アウディ、「TT RS」の発表会を開催
「クワトロ30周年」に帰ってきた5気筒ターボ+クワトロ

TT RSと荒選手(左)、ベッシュ社長

2010年2月2日開催
東京 アウディ フォーラム東京



 アウディ ジャパンは2月2日、東京 表参道のアウディ フォーラムで、「TT RSクーペ」の記者発表会を開催した。

ステージ上にはTT RSとスポーツ・クワトロS1が並べられた

伝説のパワートレーン「5気筒ターボ+クワトロ」
 TT RSは同社のスポーツモデル「TT」シリーズのトップモデルとなるクルマ。詳細は関連記事を参照されたいが、最高出力250kW(340PS)/5400~6500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgm)/1600~5300rpmを発生する2.5リッター直列5気筒TFSI(ガソリン直噴ターボ)エンジンと、フルタイム4WDシステム「クワトロ」を搭載している。

 この5気筒ターボエンジンとフルタイム4WDシステムの組み合わせは、1980年代のラリーシーンで活躍し、アウディのブランドイメージを高めた立役者である「クワトロ」「スポーツ・クワトロ」を思わせる。実際、発表会のステージにはTT RSと並んで、WRC(世界ラリー選手権)参戦車両の「スポーツ・クワトロS1」(1987年)が展示されていた。

ブラックアウトされたハニカム状のシングルフレームグリル、大型のエアインテーク、左右2本出しのテールパイプ、ウイングタイプのリアスポイラーがTT RSの外観上のポイント
ホイールは19インチ。写真はオプションのチタンルック。標準は同デザインだが色が異なるサイドターンシグナルランプを内蔵するミラーは、マットアルミ調RS6と同じRSのバッジ
LEDのポジションライトを内蔵するリアスポイラーはウイングタイプ。4本のステーでボディーに固定される

 

TT RSの5気筒ターボエンジンはフロントに横置きされる

 ステージ上のTT RSから降り立ったアウディ ジャパンの野田一夫 商品企画部長は「それまでSUVなどの特殊なクルマに使われるものだった4WD機構を、量産乗用車に初めて搭載した。5気筒ターボエンジンとフルタイム4WDの革新的なパッケージングには、当時その実用性を疑う声もあったが、アウディのエンジニアは自信を持っていた」と、1980年代のアウディ クワトロの革新性を表現した。実際、クワトロ登場以降のWRCでは4WDが“必勝アイテム”になったのである。

TT RSから降り立つ野田 商品企画部長と、迎えるベッシュ社長量産乗用車にフルタイム4WDシステムを持ち込んだクワトロ(左)と、そのクワトロをショートホイールベース化し、パワーを高めたスポーツ・クワトロ
クワトロはWRCを席捲。アメリカのヒルクライムレース「パイクスピーク」も3連覇した1998年に登場した初代TTは、バウハウス風かつフューチャーレトロルックで話題に

 5気筒と言えば、アウディが属するフォルクスワーゲン グループではバナゴンが搭載しており、またアウディはV型10気筒エンジンを持っているが、TT RSのエンジンはこれらとは違う、ブランニューのもの。1980年代の5気筒エンジンは、「4気筒の効率と6気筒のスムーズさ」を兼ね備えるべく企画されており、TT RSのエンジンにももちろんそうした思想が流れているが、関係者によれば、どちらかといえば「アウディのスポーツモデルの伝統である直列5気筒というレイアウトを復活させたい」という情熱が先立って作られたと言う。理詰めの冷静なクルマ作りをするイメージがあるアウディだが、このようなエンスージアスティックな一面も持っていることが、TT RSから見て取れる。

 なおTT RSのクワトロシステムにはハルデックスカップリングが使われている。通常走行時の前後トルク配分は100:0、つまり2WD(FF)だが、状況に応じて50:50や0:100まで変化する。

 一方で、2010年(欧州では2009年)発表のクルマらしく、環境性能への配慮もアピール。他社の競合ハイパフォーマンスモデルと、最高出力、最大トルク、0-100km/h加速、10・15モード燃費、CO2排出量を比較した表を掲げ、走行性能も環境性能もより優れているとした。

TT RSの3つのポイントは「パワーと走り」「デザイン」「環境性能」5気筒エンジンはブランニュー競合モデルとの比較。パフォーマンスでも環境性能でも上回る
トランスミッションは6速MTのみ。「クルマとの一体感」「操る悦び」を優先したハルデックスカップリングを核とするクワトロシステム。A3、S3と同じくエンジンは横置きアルミを多用したボディー
TT RSと並べて展示されたスポーツ・クワトロS1。12月末までアウディ フォーラム東京に展示される
縦置きされる直列5気筒エンジン。搭載位置が近年のアウディの縦置きモデルよりもずっと前方であることに注目。この頃のアウディは、フロントオーバーハングに重量物を載せてトラクションを稼いでいた

エンジンのレスポンスが燃費も改善
 発表会には、レーシングドライバーの荒聖治選手が登場。荒選手はアウディR8を駆ってル・マン24時間レースに優勝したこともあるが、一足先にサーキットでTT RSに試乗したインプレッションを語った。

 エンジンについては「びっくりするくらいのパワーがあって、特性はかなりスムーズ。一番感じたのは低回転からトルクで、どの回転数でも自分が必要とするパワーをすぐに得られる、リニアな感覚がとてもあるエンジン。どんな回転数からでもパワーがあり、回していったときのパワー感や、伸び、スムーズさもよい」と素性のよさを語る一方で、ステージ上のスポーツ・クワトロS1を指しながら「やっぱり5気筒のサウンド。回せば回すほど、このクルマ(S1)が派手に走っていた頃の感覚を蘇らせてくれる」と、スポーツユニットらしい魅力も備えているとした。

荒選手のサーキットでの試乗の様子が上映された後、本人が登場

 クワトロシステムとシャシーについては、「安定している中でスポーティなハンドリングを感じるセッティング。狙ったところに自信を持って持っていけるクルマに仕上がっている」とし、登壇前に上映されたサーキット試乗時のインプレッションでも「アクセルのON/OFFに対してクルマは応答するが、フロントのグリップ感が大きく抜けるようなことはない。オン・ザ・レールで走れる感じがすごく評価できる点。ずっとステアリングに安心感がある。速いスピードを維持しながら、安心感がある、コントロールとグリップの幅があるクルマに仕上がっている」と、高次元で安定したハンドリングについてのコメントが多かった。

 デザインについては「ドライバーの立場から見ると、エアロパーツの処理の仕方が、迫力だけでなく、細かい空力を追求しているところが分かるので、車好きにはたまらない」「エアコンのスイッチの配置や操作方法が、ル・マンで乗ったR8 LMPのブースト圧/エンジンマップ/ミクスチャーと同じで、感覚が蘇った。コクピットの中は妙に落ち着く感じがあって、ドライビングに集中できる」とした。

 環境性能については「アウディチームは燃費に関してかなりうるさかった。燃料消費を減らしてピットインの回数も減らし、シャシーのグリップの持たせ方でタイヤ交換の回数を減らすという、トータルなバランスで勝つ考え方のメーカー。市販車に必要な技術をレースで証明していく会社」「燃費については、実は単に直噴にして燃費をよくするという考え方ではない。トルクやエンジンのレスポンスなどを追求して直噴を取り入れている。踏んだ瞬間に必要なパワーが出てくることで、余分にアクセルを踏むようなことがない。走り方と、エンジンの効率の両面で燃費を稼ぐのが、今のアウディの考え方だとレース経験から学んだ」と、直噴エンジンの効用を語った。

HDDカーナビが標準だが、MMIは付かない。荒選手がR8を想う3つのダイヤルは、カーナビのスクリーンの下

 

ベッシュ社長

輸入車市場に回復の兆し
 TT RSのプレゼンテーションに先立って登壇したアウディ ジャパンのドミニク・ベッシュ社長は、2009年の世界での販売実績を披露。ライバルたるBMWとメルセデス・ベンツがそれぞれ11%、10%と落ち込む中、アウディは落ち込みの幅を5%に食い止め、欧州では2社を上回る台数を販売した。さらに、アウディの世界各国での販売台数ランキングで、日本が初めてトップ10入りしたことも明らかにした。

 さらに2010年1月の日本の輸入車市場の暫定数値も発表。前年比で市場全体で約10%の回復を見せる中、プレミアムインポートカー市場も4%回復。アウディは29%の回復と言う抜きん出た実績を収めた。

世界での販売台数で、アウディは落ち込みを最小限に食い止めた欧州での販売台数は、競合中トップに国別の台数ランキングで日本が10位以内に
2010年1月の日本の輸入車市場。回復の兆しが見える

(編集部:田中真一郎)
2010年 2月 3日