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【インタビュー】「Audi Sport」を統括するマネージングディレクター ステファン・ヴィンケルマン氏に聞く

「2017年以降に多数の新型モデルを投入するので、認知度も台数もアップできると期待している」

2017年3月28日 開催

アウディ ジャパンは、3月28日に「Audi Sport」発表会を開催。発表会に出席したAudi Sport GmbH マネージングディレクターであるステファン・ヴィンケルマン氏(右。左はアウディ ジャパン株式会社 代表取締役社長の斎藤徹氏)にインタビューできたので、その模様をレポートする

 アウディ ジャパンは3月28日、新型「R8 スパイダー」「TT RS」「RS 3セダン」の公開とともに、2017年のモータースポーツ活動計画について紹介する「Audi Sport」発表会を都内で開催した。

 Audi Sportは、アウディブランドのスポーツイメージを高めるためのサブブランド。その核となるのは“モータースポーツ”であり、ドイツのDTM(ドイツツーリングカー選手権)や日本のSUPER GTなどにワークスチームとして参戦するとともに、プライベートチームに対しても参戦サポートを行なうことで技術力を磨き、ブランド力を高めている。

 それだけにとどまらず、こうしたレース活動から得たノウハウを市販モデルに活かしているのもポイントで、ドイツのベーリンガーホフ工場ではレーシングカーの「R8 LMS」と市販モデルのR8が同じ生産ラインで製造されるなど、R8や各RSモデルにはレース活動で得たテクノロジーが移管されている。

 今回、発表会に出席したAudi Sport GmbH マネージングディレクターであるステファン・ヴィンケルマン氏にアウディのサブブランド「Audi Sport」についてインタビューできたので、その模様をお伝えする。


ステファン・ヴィンケルマン氏は1964年10月18日にベルリンで生まれ、ローマ育ち。メルセデス・ベンツ、フィアットを経て2005年にアウトモビリ・ランボルギーニの最高経営責任者(CEO)に就任。2016年3月15日にquattro GmbH(Audi Sport GmbHの前身)のマネージングディレクターに任命され、Audi Sportブランドを統括する立場にある

――WEC(世界耐久選手権)でハイブリッドレーシングカーを走らせましたし、フォーミュラEにもこれから参戦するかと思いますが、Audi Sportとして電動パワートレーンを搭載する計画はありますか?

ヴィンケルマン氏:もちろんこれからはスポーティさと持続可能性というのは必ず両立しないといけないと思っていますが、それがいつになるかは各国の法整備の状況や、皆さんの考え方がどう変わるか、そのタイミング次第だと思います。色々とプランはありますが、ハイブリッドがいいのかEV(電気自動車)がいいのか、現在検討を進めているところです。

 どういう形にしても、“これが私たちが定義する新しいスポーティ”ということをお客様にしっかりと説明する必要があると思います。例えば0-100km/h加速が何秒で、最高速は何km/hなのか、バッテリーで走れるレンジは何kmなのか、車両重量は何kgなのかを説明しなければいけません。一番最初にリリースする何らかの電動パワートレーン車と、最後の内燃機関車はまったく違うクルマなので比べるのは間違いですが、新しいスポーティなクルマを購入していただくお客様をがっかりさせることはあってはならないので、正しいテクノロジーを採用したうえできちんとお客様に説明しなければならないですね。

――Audi Sportにとって日本市場はどのような可能性を秘めているのか、また日本の市場をどのようにご覧になられていますか? あと、ランボルギーニでの経験(同氏は2016年までアウトモビリ・ランボルギーニの社長兼CEOを務めた)がどのようにAudi Sportで活かされていくのか教えてください。

ヴィンケルマン氏:私の前職であるランボルギーニでの経験から、日本のお客様はとてもスポーティな志向があり、特にトップブランドをお好きなお客様が多いと感じています。実際、ランボルギーニは日本でとても販売が好調ですよね。確かにAudi Sportとランボルギーニはまったく違うブランドですが、一番の違いはAudi Sportはパフォーマンス性が高くてデザインに優れますが、日常使いができるということ。ここで言う日常使いとは乗っていて快適で安全水準が高く、品質も高いとバランスが取れているということです。例えばA地点からB地点に移動するときにご家族と一緒に乗っていただけるというのがランボルギーニとの一番の違いです。

 そしてAudi Sportの特徴の1つとして、商品とブランドが非常にマッチしているというところが挙げられます。2017年、そして来年以降に多数の新型モデルを投入していくので、それによって認知度も台数もアップできるのではないかと期待しています。これらの新型モデルは日本のお客様にきっと気に入っていただけると信じています。

ヴィンケルマン氏は2016年までアウトモビリ・ランボルギーニの社長兼CEOを務めた(写真は2010年のパリショーのもの)

――「quattro GmbH」から「Audi Sport GmbH」に社名が変わってヴィンケルマン氏がCEOになられたわけですが、新しい会社と新しいCEOに課せられた使命な何でしょうか。

ヴィンケルマン氏:今回の社名変更はやらなければならなかったことです。というのも、quattroというのは選択できるオプションであって、必ずしもすべてのモデルのUSP(Unique Selling Proposition)だったとは言えないのです。Audi Sportというのはすべてを多い被せる屋根のようなものであり、そのなかにすべてのスポーティなものをまとめ上げるという位置づけ。それにプラスして今回非常に目立つ赤のロゴを採用し、実際に扱う商品とブランドが非常にマッチしていて、それはquattroにはなかったことだと思います。

Audi Sportのブランドカラーは赤になる

 そして、私たちに課せられていることはなるべく早く認知度を高めるということです。quattro GmbH時代は商品をプロモーションするだけで、“quattro”というブランド自体のプロモーションはやってこなかったのです。それに対し、本来ブランドと言うのは単なる1つのモデル以上のものだと思っていますので、まずは認知度を上げることが大事です。もちろん新しい商品の開発もやりたいと思っていますが、それ以上にアウディブランドを盛り上げることが大事だと思っています。

――Audi Sportにとって日本は何番目の市場(販売台数規模)になるでしょうか。また、日本市場が他の市場と何か違う点はありますか?

ヴィンケルマン氏:日本は世界で7番目の市場に入ると思います。重要なのは市場自体ではなく1人ひとりのお客様だと思います。もちろんディーラーを出店すべきかそうじゃないかというビジネスケースを計算する際はマーケットサイズが重要になりますが、むしろ私たちにとって大事なのは1人ひとりのお客様。アメリカであろうとイギリスであろうと日本であろうと、世界中どのお客様も同じような行動をして同じような情熱を持っていらっしゃるので、そういう意味でマーケットでの違いというのはないと思います。

 ですので、私たちは国ごとに商品を変えるということはしていません。本国で作るオリジナルのクルマがお客様の欲しいと思ってくださったものであり、私たちが提供するものなのです。

――Audi Sportがライバル視する他メーカーはどこになりますか? またAudi Sportが絶対に負けないポイントを教えてください。

ヴィンケルマン氏:ご存知のとおり、ドイツにはアウディ以外にプレミアムブランドが2つあると思いますので、それがAudi Sportにとっての競合相手となりますが、あくまで参考にするのは私たち自身と思っています。右を向いたり左を向いたりはしません。私たちとしてはこういう方向に行きたいという明確な戦略がありますので、それに従うのみです。

 競合に対する強みですが、私自身というよりもお客様がどう考えるかによるところが大きいと思います。ただ、作る立場から言えるのは、他社さまは1つの方向に極端に寄っていったりしますが、Audi Sportはパフォーマンス、デザイン、使い勝手という意味で完璧なバランスが取れていると自負しています。

発表会会場に展示された新型R8 スパイダー

――ランボルギーニからAudi Sportに移ると決まったとき、何を一番最初に感じられましたか?

ヴィンケルマン氏:最初はランボルギーニを離れなければならないということで悲しくなりました。同僚を友達だと思っていましたし、心から愛する会社を離れなければいけないということで、しかもこれまで時間をかけて作り上げてきた本当に協力し合えるチームとお別れしなければならなかったのが悲しかったですね。ただ、よく考えてみたら人生にはそういう変化が必要だし、新しいチャレンジをするのもわるくないと思い移りました。

 Audi Sportに行ってみるとチームに素晴らしいメンバーが揃っていて、皆情熱を持ち、ブランドも素晴らしい、場所もいい。本当にいい商品を作っていることが分かったので、それで嬉しくなりました。

――発表会で説明されたAudi Sportの3つの柱(特別感があること、ボディサイズがシフトしていくこと、スーパースポーツカーではなくハイパフォーマンススポーツカーを作ること)について改めてご説明いただけますか。また、SモデルとRSモデルのすみ分けを今後どう考えていくのか教えてください。S8に対してRS8というのは展開されていませんが、メルセデス・ベンツ Sクラスでは「S 65」などトップモデルを展開しています。そこの市場に参入する気はないのですか?

Audi Sportとして今後SUVモデルにも力をいれていくことを明らかにした

ヴィンケルマン氏:まず最初にスーパースポーツカーなのか、ハイパフォーマンススポーツカーなのかという点ですが、スポーツカーのセグメントは2つに分けられると思います。1つはエクストリームなスーパースポーツカーという非常にスポーティで優れたハンドリングを持つが、ときどきしか乗らない言ってみれば趣味のクルマ。もう1つはAudi Sportのモデルが属するハイパフォーマンススポーツカーで、パフォーマンスもデザインも優れているが日常使いができること、バランスのよいクルマということです。これがAudi Sportブランドの成功のカギを握ると思っています。

 そして販売台数を追求するのか、あるいは特別感を求めるのかという点ですが、Audi Sportとして販売台数を伸ばすためにアウディが発売するすべてのモデルにRSモデルを設定するかというと、必ずしもそうではない。むしろ特別感を演出するためにどのセグメントにRSモデルを設定するかが重要になってきます。ボディタイプとしては、今後SUVの方に徐々に参入していきます。それからボリュームを上げるという意味ではセグメントとして大きいところにRSモデルを出すということもありますが、全世界でまんべんなくあるセグメントに参入するということです。今、ヨーロッパでAudi Sportは非常に強いのですが、北米やアジアなどヨーロッパ以外ではそうではない。そうしたほかの国でも受け入れられるセグメントに私どものモデルを出していくことがこれからは大事になってきます。

Audi Sportとして販売台数を伸ばすため、どのセグメントにRSモデルを設定するかが重要になるという
Audi Sportのモデルが属するハイパフォーマンススポーツカーの特徴は、パフォーマンスもデザインも優れていながら日常使いができること

 また、SモデルとRSモデルのすみ分けですが、お客様からすると両方とも赤のロゴがついたクルマになりますが、スポーツカーとしてはSモデルとRSモデルは明らかにレベルが違います。そのなかで、Audi Sportが預かっているのがRSモデルとR8になります。

 S8に関してですが、次期型については私が就任する前に決まったことなので分からないですが、いずれにしても限られた予算をどこに使うか決断をしなければなりません。例えばAudi Sportで作るクルマを5つ選びなさいと言われたら、その選択の基準はプレステージ性がきちんと確保されていることと、ボディサイズ。そういった基準から考えると、セダンボディを考えるとSモデルやRSモデルとお金を使うところではないかなと個人的に思っていますが、最終的にはまだどうするか決まっていません。これから次期型のS8はどうなるのか、どこにお金をかけるか、どこにお金をかけたら一番存在感を発揮できるのかという観点から決めていきたいと思っています。RS8については現時点ではまったくコメントできません。

――アウディとしては自動運転技術に積極的に取り組んでいるかと思いますが、Audi Sportとしては何か独自の取り組みなどはされていますか?

ヴィンケルマン氏:まず自動運転技術ですが、おそらく自動運転を検討する最後のブランドがAudi Sportになるのではないでしょうか。もちろん運転支援系の技術はいいかなと思っていて、例えば私どもAudi Sportのモデルは安全性も備えていますし、日常使いができる非常にバランスの取れた商品なので、渋滞時の運転支援機能などは使えると思います。やはりAudi Sportのモデルでは走りの楽しみの部分を残さないといけないと思いますので、少なくとも当面は自動運転技術というのは私どもとわりと距離があるのかなと考えています。

――今回日本にいらっしゃって自らプレゼンテーションを行なったというのは、何か伝えたいことがあったのかなと思います。伝えたい思いや来日された理由を教えてください。

ヴィンケルマン氏:私たちがやっていることに信念がある以上、その信念を皆様にきちんと説明することが大事だと思っています。とくに我々は小さなブランドですので、本当に私たちのメッセージを聞きたいと来て下さる方には直接お会いしてメッセージをお伝えするのは重要なことです。実際にいい商品、素晴らしいブランドに恵まれていると自負していますので、それを直接お伝えしたかったことと、あとは日本は非常に重要なマーケットですので、そういった日本の市場の中でさらに存在感を高めるために私が直接来るべきだろうと考えました。なので、今回の来日にあたりましては今日のイベントだけでなく、販売店を訪問させていただいたり、アウディ ジャパンの社内で会議を組んでいます。短い滞在ではありますが色々と活動する予定です。