすることになりそうだ。

 和仁古グループCFOは、「下期には車載電池で300億円の改善を見込んでいる。カンザス工場や和歌山工場の立ち上げに関わる固定費の絞り込みや、量産拡大に向けたペースの適正化を図る。上期に比べて材料価格と売価が改善していることも、下期の利益改善にはプラス要素となる。一方で、好調なデータセンター向け蓄電システムに固定費を振ることも考えている」とした。

 エナジーセグメントにおいて、車載電池とともに、もうひとつの柱となる産業・民生のデータセンター向け蓄電システムの需要は旺盛だ。

 売上高は、期初には前年比1.5倍の成長を想定していたが、上期実績では1.9倍という実績を達成。今回の発表では、2025年度の通期見通しを前年比1.7倍へと引き上げてみせた。

 ハイパースケーラーによるデータセンターへの積極投資が続いていることから、2025年度に続き、2026年度以降も当初想定を上回る需要の拡大を見込んでいる。

 先に触れたように、車載電池への固定費削減を進める一方で、データセンター向け蓄電システムに固定費を振り向ける姿勢を明らかにしたのも、こうした旺盛な需要があるからだ。

 パナソニックエナジーでは、これに対応するために、日本国内の車載電池の生産キャパシティの有効活用や、カンザス工場での生産についても検討を進めるという。

 パナソニックグループでは、2025年5月に、1万人の人員削減を発表。さらに、課題事業については、2025年度中に方向づけを行なう姿勢を示すなど、大胆なグループ経営改革に取り組んでいる。

 パナソニックホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEO 楠見雄規氏は、1万人の人員削減の進捗状況について、「今回の経営改革が人員の適正化に及ばざるを得ないことについてはじくじたる思いがある」と前置きしながらも、「もくろみに対してはオントラックで進捗している。インダストリーでは少し上振れている。特別キャリアデザインプログラムのメニューが後押しをする内容であったことが起因しており、地方出身の社員の中には、実家が兼業農家であり、その仕事に集中したいという人も多く出ている」とした。

 また、4つの課題事業の今年度中の方向づけについても「着実に進めている」とし、テレビ事業とキッチンアプライアンス事業の2つの事業が2026年度に課題事業から脱却すること、産業デバイスとメカトロニクス事業については、より踏み込んだ改革を進めていることを示しながら、「課題事業からの脱却の道筋は見えている」と語った。

 テレビ事業とキッチンアプライアンス事業については、「オペレーションを抜本的に変えることで、事業売却や、商品や地域からの撤退を行なわずに、課題事業からの脱却ができる」と述べた。

 パナソニックグループでは、2026年度に、調整後営業利益で6000億円の達成を経営目標に掲げている。

 今回の発表では、2025年度の業績見通しを下方修正し、調整後営業利益は300億円減額の4700億円としており、目標達成にはイエローシグナルがともりつつある。

 だが、楠見グループCEOは、「2026年度の目標は維持する。そして、達成は可能であると考えている」と断言する。

 しかし、その一方で、「2026年度 調整後営業利益の6000億円の達成において、疑問符がついているのは車載電池だけである。投資領域の増益額については、車載電池の市況停滞でもくろみから大きく減少するが、これを、収益性が高いデータセンター向けで相殺する。コネクトやインダストリーでは、2025年度の見通しを上方修正するなど、これらの事業の増益によってカバーできる」とも語る。

 2025年5月に発表したグループ経営改革において、車載電池は収益基盤を構成する重要な事業に位置づけられていたが、早くもその位置づけは大きく揺らいでいる。