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量産バッテリEV「e-ハイゼットカーゴ」「e-アトレー」におけるダイハツらしさを聞いてみた
2026年2月4日 07:00
- 2026年2月2日 開催
筆者も仕事柄、バッテリEV(BEV)と聞いても特におどろくことはない。おどろくという表現はちょっと違うかもしれないけど、つまりは特別変わった存在とは思わないようになっている。
とは言え、BEVは新たなクルマの姿であるから、「新型が出た」と聞けば、そこには最新技術がたくさん盛り込まれていると連想してしまうのだった。
だから今回発表された量産バッテリEV(BEV)「e-ハイゼット カーゴ」と「e-アトレー」は、「最新BEVの技術がぎゅっと詰まっている」とか、「いやいや軽バンだから、最新ながら構造をシンプルにした新しい作り?」とか、そんな期待をしていたのだ。
そんななかで開催されたのは、e-ハイゼット カーゴとe-アトレーの取材会である(以下、e-ハイゼット カーゴと表記してe-アトレーも含む表現とする)。すでに記事になっている報道発表会の後に、同じ会場で行なわれたものだ。
取材会では、開発責任者や開発担当者、営業担当者、それにe-ハイゼット カーゴを製造する「ダイハツ九州株式会社」から生産の担当者も参加。開発だけでなく、生産についての質問も受け付ける体制となっていた。
ハイゼットは単位である!?
BEVにおいて重要なのは電費の向上だと思っている。特に仕事で使うクルマは、1日のサイクルで途中充電が不要なことがマストだと思う。そして軽バンが受け持つラストワンマイルの配送の仕事や巡回の仕事では、1日あたり50kmくらい、長ければ100kmくらい走るだろうし、その内容も平地の移動ではなく、アップダウンが激しい地域もあるから、余裕を見て150kmは季節に関係なく走れることが必要じゃないかと思っていた。
そして「主流の軽バン」ならではのこととして、特に配送の世界では「ハイゼットにどれだけ積めるか?」というのが1つの基準になっているようだ。例えると、給料計算における計量カップのようなものである「カップ一杯」=「ハイゼット一杯」だ。ちなみにちなみに、これはスズキの「エブリイ」も同様に認識されているようだ。
また、巡回サービスなどでは、荷室内にインナーキャリアを設けて道具の整理をしていることもある。
このような条件から、ハイゼットは「簡単に室内寸法を変えることができない存在」でもある。そしてBEV化では多くの場合、フロア下にバッテリを搭載するので、フロアが上がったりすることもあるが、ハイゼットの場合、この作りをすることは自らの存在価値を崩すことになりかねない。
そんなことから、バッテリの大容量化よりもむしろコンパクト方向に振って、その代わりシステムや制御側から電気を上手に使う方向と考えていた。しかし、バッテリは36.6kWhの大容量と説明されて、ここで一気に仮説が崩れる。
では、大容量バッテリを積んだことで荷室スペースはどうなったかと言うと、ここはガソリンエンジンのモデルと変更がない。つまり「ハイゼット一杯の単位」は守られているわけだ。
BEV=常に最新ではなかった!?
もうこの時点で、最初に立てていた想像は意味をなさないものになっていたのだけど、せっかくなので、いくつかの仕様について聞いてみることにした。
まずはインバーター。最新というか、車格が高いBEVではSiCインバーターを採用する方向であり、特性的にストップ&ゴー(登坂も)が多い走り方では電費向上に有利だと思うので、これはどうなのかと聞くと、従来からのインバーターを採用しているとのこと。
もう一つ、BEVではモーターやバッテリ、外気の熱などを集めて必要なところに回すヒートポンプ式という技術があるが、e-ハイゼット カーゴではそれも使っていない。冬のヒーターは普通に電気でヒーターを温めている。そしてモーターやバッテリの熱は循環させていない、というものだった。
ざっくり大きいところで言うと、これらがなかった。つまり、新しい技術のBEVであり新型車ではあるけど、新技術モリモリではなかったのだ。
大きく変わったが、肝心なところは変わらない
では、e-ハイゼット カーゴは何なのか、というと「ユーザーにBEVのよさを提供すること」と同時に、「ユーザーに余計な負担をかけないこと」をテーマに作られているものだったのだ。一般的に高性能化を図る新技術はコストが高い。そしてそれを軽バンに取り入れると、確かに性能は高くなるが、その分車両価格が上がってしまう。それでも性能向上が仕事の内容に大きく影響するのであれば、価格上昇は吸収されるだろうけど、SiCインバーターやヒートポンプで得られる性能向上は、軽バンの使われ方においてコストパフォーマンスが合わない。
また、構造がシンプルであれば、故障しにくい面もある。ここで勘違いしてほしくないのが、複雑な機能を持ったBEVは故障が多い、というわけではないということだ。
でも、シンプルであれば壊れる箇所も少ないわけだし、もし壊れたときの修理コストも、シンプルである方が安価で済む。ちょっと脱線だけど、筆者は写真を撮るので、カメラメーカーのプロサービスに登録しているが、そこで聞いた話では、ハイエンド機種になるほどパーツの単価が上がるので、「ちょっとしたことでも修理費用が跳ね上がるものです」とのことだった。まさにこれと同じものだと言えるだろう。
つまりe-ハイゼット カーゴは、新しさが価格に大きく響かず、新しさが存在を変えるものでなく、新しさが手間を増やすものでもない、ということだ。
そういうことだと、今度は単純とか、単調とか、シンプルな道具のような感覚になってくるが、そもそもの存在意義として「仕事で使える相棒である」というテーマがあるはずだ。そしてそれは、趣味やレジャーでの運転ではなく、「仕事で運転する」前提においての「快適性」を必要とするのだ。
これについては、BEVの基本的なメリットである「静か」「発進加速がいい」「重心が低いので走行安定性が高い」ことがまずある。これらは発進と停止を繰り返すような配送業では効果の高いものであるし、巡回サービスなどでも、出足のよさやカーブでの走行安定性の高さは、運転疲れのレベルに大きく関わってくるはず。
ダイハツが考える軽バンBEVの走行フィーリング
BEVには充電の方法として減速時の力を使う回生があるが、これは効かせすぎると走行感に影響してきてしまう。そのため回生を有効に使おうと思った場合は、効き方を強くするのではなく、自然な感じの回生を停止寸前まで行なうはずだ。
e-ハイゼット カーゴは、システム的に省電費ではないから回生で頑張っているのかな、と思ったが、実は強めの回生も長めの回生も行なっていないとのこと。回生はもちろん入れているけど、「普通のレベル」であるそうだ。
理由を聞いてみると、「走行フィーリングを重視した」ということからの設定であった。回生が強く効くと減速の度合いも上がるが、それだと状況によっては「アクセルの踏み直し」でタイミングを補正する必要が出てくる。でもこれはドライバーにとって負担となるので、そういうことが起こらないよう、「1日中乗る」「配達で乗る」などの条件に合うような回生の効かせ方を意識しているとのことだ。
もう一つ、BEVにおいてアクセルはシステムへの入力装置となるのだけど、この装置のレスポンスがよすぎると、インバーターやモーターが本来求めていない反応を起こしてしまい、それが電費を落としたり、走行フィーリングに影響することもある。
そこでe-ハイゼット カーゴでは、アクセル制御を最適化している。自然と足が動いてしまう状況や、路面状況からの体の揺れなどに影響されない、スムーズな入力ができるようになっているのだ。
このような感じで、仕事で運転する前提の快適性を作り上げているのが、e-ハイゼット カーゴのシステムなのである。ここまで話を聞いた中で、最初に思っていた新技術で車両の価値を上げる、というよりも、電動化しつつ、それを現在の仕事内容に違和感なく溶け込ませる面に尽力しているのが、e-ハイゼット カーゴという印象に変わった。
さて、順番的にここに入れるのがいいのかと思って引っ張ったが、e-ハイゼット カーゴのBEVシステムは、トヨタとスズキ、そしてダイハツが共同で開発した「e-SMART ELECTRIC」。日本の商用車の主力といえる軽バンを、本質を変えることなくBEV化するための技術である。
この技術に、「小さなクルマ」「地域に密着したクルマ」を作ることが得意なダイハツの考えが盛り込まれたのがe-ハイゼット カーゴ。そういう線からこのクルマを考えてみれば、「軽バンの世界に何かを変えるBEVが来た」という黒船的や革命的なイメージではなく、「軽バンの世界にゆっくり自然にBEVが混じってくる」という流れ的なものとして思えた。



































