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マツダ、燃費を向上する「高応答遮熱コーティング」と「防曇コーティング」を人とクルマのテクノロジー展2026で解説

2026年5月27日~29日 開催
入場無料(事前来場登録制)
ノーマルのピストン(右)と、燃費が向上する「高応答遮熱コーティング」が施されたピストン(左)

 マツダは、5月27日~29日にパシフィコ横浜で開催している「人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMA」に出展。ノース会場N27のマツダブースでは、技術スタッフが説明員として滞在し、さまざまな技術の解説を行なっている。

 中でも、第76回(2026年)自動車技術会賞で技術開発賞および、2025年度 日本機械学会 中国四国支部賞(技術創造賞)を受賞した「エンジンの燃費と出力・トルクを革新する高応答遮熱材料技術の開発」と、2024年春季大会学術講演会 優秀講演発表賞の受賞および、国際学術誌「ASC応用高分子材料」第3巻5号の表紙にも掲載された「空調エネルギー低減のための防曇技術」の2つに注目してみた。

高応答遮熱コーティングとは?

 カーボンニュートラルに向けた電動化の流れの中で、内燃機関の可能性を今でも追求し続けているマツダは、2005年当時パワートレーン先行開発部長であった人見光夫氏(現・マツダシニアフェロー イノベーション)が、エンジンの効率(熱効率)の改善につながる制御因子として、「圧縮比」「比熱比」「燃焼期間」「燃焼時期」「壁面熱伝達」「吸排気工程圧力差」「機械抵抗」と7つの項目まで絞り込み、それぞれの項目での改善策を進めてきた。

高応答遮熱コーティングを解説してくれたマツダ株式会社 技術研究所 先端材料研究部門 感性価値創造材料研究 山村海氏

 今回の人とクルマのテクノロジー展で解説している“高応答遮熱コーティング”は、7つの因子の中で「壁面熱伝達」に関わる技術。開発に携わっているマツダ 技術研究所 先端材料研究部門 感性価値創造材料研究の山村海氏は、「エンジンのシリンダー(燃焼室)内で爆発した燃焼ガスはとても高温になりますが、シリンダー内で冷えている(といっても決して冷たい訳ではなく燃焼ガスよりも温度が低いという意味)壁面があると、熱はその冷たい場所へと誘導され、熱が逃げてしまいます。燃焼ガスの温度が下がれば、もちろん燃焼効率も落ちるため、エンジンの熱効率を向上させるには、この“冷却損失”をいかに減らすかが重要なんです」という。

左がコーティングしていないピストン。右が中空粒子50vol%、微細シリカ粒子20vol%の高応答遮熱コーティング済みのピストン。ホワイトチョコでコーティングしたかのように見えるが、膜厚はわずか60μm(マイクロメートル:0.06mm)で髪の毛1本程度の厚さだという

 続けて、「そこでマツダは燃焼室の壁面に、熱硬化型シリコーン樹脂をベースにしつつ、中空粒子とナノサイズの中実無機粒子を高分散配合することで、樹脂でありながらも燃焼ガスの温度上昇に直ぐに追従してくれる“高応答性”と、燃焼ガスの高温にさらされても溶けたり剥がれない“耐久性”を両立するコーティング樹脂の開発に成功しました」と、新たに高性能な素材の開発に成功したと説明する。

コーティングされた金属表面の拡大図。微細シリカ粒子(ファインシリカ粒子)は、大きさ(平均粒径)が約100nm(ナノメートル)で、超微細なシリカ粒子を樹脂に配合して金属基材上に成膜することで、強度や破壊じん性、熱物性が向上する

 また山村氏は、「同時にこのコーティング樹脂を、シリンダーの内壁はもちろん、凹凸のあるピストンヘッド(上面)にも薄く均等に塗布できる技術も開発しました」と、2つの新技術の合わせ技であると教えてくれた。

下の黒い点線が無塗装時の壁面温度で、赤い点線が燃焼ガスの温度。コーティングしたシリンダー内では、青い実線のように燃焼ガス温度の上昇に合わせて壁面温度も上昇していることが確認できたという

 すでにこの高応答遮熱コーティングは、2023年にスーパー耐久シリーズの「ST-Qクラス」に参戦していた「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA 3 Bio concept」に搭載していた2.2リッターのディーゼルエンジンのピストンで実証実験を行なっており、遮熱性を高めるだけでなく、壁面温度をガス温度に素早く追従させることで温度差を縮小できたという。

 具体的には、単気筒ディーゼルエンジンで約1.0~1.6%の燃費改善が確認できたほか、スーパー耐久レース用エンジンの過酷な運転条件下でも損傷はなく、高い耐久性を有していることも証明されている。

2023年にスーパー耐久シリーズの「ST-Qクラス」に参戦していた「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA 3 Bio concept」でも実証実験を行なっていた

 なお、構成部品への入熱を大幅に低減でき、熱害への信頼性も向上するし、塗料として塗装成膜するため、アルミ合金に限らずさまざまな材料へ処理が施せることから、現在は「セラミック含有遮熱コーティング(Ceramic Infused Insulation Coating、CII Coating)」として実用化の検討を進めているという。

防曇コーティング

 自動車のフロントガラスは、安全な運転と移動を実現するためにも、常に高い透明性の維持が求められる。ところが、急激な温度や湿度の変化が起きると、窓の表面に小さな水滴が付着し、光を散乱させるいわゆる“曇り”が発生してしまう。

 ICE(内燃機関)車は、エンジンの排熱を利用して外の冷たい空気を加熱し、窓に乾いた温風を送る「デフロスター(Defroster)」で曇りを防げるが、熱源のないBEV(バッテリ電気自動車)は電気ヒーターで空気を加熱するため、電気エネルギーの消費量が増加してしまう。特に冬場は電気消費の約20%が空調によるもので、その半分の約10%は曇りを取るような乾燥に使用している現実があり、結果的に航続距離の低下にもつながる大きなロスとなっている。

 そこでマツダは、低エネルギーで曇りを防げる“吸水性樹脂を塗布した防曇窓”に着目し、エネルギー消費を抑えながら効果的に防曇が可能な防曇窓技術の開発に着手。マツダの技術研究所 先進材料研究部門 感性価値創造材料研究 研究長 博士(工学)の桂大詞氏によると、防曇材料には「親水性防曇材料」「撥水性防曇材料」「吸水性防曇材料」の3種類があるという。

 親水性防曇材料は、材料表面の水接触角が小さく、水滴が表面に濡れ広がり、薄い水膜を形成して光の散乱を防ぐことで知られるが、親水性防曇材料上に形成される水膜は、氷点下で凍結して透明性が著しく損なわれてしまうため、使用環境が限られてしまう。また、水滴を自重で滑落させて防曇する撥水性防曇材料は、外側なら風圧できれいに水滴を飛ばすことも可能だが、無風の車室内では効果も薄い。

 そして最終的に、結露した水滴を材料中に吸水して防曇する吸水性防曇材料による開発を決定。しかし、これまでの防曇材料は飽和吸水量を超えて吸水することはできないため、飽和吸水量以上の結露が発生すると、防曇材料表面に水滴が発生して曇りが生じてしまう課題があった。

乗員由来の湿気を吸収し、曇りを抑制し続けるため、防曇コーティングには水蒸気を吸収&放出する柔軟性が求められるのと同時に、自動車用途に要求される耐久性(耐傷付性・耐候性)を担保する膜強度や硬さも求められる

 そこで開発チームは、新たに吸水性能を備えつつも吸水スピードより脱水スピードのほうが速い“有機無機ハイブリッド防曇材料”を作製し、防曇性能と耐久性を両立させた新たな防曇材料の開発に成功した。

100%内気循環と100%外気導入を切り替える制御システムだと8%ほど電費が改善し、75%内気循環と25%外気導入の状態を維持しながら走れば11%ほど電費が改善したデータ

 その結果、2名乗車で50km/hで走行した場合、100%内気循環と100%外気導入を切り替える制御システムだと8%ほど電費が改善し、75%内気循環と25%外気導入の状態を維持しながら走れば11%ほど電費が改善したデータも得られ、創熱エネルギーの削減と実燃費向上を実現したとしている。

防曇コーティングは、ガラスだけでなく樹脂基材にも適用可能で、屋内外の窓や樹脂レンズなど、曇りが課題となる様々な部品への応用が期待される

 この開発成功について桂氏は、「これまで熟練の塗装職人が手塗りしたような精緻で深みのある高品質なボディ塗装“匠塗(TAKUMINURI)”や“アクアテック塗装”などで築き上げてきたマツダの塗装・コーティング技術を生かした結果だと思います」と振り返っていた。

 ただし、この防曇コーティングはまだ採用実績はなく、マツダとしては安全や電費に寄与する技術なので、マツダ車だけでなく窓ガラスそのものに組み込まれることを目標に動いているという。