NISMOのGT-R用「ラップセンサーキット」「データロガーキット」でサーキットを楽しむ ドラテク向上を目的とした2製品の魅力を聞いてきた |
商品開発部 ユニットグループ マネージャー 安田洋輔氏(写真左)とセールス&マーケティング部 企画グループ マネージャー 碓氷公樹氏に話を伺った |
モータースポーツの頂点に位置するF1選手権、国内シリーズ戦のSUPER GTやフォーミュラ・ニッポンなど、観戦目的でサーキットに行ったことのある方はCar Watch読者のなかにもたくさんいることだろう。
しかし、サーキットでの醍醐味と言えば自分で走ることではないだろうか。一般道や高速道路を走行する際、当たり前のように制限速度などを意識しなければならないが、サーキットでそんな気づかいは無用。アクセル、ブレーキを思いのまま踏めるという快楽は、何にも代え難い魅力といえよう。
かくいう筆者も、サーキットを数多く走ったことがあるわけではなく、タイムアタック形式のフリー走行会に何度か参加したことがある程度。しかし、自分のクルマで限界まで攻めることができるので、タイヤの性能やブレーキングポイントなどの限界を知ることができた。その限界を知れば知るほどタイムの安定性につながるし、なによりドライビングテクニックが向上することが嬉しかったりもする。
というわけで、サーキットを走っていて気になるのは、何と言っても自分のラップタイムだ。電光掲示板が用意されているサーキットでは、コースに埋め込まれる磁気バーなどにより毎周ごとのタイムが表示されるが、中には電光掲示板がなく、走行終了後しか結果を見ることができないケースもある。1回の走行枠で何十周も走るので、終了後に結果を見ても、どの周でベストタイムを出したのかを覚えていられない。
そのことから、毎周ごとに自動でタイム計測&表示してくれるデバイスが、各アフターパーツメーカーからリリースされているのはご存じのとおり。サーキットに埋め込まれる磁気バーを利用する製品のほか、GPSや赤外線通信による計測器などが多数リリースされており、これらを活用すれば上記の問題は解決する。
その点、NISSAN GT-R(R35、以下GT-R)はさすがというべきか、7インチワイド液晶モニターのマルチファンクションディスプレイに、車両の状態やドライビングの履歴を表示するマルチファンクションメーター機能を搭載しており、これによって詳細な車両情報の表示やサーキットでのタイム計測などを可能にした。
このマルチファンクションメーター機能については詳細を省かせてもらうが、水温、油温、油圧、ブースト圧、トランスミッション油温&油圧といった情報のほか、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作と車両の前後/左右Gの履歴、燃料噴射量、区間燃費などの燃費履歴といった情報の表示が可能で、サーキット走行時は無論のこと、一般道での車両管理やエコドライブなどにも役立てることができる。
これまではステアリングの「START/STOP」スイッチにより手動でないとタイム計測ができなかった |
しかし、残念なことにマルチファンクションメーターを使ってのタイム計測は、手動で行わなければならないため、「正確なタイムを計測できない」「運転に集中できない」などの諸問題が出てくる。そうした問題を解決するべく、NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)がリリースしたのが「NISMO MFD ラップセンサーキット」だ。これはサーキットでのラップタイムを手動ではなく自動で計測できるというもので、従来の手動計測から大幅に利便性を高められる。
さらに、同社はラップセンサーキットの発売と同時にGT-R用として「NISMO MFD データロガーキットBASE」も発売した。詳細は以下に記すが、マルチファンクションディスプレイに表示される情報のなかから計13項目の車両情報を、手持ちのパソコン上で見られるというもの。ラップセンサーキットを活用すれば、コース上での車両の動きに連動して各種データ表示されるので、より緻密な解析ができる。
こうした情報を元にコーナリングスピードやブレーキングポイント、アクセルの踏み方などを振り返ることで、ドライビングのスキルアップにつながることができる。ラップセンサーキットと併用すれば、サーキット走行が一層楽しくなるのは間違いない。
そこで、同社の商品開発部 ユニットグループ マネージャー 安田洋輔氏とセールス&マーケティング部 企画グループ マネージャー 碓氷公樹氏に、ラップセンサーキットとデータロガーキットについて話を伺った。
ラップセンサーキットを装着することで、マルチファンクションディスプレイに毎周ごとのタイム(1/100秒単位)を表示できるようになる |
■2種類のラップセンサーキット
ラップセンサーキットはType MとType Bの2種類を用意する。それぞれ2007年~2009年モデル(~2009年12月)、2010年モデル(2009年12月~)に分けてラインアップしており、Type Mは各7万8750円、Type Bは各10万8150円だ。
Type Mは各サーキットに埋め込まれているマグネットを利用して、ラップタイムを自動計測する。マグネット感知式センサーとハーネスのセットで、車両外側にマグネット感知式センサーを取り付ければタイム計測でき、マルチファンクションディスプレイに毎周ごとのタイム(1/100秒単位)を表示する。対応サーキットは富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎ、岡山国際サーキット、オートポリスサーキット、筑波サーキット、スパ西浦モーターパーク、袖ヶ浦フォレスト レースウェイなど。仙台ハイランド、エビスサーキット、スポーツランドSUGOなどはマグネットが埋め込まれていないため対応しない。
MFD ラップセンサーキット Type M | マグネット感知式センサー(単体:3万6750円) | モデル別専用ハーネス(単体:5万2500円) |
一方、Type Bはビーコン式センサーとトランスミッター(赤外線発信機)からなるキット。専用の装着用ブラケットでセンサーを固定し、あらかじめ設置したトランスミッター前を通過することで、ラップタイムを計測できるというものだ。
トランスミッターは1台で複数の同時計測を可能にしたほか、送受信チャンネルを15チャンネル用意し、チャンネル変更により最大15グループまで測定を行えるので、同じGT-Rオーナーの友人とシェアして使用することもできる。ラップタイムの表示はType M同様、センターディスプレイを利用する。
いずれの製品も計測タイムのデータは走行履歴ごとにCSV形式でダウンロードが可能だが、2007年~2009年モデルはCFカードを、2010年モデルはUSBメモリーを利用してダウンロードする。
Type M、Type Bともにラップタイム計測に使用するキットだが、そもそもの計測方法が異なるほか、Type Mはマグネット感知式センサーが埋め込まれていないサーキットでは使用できない。しかし価格はType Bよりも約3万円ほどリーズナブルな設定となっているので、普段通っているサーキットで使えるかどうかをポイントにセレクトすればよいだろう。双方ともマルチファンクションディスプレイ上にタイムを表示するので、追加モニターなどを必要としない点も魅力的な点と言えるだろう。
MFD ラップセンサーキット Type B | トランスミッター本体(単体:3万2550円)は充電バッテリーを内蔵する。ACアダプター付き |
クォーターウインドー部にビーコン式センサーを装着したところ | |
モデル別専用ハーネス(単体:5万2500円) | ビーコン式センサー(単体:3万3600円) |
NISMO MFD データロガーキットBASE |
■ラップセンサーキットを活用しデータ解析できるデータロガーキット
マルチファンクションメーター機能を活用してデータ解析を可能にしたのが、「NISMO MFD データロガーキットBASE」だ。データ解析専用ソフト(CD-ROM)、ソフト起動用専用USBキー、USBメモリー(8GB)を同梱し、データロガーキットの対応OSはWidows XP/Vsita。価格は2万6250円。
そもそも、データロガーキットは各種製品の開発時に利用されているもので、ユーザーも同じように解析できたら面白いのではないか、ということで発売したものだと言う。マルチファンクションメーター機能は一世代前のR34GT-Rも搭載しており、そのときにデータ解析できる製品をリリースしたところ非常に好評だったそうで、R35でも発売して欲しいとの声が多数挙がっていたそうだ。
データロガーキットは、マルチファンクションメーターに表示される走行データをUSB経由でダウンロードすれば、あらかじめ専用解析ソフトをインストールしておいたパソコン上でさまざまな情報を見ることができる。ダウンロードが可能なデータは次のとおり。
・車速
・エンジン回転
・ギヤポジション
・前後G
・左右G
・ブースト圧
・ブレーキ液圧
・ステアリング舵角
・アクセル開度
・ECOレベル
・エンジン水温
・ミッション油温
・エンジン油温
これは仙台ハイランドで影山正美氏がドライブしたときのデータ。グラフ部はエンジン水温、エンジン油温、ミッション油温、ブースト圧、ブレーキ圧を表示 |
各種データを計測したいときはステアリングにある「START/STOP」スイッチを押し、終了したいときに再び「START/STOP」スイッチを押せばデータを収集できる。1回あたり最長で60分間のデータをダウンロードできる。
こうした各種データは、車両にまつわるさまざまな情報が流れるCAN(Controller Area Network)から取得したもの。上記の13項目はサーキットを走ることを前提に決められた項目で、同社の製品開発時に行うサーキットテストで参考にするデータをそのまま表示させたと言う。抽出する情報によって取得するタイミングは異なり、例えばエンジン回転は1/100秒、ブースト圧は2/100秒ごとに抽出していると言う。
実際の解析画面を見せて頂いたのだが、画面左上にコース図が表示(黄色の部分)されている。これは横G、ステアリング舵角、車速のデータを元にコースを描いているそうで、正確にコース図が表示されるので、どこを走行しているかが非常に分かりやすい。ちなみに、コース図を描くにはラップセンサーを装着する必要がある。また、サーキット以外の、例えば一般道での走行時のデータを表示することも可能だが、起点と終点が決まっている周回路でないとグチャグチャな図が描写されるだけとのこと。
また、画面下(緑色の部分)に13項目全てのデータが表示されるほか、画面上のグラフ(白色の部分)では「速度、エンジン回転」「左右G、ステアリング舵角、アクセル開度」「エンジン水温、エンジン油温、ミッション油温、ブースト圧、ブレーキ圧」「速度、前後G」の4パターンの組み合わせで相互関係を表示できる。
グラフ表示は「速度、エンジン回転」 | グラフ表示は「左右G、ステアリング舵角、アクセル開度」 |
グラフ表示は「エンジン水温、エンジン油温、ミッション油温、ブースト圧、ブレーキ圧」 | グラフ表示は「速度、前後G」 |
こうした情報を元に、「ただサーキットを漠然と走るのではなく、どうすればタイムが上がるのか分析するのに活用していただきたい」と、碓氷氏は語る。確かに、ただタイムアタックをしていただけでは、具体的に何がよくてタイムが短縮したのか判断するのは難しい。データロガーキットで解析を行うことで、タイム短縮へのヒントを見出せるわけだ。
残念ながら、データロガーキットは2010年モデルしか装着できないが、2007年~2009年モデルを2010年モデル相当にバージョンアップするキットを日産自動車がリリースしており、「カーウイングスナビゲーションシステム(4ダイバーシティ、地デジチューナー内蔵、HDD方式)」(69万3000円、工賃込み)を装着することでデータロガーキットを利用できるようになる。ちなみに、バージョンアップキットは2011年3月末までの期間限定販売だ。
今後は、ラップセンサーキットとデータロガーキットを装着したユーザーを対象に、走行後にプロドライバーと一緒に解析できる走行会なども行っていきたいとのことだった。プロに走行データをチェックしてもらうことで、より具体的な解析が行えるわけで、サーキット攻略に一役買うことは間違いない。「とくにプロドライバーが注目する点はブレーキングポイント」(碓氷氏)と言うことから、ブレーキ液圧を表示できるデータロガーキットの恩恵は大きいはずだ。
現時点ではまだ詳細や具体的な日程などは決まっていないが、これが実現すれば、GT-Rオーナーにはたまらない走行会になるだろう。
(編集部:小林 隆)
2010年 10月 8日