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フォルクスワーゲン本国乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEO、日本市場について語るとともに最新EV「ID.ポロ」「ID.クロス」導入予告

2025年11月1日 開催
「VW Weekend Meetup」にサプライズで登場した独フォルクスワーゲン乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOに、日本市場の動向などについて聞いた

過去最高バージョンのフォルクスワーゲンブランドを作る

 フォルクスワーゲン ジャパンは11月1日、代官山T-SITE(東京都渋谷区猿楽町)で「VW Weekend Meetup」を開催。このイベントには来日した独フォルクスワーゲン乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOが参加し、当日イベントに参加したフォルクスワーゲンファン「VWer(ヴィーワー)」との交流を楽しんだ。

 今回のイベントではシェーファーCEOがサプライズで登場したのが大きなトピック。各国のモーターショー視察に力を注いでいるというシェーファーCEO、来日したタイミングで行なわれていたジャパンモビリティショー2025にも訪れたといい、代官山のイベントでも「日本市場を今後どうやって盛り上げていくかと熱く議論を交わした」「これからもっともっと日本市場を盛り上げるために、私たちもさらに力を尽くしてまいりたい」とコメントしているとおり、日本市場を理解し、もっと発展させていくにはどのような展開が望ましいか。ジャパンモビリティショーの視察、「VW Weekend Meetup」で聞いたオーナーの声がヒントになったに違いない。

「VW Weekend Meetup」でトーマス・シェーファーCEOは、さまざまなモデルのオーナーとの対話を楽しんだ

 そんなシェーファーCEOは、「VW Weekend Meetup」開催タイミングで報道陣のグループインタビューに応えた。その冒頭、フォルクスワーゲンブランドのCEOに就任して約3年が経ち、CEOとしての来日は今回が初めてになることを報告するとともに、「私がフォルクスワーゲンのCEOに就任したときに設定したゴールはただ1つ、過去最高バージョンのフォルクスワーゲンブランドを作るということ。フォルクスワーゲンは私たちが誇りに思っている名前で、ブランドとしても非常に力がありますので、ぜひこれを未来に続けていきたいと思っております。デザインしかりクオリティしかり、ユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンス、商品も本当に素晴らしいものを私たちは持っていますので、その約束を今後しっかり守ってまいります」とコメント。

 そして9月にミュンヘンで開催された「IAAモビリティ2025」において「ID.Polo(アイディ.ポロ)」「ID.Polo GTI(アイディ.ポロGTI)」、そして「T-Cross」の電動バージョンである「ID.CROSS Concept(アイディ. クロス コンセプト)」を世界初公開していることを例に挙げ、「実際に私たちがその約束を守っているということをお示しできたと自負しています」と力強く語った。

 一方、2024年に業績悪化を背景にドイツ国内の工場を一部閉鎖するとの衝撃的なニュースが日本でも駆け巡る(結果として2030年までにドイツ国内3万5000人の人員削減で合意)など、現在厳しい環境下にある。そうした中、フォルクスワーゲンとして「2030年までにテクノロジーでリードするボリュームメーカーになる」という目標を掲げていることについて触れ、「そのために過去最大級のプランを会社の方で決定しました。労働組合とも交渉し、コスト削減することを今後も推進して参ります。その内容を戦略に落とし込んだものが『フォルクスワーゲンブースト2030』という戦略です。これは社員に対しても会社に対しても進むべき方向というのを明確に示した内容になっており、すでにある程度進捗しています。たとえば主にドイツ国内の工場のコストを20%削減しました。また、2万人の従業員が退職もしくは2030年までに退職するということで合意を取れておりますので、今のところこの戦略は順調に推移しております。3年前はこんなことできないだろうと思っていたことを実際に実現できておりますので、そのことは非常に誇りに思っております」と、厳しい道のりを歩みつつもその進捗が順調であることを報告した。

 そして日本市場についても言及。「日本は私たちにとってとても重要な市場」とし、「今回のイベントでお客さまが持ってきてくださったクルマを駐車場で拝見したのですが、アイコニックなクルマがたくさんいて本当に感動しました。これからも日本で成功するためにより良い商品を日本に持ってくることが必要だと思っております。ID.Polo、ID.CROSSにつきましてもぜひ日本市場に導入したいと考えております。いま申し上げたモデルは日本市場にぴったりのサイズだと思いますし、アイコニックなデザインで、まさにブランドの形を作ってくれる重要なモデルだと位置づけています。今後、日本で未来を切り開くために明確なプランを立て、議論した上でしっかり日本市場にフォーカスしてまいりたいと思います。必ずや復活してまいります」と結んだ。

ID.Polo
ID. Polo GTI
ID. CROSS Concept

 以下、報道陣との質疑応答について記す。

ID.Polo、ID.CROSSは日本市場のお客さまのニーズに合う

ジャパンモビリティショー2025の感想についても語ったトーマス・シェーファーCEO

──ジャパンモビリティショーに行かれたということで、日本車が中心の出展だったと思いますが、それをご覧になってフォルクスワーゲンのCEOとしてどういう感想を持たれたか教えていただけますか。

シェーファーCEO:はい、非常におもしろかったです。日本のモビリティショーを見るのは今回が初めてだったのですが、おもしろいというのはさまざまなタイプのクルマが出展されているだけでなく、日本のニーズに合わせてモビリティが展示されていたところが非常におもしろいと思いました。日本の日常使いのニーズに合わせたモビリティのソリューションというのがいろいろ披露され、各OEMのアイデアを見て「なるほど、こういうふうにモビリティを解釈するのか」と思いました。今まで私が見たことのあるモビリティショーとは違う印象を受けました。

──Love Brand(ラブ ブランド)戦略のご自身が思う進捗と、今後の課題をどう考えていらっしゃるのか。また、ミュンヘンでID.Polo、ID.CROSSの実車を見てきました。これもすごく期待できるクルマですが、一方で電気自動車の普及はいいクルマ、アフォータブルだけではなかなか進まない気がします。ICEにはない電気自動車ならではの価値が必要だと思うのですがいかがでしょうか。

シェーファーCEO:おかげさまでここ数か月、いろいろなセッションを経て大きく進捗がございました。これまで商品ですとかそのブランドにフォーカスして新しい商品出すこと、それから商品の名前やデザインを直すことに取り組んできたわけですけども、そこは終わりました。今後直した商品や新たにデザインしたものを数か月、数年かけて世に送り出していく段階に入ります。それからコスト面に関しても工場や材料費も大幅に削減できたので、企業として今より安定した状態になり、将来に向けて新しい商品の開発等にも投資が十分できる状態になりました。

 電気自動車に関しては、やはり内燃機関にはないよさがあると思っています。1つはデザイン面、プロポーションです。幅や高さというのはその電気自動車だから出せると思いますし、部品点数が少ないので室内空間がゆったりとれるというメリットもあります。実際にID.Poloは、外から見るとポロの大きさなのですが、室内はゴルフぐらいの広さがあります。それに加えて電気自動車ならではの走りの楽しみ等もありますので、いろんな意味でプラスの面があると思っています。

──Love Brandを掲げてから最近出たフォルクスワーゲン車を見ると、明らかに良くなってきている。僕は昔からフォルクスワーゲンファンで、ゴルフだけでも4~5台乗っています。一時期のフォルクスワーゲンは僕がフォルクスワーゲンに求めているクオリティがちょっと感じられなかったのですが、それが戻ってきた。これは何があったのでしょうか。

シェーファーCEO:とてもいいご質問を率直に聞いていただいてありがとうございます。確かに課題はございました。これがどういう理由かちょっと分からないんですけども、フォルクスワーゲンは非常に細かいところにこだわる文化があります。特にクオリティがそうなんです。お客さまが期待するクオリティに対しては、今日一緒に来ている(クリスチャン・)フォルマーがグローバルの生産統括をしている役員なので、それは彼の責任でもあるんですけども、結局クオリティというのはCEOが責任を持つべきトピックだと思うのです。これを誰かに権限委譲するべきものではないと思っていますので、毎週月曜日に取締役会が開かれるのですが、その大部分をクオリティやそれに関する進捗について話をしています。確かに一時期問題があったときはありましたが、しっかりハードウェアもソフトウェアもフォーカスして取り組んできたおかげで、今はクオリティも安定していると思います。

──先日ミュンヘンで行なわれた「IAAモビリティ2025」では大変魅力的なEVがいろいろ出たと思います。一方でフルハイブリッドもフォルクスワーゲンとして投入すると示されていらっしゃると思います。今までどちらかというとフルハイブリッドは否定的な立場だったかと思うんですが、今導入される理由と後発になると思いますのでどういった部分で競合車と差別化していくか教えてください。また、半導体メーカーのネクスペリアの問題が各自動車メーカーの懸念材料として出ていると思います。来週以降の見通し、あるいは対策があれば教えてください。

シェーファーCEO:私たちは電動化戦略を明確に掲げており、将来の自動車が電動化だというのは明確です。ということで、この前ミュンヘンでご披露したアーバンカーファミリーのような電動自動車にもかなり投資をしておりますし、ミュンヘンで披露したものだけでなく他にも多数ございます。ただ、ヨーロッパの一部の国では電動化がやや遅れて減速をしております。国によって電動化のスピードも異なっておりますので、お客さまがどういうものを求めているかということに耳を傾けた結果、T-Rocにつきましてはフルハイブリッドでいこうと決めました。もちろん電気自動車にフォーカスするということははっきり決まっていますが、全部のクルマに(ハイブリッドを)ご用意するわけにはいかないので取捨選択させていただいています。

 ネクスペリアの問題ですが、今回話題になっている半導体はすごくシンプルなものです。3年前にも半導体不足という危機がありましたけども、あのときとは比べ物にならないというか、そのもの自体はすごくシンプルで、どの電化製品にも搭載しているものだと理解しております。今回このニュースが出て、どのメーカー、どのサプライヤーも非常に混乱がありまして、何とかこれまでのところ私たちの方では代わりのものを見つけて台数を落とさずに済んでいますが、この問題は基本的に技術的な問題じゃなく政治的な問題だと捉えておりますので、もしこれがこのまま解決しないと、中長期的にはどこも半導体が足りなくなる影響は出てくると思います。ただグローバル全体でどの業界も影響が大きい問題なので、なるべく早い段階で政治的に解決がされればいいなと思っております。今のところ、今後2週間分の半導体は十分用意がございますので、日々展開を見守っているところです。

──グローバルに見たら決して大きくない日本市場にわざわざ来てくださったことを大変誇りに思いました。質問が2つあります。1つは日本のファンを今日ご覧になって、他の国のファンとどういうところが違うと思ったかを教えてください。もう1点は、先ほどブランドのプロダクトを変えていくお話の中で、デザイン、クオリティ、ユーザビリティを大きく変えていくとおっしゃいました。特にデザインとクオリティに対して、お客さまが実際にどういう違いを体験できるのか、具体的な例を少し教えてください。もしくは皆さんが今注目しているところ、注力しているところは何かを教えてください。

シェーファーCEO:まず2つ目の質問について、ユーザーエクスペリエンスというのはクルマに乗って座ったときに直感的に操作できるかどうか、要するに座ったら何をするかすぐに分かるという機能について話をしています。私が3年前に着任したときは「ステアリングにボタンを戻そう」と言いました。そのときみんなにおかしいんじゃないのと言われるかなと思ったら、皆さんからとても好意的な反応があった。そこで私が分かったことが2つあって、1つはやはりボタンは必要だと。フォルクスワーゲンのクルマは使いやすい、直感的に操作できるというのが売りなので、「最新のテクノロジーを搭載していても、それが使いにくい、どこにあるのか分からないというのはやはり駄目だよね」となりました。

 そこでいろいろなリサーチをしました。ランダムに人を選んで実際に乗っていただき、使いやすいかどうかをいろいろテストしてもらう。ここにかなり時間をかけました。あと、インテリアについても今度のID.Poloからフォルクスワーゲンらしさが戻ってきています。タッチ&フィールもそうですし、素材の使い方についてもフォルクスワーゲンらしさが戻ってきているはずです。

 ファンのお話については、グローバルでセールスマーケティングを担当する役員のマーティン・ザンダーからお答えします。ご質問は日本のファンはその他の国のファンとどこが違いますかということでしたが、少し違う角度からお答えしたいと思います。フォルクスワーゲンというのは世界中に非常に強固なファンのベースがあり、これは本当にすばらしいことだと思うのです。私たちは今回ドイツから12時間かけて飛行機に乗って地球を約半周して日本までやってきたわけなんですけども、日本に来てもフォルクスワーゲン車に乗ってくださり、商品を愛してくださり、ブランドを愛してくださっている方がこれだけいるというのは本当にすばらしいと思います。先ほどあるファンの方が、700km離れたところから車中泊をしながらこのイベントに来てくださったという方がいらっしゃいました。それを見ただけで、本当にフォルクスワーゲンというブランドがいかにパワーがあるか、それから世界各国の社会にいかにフォルクスワーゲンブランドが根ざしているかというのがよく表れていると思います。これは日本に限らず、韓国や南アメリカでもそうなんです。今日駐車場で本当にすばらしいクルマをたくさん見せていただきましたが、フォルクスワーゲンが約80年をかけて世に送り出したアイコン的なクルマがこれだけ世界の津々浦々にあるというのは本当にすばらしいことだと思います。

 顧客ベースの強さがまさにフォルクスワーゲンの強みであり、私たちにはそれだけポテンシャルがあるということだと思うのです。特にこれから次世代の商品を続々と投入して参ります。かつてフォルクスワーゲンが名を馳せたデザインやクオリティ、ドイツらしいエンジニアリングを身にまとった次世代の商品がこれから世に送り出されますので、ますますビジネスを発展させるいいチャンスだと思っていますし、それだけの力がある強いブランドだと思っています。

──私自身、ゴルフに11台乗りました。そのゴルフについてうかがいたいのですが、昨年シェーファーさんは次のゴルフはSSPプラットフォームを採用するBEVになるとお話をしてました。ただBEVを取り巻く環境が急激に変化している中で、現行のゴルフ8.5の販売を続けることや、あるいは最新のプラットフォームMQB evoを採用する新型ゴルフを作るという考えはございますか?

シェーファーCEO:いまのMQB evoベースのゴルフ8.5ですね、これは本当に過去最高のゴルフだと私は思っています。ゴルフがデビューして50年ということで、2026年はゴルフGTIが50周年を迎えます。今のゴルフはポジションとしては完璧だと思っていますので、これから10年乗っても廃れないと思います。次のゴルフを電動化するというプランに変更は今のところございません。やはりゴルフは未来まで持っていくべきモデルなので、次世代のプラットフォームでやろうということに変更はないのですが、それと同時に8.5という素晴らしい商品がございます。実際にヨーロッパで新しいモデルを出すのが2030年代の初めの方になりますので、まだ決めるまでには時間があるかなと思います。

トーマス・シェーファーCEOは日本市場の特徴について「特に幅の狭いクルマに対してお客さまのニーズがある」と語る

──ジャパンモビリティーショーで日本で販売されるモデルをご覧になったと思いますが、ヨーロッパ市場と比べて日本市場の特異な点はどの辺りに感じられたか。また日本でよりフォルクスワーゲンブランドのクルマを売るために必要なことを教えてください。

シェーファーCEO:日本の市場はもちろんその他の国の市場と違っていて、一番の違いは軽自動車も含む小型車、特に幅の狭いクルマに対してお客さまのニーズがあるというのが大きな特徴だと思います。アメリカや中国ではより幅広のクルマに対する需要が高く、そういった幅広のヨーロッパのクルマというのは日本では問題になってしまいます。その幅広のクルマを収容するだけのインフラが十分整ってないというのが背景にありますが、ただそういった意味でフォルクスワーゲン車は幅も広すぎず適切だと思っていますので、ちょうどいいと思います。

──ヨーロッパ市場はBEVが停滞してるとはいえ日本よりかなり多く出ているレベルだと思いますが、日本市場は先進国の中では特段BEVの販売比率が低い状況にあります。この日本でBEVの販売比率を上げるためにはどんなことが必要だと考えていますか。

シェーファーCEO:その考えを変えていただくとか、啓発するには乗っていただくのが一番だと思うのです。実際に乗れば走りもいいし、すごくパフォーマンスもいいし、乗ってワクワクするっていうのは分かっていただけると思います。あと大事なのは、お買い求めやすい価格の電気自動車を出すということだと思います。そういった意味では、ID.Polo、ID.CROSSにつきましては、その日本市場に持ってくればお客さまのニーズに合うことができると思っています。

 あとプラグインハイブリッドやハイブリッドは脱炭素という意味ではいい方向ではあるとは思いますけども、将来は明らかに電動化の方向に行くので、確かに国によってその電動化の速度は違いますが、電動化することは確実だと思いますので、私たちのターゲットは明確です。

 ちなみにヨーロッパで電気自動車の需要が減速しているわけではなく、私たちが予想していた伸びほどは速くないということで減速はしていないです。ヨーロッパで実際フォルクスワーゲンは電動化モデルでNo.1ですので、ここ戦略的にすごく重要なんですけども、やはり将来は電気だというのは確実で、それが早いか遅いかの違いであって、電気の方に行くのは確実です。私たちの今のポートフォリオは非常に魅力的で、その電気自動車の中でももっとも魅力的なブランドです。実際にNo.1のポジションですし、ID.4はグローバルでNo.1なのです。なので、私たちの戦略が正しかったというその裏付けにもなっていると思います。

今後のフォルクスワーゲンブランドの日本市場での展開に期待したい