トヨタとホンダ、「グッドデザインエキスポ」で公開プレゼン
プリウスとインサイトのデザイン手法などを紹介

会場内の正面入口に飾ってあった6本の幕には、今年のグッドデザイン賞の象徴ともいえる赤い言葉のアニメーションが投影されていた。作り手側のデザインへの想いと来場者の期待感が混ざり合い、活気溢れる空間として広がっていく、というイメージをいくつかのパターンを用いて表現しているもの

2009年8月28日~30日開催



 8月28日~30日に、「グッドデザインエキスポ 2009」が東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催された。グッドデザインエキスポは、応募対象から“優れたデザイン”を選び、「グッドデザイン賞」を決める活動で、毎年約3000点の応募があると言う。このグッドデザイン賞は、財団法人日本産業デザイン振興会が主催する総合的なデザイン評価・推奨制度で、賞の母体は1957年に通商産業省(現経済産業省)が設立した「グッドデザイン賞品選定制度(通商Gマーク制度)」。この制度が誕生して以来、50年以上に渡り継続しており、選ばれたグッドデザインは約3万5000点に上る。

 応募対象となるものは、人間とその社会をとりまく「身体領域」「生活領域」「仕事領域」「社会領域」「ネットワーク領域」の5つの領域に該当する“もの”や“こと”。今年度の募集期間は4月22日から6月10日までで、一次審査は6月18日から7月14日に行われた。8月28日~31日に実施されたのは二次審査会を含む一般公開に当たるもので、10月1日にグッドデザイン賞と大賞をのぞく特別賞が公開、その後11月6日にグッドデザイン賞および大賞の発表と表彰式が行われる予定となっている。

 今回、8月29日に行われた移動ユニットの審査対象のうち、さまざまな形で環境に配慮している移動手段5対象について、審査委員同席の元でデザイナーがプレゼンテーションを行う「グッドデザイン賞 2009 公開プレゼンテーション審査2」に参加してきた。このプレゼンにはトヨタのハイブリッドカー「プリウス」、ホンダのハイブリッドカー「インサイト」、ナガノの折りたたみ自転車「ディービーポップ」、三洋電機の電動ハイブリッド自転車「eneloop bike」、パナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車「A.Girl's」のデザイナーが参加しており、この中からプリウスとインサイトのプレゼンについて紹介したい。また、30日に行なわれたプリウスのデザインを手がけた三輪日出雄氏によるステージプレゼンテーション「Air Management,New Prius」にも出席してきたので、その模様をお伝えする。

各メーカーの車両は生活領域で出展されていた会場内を飛ぶ飛行船。ビデオカメラが搭載されており、毎時0分から20分の間会場を旋回。展示デザインなどを俯瞰で撮影していた飛行船から撮影された様子は、メインステージのモニターにも映し出されていた
財団法人日本産業デザイン振興会 理事長 飯塚和憲氏

グッドデザイン賞審査委員長らによる記者会見
 その前に、8月28日には2009年度グッドデザイン賞 審査委員会 審査委員長 内藤廣氏と、日本産業デザイン振興会 理事長 飯塚和憲氏が出席した記者会見が行われた。

 まず始めに飯塚氏がグッドデザイン賞の特徴について述べた。特徴点は4つ挙げられるが、1つにはグッドデザイン賞は長い歴史をもち、この制度の持つ意義は外国製品による模倣の排除や、輸出振興としてスタートしたが、今日では「より生活を豊かにするもの」として考えられているのが大きな特徴だと述べた。2つ目には長い歴史もあり、Gマークの認知度が高いこと。そして3つ目は、対象商品の幅が広いこと。文房具などの小物から大型家電、自動車、新幹線、飛行機に至る大型のもの、そして住宅・マンションまでが対象となっている。また、近年大賞を獲得したものの中には痛くない注射針や教育番組といったものまであると言う。このように、ありとあらゆるものが賞の対象となり、多くの人の目に触れる機会を作っているというわけである。4番目は国際化が進んでいるということ。今年の応募作品のなかには約15%の海外製品が含まれており、多くはアジアからのものだが、欧米からのものもあったそうだ。

 また、今年のグッドデザイン賞の特色についても触れ、特別賞のなかに未来的なものを切り出した「フロンティアデザイン賞」を新たに設定したことを紹介した。これはまだ実現していない“未来のデザイン”を審査対象として、未来の生活で使われるであろうというもの、または新しい暮らしを予感させるもの、そういったデザインの可能性を見い出して賞を与えるほか、支援も行うと言う。このフロンティアデザインへの応募は約80点ほどあり、一次審査を通過した約50点ほどが今回展示されていた。

 最後に、「今日は会場に展示してあるモノをつぶさに見てもらい、“いいデザインが持つ魅力”を認知し、感動をもってもらえれば幸いだ」として締めくくった。

2009年度グッドデザイン賞 審査委員長 内藤廣氏

 次に、内藤氏は審査委員長の役割は各審査員の意見を取りまとめる立場だとし、各審査委員は非常に優秀で、彼らが一同に介して審査を行うということこそが、この賞の最大のポイントだと述べた。さらに、今回から各領域ごとに副審査委員長のポストを設けたことで、きめの細かい審査が行えるようになったのも、今回の特徴点として挙げた。

 また、今年の出展内容については“大人”で“静か”なものが多いと言う。一昨年や昨年の出展内容は「エコロジー」を全面に出したものが多かったが、それが極々当たり前のことになり、エコロジーを前提とした「その先の社会・生活とはどういうものなのか」と投げかけるようなものが多かったそうだ。そして最後に「現在、非常に不景気ではあるが、これだけ優れた内容のものが多く出展されたことに感謝と感動を覚える。これが我が国の底力であり、近未来の競争力の源泉だと考えている。今日来ている来場者には会場を見渡してもらい、そこから吹いてくる近未来の風を感じてもらいたい」と話していた。

グッドデザイン賞 2009 公開プレゼンテーション審査2:トヨタ自動車
 さて、29日には各企業のデザイナーが審査員や来場者に対して直接プレゼンテーションを行う「グッドデザイン賞 2009 公開プレゼンテーション審査2」が特設ステージで開かれた。このプレゼンにはトヨタ「プリウス」、ホンダ「インサイト」のデザイナーが登壇。審査員としてインダストリアルデザイナーの山村真一氏と木村徹氏、そしてロボットデザイナーの松井龍哉氏が出席した。

インダストリアルデザイナー 山村真一氏インダストリアルデザイナー 木村徹氏ロボットデザイナー 松井龍哉氏
トヨタ自動車 トヨタ第2乗用車センター チーフエンジニアの大塚明彦氏

 まず始めにトヨタ自動車 トヨタ第2乗用車センター チーフエンジニアの大塚明彦氏よりプレゼンが行われた。プレゼンでは、3代目プリウスの進化、そしてスタイリングがどのような役割を果たしたかについて説明が行われた。

 プリウスは1997年の発売以来、環境意識の高まりや燃料高騰という背景のなか、全世界で127万台を販売してきた。車両サイズや馬力から決まる従来価値から脱却し、環境に配慮する心地よさなど、新たな価値を創造した。3代目においても、プリウスブランドのコアである「環境」「燃費性能」に代表される、世界一のハイブリッドを追及している。

 ハイブリッドの性能を進化させるために、まずエンジニアが手掛けたのは、無論ハイブリッドの性能自体を高めることだが、車両側の効率向上にも徹底的に手が加えられ、トータルでエネルギー消費を最小化させるようにしたと言う。

 新開発の1.8リッターエンジンを搭載したハイブリッドシステムは、排気量のアップ、電池の使い方の改良、モーターの小型化と高回転化、昇圧システムの変更など、インバーター自身の小型化を図ることで進化した。特にエンジン効率の向上に力を入れ、排気量をアップすることで高速走行時のエンジン回転数を2代目と比較して、約15%の低減に成功したと言う。そのほか、低速域においてもさまざまな効率向上を果たすことで、「2代目よりも燃費性能を全域に渡って高めることに成功している」とした。また、車両効率では、Cd値を0.25とした空力性能、空調システムの消費電力の低減、吸遮音材の最適配置などといった特徴が挙げられる。

 これらハイブリッドシステムと車両側の技術革新により、「世界トップレベルの低排出ガスと低燃費、2.4リッターエンジン並みの加速性能、モーター走行時における静粛性というハイブリッド基本四律を大きく進化させることができた」と大塚氏は語る。

車両トータルで消費エネルギー低減を目指した2代目と3代目の各種項目の変更点エンジン効率の向上により、高速走行時のエンジン回転数を2代目と比較して約15%低減
車両効率の進化ハイブリッド基本四律

 このハイブリッド基本四律についての具体的な説明も行われた。燃費と加速性能については、リッターあたり38km/h(10・15モード燃費)という燃費性能と2.4リッターエンジン並みの加速性能を実現し、「本来は燃費と加速性能という相反するものを同時に実現できた」というのが、3代目プリウスの最大の特徴と述べる。そして燃費性能を向上させるために、トヨタでは3つの仕組みを盛り込んだ。土台となるのは3つで、1つはハイブリッドシステムと車両側の効率向上、2つ目に空調の消費動力低減などでエンジンへの負担を軽減し、実用燃費を向上したこと。そして3つ目はその燃費ポテンシャルを最大限に楽しむために用意した、ECOドライブサポートを充実させたことだ。

燃費性能と2.4リッターエンジン並みの加速性能を実現燃費性能を向上するための3つの仕組み

 そのECOドライブサポート機能のうち、ハイブリッドシステムインジケーターは走行中のアクセル操作の目安を示し、これをガイドとして走行することで、さらなる実用燃費の向上を促進している。また、さまざまなドライビングスタイルにマッチするよう、「ドライブモードオンデマンド」を採用。その中の1つであるエコモードでは空調機能を制御し、車両特性全体をより燃費優先に変えていく。パワーモードではアクセル特性をレスポンス優先にしてファントゥードライブを演出する。

 プリウスはモーター単独で70km/h程度まで走行が可能なため、静かな空間を演出できるほか、高速走行時もモーターの恩恵により「エンジン回転数を低く抑えることができ、快適な空間を楽しむことができる」(大塚氏)と、静粛性の高さにも触れた。

ハイブリッドシステムインジケーターではエネルギーモニター、1分&5分間燃費、燃費履歴などの確認ができるドライブモードはスタンダード、EV、ECO、POWERの選択が可能2代目に比べ、3代目では50km/h走行時と100km/h走行時でそれぞれ車内の静音性を高めている

 次に、デザインについての紹介が行なわれた。エクステリアデザインは、空力性能を徹底的に考慮したエアマネジメントの考えのもと、ホイールまわりの整流効果を高めるため、バンパーサイド面を際立たせた「エアロコーナー」の採用や、スムーズに風を流すため上部のグリルは小さく、通気抵抗低減と効率的な冷却のため下部のグリルを大型化した「アンダープライオリティ」という考えの「トライアングルシルエット」を進化させ、フロント・リアバンパーにシャープなエッジを付与し、一目でプリウスと分かる造形とした。特に、Cd値0.25の実現は、デザイン・アイデア段階からミリ単位の要件を盛り込み、空力専用のクレイモデルで幾度となくテストを繰り返したと言う。

 また、インテリアデザインではヒューマンテックをキーワードとし、操作のしやすさ、見やすさを最優先に表示計などを配置。さらに有機的な造形に仕上げ、「人をやさしく包み込む空間に仕上げた」と大塚氏は話す。

空力性能を考慮したエアマネジメントの考えのもと、トライアングルシルエットを進化させたインテリアデザインは、ヒューマンテックをキーワードとした

 次に装備面での特徴について紹介がされた。ソーラーベンチレーションシステムは、ソーラーで発電した電気エネルギーを利用し、車室内の温度上昇を抑制。また、乗り込む直前に高圧バッテリの電力でエアコンを始動させるプレ空調システムを装備することで、「従来の車では実現できなかった快適な空間を実現した」と話す。また、タッチトレーサーディスプレイでは、手もとのステアリングスイッチの操作状況をメーターに表示することができ、手元に目線を移すことなくオーディオなどの操作を可能とした。

ソーラーベンチレーションシステムは、ソーラーで発電した電気エネルギーを利用し、車室内の温度上昇を抑制する手もとのステアリングスイッチの操作状況をメーターに表示できるタッチトレーサーディスプレイ

 最後に、車本来の基本性能の進化について説明。中型車並みの車両サイズを維持するなかで、世界基準トップレベルの安全性能と広々とした室内空間を3代目プリウスは実現した。特に後席は「薄型フロントシートの採用によりその広さが確保できた」としている。トランクスペースについても、バッテリー冷却システムの効率配置により容量を拡大し、使い勝手も向上していると話す。

快適にくつろげる室内の実現トランクスペースも使い勝手のよいものとした植物由来のエコプラスティックをインテリアで採用することで、環境への配慮を行なっている

 このあと、審査員による質疑応答が実施された。エクステリアについて、インサイトと酷似したのはCd値を追及するとデザインが似るのか、それとも戦略的にこのデザインにしたのかという質問が大塚氏に投げかけられた。

 この問いに対し、理由は2点挙げられるとし、「1つは全長の比較的短いサイズではワンモーションフォルムが空力特性において効果が高いため。もう1点は、国内のみならず海外においても遠くから見て一目でプリウスだと分かるデザインが、あのワンモーションフォルムだということ」と説明した。

 もう1つの質問では、Cd値を追及した際の手法について説明を求められた。これについて、「まずボディー横と上を流れる風に対し、いかにスムーズにボディーに沿って流すかがポイントとなります。また、コーナー部の曲面があまりに大きいと風が剥離してしまう。そのため、フロント部はシャープなエッジで風を切ってサイドに流し、また後端もシャープにすることで風をスムーズに飛ばしていく。そのようなデザインの考え方に加え、バックドアの傾斜角度、スポイラーの高さ・長さ、ホイールのデザインに至るまで空力を突き詰めました」と話し、プレゼンを終了した。

トヨタブースに展示してあったプリウス。デザインは同社のデザイン本部 トヨタクリエイティブスタジオによるもの
トヨタの移動モビリティ「i-REAL」のデモ走行も行われていた。バッテリーはリチウムイオンを使用し、フル充電でおよそ30kmの走行が可能中部国際空港で稼働している「i-REAL Ann」も展示
本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン開発室 主任研究員 名倉隆氏

グッドデザイン賞 2009 公開プレゼンテーション審査2:本田技術研究所
 次に、本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン開発室 主任研究員 名倉隆氏と、同研究員 樺山秀俊氏によるプレゼンが行なわれた。

 まず名倉氏によりエクステリアデザインのコンセプトが発表されたのだが、初めに、「現在、車というモビリティは大きな課題に直面しています。それは、化石燃料を消費する環境課題で、この問題は大きく3つに分けられる。1つは排気汚染、もう1つはCO2による地球温暖化、最後に化石燃料そのものの枯渇化。これらの課題に対し、ホンダは燃料電池車や電気自動車、ハイブリッドカーで対応しようとしています」とホンダの取り組みについて話した。昨年、排気ガスを出さない水素を使った燃料電池車「FCXクラリティ」を発表し、すでに米カリフォルニア地区にて納車を行っているが、インフラなどの問題もあり、多くのユーザーに対しての提供には至っていないと述べた。

 

 ホンダでは環境に対応したモデルに少しでも多くの方に乗ってもらいたいとし、「環境に優しいだけでなく楽しさが溢れる車を提供したいとの考えで、インサイトを開発しました」と名倉氏は語った。

自動車が直面している課題はエネルギー問題、地球温暖化問題、大気環境汚染問題の3つFCXクラリティは2008年に発表された

 この環境に優しいという考えをベースに、日常の使いやすさと車の持つ楽しさを表現し、それらを含めて手頃な価格で提供することにより、新時代のコンパクトスタンダードにしたいと考えたと言う。

 パワープラントはシンプルで軽量のハイブリッドシステムを開発。それにより低燃費をはじめ、コンパクトボディー、広い空間、軽快な走りを実現。そのコンパクトなハイブリッドシステムを持つことで、空力に有利なモノフォルムパーケージが可能となった。それにより室内空間が広がり、400Lのラゲッジスペースを確保しながら、ボディー自体を5ナンバーサイズとコンパクトにすることができ、取り回しも向上しているとした。

 このインサイトをデザインするうえで目指したのは、「環境」と「楽しさ」をいかに融合させるかだった。環境を犠牲にして楽しむものではなく、環境に優しい行動が楽しさにつながる、そんなデザインができないかと考えたそうだ。

インサイトのグランドコンセプトハイブリッドシステムを小型・軽量化することにより、コンパクトボディー、広い空間、軽快な走りを実現したインサイトをデザインするうえで目指したのはECOとFUNの融合

 エクステリアデザインは、高い燃費性能を実現するために、初代インサイトから培ってきた空力のノウハウを継承し、それをさらに進化させ、基本の骨格から素性のよい空力形体を考えた。スタイリングを決定する前段階では、スケールモデルで風洞テストを繰り返し行うことで、「デザインを制約する空力デバイスに頼らずとも、空力性能を満足する骨格を作り上げることができた」と名倉氏は話す。エクステリアデザインのコンセプトは「エアロアスリート」をキーワードにスタイリング。「モノフォルムパッケージにより実現したワンモーションの骨格は、全高を低く抑え空力性能を向上させています。ボンネットからキャビンへと続く一体感と、フロントウインドウを前方に出したフォワードキャビンによりエンジン部をコンパクトに見せ、より先進的なフォルムとしました」と述べた。

 また、ボディーサイドに大胆かつシャープに入ったウェッジラインによりスピード感を表現し、アスリートが持つ筋肉のようなしなやかかつ贅肉のないソリッド感をイメージして造形したと言う。フロントは横長のヘッドライトと、豊かに変化するフロントフェンダーにより、低くワイドなスタンスを表現。リアまわりはキャビンを絞り込むことで空力性能を満足させながらも、それによってできる豊かに張り出したリアフェンダーで、車が本来持つ”走る”というダイナミズムを表現しているそうだ。このインサイトのスタイリングで、「環境に対応した先進デザインをより身近に、そして技術の進化に伴う車の骨格の進化を感じていただきたい」と話し、エクステリアデザインの話を締めくくった。

初代インサイトと新型インサイトの比較。空力のノウハウを継承しつつ進化を遂げたエクステリアデザインのコンセプトは「エアロアスリート」
ボディーサイドのウェッジラインによりスピード感を表現フロントは横長のヘッドライトと、豊かに変化するフロントフェンダーにより、低くワイドなスタンスを表現
本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン開発室 研究員 樺山秀俊氏

 次に、樺山氏がインテリアデザインの説明を行った。インテリアのデザインコンセプトは、車ならではの操る楽しさと、ハイブリッドならではの先進感・未来感を融合させた「エモーショナル・ハイブリッド・インテリア」とした。ドライバー正面にワクワクするようなインターフェイスと、機械の持つ触りたくなるような精度感を凝縮し、逆ラウンドさせた軽快でコンパクトなインパネと融合させたと言う。

 ドライバー空間は、フォワードキャビンによって作り出されたクリアな視界と開放的なスペースを使い、ドライバーに入ってくる多くの情報にプライオリティをつけ、仮想的に機能を配置させる「レイヤード・コンストラクション」という考えのもと構築した。ホンダでは、「常に“瞬間認知”“直観操作”ということを考えながら、ドライバーにとって最も重要な車両情報を視線移動の少ない前方上方に配置し、その他の情報と分けることでシンプル化し、判読性を向上させています。また、操作系をステアリングを中心とした横方向に並べることで、視線移動をシンプルに行えるようにし、直観操作を可能としています」と、樺山氏は語った。

ドライバーに入ってくる多くの情報にプライオリティをつけ、仮想的に機能を配置させる「レイヤード・コンストラクション」瞬間認知をするために、視線移動の短縮化、情報プライオリティの明確化、判読時間の短縮化を考えた

 このような、ホンダ独自のインターフェイスをベースに、インサイトでは新たにエコアシスト機能を加え、「楽しく」「感じる」インターフェイスとした。このエコアシスト機能は、ECONモード、コーチング機能、ティーチング機能の3つの機能で構成される。

 ECONモードはスイッチをオンにすることで「エンジンの出力制御」「アイドルストップ領域の拡大」「減速時の回生充電量の増加」「エアコンの省エネ化」など、エコ運転を自動で行うもの。

 コーチング機能は、アクセルやブレーキの操作からエコドライブ度を診断し、スピードメーターの背景色であるアンビエントメーターの色をグリーンに変化させることで(通常時はブルー)、ドライバーに対しリアルタイムに燃料消費状況を直観的・感覚的に教えてくれるもの。マルチインフォメーションに表示されるエコガイドは、アクセルを踏み過ぎると右に、ブレーキを踏みすぎると左にゲージが動き、真ん中に近い状態にすると燃費がよくなる。

 ティーチング機能は、運転を終了し、イグニッションをオフにすると、その日のエコ運転度が葉っぱの形と数で表示されるというもの。エコ運転を続けることで王冠を手に入れ、次の葉っぱのステージの4つ葉のステージへランクアップし、最後には5つ葉となり、トロフィーをもらうことができる。また、エコでない運転を続けるとランクダウンしてしまう。「ゲーム感覚で楽しめるシステムとしているのが特徴で、さらにカーナビモニターを見ると、採点やアドバイス、燃費向上のヒントを見ることもできます。このように、車と人が一体となり、成長することで使い続ける楽しさを体感できるシステムなのです」と、樺山氏は話した。

エコアシスト機能を加え、「楽しく」「感じる」インターフェイスとしたティーチング機能は、その日のエコ運転度を葉っぱの形と数で表示してくれるカーナビモニターでは採点やアドバイス、燃費向上のヒントを見ることも可能

 最後に、ラゲッジルームについての紹介。コンパクトでシンプルなIPU(インテリジェント・パワー・ユニット)の実現により生まれたスペースを使い、さまざまな使い勝手を実現している。「このようにインターフェイスや使い勝手を生活のなかで楽しく気軽に使えるものとしているのが、インサイトのインテリアにおける特徴」だとし、「ホンダでは“環境に優しい”ということを“楽しい”ということで包み込みました。魅力ある車となったインサイトに乗ってもらうことで、もっと多くの方々に環境を大切にしたいという気持ちが芽生えることを信じています」と話し、プレゼンを終了した。

ラゲッジルームは使い勝手のよさを実現したインサイトのエクステリアおよびインテリア
質疑応答でインサイトのデザインチームが共有した言葉やコンセプトなどについて、質問をしていたロボットデザイナーの松井龍哉氏

 このあと、審査員を含めて質疑応答が行われた。1つ目は、乗り味やインテリアのデザインなどはトヨタとホンダでそれぞれ個性が出ているが、エクステリアデザインが近いのは何故かとの質問。これに対し、名倉氏は「ホンダにはフィットというコンパクトカーがあり、世界に通用するコンパクトスタンダードを考えたときに、日本のみならず、世界で使える形態を模索しました。その結果、セダンがベースとしてあり、それに空力、シートのアレンジなどで室内空間を効率よく使うということをパッケージとしたときに、5ドアハッチバックに行き着いたのです。しかし、このような質問は発売当初からあったのですが、ハイブリッドの5ドアハッチバック=プリウスという既成概念が強く残っており、改めて存在の脅威を感じますね」と語った。

 次の質問では、ホンダのデザインチームがインサイトを開発した際に共有した言葉やコンセプトはどのようなものだったのかとの質問が寄せられた。これに対しては「“環境によい”ということを真面目に考えたときに、これに楽しさを加味する必要があると感じました。ですので、キーワードは“FUN”となります」と回答。また、インサイトのボディーカラーとして採用されているブルーカラーが非常に珍しいが、このカラーに込められたメッセージはあるかとの問いに対し、「あのブルーは、開発責任者がこだわった色で、“青い地球を残したい”というメッセージが込められています。また、訴求カラーとしてホワイトも設定しているのですが、これにはゼロからスタートする、まっさらといったイメージを持たせています。ともにクリーンなイメージを持たせることで、地球環境に優しいということを訴求していきたいと考えています」とし、質疑応答を終了した。

ホンダブースに展示してあったインサイトホンダの歩行アシストが2種類展示してあった。左が「リズム歩行アシスト」で右が「体重支持型歩行アシスト」。双方とも「歩く」という行為をデザインするものだと言う
トヨタ自動車 デザイン本部 トヨタデザイン部 主幹 三輪日出雄氏

ステージプレゼンテーション「Air Management,New Prius」
 8月30日には、プリウスのデザインを手がけたトヨタ自動車 デザイン本部 トヨタデザイン部 主幹 三輪日出雄氏によるステージプレゼンテーション「Air Management,New Prius」が行なわれた。

 このプレゼンは、プリウスの空力特性に基づいたデザインについて紹介されるもので、まずトヨタデザインの紹介が行われた。初めに「トヨタデザインのDNAは“j-factor”だ」と三輪氏は述べた。j-factorとは、【図1】のように、左側の四角いオレンジ色の「A」という価値と、右側の「A」とはまったく異なる丸く白い「B」という価値があった場合、対立でも妥協でもない、それぞれの価値を失うことなく調和させ、まったく新しい価値を創造するという考え方。この相反する価値のコントラストがシナジー効果となり、日本固有のダイナミズムやエレガンスを生み出していると考えていると言う。

トヨタデザインのDNAである「j-factor」【図1】。それぞれの持つ価値を失うことなく調和させ、まったく新しい価値を創造させるという考え方

 このj-factorのうえに、トヨタブランドのデザインフィロソフィーである「VIBRANT CLARITY(活き活き明快)」を策定。VIBRANT CLARITYは、わくわくさせる活気と、不変性のある爽やかな明快さの両立をエモーションと合理性の調和で目指しており、3つのデザイン要素「Perfect Imbalance(プロポーション)」「Integrated Component Architecture(アーキテクチャ)」「Freeform Geometrics(サーフェイス)」から成り立っていると言う。これらもまた、j-factorの考えに基づき、相反する言葉が組合わせられていると紹介した。

わくわくさせる活気と、不変性のある爽やかな明快さの両立をエモーションと合理性の調和で目指したトヨタブランドのデザインフィロソフィー「VIBRANT CLARITY」「VIBRANT CLARITY」は3つの要素から成り立つプリウスのデザインもまた、プロポーション、アーキテクチャ、サーフェイスから成り立っている

 トヨタデザインの考え方の基本構成を紹介した上で、次に3代目プリウスのデザイン紹介が行なわれた。プリウスは1997年、世界初の量産ハイブリッドモデルとして誕生した。2代目ではエコとパワーの高次元での両立を目指したハイブリッドカーとして進化し、ハイブリッド=プリウスという印象をつけた。そして3代目プリウスは、これから誕生するエコカーの基準となる使命のうえ、世界中のユーザーに対してエコカーのアイコンとして認知してもらい、また長く親しんでもらえるようなデザインを目指したと話す。

 一般的に空力特性を考慮したデザインは、燃費向上に貢献すると言われており、「3代目プリウスは高い空力特性と一目で分かるハイブリッド独自の美しさの両立を目指し、それをエアマネジメントとして追及した」(三輪氏)と話す。

 具体的なエアマネジメントとして、初めにプロポーションの紹介がされた。ボディー上面の空気をどう流すかが、プロポーションを決めるにあたり重要な要素の1つとなるそうで、2代目プリウスが提案したスタイリングの「トライアングルシルエット」を、3代目ではさらに進化させたと言う。フロントピラーを前に出し、前傾させるとともに、ルーフのピークを後方に移動させることで、より三角形の印象を強いものとした。その結果、「後席の居住性や乗降性を向上させることに成功した」と三輪氏は話す。

ボディー上面の空気をどう流すかが、プロポーションを決めるにあたり重要な要素の1つとなる3代目はより三角形の印象が強いものとなった
ルーフのピークを後方に移動させたことで、後席の居住性や乗降性が向上したトヨタ初の「ソーラーベンチレーションシステム」も採用した

 次に、アーキテクチャの紹介が行われた。ホイールアーチまわりの平面は、タイヤまわりの空気の流れを整流する効果があると言い、平面を確保し、空力性能をシンボライズ(象徴化)したデザインを「Aerocorner(エアロコーナー)」と名づけ、プリウスではフロントとリアにこれを採用した。

 また、フロントからリアに流れるエッジの際立ったキャラクターラインなども、「独自の先進性を表現しつつ、平面絞りの相乗効果により走行安定性に大きく寄与した」と話す。このキャラクターラインは、アイデアの初期段階から強いイメージを持ってデザインしてきたと言う。

ホイールアーチまわりの平面は、タイヤまわりの空気の流れを整流する効果がある平面を確保し、空力性能をシンボライズしたデザインであるエアロコーナーキャラクターラインは独自の先進性を表現しつつ、走行安定性に大きく寄与した

 空気の流れがボディー上面と下面に分岐する点を「Stagnation point(スタグネーションポイント)」と呼び、「一般的にこのポイントの空気の流れをスムーズにすることで、空力特性が向上すると言われている」と三輪氏は言う。アッパーグリルの開口部を小さくし、アンダーグリルの開口部を大きくすることで、空気抵抗を低減するとともにラジエターの効率的な冷却効果が期待される。また、バンパー下端の突部は、衝突時における歩行者保護に効果があると言う。

 このように、空力、冷却、歩行者保護の向上に基づいたアンダーグリルが主張した独自のフロント造形を「アンダープライオリティ」と名づけた。このアンダープライオリティは、トヨタブランドのフロント造形に共通する考え方だと述べ、このエアマネジメントの結果により、世界トップレベルの空力性能であるCd値0.25を実現した。

スタグネーションポイントアッパーグリルの開口部を小さくし、アンダーグリルの開口部を大きくすることで、空気抵抗を低減するとともにラジエターの効率的な冷却効果が期待されるバンパー下端の突部は、衝突時における歩行者保護に効果がある
空力、冷却、歩行者保護の向上に基づいた独自のフロント造形をアンダープライオリティと名づけたアンダープライオリティは、トヨタブランドのフロント造形に共通する考えCd値0.25を実現した3代目プリウス

 最後にサーフェイスについて。三輪氏は「プリウスは先進的な車だからこそ、人の手の温かみを感じる質感が必要だと感じた」と話す。フロント、リアバンパーコーナー部において、クリーンでタイトに引き締まった造形の中に、なめらかに凹凸が変化する面と、シャープなエッジを対比させることで、陶器のような質感に仕上がったと言う。また、ハイブリッドアイデンティティを強化するために、「ハイブリッドシナジーブルー」を随所に配置した。

なめらかに凹凸が変化する面と、シャープなエッジを対比させることで、陶器のような質感に仕上げたハイブリッドアイデンティティを強化するために、ハイブリッドシナジーブルーを随所に配置

 次に、インテリアもまたハイブリッドカーならではの先進性に温かみを融合した、人を基点としたデザインを目指したと言う。コクピットは、情報を共有するディスプレイゾーンと、各種操作を行うコマンドゾーンを明快に分け、ドライバーの視認性、操作性を高めるレイアウトとした。また、シフトバイワイヤー技術により、ドライバーがもっとも操作しやすい場所にシフトレバーを配置することができたとし、それに加えてレバーを中心に同心円上にスイッチ類を配置し、シームレスな操作を実現したと三輪氏は語った。

コクピットは、情報を共有するディスプレイゾーンと、各種操作を行うコマンドゾーンに分けられるシフトバイワイヤー技術により、ドライバーがもっとも操作しやすい場所にシフトレバーを配置することができた

 ディスプレイは、前方のセンターメーターに集約し、ドライバーの視線移動を軽減。さらに、スイッチ操作時に視線を手元に移動しなくてもよいように、ステアリング上で指が触れた場所をセンターメーターに表示する世界初の「タッチトレーサーディスプレイ」を装備した。また、環境に配慮した運転ができたかどうかが分かる、「ハイブリッドシステムインジケーター」や、モーター、エンジンのどちらを使用しているかが分かる「エネルギーモニター」、さらに、過去の燃費記録を紹介する画面など、楽しみながらエコ運転ができる機能を装備。また、インパネのシボは、葉脈をモチーフとした柔らかで上質なものに仕上げていると述べ、締めくくりとしてプリウスのイメージ映像を流してプレゼンを終了した。

ディスプレイを前方のセンターメーターに集約し、ドライバーの視線移動を軽減させたステアリング上で指が触れた場所をセンターメーターに表示するタッチトレーサーディスプレイインパネのシボは、葉脈をモチーフとした

(編集部:小林 隆)
2009年 9月 2日